「ThinkPad」はビジネス向けノートパソコンの印象が強く、保守的なイメージを持っている人が多いかもしれないが、IBM時代から先進的でユニークなモデルをいくつも世に送り出している。ディスプレイを開くと2つに分割されたキーボードが開く「バタフライキーボード」を搭載した「ThinkPad 701c」や、コンバーチブル型の「ThinkPad Helix」などあげればきりがない。
そんなThinkPadに再びユニークなモデルが登場した。画面が折りたためる「ThinkPad X1 Fold」だ。ユニークさはひと目見てわかるが、どんなモデルなのかチェックしていこう。
ThinkPad X1 Foldは、折りたたみ式の13.3型有機ELディスプレイを搭載する。直販価格327,426円(税込、2020年12月11日時点)
ThinkPad X1 Foldは、13.3型の折りたためる有機ELディスプレイを搭載するパソコン。ディスプレイを広げると、13.3型の大画面タブレットとして使える。ディスプレイを折りたたむと、大きめのビジネス手帳のようなサイズ感だ。折りたたんで付属のキーボードを使えば7型クラスの小型ノートパソコンとしても使える。
まず、気になるのは画面の折りたたむ部分だ。スマートフォンで画面の曲がるモデルがあるが、曲がる部分に凹凸ができるなど、あまりいい評判を聞かない。ThinkPad X1 Foldの場合も曲がる部分が少しだけ波立っている感じはあるが、嫌な感じはしない。広げると折り目が目立たないので、タブレットとして使うときは、折りたたみ式であることを意識することはないだろう。
折りたたむ部分の機構(ヒンジ部分)には、日本伝統工芸の三軸織物からインスパイアされた構造を採用している。曲がる部分をよく見ると少しだけ波立って見えるが、広げるとまったく気にならない
13.3型の大画面タブレットとして使える。2048×1536の有機ELディスプレイは、黒が引き締まった高品質な表示。10点マルチタッチにも対応する
折りたたむとビジネス手帳のような革のカバーで覆われている
縦向きでも利用可能。本体重量は約973gで、アップルの「12.9インチiPad Pro」(Wi-Fiモデル)の641gより重い
「Lenovo Mode Switcher」で、2画面、1画面で表示スペースを切り換えられる
何度も折りたたんでみたが、ディスプレイの機構もしっかりしており、折りたたみ式に感じる頼りなさは感じなかった。ボディに厚みがあって、かなり頑丈な作りになっているのも丈夫さにつながっている。ビジネス向けのノートパソコンを長く手がけてきたレノボだけに、頑丈さは抜かりなしと言ったところか。
折りたたむとビジネス手帳のような革のカバーで覆われている
付属のキーボードを使ったスタイルは、ディスプレイを広げたスタイルと、ディスプレイを折りたたんでスタイルの2つで使える。
まずはディスプレイを広げたスタイルは、13.3型の大画面で使えるのが特徴だ。ちょうど13.3型のモバイルノートを使っている感覚で作業できる。背面にスタンドがあって、自立するのがポイントだが、画面の角度を調整することはできない。スタンドの背面が真っ赤でThinkPadっぽいところがかっこいい。キーボードはBluetoothで接続されているので、好きな場所に置いて使える。ただ、Bluetoothキーボードは薄型のためタイピングしやすくはない。このスタイルで長時間作業するときは、別のBluetoothキーボードを使うとよさそうだ。
画面を広げたスタイルだと、13.3型のモバイルノートと同じ画面サイズで作業ができる。Bluetoothキーボードは好きな場所に置いて使えるが、角度調整はできないし、そもそも薄型で使いにくい
背面のスタンドの裏側は赤色。ThinkPadらしい黒と赤の組み合わせ
ディスプレイを折りたたんだスタイルは、外出先など移動中に使いやすいスタイルだ。画面サイズは13.3型の半分なので、7型ほどと小さいが、Webページの閲覧やメールのチェックなどは問題なくこなせる。Bluetoothキーボードはマグネットで固定できるで、強めにタイピングしてもずれることはない。分離して使うよりもずっと使いやすい。
Bluetoothキーボードはワイヤレス充電に対応しており、ディスプレイをたたむと充電される。本体のバッテリー残量が50%以上のときに充電する仕組みなので、本体のバッテリーが少ない場合は充電されないので注意しよう。micro USB端子経由で有線での充電も可能だ。
Bluetoothキーボードを装着して7型のミニノートとして使える。付属のペンはBluetoothキーボードに固定できる
キーボードはさすがに小型で慣れるまで時間がかかりそう。タッチパッドが極小なので、マウスは必須だ
付属の「Lenovo Mod Pen」を使った手書き入力も便利だ。ディスプレイを広げて使うと、書けるスペースが非常に広くて書きやすい。4096段階の筆圧感知を実現しており、仕事用のメモには十分なスペックだ。約332時間と長時間使えるのもうれしい。充電はUSB Type-Cポートで行うので、付属のACアダプターが使える。満充電まで約150分と充電に時間はかかるので、寝る前などに充電しておくとよさそうだ。
太めで握りやすいLenovo Mod Pen。ペン先の逆側を外すとUSB Type-Cポートがあり、付属のACアダプターを使って充電する。
CPUには「Core i5-L16G7」を搭載する。開発コード名「Lakefield」と呼ばれるCoreプロセッサーで、5コア/5スレッドのCPUとGPU、8GBのメモリーを1パッケージに実装したハイブリッドプロセッサーだ。
CPUの性能を測定するベンチマークプログラム「CINEBENCH R32」の結果は、Multi Coreが1022、CPUSingle Coreが521だった。第10世代のCore i7-1065G7を搭載する「Surface Laptop 3」のMulti Coreが3806だったので、CPU性能は1/4ほど。Core i5-L16G7はハイパースレッディングがなく、妥当な結果だと思われる。グラフィック性能を測定する「3D Mark Professional」の「Time Spy」の結果は442。Surface Laptop 3が852なので、Iris Plusグラフィックスの半分ほどだった。
CINEBENCH R32の結果
3D Mark ProfessionalのTime Spyの結果
Core i5-L16G7は、Atomのようなイメージをもっていたが、想像していた以上にベンチマークの結果はよかった。動画編集やゲームには向いていないが、外出先でのWebページのチェックやOfficeの利用には十分な性能を備えていそうだ。
外部インターフェイスはUSB Type-Cポートを2つ備える。USBのタイプAやHDMIはないので、必要な場合は別売のUSB-Cポートリプリケーターなどがあるといいだろう。重量はタブレット単体で約973g、BluetoothキーボードとLenovo Mod Penを含めると実測で1151gだった。
バッテリー駆動時間は最大11.7時間。最近のモバイルノートとしては少し短めだ。オプションで用意されている5Gモデルだと、使用できる時間はもっと短くなりそうなので、ACアダプターを持ち運ばなければならないかもしれない。
BluetoothキーボードとLenovo Mod Penを含めた重量は実測で1151g
付属のACアダプターは小型だが65Wタイプ
ThinkPad X1 Foldの一番の魅力は、13.3型の大画面で作業できて、持ち歩くときは7型クラスのコンパクトなサイズになることだろう。2画面モデルでも同じようなことはできるが、折りたたみのディスプレイで中央にフレームがないThinkPad X1 Foldのほうが断然画面が見やすい。
折りたたんだときに厚みが出るのが最初は気になった、片手で握りやすいようにカーブしているのに加え、レザーのカバーが滑りにくく持ちやすかった。厚めのビジネス手帳感覚で持ち運べるだろうし、そういう毎日持ち歩く使い方を想定しているのだと思う。
直販価格は327,426円(税別)からと、ハッキリ言って高め。ガジェット好きやテクノロジー大好きな人向けのモデルだが、ディスプレイを折りたたむ技術が将来のモデルに継承されて、画面折りたたみ式のパソコンが手ごろな価格で買えるようになると、パソコンがもっと面白くなりそうだ。ThinkPad X1 Foldは、久しぶりにそんなワクワクを感じさせてくれるパソコンだった。
パソコン関連を担当する双子の兄。守備範囲の広さ(浅いけど)が長所。最近、鉄道の魅力にハマりつつあります。