ダイハツは、「ジャパンモビリティショー2023」にオープンカーの「ビジョン コペン」を出展した。従来の「コペン」の気軽さはそのままに、走る喜びや楽しさを追求したスタディモデルだ。
「ビジョン コペン」は、「コペン」のDNAである“風とともに走る喜び”を進化させたオープンカーで、研ぎ澄まされたデザインや運動性能によってオープンエアの楽しさが味わえるという
初代「コペン」をほうふつとさせる普遍的なスタイルと、電動開閉式ルーフ「アクティブトップ」を継承しながら、新たにFRレイアウトとカーボンニュートラル燃料の活用を見据えた内燃機関が搭載されている「ビジョン コペン」。全長×全幅×全高 は3,835mm×1,695mm×1,265mmで、ホイールベースは2,415mm。排気量は、初代「コペン」は軽自動車なので659ccであったが、「ビジョン コペン」は1,300ccになる。
冒頭でスタディモデルと記したが、ダイハツは本気で次期「コペン」の生産を考えている。今回、「ビジョン コペン」が展示された周囲には3台のタブレットが置かれ、ウェブ調査が実施されている。質問としては、「軽自動車ではないこと」や「後輪駆動レイアウトについて」の質問などもあり、ユーザーの評価を吟味しながら生産化への検討が行われるようだ。
「ビジョン コペン」のエクステリアデザインを担当したのは、ダイハツ デザイン部 第一デザインクリエイト室 VISION DESIGN Gr.の森本凌平さん。
「初代コペンの気軽な雰囲気、愛嬌のある表情を踏襲しました。1.3リッターの小型サイズで、FRレイアウトですので、FRスポーツカーらしさに加え、色気も合わせて表現することをコンセプトにデザインしました」(森本さん、以下同)
ダイハツ デザイン部 第一デザインクリエイト室 VISION DESIGN Gr.の森本凌平さん
そもそも、コペンは軽自動車として生まれ、今にいたるのに対し、なぜ1.3リッターを選んだのだろうか。実はいま、ダイハツはモータースポーツ活動も積極的に行っており、「D-SPORT Racingチーム」として「GRコペン」をベースにラリージャパンなどにも参戦している。
「さらにモータースポーツを楽しんでいただけるように、1.3リッターの小型サイズにすることで、安全面も走行性能もレベルアップした形で提案することで、よろこんでいただけるお客様も増えるのではないかと考えました」
エクステリアデザインは、初代「コペン」をモチーフにしていることはあきらかだ。
2002年に発売された初代「コペン」は、当時の軽自動車としては初の電動開閉ルーフを採用し、本格的なオープンスポーツカーとして登場した
「初代『コペン』は、お皿の上にお椀を伏せた形を大きな造形テーマとしていました。それは『ビジョン コペン』でも踏襲しています。また、フードを低く見せるためにボンネットにカット造形を入れました。カットした後に、少し盛り上げることでフードバルジのような、中にエンジンを感じさせるような印象を与えられたらいいなと思っています。また、灯火器類やグリルにもすべてカットした造形の上に配置することで、要素が整理されて見えるのではないかと考えています」
お椀を伏せたような初代「コペン」のデザインは、「ビジョン コペン」にも踏襲されている
そうすることで、たとえばカットしたところにグリルやフォグがあるといったリズムが刻まれ、より洗練された雰囲気も感じさせるようにデザインされているのである。
「ビジョン コペン」は、初代「コペン」から大きく変えたところもある。それは、サイドから見たときにしっかりと軸を通すことで、ボディサイズが感じられるようになっていることだ。具体的には、フロントのヘッドライトからドアミラーの下を通してボリューム感を感じさせながら、リアコンビランプへとつながる造形となっている。
「ビジョン コペン」のサイドデザイン。フェンダーのボリューム感なども、スポーツカーであることを強調させるデザインだ
フロントグリルは、ボディと一体化されている。最近のEVでも多く見られるが、森本さんによると、「よりシンプルに見せたかったから」とのこと。「10年先でも、流行り廃りなく乗っていただきたい。そういうクルマを目指しています。初代もそうでしたよね」と初代『コペン』を見ながら語ってくれた。
「ビジョン コペン」のフロントフェイス。初代の丸目ヘッドライトやフォグ、グリルの造形をモチーフとしながらも、新モデルならではのデザインに進化させている
軽自動車のボディサイズに縛られなくなったことで、最も大きく影響されたのはリア周りであろう。FRらしく、リアに駆動がかかるようなイメージを持たせるために、リアフェンダーの上側を絞り、そこからタイヤに向かって膨らませている。そういった面のくびれから、「色気にもつながるように、吟味にしながら作っています」。そのほかにも、丸目を意識しながら、テールランプは「コペン」の“C”を意識させるなどの遊び心も盛り込まれている。
「ビジョン コペン」のリアデザイン。テールランプの造形ひとつ取っても、かなり作り込まれていることがわかる
そして、森本さんの大きなこだわりはホイールにもあった。「ビジョン コペン」はコンセプトカーなので機能はしていませんが、と前置きしたうえで、
「スポーツカーのホイールは軽量にしなければいけません。そこで黒く見えているメインのスポークたちは、できるだけ肉を削いで軽くして、足りない強度の補強としてワイヤーを入れました。初代『コペン』のアルミホイールも6本だったので、それをワイヤーで表現しているのです。こうすることで、しっかりとオマージュしていることを訴求しています。このジオメトリックで留めてあるところなどは、建築に使われている部品みたいなイメージを持たせて、丹精な雰囲気を醸し出しています」
「ビジョン コペン」のホイールデザインは、6本のワイヤーを入れることで初代をオマージュしながらスポーティーなデザインを実現している
ちなみに、インテリアについては初代「コペン」の面影は見られない。「ドライバー視点を考慮して、インテリア前方のカラーは真っ暗にしています。いっぽう、インテリア後方は明るくしました」と言う。その理由について、「運転に必要な情報以外は、できるだけ排除したかったからです。ですから、必要のないものの存在感は消しながら、運転に集中できる環境を作ることをコンセプトとしたのです」と森本さんは話してくれた。
「ビジョン コペン」のインテリア。インパネやスイッチ類はできるだけ必要最低限でシンプルなものにとどめられており、インパネからシートにかけてはグラデーションのようにカラーを徐々に明るくするといったこだわりが見られる
最後に、初代「コペン」から開発に関わっているダイハツ コーポレート統括本部 LYU・ブランド推進室 DAIHATSU GAZOO Racing G 営業 CS本部 国内商品企画部 主査の殿村裕一さんにひと言頂いたのでお伝えしたい。冒頭のアンケートも、殿村さんが仕掛け人のひとりのようで、モータースポーツに関しても中心的に動いている。
殿村さんは、今回のアンケート結果を受けながら、「みんなと一緒に『ビジョン コペン』を盛り上げて育てて頂いて、ゆくゆくは発売につながるとすごくよいなと思っています」とコメントしてくれた。「コペン」を初代で終わらせることなく、コンパクトスポーツカーとしての愉しさを受け継いでいってほしいと思わずにはいられない。
写真:野村知也、中野英幸、内田千鶴子