喫煙者の肩身は狭くなるいっぽうの昨今、「タバコをやめたい」と思っている人も多いはず。しかし、禁煙外来を訪ねるのも大げさだし、ニコチンパッチやニコチンガムは薬剤を使用するという不安も大きい。一番手軽な「禁煙パイポ」は煙が出ないので物足りない。そんな時に活用したいのが「電子タバコ」だ。もうもうとした煙状のものを吸って吐いてはいても、ニコチンは入っていない。従ってタバコから「電子タバコ」に移行できれば、即禁煙ということになるのだが、問題もないわけではない。そこで、まだまだわかりにくい「電子タバコ」の楽しみ方やマナーに関して説明していこう。
電子タバコは、さまざまな風味のリキッドを熱して水蒸気化し、それを吸い込むというもの。大量の水蒸気を吸って吐くと、確かにタバコを吸っているような錯覚に陥る。そのため、通常のタバコから移行しやすいのが特徴だ。
海外ではニコチン入りのものも販売されているが、日本では薬事法に抵触するためニコチンなしのものしか販売されていない。ニコチンもタールも発生させないので、健康被害は限りなくゼロに近くなる。リキッドに含まれている添加物も、食品への使用が認められているものなので心配はない。もちろん副流煙の心配もないので、周囲の人間に健康面で迷惑をかけることはほとんどないだろう。また、内蔵バッテリーで駆動するため、充電する必要があるものの、火を使わないので安全だ。
種類は大きく分けて2種類ある。アトマイザーとタンクカートリッジとバッテリーから成る3ピース式と、アトマイザーとタンクカートリッジが一体化している2ピース式だ。2ピース式のほうが方式としては新しく、水蒸気量も多いが、タンクカートリッジを交換する場合はアトマイザーごと交換になってしまうので、コストが高め。気軽な禁煙用途なら、最初は3ピース式のほうがよいだろう。
3ピース式の「EMILI mini」。2本入りで、充電器の役割を果たす専用ケースと合わせても52gと軽量だ。リキッド10本付きを4,000円程度で入手できた
本体をケースに入れて充電する仕様。USB接続で充電できるケーブルも付属している
3ピース式の本体はこのように3分割できる。左からバッテリー、アトマイザー、タンクカートリッジ
ここでは、手軽な3ピース式の電子タバコの楽しみ方を解説していく。使用するのはごく一般的な構造のモデル。使い方と言っても、本体を充電し、リキッドをタンクに入れれば準備完了と、いたって簡単だ。
本体からリキッドタンクだけ取り外す。アトマイザーを外す必要はない
リキッドをタンクの7分目まで注いでいく。中央にある筒ではなく、タンクの側面をリキッドで満たすように入れる必要があるため、若干細かい作業となる
リキッドをこぼさないよう本体にセットすれば準備完了だ。アトマイザーコイルにリキッドが十分に染み込むまで、2 分程度待つ
ボタンを押して起動。この機種はトリプルクリックでライトが点滅し、起動を知らせてくれる
吸う時は、ボタンを押しながら吸い込む。吸い込んだらボタンから手を離す。そのまま吐くと、はたから見ると喫煙以外何物でもない光景だが、ニコチンが入っていないので、嫌なニオイはない。むしろアロマポットを炊いた時のような甘さを感じるいい匂いだ。
煙のような濃厚な水蒸気が出るところが、「禁煙パイポ」の類では望めない“吸った感”を演出する
普通のタバコと違って、バッテリーが持つ限り吸い込めてしまうので、適度なところで止める。吸い終わったら再びケースに入れて、USB充電をしておく。使用頻度によるが、このモデルの場合バッテリーは1本4時間程度持つので、2本あれば用は足りるはずだ。
電子タバコに関してもっとも気になるのが、その味についてだろう。リキッドの種類は、タバコに似せたもの、チョコレートなどの菓子の風味、ミント風味など、数え切れないほどあるので、基本的には好みのものを選べばよい。ただ、たとえばタバコ風味は、噴霧に使用するための添加物が甘く、普通のタバコ風味にはならない。そのため、本物のタバコからの移行には、違和感を覚悟しておいたほうがいい。
タバコ系リキッドは、本物のタバコとは違って甘みが強い
フルーツやチョコレートなどの菓子類のリキッドは楽しいが、禁煙用途には向かない。甘いものが苦手な人は気分が悪くなるかも
そんな中で一番使いでがあるのが、メンソールタイプのリキッドだろう。もともとタール値の低いメンソールタバコを吸っていた人なら、違和感は限りなく小さくなるはずだ。まずメンソールタバコへ切り替えて、そこから軽いタイプのメンソールタバコへ移行、そして電子タバコへという経路をたどれば、より確実な禁煙が可能になるだろう。
清涼感の強い「スーパーミント」(左)など、ミント系にも種類がある
電子タバコのランニングコストはどのくらいなのかも気になるところだが、その点も心配いらない。リキッドは1本700円程度で、使い方にもよるが、タバコ3〜5箱分(60〜100本)程度として使用できる。5箱で700円ということは、1日1箱ペースで喫煙している人なら、1か月でリキッドは6本消費する計算になり、費用は約4,200円程度。本物のタバコの場合、420円×30日で12,600円となるので、ひと月8,400円のコストダウンだ。初月のみ本体を買うための費用がかかることを考えても、節約になると言えるだろう。
ただ、電子タバコは電気製品なので故障する場合もある。また、1個300円程度のアトマイザーの交換が月に一度程度必要なことも考えておきたい。2本を使い分けている場合は600円だ。さらに、数多くのリキッドを試したくても、一度リキッドをタンクに入れてしまうとその風味が残る。複数のリキッドが混じり合うと妙な風味になってしまう可能性もあるので、販売店などで試してリキッドを決め、ほかのフレーバーは使わないようにするのが無難だ。別途コストはかかるが、アトマイザーとタンクの交換部品(セットで600円程度〜)も販売されている。
ニコチンの入っていない「電子タバコ」は、未成年の吸引も可能なはずだ。また、どこで吸っても文句は言われないはずのものである。しかし、現実問題として未成年への販売は推奨されないし、禁煙ゾーンでの使用は禁止されているところが多い。なので、禁煙の店舗などで使用する際は確認が必要だし、許可を得てもクレームの元になる可能性はある。まだまだ法整備という面では課題を抱えているのが現状だ。
日本ではまだまだ普及していない電子タバコ。どれを選んだらよい? と迷う人も多いだろう。ここでは、これから始める人でも手を出しやすい代表的なブランドを紹介しておく。
記事内で使用したのは、EMILIのミニサイズモデル「EMILI mini」だ。白いボディがはた目からはタバコに見えるところが調和を好む日本人向け。リキッドが複数本付きのスターターキットで3,000円台中盤から入手可能なのもうれしい。本格的に始めるかどうか決めかねている初心者向けであり、禁煙目的の人にはうってつけだ。コンパクトながらたっぷりの水蒸気を生むため、「吸った感」はかなりある。
電子タバコブームに火を付けたのが、爆煙ぶりに定評があるイギリスのブランド「Joyetech」だ。3,000円台後半からスターターキットが手に入る。人気シリーズは「eGo」で、タンク下部に穴がなく、長く使っても液漏れをしにくい構造だ。温度調整が可能なモデルも多く、使用するリキッドによって温度を変えたいなど、こだわりたくなったらコレ。本格的に電子タバコが習慣になったら手にしたいモデルだ。販売店も多いので交換パーツなども入手しやすい。ただデザイン的には少々チープ感が否めない。
デザインなどシャレっ気を求めるなら「Kamry」。いかにも電子タバコというような大きくて存在感のあるモデルもあるが、万年筆のようなデザインの「eGo Vape Pen」など、ほどよく目立つシリーズもある。禁煙アイテムだからといって無機質だったり無骨なデザインではつまらないという人に適しているだろう。
気化したフレーバーリキッドを吸い込むだけの電子タバコ禁煙は、ニコチンパッチなどの薬剤を使用する方法に比べて健康面で有利だ。風味の違和感さえクリアできれば、手持ち無沙汰にもならないし、煙を吸った感があるのもいい。マナーさえ守れば、周囲に迷惑がかからないのもいいところだ。なので、「今度こそ禁煙!」と思い立ったのなら、方法のひとつとして電子タバコも候補に入れて欲しいと思う。ニコチン依存の方の場合は簡単にはいかないかもしれないが、少なくとも習慣や惰性でたくさんタバコを吸ってしまっているタイプの人は、確実に減煙可能なはずだ。