2023年からおよそ3年間にわたって続いた本連載も、今回が最後となる。
連載開始当初からインフレが進んでいたが、現在はその流れがさらに加速しており、携帯電話サービスやスマートフォンの料金も値上がり傾向にある。消費者にとってより厳しい状況となっていることは間違いないだけに、長年携帯電話市場を追いかけた筆者の視点から、料金をより安くするうえで重要になりそうなポイントをお伝えして、本連載を締めたいと思う。
日本で携帯電話の料金とスマートフォンの価格に大きな影響を与えているのは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯4社だ。そこで携帯各社の最近の動向を確認すると、新規参入の楽天モバイルと、それ以外の大手3社では戦略に大きな違いがある。
まずは大手3社についてだが、少子高齢化の影響で市場が飽和し、優良な新規顧客を獲得するのが難しくなっていることから、各社は既存顧客に長く、多くのサービスを使ってもらうことに重きを置くようになってきている。
そのことを象徴しているのが、データ通信が無制限で料金が高い、最上位の料金プランに多くの付加価値を付け、魅力を高めて契約者を増やそうとしていることだ。「DAZN for docomo」や「Lemino」など、複数の映像コンテンツの中から2つを選んで利用できるNTTドコモの「ドコモ MAX」や、スマートフォン決済の「PayPay」で高いポイント還元率が得られるソフトバンクの「ペイトク無制限」などが、その代表例と言える。
携帯大手3社は高価格な使い放題プランの付加価値を高めることに力を入れており、NTTドコモは「Lemino」や「DAZN for docomo」など、4つのサービスのうち2つを追加料金なしで利用できる仕組みを導入している
既存顧客重視への戦略転換はスマートフォンの価格にも大きく影響してきており、そのことを示しているのが「端末購入プログラム」の戦略転換だ。
端末購入プログラムは、スマートフォンを長期間の分割払いで購入し、一定期間後に返却すると残りの支払いが不要、あるいは安くなる仕組みだ。だがソフトバンク(ソフトバンクブランド)が2025年8月、NTTドコモとKDDI(au)は2026年2月より、端末を返却して残りの支払いを不要にする際、プログラムを利用するための料金として最大2万2000円の支払いを求めるようになった。
それと同時に3社は、自社で機種変更したうえで端末を返却した場合は、プログラム利用料の支払いを免除する施策も同時に導入している。このことは、携帯各社が自社サービスを長く利用する人を優遇したい様子を明確に示しており、スマートフォンを安く購入するうえでも長期契約者が有利となる。
KDDIの「au」で2026年2月26日より提供開始した「スマホトクするプログラム+」は、端末返却時に最大2万2000円の特典利用料がかかるという、従来の端末購入プログラムにはない仕組みが追加された
それゆえ1つの携帯電話会社を長く契約するつもりがないのであれば、家電量販店やECサイトなどで購入できる「SIMフリー」のモデルを選ぶのも手だ。現在では主要なスマートフォンメーカーの多くが、SIMフリーモデルを用意している。
また、買い方によってはSIMフリーモデルのほうが安いケースもあり、アップルの「iPhone」シリーズを一括価格で購入するならば、携帯各社よりApple Storeで購入したほうが安いことはよく知られている。量販店やECサイトのセール、ポイント還元なども組み合わせれば意外と安く買えることも多いだけに、「携帯各社の割引がないと高い」と思っていた人は、今後SIMフリーモデルにも注目するべきだろう。
では楽天モバイルはどうかと言うと、2025年末に契約数が1000万を超えたとはいえ、大手3社が軒並み5000万契約を超えているのと比べれば、まだ数は少ない。それゆえ前述した3社とは違って契約数をいっそう増やす必要がある。そのため、引き続き顧客獲得のための施策を強化しており、低価格でデータ通信が使い放題の「Rakuten最強プラン」を当面値下げしないと表明したのも、その一環だろう。
ただその楽天モバイルも、より多くのお金を払ってくれる質の高い契約者を求めていることは確か。そこで同社も料金戦略には変化が出てきており、定額制でより料金が高い、映像配信サービス「U-NEXT」とのセットプラン「Rakuten最強U-NEXT」の契約を強化する動きが強まっている。
実際2026年2月より開始している、楽天モバイルと楽天銀行との連携で普通預金金利がアップする施策では、Rakuten最強U-NEXTの契約者はさらに金利が上がる仕組みとなっている。今後も楽天モバイルは、売り上げを伸ばすべくRakuten最強U-NEXTを優遇した施策を増やすと考えられ、内容や組み合わせによってはRakuten最強U-NEXTを選んだほうがお得になるケースも出てくるかもしれない。
楽天モバイルは2026年2月より、楽天銀行とのセット契約で普通預金金利が上がる仕組みを提供しているが、「Rakuten最強プラン」より高額な「Rakuten最強U-NEXT」契約者が優遇されている
実は携帯4社に加えもう1つ、携帯電話の料金などに大きく影響してくるのが日本政府である。なぜなら携帯各社は国の貴重な資源でもある電波を借りてサービスをしているため、日本政府、より具体的には総務省の影響を強く受けやすいからだ。
現在、その総務省が携帯電話に関して大きな方針転換を図りつつある。総務省は長らく、端末の大幅値引きと既存顧客の囲い込みに重きを置いた携帯大手3社の商習慣を問題視。大手3社から楽天モバイルやMVNOなどに乗り換えてもらうことで携帯電話料金を安くするべく、2019年の電気通信事業法改正でスマートフォンを大幅に値引くことや、顧客の契約を長期間縛り続けることを相次いで規制してきた。
その結果、他社に乗り換える制約がほぼなくなったことで、短期間で携帯電話会社の乗り換えを繰り返し、乗り換え顧客に提供するキャッシュバックを獲得して稼ぐ「ホッピング」という問題行為が横行。そのいっぽうで、規制により携帯各社が思うように値引きができなくなったことや、インフレの進行から、新しい技術を搭載したスマートフォンの普及が進まなくなっている。
そこで総務省は、有識者会議を通じて端末値引き規制の緩和やホッピングを防止するための議論を始めている。一連の議論では、かつて携帯各社の端末値引きを厳しく規制するよう訴えていた有識者が、一転して海外の事例から規制撤廃のメリットを示唆する話を出すようになった。いっぽう、新規顧客獲得をあまり重視しなくなった携帯各社からは、端末値引き規制の継続を求める声が相次ぐなど、各者の立場が逆転しているような状況が起きている。
総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第3回の野村総研シニアパートナー、北俊一氏の提出資料
この会議の結果として、現在の規制が何らかの形で緩和・撤廃されたとなれば、スマートフォンの値引きはもっとやりやすくなるだろう。ただ携帯各社が既存顧客重視の方針を打ち出しているだけに、規制が緩和されたとしてもすべての人がお得になるとは限らない。
具体的に言えば、高い料金プランを契約している人にだけスマートフォンの大幅値引きや長期契約割引を提供するなど、料金プランによって割引内容に大きな差が出てくる可能性が高いのではないかと筆者は見ている。
これら各者の動きを考慮するに、今後消費者が携帯電話料金やスマートフォンの代金を安くしたいなら、特定の携帯電話会社のサービスに依存するか、逆にお得なサービスや端末を徹底的に探し出すか、いずれかの行為が求められるだろう。