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“事実は小説より奇なり”を目の当たりにする世界

衝撃の結末を見よ! 読みやすい「平成の事件ルポルタージュ/ノンフィクション」厳選8冊

事実は小説より奇なり。実際に起きた事件・犯罪などをテーマに、その詳細・背景に迫っていく「事件ルポルタージュ本」の世界をご存知でしょうか。本屋さんの棚にあるノンフィクションものの中でも、ジャーナリストが見た事件の概要を通して、人間の深層心理や社会問題に切り込んでいく読み応えたっぷりのジャンルです。

筆者は、この「事件ルポ」を読むことを生きがいとしている、いわば事件ルポファン。そこで、ひとりの読者目線でそのポイントや存在意義について語ってみたいと思います。記事の後半では、「初めてでも読みやすい」をテーマに、比較的新しい平成の事件を取り扱った8冊をご紹介させていただきます。

事件ルポルタージュとは?

事件ルポルタージュとは、実際に起きた事件や犯罪をテーマに、記者や取材班が専門的に調査した情報をまとめてレポートしたもの。何かしらの事件が起きると、第一報がテレビのニュースや新聞で取り上げられますが、情報量の少ない一時的なニュースではわからないことや、私たち読者個人ではまず知り得ない事件の経過などが事件ルポには記されます。

キーワードとなるのは、「調査報道」という言葉です。テレビや新聞など世の中にはいろいろな報道メディアがありますが、それらが公的機関の公式発表を元にした情報でニュースを構成するのが「発表報道」。対して、取材班が実際に関係者や現場で取材を重ねて得た情報を元に報道するのが「調査報道」です。多くの事件ルポはこの「調査報道」に属するものとなり、そこがほかにはない情報量と読み応えに直結するポイントです。

往年の代表格は、松本清張「日本の黒い霧」。流行ミステリー作家が、「戦後の怪事件」を取材して大胆に推理まで行った事件ルポの金字塔です。現代でも、何かしらの事件の背景に国家や政治の存在が疑われることを「黒い霧」と表現することがありますよね

事件ルポをおおまかに分類してみた

事件ルポには、いろいろと種類があります。事件を取材する記者それぞれに切り口が異なるので、細かく見ると底なしに分類できてしまうのですが、ここでは本の形式的なポイントに軸を置き、おおまかにカテゴリー分けしてみました。

▼解決モノ or 未解決モノ

事件ルポは大きくこの2種類に分かれるでしょう。加害者や犯人が捕まっている・裁判が終わっているなど、世間的に解決済みとされる事件を扱うのが「解決モノ」。いっぽう、未解決の事件を扱って、現在進行形の最新情報をまとめているのが「未解決モノ」です。

後者の未解決モノは、記者が独自取材して得た情報と、それを元にした真相の推察が行われます。そして、事件解決につながりそうな核心に迫る内容が書かれていることが多いのが見ものです。それこそ、未解決事件の真犯人とおぼしき人物と記者が接触する様子など、迫真のレポートを行う事件ルポもあります。

では、解決モノはすでに終わった内容を扱っているので、大したドラマもなく淡々と読めるかというと、全くそんなことはありません。「あの事件の背景はこうだった」「あの事件を追う中で見えてきた新事実」など、多種多様な切り口で読者に新しい気付きを与えてくれる良著が多々あります。事件の概要を独自視点でまとめて読ませる、記者の取材力・筆力を実感できます。

▼1冊に1事件 or 複数事件のオムニバス

本の形式としては、ひとつの事件を徹底的に取材して1冊の本にまとめた「1冊1事件形式」と、複数の事件ルポを1冊にまとめた「オムニバス形式」があります。

「1冊1事件形式」は、記者が該当事件の取材で得た全てを詰め込んだ集大成と言えるものがほとんどで、豊富な情報量で読み応えのあるものが多いです。対して「オムニバス形式」は、複数の事件ルポを1冊に収録したもの。ひとりの著者が過去に取材した複数の事件をまとめている場合もあれば、複数の筆者による短編ルポを1冊にまとめている場合もあります。短編なので事件の概要をさらいやすく、読みやすいのも特徴です。

オムニバス形式の事件ルポは、1冊を通して共通する何かしらの“テーマ”を設定しているものが多いです。複数の事件を扱っていても、1冊の本として切り口がまとまっているのがポイント(上述の松本清張「日本の黒い霧」もコレ)

▼さまざまな著者の目線

「著者の目線」は文章の演出ともなる部分。分類し始めるとかなり細かいので、さらりとご紹介しますが、もっともわかりやすいのは「加害者側」「被害者側」のどちらから事件を論じるかでしょう。テーマにあわせてどちらの角度を切り口とするかで、事件ルポの立ち位置は変わってきます。

また、文章の「人称」も大きな要素。もっともスタンダードなのは「著者の一人称」で語る事件ルポですが、その中でも記者が取材中の様子を事細かに伝えたり、ひとりの人間としての感情を正直に吐露しながら、だんだんと事件の核心に迫っていくなどスタイルはさまざまです。反対に、そういった著者目線は極力排除し、「第三者目線」に徹底して事実を淡々とレポートするものもあります。

「事件ルポの読み方」を考えてみた

続いて、筆者が読者目線で考える「事件ルポを読むときのポイント」を2点ご紹介したいと思います。

▼必ず、文庫化情報をチェックする

出版社から単行本が出版されて、その後に文庫化されるまでには大体3〜4年ほど空きます。そこで事件ルポの場合、単行本化時点ではわからなかった「事件のその後の展開」「裁判の経過」などが、文庫化にあわせて加筆されることが多いのです。つまり事件ルポは、「文庫版が完全版」であることがほとんど。というわけで、事件ルポを読むなら、文庫化されているかどうかのチェックは必須です。

文庫化にあわせた加筆は、目次にわかりやすく記されていることが多い

文庫化にあわせた加筆は、目次にわかりやすく記されていることが多い

▼ひとつの事件を複数記者の目線で読む

同じ事件を扱う場合でも、違う記者が書いた事件ルポだとまた新しい情報が載っていたりします。反対に、異なる本なのに共通する情報を見つけることもあるなど、読者目線でさまざまな読み方が可能。いろいろな事件ルポを読んでいるうちに、だんだん記者自身の生きざまも感じるようになってきて、「著者買い」が発生することもしばしばですよ。

読者目線で選んでみた! 読みやすい「平成の事件ルポ」8冊

ここからは、「事件ルポを初めて読む人」を念頭に置いた、読者目線で読みやすいと思えるタイトルをご紹介させていただきます。あくまでも、筆者が知人におすすめを聞かれて貸しているものを中心にですがセレクトし、ネタバレしない程度に「概要+読みやすいポイント」を付けてみました。「1冊1事件形式」から5冊、「オムニバス形式」から3冊を選んでいます。

なお、元号が変わるタイミングでこの30年間を振り返る意味も込めて、平成に起きた事件を扱った著作から選出したので、いわゆる三億円事件やグリコ・森永事件などの本はありません(本当は入れたかったのですが)。

1冊1事件形式の事件ルポ5選

1.「凶悪 ある死刑囚の告発」/「新潮45」編集部編(新潮社・単行本2007年/文庫版2009年)

<概要>
残虐な殺人事件を起こし、裁判で死刑判決を受けた男。その男は、獄中でとんでもない自白をします。「実は、この事件にはまだ捕まっていない黒幕がいる。その黒幕は、ほかにも人を殺している」……そんな告発から全ては始まりました。そしてこの死刑囚の訴えを聞いたのは、刑務官でも弁護士でもなく、月刊誌「新潮45」の記者だったのです。

塀の中から出られない死刑囚の言葉や手紙をたよりに、記者は「解決していないほかの事件」と「本当の黒幕」を暴き出すために取材を開始します。死刑囚による告白手記は「新潮45」誌面上に掲載され、一大ニュースとなりました。獄中の死刑囚とのやり取りと、取材に奔走する記者の様子を1冊にまとめた実話サスペンスです。

▼読みやすいポイント
まさに、「事実は小説より奇なり」。最初は死刑囚の手紙を信じていいのか半信半疑だった雑誌記者が、取材を重ねながらどんどん事件の「本当の黒幕」に近づいていく様子が、ものすごい緊迫感で伝わってきます。

内容は記者の一人称で語られますが、詳細な情景描写と感情的な表現なども含めつつのシンプルな文体で、難しい専門用語などもほとんど出てこないので読みやすいです。少々不謹慎かもしれませんが、あまりにもドラマチックな展開のため、よくできたミステリー・サスペンス小説かのように読めるのです。ページをめくるごとに「こんなことが現実に起こるのか」と思える、緊張の展開から目が離せません。

2.「桶川ストーカー殺人事件 遺言」/清水潔(新潮社・単行本2000年/文庫版2004年)

<概要>
1999年、JR桶川駅西口の路上でひとりの女子大生が刺殺される事件が発生します。当初は「ブランド好きの女子大生が通り魔に刺された」との印象で伝えられました。しかし写真週刊誌「FOCUS」の取材班は、事件現場を歩く中で出会った被害者の友人たちから、被害者が生前に「私は殺されるかもしれない」と恐怖におびえていたことを聞かされます。

「FOCUS」取材班は事件の詳細を追ううちに、世間では大きく報じられていない犯人グループの異常性を知ることとなります。そしてその長きにわたる取材は、「一介の週刊誌が、警察よりも先に事件の実行犯を見つける」という前代未聞の大スクープへと発展するのでした。いわゆる「桶川ストーカー殺人事件」の詳細と、のちに「ストーカー規制法」の施行へとつながっていく軌跡をまとめた1冊です。

▼読みやすいポイント
当時「FOCUS」の記者として活躍したジャーナリスト・清水氏が、なかなか捕まらない犯人グループを独自調査で追いかける様子を記録した迫真のルポ。本書で語られる犯人グループの異常性は、今では「ストーキング行為」という言葉で一般的になりました。著者はさらに本書の中で、当時の埼玉県警桶川署の不祥事を暴き、警察の公式発表を元にしたテレビや新聞の「発表報道」が、いかに不十分で不正確であるかの指摘も行っています。

本文は著者の一人称で、取材中の状況をリアルに伝えていくスタイル。警察発表に頼らず、現場を歩いて取材を重ねる「調査報道」に徹する姿勢など、記者としての生き方や取材方法まで赤裸々に明かしながら進んでいきます。難しい業界用語をわかりやすく記していることもあり、報道の世界にくわしくない私たち一般人でも読みやすいのが特徴です。

3.「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」/福田ますみ(新潮社・単行本2007年/文庫版2010年)

<概要>
ひとりの男性教諭が小学4年生の生徒に行った凄惨(せいさん)な体罰。それが明らかになったとき、あまりのむごさにその男性教諭には「殺人教師」というセンセーショナルな呼び名が付きました。全国初の「市教委が認めた教師の体罰事件」としても大きく報道され、被害者となった生徒の親は教師・学校・市教委を相手取って裁判を起こします。しかし、話は意外な方向へ……。

なんと「殺人教師による体罰」は、モンスターのような1組の夫婦の「でっちあげ」だったのです。理不尽な仕打ちと嘘を重ねる夫婦に、教育者・マスコミ・弁護士までもがどんどん取り込まれていってしまう様子を描いた、戦慄のノンフィクション。

▼読みやすいポイント
今で言う「モンスターペアレント」を描いたルポですが、本書の事件が起きた2003年当時はその概念は一般的ではありませんでした。本書では殺人事件などは起こりません。ただ、モンスター夫婦と対峙した人物たちの心の弱さが、ひたすら冷静な筆致でえぐり出されます。小学校を舞台に、教育や家庭の問題に切り込む内容なので、多くの方が身近なものとして読めるのではないでしょうか。

前半で著者は、第三者目線に徹して事実だけを淡々と書き出しています。あまりの冷静さゆえ、モンスター夫婦(主に妻)が起こす仕打ちの理不尽さと不気味さがより際立ち、背筋がゾッとするほど。終盤になってやっと、著者の所感や取材時の様子を交えて話が展開し、読者と対象の間に適度な距離ができて安心して読めるようになります。この「目線の移動」の巧みさと構成は圧巻です。

さらに「弱い立場に置かれる教育現場」「第三者が介入できない封鎖された家庭」といった、現代社会が抱えるテーマをあぶり出しつつ、「責任を取らないマスメディアの情報ミスリード」やそれに踊らされる一般民衆の「偽善」にまで言及した読み応えのある1冊です。

4.「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」/豊田正義(新潮社・単行本2005年/文庫版2009年)

<概要>
日本の北九州で起きていた「家族同士の殺し合い」という、にわかには信じがたい大事件。しかもそれを起こさせたのは、たったひとりの男でした。2002年に、男の監禁部屋から17歳の少女が逃げ出したことによって発覚したその事件は、詳細が明らかになるにつれて、日本の犯罪史上類を見ない残虐事件と呼ばれるようになります。

ひとりの男に精神的に支配されたことで、最後は互いに殺し合うこととなった家族の姿。そこに至るまでの過程を細かくレポートしながら、主犯の男による「精神的支配」にスポットを当て、人が人に支配されるメカニズムと、それが司法の場で裁かれるまでを追う1冊です。

▼読みやすいポイント
被害者家族の心が、主犯の男の監禁・虐待下でどのように支配されていくかを、著者が取材を元に冷静に説明していくルポです。当時の様子がかなり克明に文章で再現されているのですが、壮絶すぎる内容ゆえ、読んでも逆に現実感がないと思う方もいるかもしれません。普通の感覚では想像したくでもできないほどの残虐さなのです。しかし著者の冷静な筆致のおかげか、読者も落ち着いて読み進めやすいと思います。

そして、本事件の根底にある「人が人の心を支配するメカニズム」とは一体何なのか? 夫婦間のDV事例を多く取材してきた著者ならではの知見で、そのテーマに切り込んでいるのが本書の特徴です。本来は心理学の専門用語ひとつで終わってしまうであろう内容が、私たち一般読者にわかりやすい言語に直して説明されているのもポイント。必要な部分は精神科医による専門書の引用もあり、DV・モラルハラスメントの関係構図を理解する1冊としても読めます。

5.「家族喰い 尼崎連続変死事件の真相」/小野一光(太田出版・単行本2013年/文藝春秋・文庫版2017年)

<概要>
上述の「北九州・連続監禁殺人事件」の10年後に、兵庫県尼崎市で発覚したまさかの「類似事件」。ひとりの女の精神的支配下に置かれた“いくつもの家族世帯”が、いずれも家族同士の監視・監禁や暴行の末に次々と亡くなっていたことが明らかになりました。ひとつの家族の中に、加害者と被害者が生まれるという何とも悲惨な結末。「日本の犯罪史上類を見ない残虐事件」と思われていた北九州の事件でしたが、それと似た構図の事件が尼崎でも起きていたことがわかり、世間を震撼させました。

本事件は、公判を前に主犯の女が留置所で自殺したため、その背景が司法の場で明らかにされることはもうありません。犯人が逮捕されているという意味では解決モノの事件ルポですが、本質的には未解決モノと言える1冊。

▼読みやすいポイント
著者が本事件を追うことになったきっかけに始まり、主犯の女の生い立ち、そして被害者となった家族たちの姿に迫っていきます。著者の一人称で、取材時の様子を詳細に描写していくスタイル。戦場から風俗まで幅広いフィールドで活躍するジャーナリストの目を持って、本事件の不可解さや凄惨さにグイグイと切り込んでいきます。巻末ページには、事件関係者を総ざらいした家系図が付いており、この家系図を見ながら読み進めると内容を把握しやすくなります。

……とはいえ、本書はほかの選書と比べて読みにくいかもしれません。何しろいくつも家族(数え方によって4〜7世帯になります)が出てきて、それぞれの入り組んだ関係性を認識するだけでもひと苦労。さらに家族同士の暴行や虐待が起きるという、通常の感覚では理解するのが非常に困難な事件だからです。

しかしそれでも本書は、上述の家系図を入れるなどの工夫もあり、「これ以上読みやすくはならないだろう」という限界のレベルまで、うまく情報をまとめていると言えるでしょう。わかりづらい本事件をできる限りわかりやすく説明することに成功した本、ということで選びました。

オムニバス形式の事件ルポ3選

6.「「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち」/石井光太(新潮社・単行本2016年/文庫版2019年)

<概要>
「親による子どもへの虐待」を扱ったオムニバス形式のルポ。世間的にも大きく報道された、3つの虐待死事件の調査内容を1冊にまとめたものです。いずれの事件も発覚当初は、マスコミが加害者である親を「鬼畜」として伝え、世の多くの人がそのまま非難しました。しかし著者は、実は多くの虐待親が「子どもを大切にしていたと認識している」ことを訴えます。綿密な関係者取材を経て、何世代にもわたり虐待が連鎖する姿に迫った1冊。

▼読みやすいポイント
発達心理学や教育学の分野でも取り上げられる「虐待の世代間連鎖」というテーマに、調査報道の手法でわかりやすく切り込んでいるのが本書の特徴です。著者の目線は必要最低限に抑えた本文で、3つの事件の詳細と親たちの生い立ちをそれぞれ検証。何十年という期間をかけて世代間に継承される、虐待のメカニズムを考察していきます。読者はその内容を、実際の臨床例ととらえて読むこともできるでしょう。

著者は「文庫版あと書き」の中で、「年間数十件に及ぶ虐待死の大半は、わずか数日で消費されるだけのニュースのネタでしかない」と語ります。一時的なニュース情報で虐待親を感情的に断罪して終わるのではなく、「では“鬼畜”の正体は何なのか?」と、その本質に正面から目を向けたのが本書です。

7.「絞首刑」/青木理(講談社・単行本2009年/文庫版2012年)

<概要>
少年犯罪事件で死刑判決を受けた加害少年3人は、自分たちの罪をどう思っているのか? 加害少年たちと面会を重ねつつ、すでに刑が執行された死刑囚の事件ケースとあわせてその詳細をレポートしていくルポ。「過去」と「現在(取材時)」を行き来しながら、死刑にまつわる考察が進んでいきます。「死刑の是非を問う前に、そもそも司法の現場がどういうものかを知りましょう」と問題提起を行う1冊です。

▼読みやすいポイント
「死刑」をテーマにすると、どうしても肯定論と否定論の感情的な議論になりがち。しかし本書はそうではなく、「日本の司法というものはこういうものですよ」と、事件取材を通してその事実や問題点を浮き彫りにしているのが大きな特徴です。死刑囚本人、死刑執行現場の人たち、さらには被害者遺族にも取材を行い、実際に死刑に関わった人々の思いを包括的にまとめた1冊です。

序章では、著者が関係者取材で得た情報を元に、死刑執行現場の様子が文章で再現されます。刑務官や教誨士など刑の執行に関わる人々それぞれの心象風景を描写するという、ある種小説的な表現で、執行シーンを関係者の心の声で描き出す構成は読み手に大きな衝撃を与えます。

続く本編で、今度は著者が自身の心情を織り交ぜて、取材時の様子を細かく伝えていきます。少年犯罪で死刑判決を受けた加害少年たちへの面会を重ねながら、過去のさまざまな死刑判決のケースを説明し、「実際に死刑判決を受けた人間は罪をどうとらえているのか?」に迫ります。重たいテーマながら、過去と現在を行き来する構成の巧みさもあり読みやすく仕上げられています。

8.「累犯障害者」/山本譲司(新潮社・単行本2006年/文庫版2009年)

<概要>
障害者による犯罪はなぜ生まれるのか? 代議士時代に秘書給与の流用問題で逮捕された経歴を持つ著者が、服役中に出会った触法障害者たちをテーマに取材を重ねたルポ。さまざまな障害者たちが起こした事件ケース、そして彼らの生の声を取り上げ、それぞれの背景と2006年時点の福祉の問題点を考察する1冊です。

▼読みやすいポイント
「元代議士であり、元受刑者である著者」ならではの切り口とテーマ。本書の初版刊行は2006年ですが、2019年現在でもまだタブー視されやすい「障害者による犯罪が起こる理由」に切り込んだ渾身のレポートです。取材対象者に向けて、「私も刑務所に入っていまして」と話しかけられる著者ならでの強みが随所で生かされる様子が見られます。

本書は著者の一人称で、ときに自身の服役経験と反省の弁を織り交ぜながら、読者をクスリとさせる軽妙な語り口で進んでいきます。しかし、その内容は読みやすさと反比例するもの。「日本社会より刑務所のほうが生きやすい」と語る触法障害者たちの姿に、著者は代議士時代を振り返り、福祉への認識が不十分であった自分の姿を正直に吐露します。序文にある「国会で見えなかったことが、刑務所の中で見えてきた」の一節に、その思いが詰まっているように感じられます。

なお、本書は「文庫版のあと書き」もチェック必須。本書の単行本化に端を発して問題が表面化し、日本の触法障害者に対する支援体制が少しずつ改善されていった経緯が加筆されています。1冊の事件ルポが、日本社会を少しずつ変えていった実例と言えるもの。さらに、ジャーナリスト・江川紹子氏の巻末解説文で、著者本人に対する理解も深まり、そこで本書の価値を一層強く感じられる構成になっています。

杉浦 みな子(編集部)

杉浦 みな子(編集部)

オーディオ&ビジュアル専門サイトの記者/編集を経て価格.comマガジンへ。私生活はJ-POP好きで朝ドラウォッチャー、愛読書は月刊ムーで時計はセイコー5……と、なかなか趣味が一貫しないミーハーです。

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