曽根原ラボ

ソニー「α9 III」が実現した世界初「グローバルシャッター方式」を検証

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カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになる情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第11回で取り上げるのは、ソニーの最新フルサイズミラーレスカメラ「α9 III」が採用して話題を集めている「グローバルシャッター方式」です。

グローバルシャッターって何? ほかのシャッター方式と何が違うの? から始まり、「α9 III」のグローバルシャッター方式の性能を検証していきたいと思います。

レンズ交換式カメラとして世界で初めてグローバルシャッター方式を採用した「α9 III」。実はこれ、とてもすごいことなのです

レンズ交換式カメラとして世界で初めてグローバルシャッター方式を採用した「α9 III」。実はこれ、とてもすごいことなのです

グローバルシャッターとは?

「α9 III」(2024年1月発売)の登場によって一躍脚光を浴びているグローバルシャッター方式ですが、そもそも「グローバルシャッターって何?」と思う人も多いかもしれません。

グローバルシャッターとは電子シャッター(メカシャッターでないことに注意)におけるシャッター方式のひとつ。撮像素子の全画素を同じタイミングで露光し、読み出しを行うシャッター方式のことを言います。

この方式自体は以前からありましたが、処理速度や画質などの課題が多く、一眼カメラの撮像素子には採用されていませんでした。「α9 III」では、これらの課題を見事にクリアし、電子シャッターのグローバルシャッター化を実現しています。

これまで電子シャッターでは一般的に、「ローリングシャッター方式」と呼ばれる方式が採用されてきました。ローリングシャッター方式は、撮像素子の上部から下部に向かって、順番にデータを読み出していく方式のこと。上から下に向かって順に読み出しを行うので、非常に速く動く被写体はどうしても歪んで写ることになります。これが、いわゆる「ローリングシャッター現象」と呼ばれるものです。

「α9 III」が採用したグローバルシャッター方式のメリットは、原理上、ローリングシャッター現象がまったく発生しないことです。細かいことを言えば、メカシャッターでも被写体の歪みからは逃れられないのですが、グローバルシャッターなら歪みを完全に解消できます。メカシャッターを超える性能を実現したと言っても決して言い過ぎではないのです。

「α9 III」がグローバルシャッターを実現できたワケ

では、なぜソニーは「α9 III」でグローバルシャッター方式を実現できたのでしょうか? 革新的な構造の新しい撮像素子など、これまでにはなかった技術を投入して実現したのでしょうか?

実は、撮像素子の基本的な構造は「α9 III」と「α9 II」(2019年11月発売)で同じです。さらに言えば初代モデル「α9」(2017年5月発売)も同じで、「α9シリーズ」はメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSセンサー「Exmor RS」を一貫して採用しています。「α9 III」は有効約2460万画素、「α9 II」「α9」は約2420万画素と有効画素数のわずかな違いはあるものの、画素領域と別の層に回路部を配置する、いわゆる「積層型センサー」であることは共通です。

「α9 III」は、有効約2460万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSセンサー「Exmor RS」を搭載。従来以上の高速処理によってグローバルシャッター化を果たしました

「α9 III」は、有効約2460万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSセンサー「Exmor RS」を搭載。従来以上の高速処理によってグローバルシャッター化を果たしました

前モデル「α9 II」は、有効約2420万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSセンサー「Exmor RS」を搭載。「α9 III」と同じ名称の撮像素子で、一般的なローリングシャッター方式を採用しています

前モデル「α9 II」は、有効約2420万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSセンサー「Exmor RS」を搭載。「α9 III」と同じ名称の撮像素子で、一般的なローリングシャッター方式を採用しています

「α9 III」が採用した新開発の積層型センサーは、高速信号処理回路を大幅に拡張するなどして圧倒的な処理速度を実現し、全画素同時露光のグローバルシャッター方式を実現しています。最新の画像処理エンジン「BIONZ XR」を組み合わせているのも大きなポイントで、グローバルシャッター方式を採用しても、これまでと変わらない、あるいはそれ以上のレスポンスで撮影ができるようになっているのです。

ここで従来モデル「α9 II」「α9」について少し振り返っておきましょう。「α9 II」「α9」は、ローリングシャッター方式を採用していますが、いっぽうで、「α9 III」ほどではないものの、高速な処理速度を実現しています。ローリングシャッター方式ですが、「アンチディストーションシャッター」をうたうほどに歪みが抑えられており、話題を集めました。

「α9 III」がグローバルシャッター方式を採用できるほどの処理速度を実現できたのは、「α9シリーズ」で一貫して積層型センサーを採用し、さらにフラッグシップモデル「α1」でも積層型センサーを採用するなどして、ブラッシュアップし続けてきたことが大きいのだと思います。積層型センサーを実用化する段階で、グローバルシャッター方式が視野に入っていたのでしょう。初代「α9」の登場から約7年かけて技術を磨くことで、メカシャッターをも凌ぐグローバルシャッター方式をついに実用化できたというわけです。将来を見据えた技術の積み重ねの結晶と言えるかもしれませんね。

ローリングシャッター歪みを検証

グローバルシャッター方式のメリットは、ローリングシャッター歪みがまったく発生しまいことです。が、実際のところその実力はどれくらいのものなのでしょうか?

まずは、「α9 III」で撮影した野鳥の作例をご覧ください。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2000秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2000秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST

この写真は、カメラを固定しているわけではなく、鳥の動きにあわせてカメラを素早く振りながら撮影しています。背景のビルがまったく歪まずに記録されているのがポイントです。野鳥を撮影している人なら、この写真の凄さがわかっていただけるのではないでしょうか。

次に、もう少しわかりやすい例を紹介しましょう。鉄橋を通過する電車(右から左に移動)を被写体に、「α9 III」「α9 II」「α7R V」の電子シャッターで撮影した比較作例をご覧ください。三脚にカメラを固定して撮っています。

「α9 III」で撮影

α9 III、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、194mm、F6.3、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST

α9 III、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、194mm、F6.3、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST

「α9 II」で撮影

α9 II、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、194mm、F5.6、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード

α9 II、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、194mm、F5.6、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード

「α7R V」で撮影(電子シャッター)

α7R V、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、194mm、F6.3、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST

α7R V、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、194mm、F6.3、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST

注目してほしいのは電車のドアや窓の形です。グローバルシャッター方式の「α9 III」は、歪みがまったく発生していません。画面左側は多少斜めに写っていますが、これは望遠レンズでの撮影といってもわずかなパースがあるため。光学的に自然なことです。

いっぽう、「α9 II」は、左側に走る電車に対してドアや窓がごくわずかに傾いているのがわかるでしょうか? データを順番に読み出していくローリングシャッター方式の限界が垣間見えます。一般的には許容できるレベルではありますが、グローバルシャッター方式に比べると歪みが残るのは事実です。

「α7R V」はというと、画像全体が画面右側に大きく傾斜しています。ローリングシャッター歪みのお手本のような写真が撮れてしまいました。「α7R V」は有効約6100万画素の裏面照射型CMOSセンサー「Exmor R」を採用していて、積層型センサーほどの読み出し速度ではありません。その差が如実に表れていると言えるでしょう。

このように比較すると、被写体の動きを完璧に止めるのにグローバルシャッターは理想的なシャッター方式であることがわかっていただけるかと思います。

気になる画質を検証

「α9 III」を使ううえでどうしても気になるのが画質です。というのも、「α9 III」は、常用感度がISO250〜25600と、ローリングシャッター方式を採用するモデルよりも感度の幅が狭いのです。これはグローバルシャッター方式を採用したことの代償とも受け取れます。

常用感度の範囲だけを見ると、「α9 III」は低感度での階調性や高感度画質で従来モデルよりも劣るのでは? と推測できます。これは非常に気になるところですので、「α9 III」「α9 II」「α7R V」を使って同じ露出値で撮り比べてみました。低感度の比較は「α9 III」の最低感度(ISO250)に、高感度の比較は「α9 III」の最高感度(ISO25600)に揃えています。

「α9 III」で撮影(ISO250)

α9 III、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS 、100mm、F10、1/5000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(4000×6000、14.5MB)

α9 III、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS 、100mm、F10、1/5000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4000×6000、14.5MB)

「α9 II」で撮影(ISO250)

α9 II、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、100mm、F10、1/5000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(4000×6000、11.0MB)

α9 II、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、100mm、F10、1/5000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4000×6000、11.0MB)

「α7R V」で撮影(ISO250)

α7R V、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、100mm、F10、1/5000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード撮影写真(6336×9504、32.5MB)

α7R V、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、100mm、F10、1/5000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード
撮影写真(6336×9504、32.5MB)

低感度(ISO250)の比較は、太陽が画面内にある逆光下で撮り比べてみました。

「α9 III」は、太陽の白飛び部分とその周辺が自然につながっているように見えます。空のグラデーションもトーンジャンプを起こすようなことはなく、きれいに表現されていると言ってよいと思います。常用最低感度がISO250ということでダイナミックレンジが狭いのではないかと思いましたが、この作例を見る限りは、実用上、問題なさそうです。

「α9 II」は、空のグラデーションなどは申し分ないものの、白飛び部分と周辺のつながりは今ひとつぎこちないように見えます。常用感度の幅が広い分、「α9 II」のほうがダイナミックレンジは有利かと思いましたが、この作例で見る限りでは、必ずしもそうとも言えないようです。

「α7R V」は、白飛びと周辺のつながり、空のグラデーションなどは「α9 III」と同じようにきれいなのですが、なぜか画像の明るさが少し暗くなりました。太陽周辺に虹色のフレアのような光が写っているのも気になります。一般的な裏面照射型CMOSセンサーということもあるのか、少なくとも絵作りの傾向は「α9シリーズ」の2モデルとは違うようです。

「α9 III」で撮影(ISO25600)

α9 III、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、109mm、F8、1/25秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、18.8MB)

α9 III、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、109mm、F8、1/25秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、18.8MB)

「α9 II」で撮影(ISO25600)

α9 II、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、111mm、F8、1/25秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード撮影写真(6000×4000、13.0MB)

α9 II、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、111mm、F8、1/25秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、13.0MB)

「α7R V」で撮影(ISO25600)

α7R V、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、109mm、F8、1/25秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(9504×6336、43.5MB)

α7R V、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS、109mm、F8、1/25秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(9504×6336、43.5MB)

高感度(ISO25600)の比較は、大きな橋梁を被写体に夜景を撮影してみました。

「α9 III」は、画像を拡大すると、若干、輝度ノイズが目につくかな? という気もしますが、色ノイズはほとんど見られません。最新のミラーレスとして十分なクオリティーと言ってよいのではないでしょうか。

「α9 III」と「α9 II」を比べてみると、「α9 II」のほうがノイズが少なく、ディテールの再現性が高いです。高感度画質としては「α9 III」を上回っていると思います。ただ、それは拡大して見た場合の話。画像全体で見れば、それほど気にしなくてもよい、わずかな違いでしかないのが実際のところだと思います。

「α7R V」は、全体的にノイズが小さく、ザラつきをほとんど感じません。さすが約6100万画素の高画素モデルといったところでしょう。しかし、細部のディテールの再現性については、正直なところ「α9 II」のほうが優秀だと感じます。画素数の違いこそあれ、高感度画質については「α9 III」と同等レベルではないかと思います。

今回の検証では、感度幅が狭いわりには「α9 III」が高感度でも健闘していることが確認できたと思います。これは低感度でも同様ですが、画像処理の進化によるものでしょう。少なくとも、「α9 III」の常用感度域(ISO250〜25600)で画質を心配する必要がないことを理解できたというものです。

まとめ 課題はあるものの動体を歪みなく撮影ができるのが魅力。今後の進化に期待

グローバルシャッター方式の最大のメリットは、これまで電子シャッターの弱点とされてきたローリングシャッター歪みを完全に解消できることです。これによって、動体を主体とした撮影分野では、これ以上ないくらいの安心をもたらしてくれます。

グローバルシャッター方式では画質が低下してしまう懸念がありましたが、今回の結果を見る限り、それはほぼ杞憂だったと言ってよいのではないでしょうか。「α9 II」と比べても「α9 III」に実用上の問題はほとんどなく、特に低感度領域での階調再現性は、画像処理の進化によって画質の向上を感じるほどです。

「α9 III」の仕様で気になるのは常用感度の範囲がISO250〜25600と狭いことだと思います。低感度側がISO250なのは、大口径レンズ使用時に絞り開放付近を使えない可能性があります(「α9 III」の最速シャッター速度は1/80000秒ですが、F1.8より明るい絞り値では1/16000秒が上限となります)。高感度の上限がISO25600なのは、高速で動く被写体を速いシャッタースピードで撮りたいときに少し使いにくいかもしれません。

こうした気になる点はあるものの、「α9 III」は、動体撮影において「これまでできなかったことができるカメラ」なのは事実です。残された課題は、これまでソニーがそうしてきたように、今後、「α9 III」に搭載されたものと同等か、それ以上に高速な撮像素子が普及していくなかで解消されていくことでしょう。たとえば、ソニーのフラッグシップモデル「α1シリーズ」では、次のモデルでグローバルシャッター方式を採用してくることが予想できるため、その登場時にはまたアッと驚かされることになるかもしれません。

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2024/02/26 09:05
曽根原 昇
Writer
曽根原 昇
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。
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真柄利行(編集部)
Editor
真柄利行(編集部)
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣とこだわりを持っています。フォトグラファーとしても活動中。パソコンに関する経験も豊富で、パソコン本体だけでなく、Wi-Fiルーターやマウス、キーボードなど周辺機器の記事も手掛けています。
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