失われつつあるMT(マニュアルトランスミッション)の楽しさが満喫できるクルマを求めてさまようライター、マリオ高野です。
今回は、日本の代表的なスポーツカーのひとつ、「フェアレディZ」のすばらしさに注目してみました。
2021年4月現在発売されているフェアレディZは「Z34型」と呼ばれる第6世代モデルで、デビューから12年以上になるモデルの末期にあたります。内装の質感などに少し古さを感じさせる部分もあり、次世代のデビューが待望されていますが、乗ってみると、現行モデルでも、スポーツカーとしての魅力は今もなお一級品であることを実感させられました。
今回お借りしたのはトップスポーツグレードの「フェアレディZ NISMO」。NISMOとは、日産のモータースポーツ活動やモータースポーツ向けの車両、およびパーツの開発を請け負う会社のことで、日産車のトップスポーツモデルの開発も行っています。
市街地では重さを感じるも、高速巡航は得意分野。SUPER GTマシンからフィードバックされたエアロダイナミクス性能を発揮!
専用デザインのフロントバンパーは、車体下部への空気の流入を抑制し、加速時のノーズアップを抑制します
サイドシルプロテクターもフロントバンパーと同様にフロア下への空気の流入を抑制。車体後方の空気の流れをスムーズに整えます
V6エンジンの片バンクごとに独立したフルデュアルエキゾーストシステムを採用し、排気ロスを低減
「フェアレディZ NISMO」は、NISMOが長年のモータースポーツ活動で得た知見を生かして開発された、特別に走行性能を高めたモデルということになります。
専用チューンのエンジンやサスペンション、エアロパーツはもちろん、車体の補剛まで行うことで、標準仕様のフェアレディZとは別物の性能と乗り味に仕立てられました。その分、価格は120万円ほど高額になりますが、チューニングの内容からするとお買い得とさえ思えるレベルにあると言えます。特にNISMOのファンなら、ほかの何にも変えがたい魅力となるでしょう。
モータースポーツで培ったノウハウがフィードバックされたクルマは、走行性能が研ぎ澄まされると同時に、乗りやすさや扱いやすさも増すという、意外な副産物が得られる点に注目です。フェアレディZに限らず、NISMO車は一般的なドライバーにとっても標準仕様車より扱いやすいため、自分の思いのままに操れる感覚が強まり、クルマの走行性能をより味わい尽くせるようになるのです。
高速コーナーでも路面に吸い付くように安定し、前後重量配分の適切さを実感しながら、安定した旋回姿勢をキープします
モデル末期ながら、「今だからこそ魅力的」と思える部分のひとつがエンジン。
「フェアレディZ NISMO」のVQ37型エンジンは、NISMOチューンによって標準仕様よりもパワフル、かつ高回転型となっていますが、ステアリング操作の応答性やタイヤの接地性が高まっているので、標準仕様よりも高い安定感をともないながら走りに没頭できるというわけです。
高効率を追求したダウンサウジングターボエンジンが主流の時代にあって、3.7リッターの大排気量を自然吸気で高回転までしっかり回せるエンジンは今や稀少な存在。NISMOチューンはこのエンジンの旨味をさらに引き出し、大排気量NAならではの物量的な豊かさにはぜいたくさも感じられます。おそらく次世代の新型では、エンジンもある程度ダウンサウジング化が進むと予想されるので、このぜいたくなエンジンが味わえるのは今のうちと言えるでしょう。
今や稀少な大排気量NAのスポーツユニット。吸排気チューンやECMのセッティングを最適化することでノーマル比19馬力アップ
新世代のクルマは、もちろん新世代ならではの魅力にあふれていることでしょうが、自動車産業が過渡期にある今、クルマ好きなら、あえて少し古い世代のパワーユニット搭載車を選ぶのも悪くありません。
6速のマニュアルトランスミッションの手応えも、大排気量エンジンをかき回す味わいにあふれたものでした。速度域や選択するギヤを問わず、アクセルを踏めばどこからでも直ちに豊潤なトルクが発揮されるので、ある意味、MTで乗る意味が薄れると感じてしまう面もありますが、この豊潤さをダイレクトに味わえるのはMTの得がたい利点。やはり、フェアレディZもMTを選ぶ価値の高いスポーツカーだと再認識しました。
加速して、後輪側の荷重がやや高まると前後の重量配分が均一化されるという設計の車体により、山道での旋回は驚くほどスムーズで、Rがキツめのコーナーでも物理的なバランスのよさがもたらすニュートラルな特性に感動しきり。市街地では、実際の数値以上に車体の重さを感じてしまう側面はあるものの、山道では一変して軽快な動きに変わるのでありました。
自動ブリッピングを行う「シンクロレブコントロール」付き。サーキットでタイムアタックをする際にもドライバーの負担を軽減します
アクセルはわずかな踏み込み量で極太トルクを発揮。ブレーキのキャパシティは十分で、クラッチペダルは比較的重めとなっています
デザインや質感には設計年次の古さを感じる部分もありますが、走りに没頭できる運転環境が整えられています
RECARO製スポーツシートもNISMO専用チューニング品。極めて高い横G発生時の上体保持性能を発揮します
山道を軽く流すだけでも「物理的なバランスのよさ」と「NISMOチューンの巧みさ」をしみじみかみしめることができるでしょう。サーキット走行では、標準的な運転スキルのドライバーからプロ級まで幅広く走りに没頭できるポテンシャルを備えている点も見逃せません。
「フェアレディZ NISMO」は、山道やサーキットで乗ると古さを感じない、というより古さがネガ要素にならず、いつまでも色あせることのないスポーツカーとしての本質を味わい尽くせる魅力にあふれていたのでありました。
この試乗の模様は動画でもご覧いただけます。