交換レンズ図鑑 第9回で本レンズの実写レビューを公開!(2015年10月1日)
EOSユーザー待望!と言っていいだろう。開放F1.4の35mm単焦点レンズ「EF35mm F1.4L USM」がついにリニューアルとなる。後継モデルとなる「EF35mm F1.4L II USM」が本日2015年8月27日、キヤノンから発表された。新開発の光学技術を採用した、キヤノン純正「EFレンズ」の大口径・単焦点レンズのフラッグシップに位置付けられる高性能レンズとなっている。
EF35mm F1.4L II USM
今回発表されたEF35mm F1.4L II USMの最大の特徴は、従来モデルを大きく上回る描写を期待できるスペックを実現していること。1998年12月に発売された従来モデルのEF35mm F1.4L USMは、17年近くが経過した現在でも、解像感の高さや、ボケ味の美しさで高い評価を得ている。ただ、近年は、デジタル一眼レフカメラの撮像素子が高画素化し、カメラ本体の画質が大きく向上しており、レンズに求められる性能も高まっている。「古いレンズは描写力や表現力が劣る」というわけではないのだが、より解像力が高く、画像の周辺まで写りのよい光学設計のレンズが求められる傾向にある。その点で、EF35mm F1.4L USMは、EFレンズの中でも、特にリニューアルが期待されていたレンズの1つとなっていた。
同じ焦点距離35mmで開放F1.4の単焦点レンズのラインアップを見ると、ライバルとなるニコンは2010年11月に、表現力の高さで評判の「AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G」を発売した。シグマも、シャープな描写でコストパフォーマンスにすぐれる「35mm F1.4 DG HSM」を2012年11月にリリースしている。いずれも、最新のデジタル一眼レフにあわせた光学設計を採用し、ユーザーからの評価も高い。
EF35mm F1.4L II USMでは、それらのライバルとなる製品に負けない高画質を実現するため、光学設計をフルリニューアルし、キヤノンの最先端の光学技術が投入されている。EFレンズの大口径・単焦点レンズのフラッグシップに位置付けられており、キヤノンは「圧倒的な高画質」を実現したと自信を持っている。
キヤノンがそこまで自信を持つのには理由があり、そのキーとなるのが、今回が初採用となる「BRレンズ」という特殊レンズだ。詳細は後述するが、大口径レンズで発生しやすい色収差を大幅に低減する画期的な技術となっている。キヤノンは、この新技術の採用によって、絞り開放から非常にすぐれた描写性能を実現したとしている。さらに、2枚の非球面レンズ(前玉にガラスモールド非球面レンズ、後玉に研削非球面レンズ)とUDレンズを採用することで周辺まで高画質を実現。こうした特殊レンズをふんだんに採用することにより、画面全域で色収差を徹底的に低減するだけでなく、周辺でのコマ収差やサジタルハロの発生も大幅に抑えているという。レンズ構成は11群14枚だ(従来は9群11枚)。
11群14枚のレンズ構成を採用。8群の位置にあるのがBRレンズ。薄緑色が非球面レンズで、緑色がUDレンズ
EF35mm F1.4L II USMのMTF曲線
EF35mm F1.4L II USMは最短撮影距離が短くなったのも進化点で、従来の0.3mから0.28mに短縮。最大撮影倍率はクラストップの0.21倍となった(従来は0.18倍)。クローズアップがしやすくなり、ボケ味を生かした表現も得やすくなっている。絞り羽根は9枚の円形絞りで、絞りユニットはEMD(電磁駆動絞り)。コーティングにはSWC(Subwavelength Structure Coating)を採用し、入射角が大きい広角レンズの光に対してもすぐれた反射防止効果を実現し、フレア・ゴーストを抑制する。
高耐久性の部分では、従来からメカ構造を見直すことで、レンズ全体の耐久性を上げるとともに、鏡筒部の耐振動・衝撃性も向上。マウント部、スイッチ部、フォーカスリングに防塵・防滴構造を採用。前玉と後玉には、撥油性・撥水性が高いフッ素コーディングが施されている。
レンズのサイズは105.5(全長)×80.4(最大径)mmで、重量は約760g。レンズ枚数が増えたこともあって、従来モデルの86(全長)×79(最大径)mm/約580gと比べるとひとまわり大きなレンズとなっている。発売は2015年10月中旬の予定。価格は285,000円(税別)。焦点距離35mmの単焦点レンズとしては高額な製品だが、17年前に発売された従来モデルが205,000円(税別)であったことと、新技術のBRレンズが採用されていることを考慮すると妥当なところではないだろうか。あとは、この新レンズの描写力がどこまで向上しているかによるだろう。今後、くわしくレビューする予定だ。
左が新モデルで右が従来モデル。レンズ枚数が増えたこともあり、従来モデルと比べるとひとまわり大きなサイズとなっている。最大径はほぼ変わらず、フィルター径も72mmで共通。デザイン面では、金属部品仕上げのキヤノンロゴや、黒のレーザートーン塗装など最新のLレンズらしい仕様になっている。細かいところでは、「35mm」のフォントも変わっている
同梱品となる花弁型のレンズフード「EW-77B」。2本爪のバヨネットタイプで、フード内部には反射防止効果の高い植毛処理が施されている
最後に、EF35mm F1.4L II USMに初めて採用された、キヤノンの独自技術であるBRレンズについて解説しよう。
BRレンズとは、キヤノンが新開発した「BR(Blue Spectrum Refractive)光学素子」を活用して色収差補正を行う特殊レンズ。キヤノンはこれまでも、屈折率・分散の極めて小さい「蛍石レンズ」や、レンズ2枚で蛍石レンズ1枚に匹敵する性能を持つ「UDレンズ」「スーパーUDレンズ」、回折と屈折で色収差が逆に発生する性質を利用する「DOレンズ」といった色収差補正を行う特殊レンズを開発してきた。その延長線上にあり、これまで以上に画期的な新技術となるのが、今回のBRレンズである。
BRレンズは、凹凸レンズの間に、新開発のBR光学素子を挟みこんだ複合レンズとなっている。ポイントとなるのがBR光学素子で、この素子は、ガラスではなく、有機光学材料を原料とした独自のレンズ材料となっている。平たく言えば樹脂素材なのだが、材料を分子構造レベルから徹底的に見直し、長年開発を進めてきたもので、蛍石と同等以上の異常分散特性を実現しているという。特に、波長域の短い青色の光を大きく屈折させる特性を持つのが特徴だ。
色収差は、光の波長分散によって発生する。白色光は、赤・緑、青などさまざまな色の光が混ざった連続する波長で構成されているが、波長によって屈折率は異なっている。レンズを通った光は、すべての波長が結像面上で1点に集光するのが理想ではあるが、屈折率の違いによって、どうしてもずれが生じてしまい、それが色のにじみ(色収差)となって現れる。レンズは、ガラスの素材や形状、構成などで波長を補正する(収差を抑え込む)工夫がなされているが、特に補正が難しいのが、短い波長域の青色の光だ。凹凸レンズを組み合わせるだけでは、青色の波長を補正しきれずに色収差が発生する。そこで開発されたのが青色の光を大きく屈折させる特性を持つBR光学素子で、BRレンズでは、BR光学素子が青色の光の進路をコントロールし、凸レンズと凹レンズを組み合わせることで、これまで以上の高いレベルで色収差を補正できるようになったのである。
BRレンズは、凹凸のガラスレンズにBR光学素子を挟み合わせた構成になっている
BRレンズ断面とBR光学素子の有機光学材料