特別企画
搭乗口も保安検査場も利用者専用

あなたの知らないプライベートジェットの世界

“プライベートジェット”と聞くとどのようなイメージを持つだろうか?多くの人は「セレブや大富豪など世界でひと握りの富裕層が利用する異世界のサービス」だと思うだろう。しかし、コロナ禍にある現在、プライベートジェットの需要が拡大しているという。国内の業界で唯一(※航空運送事業社において、事業機として)プライベートジェットでの国際運航を行っているという、朝日航洋株式会社(以下、朝日航洋)を取材した。

プライベートジェットとは?

プライベートジェットは、自家用機またはチャーター機を使って、ほぼ“完全に自由に”空の旅をカスタマイズできるツールだ。全国のほとんどの空港から、(空港が開いていれば)24時間いつでも、既存のエアラインが就航していない空港にすらダイレクトにアクセスできるという。渡航先に制限はあるものの、海外への就航も可能だ。

搭乗に際しては、一般客が行き交うターミナルや、保安検査場、搭乗口を使用せず、すべて専用口を使用するため、大幅に時間が節約できる。また、他人と接触しないためプライバシーがしっかり守られるほか、昨今のコロナ禍においては感染リスクも抑えられるという。本当にそんな夢のような行程が可能なのだろうか? プライベートジェットを利用する場合の導線や受けられるサービス、安全性、気になる費用について、ひとつずつ聞いてみた。

【導線】“どこでもドア”のような究極の時短搭乗

案内をしてくれた客室担当の小林明美さん

案内をしてくれた客室担当の小林明美さん

通常は国内旅行をする場合、搭乗する飛行機の出発予定時刻の1時間ほど前に空港に到着している必要がある。それからチェックインし、手荷物カウンターで荷物を預け、保安検査場で検査を受け、搭乗口で出発まで待つ……というのが一般的だ。海外旅行となると出国審査も追加されるため、最低でも出発予定時刻の2時間前に空港に着いていなくてはいけないとされる。では、プライベートジェットの場合はどうなのか?

「お客様はターミナルの手続きもなく、大勢の人々が行き交う空港内を通ることもなく、専用車でジェット機に横付けしてすぐにご搭乗いただきます。もちろん好きなお座席に」……と教えてくれたのは、朝日航洋の客室担当でキャビンコンシェルジュである小林明美さん。県営名古屋空港内にある朝日航洋の場合、同社のオフィス内にプライベートジェット利用客専用の入り口があり、専用のロビーに通されるのだ。

手荷物を預け、搭乗時の体重を計測すれば、専用の入り口から専用の保安検査ゲートを通り、後は専用車で機体横に乗り付けて搭乗するのみ。到着してから最短5分で搭乗する利用者もいるとのこと。海外渡航に至っては、CIQ(税関/入管/検疫)がプライベートジェット利用客の渡航にあわせてわざわざ出向いて来るとのことで、出国審査の(場合によっては長蛇の)列に並ぶこともない。気がついたら海外にいた……というような、リアル「どこでもドア」気分を味わえそうだ。

朝日航洋のプライベートジェット利用客専用入り口

朝日航洋のプライベートジェット利用客専用入り口

専用セキュリティゲート

専用セキュリティゲート

専用待合ロビー。だがしかし、ここでほとんど待つことなく搭乗できるという

専用待合ロビー。だがしかし、ここでほとんど待つことなく搭乗できるという

【機体と機内】タラップを上がると上質なプライベート空間

使用する機体とその内部はどうなっているのだろう? 朝日航洋が保有するプライベートジェット機は、セスナ社の「C680 サイテーション・ソブリン」という機体だ。乗客数は最大8人(運航区間、気象状況、搭載重量などの諸条件により制限する場合もあり)。 離島を含めた日本国内ほとんどの空港のほか、韓国、台湾、中国(北京、上海、大連など)、グアム・サイパン、フィリピンなど飛行途中の空港で燃料補給することなく就航可能だ。

C680 サイテーション・ソブリン

C680 サイテーション・ソブリン

客室担当の小林明美さん(左)と機長の北上紀之さん(右)によるお出迎え

客室担当の小林明美さん(左)と機長の北上紀之さん(右)によるお出迎え

預けられる荷物は搭乗人数に関係なくスーツケース8個分程度。収納場所は与圧されていないため、液体や袋入りの菓子などの預け入れはできないそうだ

預けられる荷物は搭乗人数に関係なくスーツケース8個分程度。収納場所は与圧されていないため、液体や袋入りの菓子などの預け入れはできないそうだ

続いて、機体内部を案内してもらうべく、ピカピカに磨かれた機体から下がるタラップをのぼる。タラップの下には赤い絨毯が敷かれ、重鎮になった気分だ。機内に入ると、内装は白に統一されていた。白い革張りの座席とブラウンの木目調の立派なトレイテーブルが備え付けられており、落ち着きと高級感がある。座席のサイズは一般的なエアラインのビジネスクラスの座席と同等だそう。座席は2座席×4列の計8座席だ。

落ち着いた空間の機内。当然、座席の指定などない。トレイテーブルの出し入れ、座席の向き変更が可能。向かい合わせで会話やミーティングができる

落ち着いた空間の機内。当然、座席の指定などない。トレイテーブルの出し入れ、座席の向き変更が可能。向かい合わせで会話やミーティングができる

DVDの再生は可能だがテレビは見られない。インターネットの接続も不可。※花瓶は撮影用。飛行中は設置不可

DVDの再生は可能だがテレビは見られない。インターネットの接続も不可。※花瓶は撮影用。飛行中は設置不可

座席はほぼフルフラットにできる

座席はほぼフルフラットにできる

安全のしおりやエチケット袋も用意されている

安全のしおりやエチケット袋も用意されている

機内後部の洗面所もコンパクトながらホテルのよう

機内後部の洗面所もコンパクトながらホテルのよう

【サービス】「As you like」(お気に召すまま)を全力でかなえる“Only One”のサービス

通常エアラインの機内サービスは、決められた食事や飲み物の提供がメインだが、プライベートジェットの場合はそうではない。利用客に、事前にフライト中どのように過ごしたいか、何を食べたいか、アレルギーの有無などを細かくヒアリングし、搭乗時間などを考慮した、ワンフライトごとに組み立てたメニューを提供する。お酒の種類や銘柄、食事内容を具体的にリクエストすることも可能で、ある程度(かなり?)ワガママを聞いてくれるそうだ。ただし、フライト時間が短い場合、たとえばフレンチのフルコースなどの提供は難しい可能性がある。今回の取材では、実際にオーダー可能な食事と飲み物の一例を見せてもらった。

軽食の一例。オリーブにチーズ、クラッカー、チョコレートなどが添えられている

軽食の一例。オリーブにチーズ、クラッカー、チョコレートなどが添えられている

夕食(フレンチフルコースの一例)。「Beef or Fish?」の2択ではなく、食材から調理方法までリクエストできる

夕食(フレンチフルコースの一例)。「Beef or Fish?」の2択ではなく、食材から調理方法までリクエストできる

機内でのセッティング例 ※花瓶は撮影用。飛行中は設置不可

機内でのセッティング例 ※花瓶は撮影用。飛行中は設置不可

実際に提供された軽食の献立と遊覧飛行のフライトマップビュー。記念に機長のサイン付き搭乗証明書をもらうこともできる

実際に提供された軽食の献立と遊覧飛行のフライトマップビュー。記念に機長のサイン付き搭乗証明書をもらうこともできる

フライト中は、ビジネス使用の場合はミーティングを行ったり、旅行で使用する場合はほかの乗客に気を使うことなく家族や友人と会話を楽しんだりできる。また、機内にペットと同伴できるというのも大きな特徴のひとつだ。乗降時やキャビンドアが開いている際はケージに入れている必要があるが、それ以外はケージから出してもOK。ただし、フレンチブルドッグなどの短頭種については、輸送環境の変化を受けやすいため注意が必要とのことだ。

【安全性】小型機は揺れるのではないか?

コクピットをこんなに間近で見られるのもプライベートジェットならでは

コクピットをこんなに間近で見られるのもプライベートジェットならでは

状況によってはクルーに話しかけてコクピットを見学したり、座らせてもらったりすることができる(地上のみ)。興味がある人は飛行機や航空業界の話も聞けるだろう

状況によってはクルーに話しかけてコクピットを見学したり、座らせてもらったりすることができる(地上のみ)。興味がある人は飛行機や航空業界の話も聞けるだろう

素人考えで、小型機は大型旅客機に比べて揺れるのではないか? 揺れる場合、飛行中の安全性に問題はないのか? 少々心配になる。機長の北上紀之さんと鈴木幸治さんに尋ねてみたところ……

「まず飛行機は、通常程度の揺れで壊れることはありませんし、揺れているから飛行に問題があるものではありません。シートベルトを装着していれば怪我をすることもほとんどありません」と鈴木さん。

北上さんは、「飛行機自体は小型になればなるほど気流の影響を受けやすく、気流の悪いところを飛行すると大型機よりは揺れます。ただ、大型機よりも上昇率がよいため、気流の悪い高度を短時間で通過できることに加え、大型機があまり飛行できない揺れの少ない高高度を飛行できるというメリットがあります(※1時間30分以上の飛行の場合のみ)」と教えてくれた。

また、機体の構造について、小型機は大型機に比べて余裕を持った作りになっているということ、離着陸時に使用する滑走路に関しても小型機は大型機に比べて格段に余裕があるとのことで、総合的に考えて、安全性は大型機と同等であると教えてくれた。

朝日航洋の運航管理者・田崎雄大さん

朝日航洋の運航管理者・田崎雄大さん

快適で安全な空の旅には機体の性能やパイロットの操縦技術のほか、運航管理者(ディスパッチャー)の存在も欠かせない。運航管理者の仕事は、ひと言で言うとフライトプランの作成だ。フライト時の天気や航路上の問題点の有無など情報を集め、安全に飛行できる計画を立てる。国家資格が必要な職種だ。

航空業界では時にフライトプランを機長が作成することもあるそうだが、同社の場合は運航管理者が機体一機ごとに専任で付き、事前の計画から飛行前のブリーフィングまでしっかり行う。この計画を立てる段階で揺れの少ない航路を設定するよう心がけているそうだ。また、フライト中も地上から飛行状況を常に監視し、不測の事態が起きたとしてもすぐに対処できるよう備えている。

左が運航管理者の田崎雄大さん、右が副操縦士の竹田亮さん。ブリーフィングの様子を再現してくれた

左が運航管理者の田崎雄大さん、右が副操縦士の竹田亮さん。ブリーフィングの様子を再現してくれた

【料金】羽田〜千歳1泊2日の料金は?おすすめの渡航先は?

気になる料金について触れておこう。例として、東京・羽田空港と北海道・新千歳空港を往復する場合、1泊2日でかかる費用は、運航費535万円+その他費用65万円で計約600万円(税込)だ。この料金には、飛行費用(回送費用を含む)、軽食、空港ハンドリング料金、新千歳空港での係留費などが含まれている(※季節や天候、その他諸条件により料金および飛行時間が変動する可能性もあるとのこと)。なお、朝日航洋のプライベートジェット拠点は県営名古屋空港にあるため、名古屋空港から出発する場合は回送費用が必要ないので上記の費用を150万円ほど抑えられるとのことだ。

最後に、今回話をうかがった方々におすすめの渡航先を聞いてみたところ、「離島」という回答が多く寄せられた。たとえば北海道の利尻島や沖縄の下地島など。離島は既存のエアラインでは直行便がなかったり、あってもハブ空港のみで地方空港発着の便がなかったりする。便数も少ないので、行動が大幅に制限されてしまうのだが、その点プライベートジェットなら、気軽にアクセスできる。空港が開いてさえいれば、早朝だろうが夜間だろうが、いつでも発着できるので日帰りだって難しくないのだ。

まとめ

今回取材をする前は、「プライベートジェット=機内食や内装が豪華絢爛な小型旅客機」とイメージを持っていたが、それは少々まちがっていた。想像どおり、提供される食事を含めたサービスはすばらしく、機内に高級感があったのは確かなのだが、何物にも代えがたいメリットは、超スピーディーな搭乗で、時間を大幅に節約できること、既存エアラインでは不可能なフレキシブルな旅行プランを立てられること、そして他人との接触がゼロに近いのでセキュリティが確保されること、といった要素が思ったよりも大きかった。それにプラスし、コロナ禍の現在は感染対策もかなえられる。このほかにも、大切な荷物を紛失される心配がないことや、機内で他人の目を気にせずに過ごせるという利点もある。

プライベートジェットは、確かに金銭に余裕がある人向けのサービスではあるが、セレブの道楽として提供されているというよりも、移動手段として現実的で理にかなったツールとして利用されているということがわかった。

とはいえ、筆者のような平凡なOLがどんなに背伸びをしても、利用できるものではないのだが……。

いつか出世したらプライベートジェットの導入を社長に直談判したい……(※撮影用に手袋を外してサーブしていただいた)

いつか出世したらプライベートジェットの導入を社長に直談判したい……(※撮影用に手袋を外してサーブしていただいた)

鈴木 ゆり子(編集部)

鈴木 ゆり子(編集部)

旅行(主に中華圏)、ペット、お酒が大好きな編集部員。飲みの席で盛り上げるのが得意ですがたまに記憶をなくします。

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