ソニー「VLOGCAM ZV-E10 II」は、2024年8月2日に発売された、EマウントのAPS-Cミラーレスカメラ。Vlogなどの動画を撮影するのに向いた機能と操作性を持つ「VLOGCAM」シリーズの最新モデルです。
本モデルで注目したいのは、「αシリーズ」の上位モデルと同等の撮像素子を搭載し、カメラとしての基本性能が高いこと。動画だけなく写真も高画質に撮れるカメラに仕上がっています。
そこで今回、このカメラを写真撮影の視点でレビュー。写真機としての実力をチェックしました。
「VLOGCAM ZV-E10」(2021年9月発売)の後継機として登場した「VLOGCAM ZV-E10 II」。小型・軽量で持ち運びやすいAPS-C機です
「VLOGCAM」シリーズは、「αシリーズ」をベースに動画撮影向きのカスタマイズが施されているのが特徴です。動画撮影重視とはいえ、画質に関する基本的なスペックは「αシリーズ」に準じた仕様になっているので、一眼カメラらしく多彩な写真撮影を楽しめます。
そんな「VLOGCAM」シリーズの最新モデル「ZV-E10 II」は、撮像素子にAPS-Cサイズの裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサー(有効約2600万画素)を、画像処理エンジンに従来比約8倍の処理性能を持つ最新の「BIONZ XR」を搭載しています。ソニーのAPS-Cミラーレスとしてこのクラス(スタンダード〜エントリー)で裏面照射型センサーを採用するのは初。中級機「α6700」に匹敵するレベル、つまり同クラス最高といって差し支えない性能を誇ります。
有効約2600万画素の裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサーを採用
「VLOGCAM」シリーズは動画撮影向きをうたうカメラですので、電子ビューファインダー(EVF)は搭載していません。EVFがないのは写真機としては決してプラスポイントではありませんが、その分ボディがコンパクトに収まっています。
そのサイズは約114.8(幅)×67.5(高さ)×54.2(奥行)mmで、重量は約377g(バッテリーとメモリーカードを含む)。重量が400gを切っていて持ち運びを負担に感じにくいのは写真撮影でもありがたいですね。
続いて、「VLOGCAM ZV-E10 II」の操作性をチェックしていきましょう。
ボタンやレバーなどは動画撮影で使いやすいように設計されているのですが、特に特徴的なのがシャッターボタン周り。シャッターボタンと同じ位置にズームレバーを搭載しています。前モデルとの違いは電源スイッチの位置で、シャッターボタンと同軸に電源スイッチがある仕様に変わりました。「αシリーズ」のミラーレスのユーザーならなじみやすい仕様だと思います。
ボディ側にズームレバーを搭載しているのは動画撮影向けのカメラらしい点です
撮影モードダイヤルがないのも「VLOGCAM」シリーズらしい点でしょう。撮影モードの切り替えはメニュー画面から行う必要があります。面倒に感じるかもしれませんが、スナップ撮影などでは撮影モードをひんぱん切り替えることは少ないので、実際にはそれほど大きな問題にはならないでしょう。
撮影モードの切り替えはメニュー画面の「撮影モード」で行います(Fnメニューからショートカット可能)(Fnメニューからショートカット可能)
カメラ上面右側には、「静止画/動画/S&Q切換スイッチ」「動画ボタン」「背景のボケ切換ボタン」「コントロールダイヤル」が並びます。「静止画/動画/S&Q切換スイッチ」は目で見てわかりやすい位置に用意されているので、使い始めから操作に迷うことはないでしょう。「背景のボケ切換ボタン」は動画撮影用の機能ですので、写真撮影の場合はほかの機能を割り当てたほうが使いやすくなるかもしれません。
カメラ上部右側の操作系。スッキリとしてわかりやすいです
背面の液晶モニターはバリアングル式(3.0型、約103万ドット)。動画撮影向けという本モデルの素性を考えれば、バリアングル式なのは妥当と言えるでしょう。写真撮影での使い勝手は意見が分かれるところですが、縦位置でも光軸からモニターをずらさずにハイ/ローアングルで撮れるのはバリアングル式の使いやすい点です。
バリアングル式の液晶モニターを採用
SDメモリーカードスロットは「αシリーズ」の最新モデルと同様に独立式になりました。前モデルはバッテリー室と同居だったのでうれしい改善です。しかも、前モデルのUHS-I対応からUHS-II対応に進化。データ容量の大きい4K動画を記録するときはもちろんのこと、写真撮影においても、高速なメモリーカード規格に対応しているのはレスポンスの面で有利です。
独立して備えられたメモリーカードスロット。UHS-IIまでのSDメモリーカードに対応しています
対応バッテリーは、上位モデルの「VLOGCAM ZV-E1」や「αシリーズ」の最新モデルと同じ、容量2280mAhの「NP-FZ100」。前モデルで採用されている「NP-FW50」に比べて約2倍の高容量です。バッテリー容量が増えるのは写真撮影でも大変うれしいところです。
対応バッテリーは大容量の「NP-FZ100」
アクセサリー類で少し気にしておきたいのが、通常のシューカバーが付属しないことです。付属するのは、シューカバーと一体型のウインドスクリーン。モフモフとした毛が付いていて、ボディ上面の内蔵マイク(3カプセルマイク)で集音する際に風切り音を低減してくれる便利アイテムです。
動画を撮影しないのであればウインドスクリーンを外してよいと思いますが、シューカバー一体型のため、外してしまうと「マルチインターフェースシュー」の複雑な電子接点がむき出しになってしまい、ちょっと不安になります。写真撮影がメインで付属のウインドスクリーンは使わないのであれば、通常のシューカバーを別途用意しておきたいところです。
シューカバーと一体となったウインドスクリーンが付属します。このアイテムを装着すると「マルチインターフェースシュー」がふさがれます
「マルチインターフェースシュー」には、外部ストロボを含めてさまざまな対応アクセサリーを装着できます。むき出しのまま使うのは少々気になるところ
今回は「α7C II」のシューカバーを流用しました。これだけでスチールカメラ感がグッと上がります。静止画撮影に専念するときはこのほうがいいかも!?
次に、「VLOGCAM ZV-E10 II」の写真画質を見ていきましょう。
本モデルは、先に紹介したように、APS-Cミラーレスの上位モデル「α6700」と同様、有効約2600万画素の裏面照射型センサーと最新の「BIONZ XR」を搭載しています。この組み合わせが生み出す写真は非常にクオリティーが高いです。4K動画からの切り出しやスマートフォンのカメラと比べると隔絶した高画質と言えます。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 16-55mm F2.8 G、55mm(35mm判換算82.5mm相当)、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、25.8MB)
夜景など暗いシーンの撮影で必須の高感度性能に関しても、APS-C機としては非常にすぐれた、常用最高感度ISO32000を実現しています。ここまで高感度性能が高ければ、PCモニターやスマートフォンでの鑑賞は当然のこと、大判でプリントしても十分な画質が得られると言って差し支えありません。
常用感度はISO100〜ISO32000と幅広く設定できます
以下の写真は、本モデルを使ってISO6400で夜景を撮影したもの。最新の裏面照射型センサーを搭載しているだけあって、ノイズが少なくきれいな夜景写真が撮れています。APS-Cサイズの撮像素子を最大限有効に活用したからこその高画質とも言えましょう。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 16-55mm F2.8 G、55mm(35mm判換算82.5mm相当)、F2.8、1/40秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、17.8MB)
「VLOGCAM ZV-E10 II」で写真を撮るうえで知っておいてほしいのは、このカメラはメカシャッターの構造を持っておらず、電子シャッターでの撮影になること。読み出し速度の高速化によってローリングシャッター歪みはだいぶ抑えられていますが、それでも高速で移動する被写体を撮ると、特有の被写体歪みが発生します。
風景やスナップ、ポートレートの撮影ではまず気になることはないのですが、モータースポーツや鉄道など本格的な動体を撮るときは注意したほうがよいです。その点はしっかりと押さえておいてください。
「VLOGCAM ZV-E10 II」の性能面ではAFに注目です。信頼性の高い「リアルタイム瞳AF」と「リアルタイムトラッキング」が進化し、前モデルでは「人物」だけだった被写体検出機能が「動物」と「鳥」にも対応するようになりました。
被写体検出は「人物」だけでなく「動物」「鳥」も可能に
スタンダードからエントリーに位置づけられるモデルではありますが、「動物」と「鳥」の検出性能は思いのほか高いものがあり、種類の違いや撮影シーンの状況に関わらず、的確に被写体の「形」と「瞳」を検出し、正確にピントを合わせてくれました。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS、350mm(35mm判換算525mm)、F6.3、1/125秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、14.9MB)
ここまで紹介したように、「VLOGCAM ZV-E10 II」は写真撮影でも十分な画質性能と操作性を確保しているカメラです。キットレンズでも十分に高画質が得られますが、画質性能を最大限に引き出すには、ソニーの高性能な「Gレンズ」「GMレンズ」(「G Masterレンズ」)を使いたいところ。本モデルにマッチするであろう3本の高性能レンズをご紹介します。
「E 16-55mm F2.8 G」は、高性能な「Gレンズ」に属するAPS-C用の標準ズームレンズ。開放F2.8通しの大口径であることもさることながら、APS-C用ということもあって、全長100mm/重量約494gとサイズ感が適度に抑えられているのも特徴です。
「VLOGCAM ZV-E10 II」のサイズ感に合う「E 16-55mm F2.8 G」
フルサイズ対応のレンズが人気のソニーですが、APS-C用として本レンズのような高性能ズームもちゃんと用意してくれているところに懐の広さを感じますね。緻密な画質が求められる風景撮影などでも活躍してくれます。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 16-55mm F2.8 G、55mm(35mm判換算82.5mm相当)、F5.6、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、22.6MB)
以下の写真は、サイケデリックな画が欲しく、「クリエイティブルック」を「VV」にして撮影してみました。前世代の「クリエイティブスタイル」ではなく、最新様式の「クリエイティブルック」を採用しているのも「VLOGCAM ZV-E10 II」の特徴です。こうしたところは、「αシリーズ」のカメラと併用するときに整合性の高さを感じさせてくれます。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 16-55mm F2.8 G、55mm(35mm判換算82.5mm相当)、F5.6、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:VV
撮影写真(6192×4128、17.5MB)
「FE 35mm F1.4 GM」は、ソニーの最高峰「GMレンズ」(「G Masterレンズ」)の準広角単焦点レンズ。「α7Rシリーズ」など高画素モデルでポテンシャルを発揮するレンズですが、それ以外のカメラで使っても最高性能の画質を提供してくれます。APS-C機で使った場合の画角は35mm判換算で焦点距離52mm相当。「VLOGCAM ZV-E10 II」と組み合わせた「GMレンズ」の画質はちょっとゾクゾクしてしまいますね。
「VLOGCAM ZV-E10 II」では「FE 35mm F1.4 GM」を標準域の単焦点レンズとして使用できます
絞り開放から高画質な単焦点レンズは、フルサイズ機だけでなくAPS-C機でも、大きな表現効果を得られます。本レンズと組み合わせて「VLOGCAM ZV-E10 II」を使ってみて、このカメラは写真撮影でも撮影者の期待に応える性能を持ち合わせていると確信しました。
VLOGCAM ZV-E10 II、FE 35mm F1.4 GM、35mm(35mm判換算52mm相当)、F1.4、1/160秒、ISO400、ホワイトバランス:9000K、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、15.5MB)
以下の写真は、こちらに寄ってくる猫を「動物」検出で追尾撮影したもの。絞り値はF2ですので、かなり浅い被写界深度ですが、正確に瞳をとらえているとともに、被写界深度外は本レンズならではの美しく大きなボケ味で演出してくれました。
VLOGCAM ZV-E10 II、FE 35mm F1.4 GM、35mm(35mm判換算52mm相当)、F2、1/200秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、14.8MB)
「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」は、「E 16-55mm F2.8 G」と同じく、APS-C用の高性能な「Gレンズ」。35mm判換算で焦点距離105〜525mm相当に対応する超望遠ズームです。重量は約625gでそれなりの重さですが、「VLOGCAM ZV-E10 II」とのバランスは悪くありません。
超望遠ズームレンズとしてはコンパクトな「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」。「VLOGCAM ZV-E10 II」はしっかりとしたグリップを搭載しているので、望遠域でも安定した構えで撮れます
「VLOGCAM ZV-E10 II」のスペックで唯一残念に思えるのがボディ内手ブレ補正を搭載していないこと(動画撮影では電子式の手ブレ補正機能が働きます)。「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」はレンズ側に光学式手ブレ補正を備えていますので、望遠撮影でもある程度安心して、手ブレを気にせずに撮影できます。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS、203mm(35mm判換算305mm相当)、F6.3、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4128×6192、14.8MB)
「VLOGCAM ZV-E10 II」との組み合わせでは、ファインダーを覗かずに超望遠域でちゃんとフレーミングできるかが心配でしたが、実際に使ってみると、思いのほかうまく撮れました。スマートフォンでの写真撮影に慣れた今どきの人でしたら、ファインダーがないほうが自然な撮影スタイルとして受け入れられるのではと、改めて気づかされました。
VLOGCAM ZV-E10 II、E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS、317mm(35mm判換算458mm相当)、F6.3、1/125秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6192×4128、15.6MB)
今回は、「VLOGCAM」シリーズの最新モデル「VLOGCAM ZV-E10 II」の写真機としての実力をチェックしてみました。
結果は、「αシリーズ」のカメラと比べても遜色ないレベルで撮影を楽しめました。ボディ内手ブレ補正やAIプロセッシングユニットの非搭載など、細かいことを言えば「αシリーズ」の上位モデルに及ばないところもありますが、「VLOGCAM」シリーズのコンセプトである「気軽さ」を大切にするのであれば、それらはほんの些事(さじ)でしかないと思います。
ボディ単体の価格.com最安価格は12万円台(税込、2024年10月3日時点)。EVFが必要なければ、お買い得な高性能カメラと言えるでしょう。よいレンズを使えば、カメラのポテンシャルが引き出されて画質がよくなりますし、レンズ交換によって表現の幅を広げることもできます。手に入れやすい価格ですので、むしろレンズに投資することで撮影を本格化させるというのもアリではないでしょうか。もちろん、これは静止画撮影、動画撮影の両方に有効な話です。