特別企画
近未来のさまざまな新技術を支える期待の通信技術

商用サービス開始予定まで2年を切った「5G NR」の最新動向

近ごろ、通信キャリア各社からは、2020年にスタートする予定の4G LTEの次を担う第5世代モバイルネットワーク「5G NR」に関係する発表が続いている。5G NRでPCやスマホがどう変わるのか、どのような用途に活用されていくのか、通信キャリアの動向を踏まえて解説しよう。

2020年に商用サービスの開始が予定されている「5G NR」の実証実験やデモの発表が続いている。そこから見えてきた、モバイル通信の未来像を解説する

2020年の東京オリンピックに向けて5G NRの準備が進む

2020年の東京オリンピックに向けて、国内の通信キャリア各社が、次世代のモバイルネットワーク「5G NR」の準備を進めていることは、価格.comマガジンでもすでに何度かお伝えしている。予定されているサービス開始まで2年を切ったこの夏は、通信キャリア各社が、より具体的な取り組みを発表しており、漠然としていた5G NRの姿が以前よりイメージしやすくなっている。

最初に5G NRという名称について解説しよう。以前はただの「5G」と呼ばれていたが、最近では「5G NR」とか「NR」と呼ぶ機会が増えている。NRとは“新しい無線”を意味する「New Radio」の略語だ。4Gネットワークを「LTE」と呼ぶように、「NR」 といえば5Gネットワークを指すようになるだろう。

なお、5G NRは、既存のLTEを通信制御のために併用した「ノンスタンドアロン仕様」と、LTEなしで利用可能な「スタンドアロン仕様」の2種類がある。ノンスタンドアロン仕様はすでに2017年12月に仕様が固まっていたが、スタンドアロン仕様も「3GPP Release 15」として2018年6月13日に仕様がまとまった。これで、5G NRの全仕様が固まったことになり、商用サービス開始に向けて各社の動きが加速してきている。

現在主流の「4G LTE」は、極論すればスマートフォンに代表されるモバイル機器のための通信ネットワークの規格だ。「高速、大容量、低遅延」という4G LTEのコンセプトは、いずれもスマートフォンに適しており、その前の3Gネットワークからの移行も、日本ではあっという間だった。さらに、4G LTEのスピードアップはめざましいものがあった。NTTドコモのLTEサービス「Premium 4G」の場合、「Xi(クロッシィ)」と呼ばれていたサービス開始当初は37.5Mbps(または75Mbps)だった下り最大通信速度は、今では988Mbpsと、26倍以上も速くなった。auも958Mbpsが最速、ソフトバンクも最新機種のシャープ「AQUOS R2」などで、744Mbpsの通信速度を実現している。

いっぽうの5G NRでは、4G LTEの10倍以上という10Gbps以上という高速通信を目指す。これは、2010年と比較して、2020年ごろのモバイルデータの流通量が1000倍に増加することが予想されるためだが、上記のLTEの速度向上ペースを見ると、この目標は、意外と手堅い目標に思える。

NTTドコモの主催する「5G Tokyo Bay Summit 2018」のデモの様子。5G NR(写真左半分)と4G LTE(写真右半分)で動画再生の情報量を比較する。10倍という情報量の差は歴然としている

5G NRの商用サービス開始を2020年に間に合わせたい理由として、東京オリンピックの際に、4Kや8Kの映像にARやVRを組み合わせた新しい観戦スタイルを実現したいという狙いがある。1964年の東京オリンピックでテレビのカラー放送を実現したようなインパクトを狙っているという。なお、こちらも「5G Tokyo Bay Summit 2018」で披露されたサンプル映像だ

いっぽう、速度以外の面での5G NRのメリットはなんだろうか。それには、5G NRを使用することが想定されている新技術を見るのがヒントになるだろう。5G NRを使った近未来の技術として今注目されているものとしては、8Kの映像配信、IoT、ADAS(自動運転)、医療、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)、eスポーツなどがある。8K動画のストリーミングでは、単純計算でフルHDの16倍のデータ通信容量が必要だ。いっぽう、IoTでは通信速度よりもむしろ電力消費の少なさや、大量のIoT機器と同時接続できる多接続性が大切になる。また、eスポーツや自動運転の分野では、通信タイムラグの少なさが重視される。医療分野の場合、通信速度の速さやタイムラグの少なさに加えて、データが着実に届くことも求められるだろう。ニーズはいろいろあるが、必要とされるネットワークの性能はそれぞれ異なるのだ。

現在の4G LTEでは、ネットワーク機能をニーズに応じて調整することが難しい。だが、5G NRでは、必要に応じて仮想的に、速度特化型、省電力多接続型、タイムラグ削減型、着実性重視型といったように特定の性能に特化したネットワークを作ることができる。これを「ネットワークスライシング」と呼んでいるが、これが機能点から見た5G NRの大きな特徴のひとつとなっている。

IoT機器をリモートコントロールするための技術としても5G NRは有望。「5G Tokyo Bay Summit 2018」ではNTTドコモと重機大手のコマツの共同で、ブルドーザーを遠隔操作するデモを披露していた

「5G Tokyo Bay Summit 2018」で披露されたVRヘッドセットとグローブを使ったロボットの遠隔操縦。5G NRのデモではよく見かけるシーンだが、これもタイムラグの少ない「5G NR」が望まれているジャンルだ

移動診療所を使った遠隔医療も5G NRで期待されるジャンル。「5G Tokyo Bay Summit 2018」で披露されたデモでは医療水準の高解像度のテレビ電話を実現するには5G NRの通信速度と安定性が必須だ

「5G Tokyo Bay Summit 2018」で披露された自動車のハンドルなどのステアリングインフォメーションを5G NRネットワークを介してリモートで再現する実験。これも通信のタイムラグが大きいと実現が難しい技術だ

国産車で最速の日産「GT-R」をベースにNTT、NTTドコモ、NECが開発した5G NRの実験車両。時速300kmで5G NRが使えることを実証した

IoTが普及すると、ひとつの基地局が収容する接続機器が現状の1000倍に増えるという。こうした多接続に対応することも5G NRでは必須だ。写真はソフトバンクのIoTデバイスだ

こうした5G NR特有の機能を実現するために、従来の通信とは違った技術が取り入れられている。そのひとつとして、高速通信に必須な帯域の広い電波を確保するため、人工衛星との通信や天文観測、レーダーくらいしか使い道のなかった数十GHzという高い周波数帯の電波を使うことがある。ただ、こうした高い周波数帯の電波は帯域自体は広がるが、到達距離が数百メートル程度と短いうえに、性質が光に近く、建物の裏側に回り込む「回折」や、構造物を突き抜ける「透過」がほとんど期待できず、小さな基地局を大量に設置する必要がある。このため、5G NRの通信エリアの展開は、現在整備が進む4G LTEの一種「TDD-LTE」の3.5GHz帯のように、人口の多い都市部から少しずつ広げていくことになるだろう。

PCの処理性能をネットワークで補う!? 「エッジコンピューティング」にも注目

5G NRで実現できることとして注目したいことのひとつに「エッジコンピューティング」がある。エッジコンピューティングでは、5G NRのタイムラグの少なさを生かし、描画や演算といった負荷のかかる処理を、外部サーバーに丸投げしてしまうことができる。たとえば描画処理を丸投げすれば安価なPCやスマホでも、グラフィック処理負荷の大きなゲームを動作させることもできるし、CADのレンダリングなどの重たい処理も可能になるだろう。

グループ企業に、GPUの大手メーカー「NVIDIA」や、モバイル向けなど組み込み用CPUの設計を行う「ARM」を保有するソフトバンクは、エッジコンピューティングでは有利な立場にある。研究開発とそれを応用した商用サービスを考えている

ソフトバンクによるエッジコンピューティングによるグラフィック描画の実演。左がPCの内蔵GPUを使ったもの、右がエッジコンピューティングによるもの。安価なPCでも高画質なグラフィックを扱えるように開発が進められている

単なるスマホの通信手段にとどまらない未来の技術の根底を支えるベース技術

5G NRが様々な用途に活用できることは、これまで見てきたとおりだが、こうした時代を見越して、通信キャリア各社では、今まで考えられなかったような異業種交流を推進している。たとえばKDDIでは、会津若松市で、日本酒を題材に、材料の米作りや杜氏の行っていた醸造過程を5G NR+ IoTで効率的に管理するほか、5G NR+ドローンによる流通の効率化や、IoTを使った輸送中の温度管理、果てはプロモーションまでの各過程で5G NRを活用する実験を進めている。また、「KDDI DIGITAL GATE」を東京・虎ノ門に開設し、5G NRやIoTを検討している異業種の交流・開発拠点としている。なお、こうした5G NRを利用した異業種との交流は、ソフトバンクやNTTドコモでも行われている。

5G NRは、単なるスマホをインターネットに接続するための手段という枠組みにとどまらない、実に多様なデバイス、さらには業界を巻き込むことができる通信インフラだ。「気づけば新しいテクノロジーの縁の下を支えていた」、5G NRはそんな技術になりそうだ。

5G NRの商用サービス開始を見据えて、KDDIは異業種交流や研究開発の拠点となる「KDDI DIGITAL GATE」を開設した。こうした取り組みは他社でも見られ、5G NRが情報通信業界にとどまらない裾野の広い技術であることを物語っている

田中 巧(編集部)

田中 巧(編集部)

FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。

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