今夏注目のハイエンドスマートフォン、ソニー「Xperia 1 III」が、2021年7月9日についに発売された。最安のNTTドコモ版でも15万円以上という高価な製品だが、「Xperia」シリーズの集大成とも呼べるようなこだわりが随所に詰まった自信作だ。au版「SOG03」を使って、レビューを行った。
ソニー「Xperia」シリーズの最新ハイエンドモデルとなる「Xperia 1 III(エクスペリア・ワン・マークスリー)が、NTTドコモ、au、ソフトバンクの各通信キャリアから発売された。NTTドコモ版「SO-51B」は154,440円、au版「SOG03」が178,000円、ソフトバンク版は188,640円(いずれも税込)で、ハイエンドスマートフォンの中でもかなり高価な製品だが、注目度は高く、価格.com「スマートフォン・携帯電話」カテゴリーにおける人気・注目ランキングでは、現在1位の座を獲得している(2021年7月14日時点)。
「Xperia 1 III」のデザインは、前モデル「Xperia 1 II」を踏襲している。サイズは約71(幅)×165(高さ)×8.2(厚さ)で、重量は約188gと、前モデル「Xperia 1 II」と比べると、幅が約1mm、高さは2mmそれぞれ小さくなり、厚さは0.3mm、重さは7gそれぞれ重くなった程度の違いしかない。また、ディスプレイの保護ガラスには、擦り傷と耐衝撃性能の両方が高められた最新の強化ガラス「Corning Gorilla Glass Victus」が採用された。このほか、Googleアシスタントの呼び出しボタンが右側面に追加されるなど、細かな機能強化が図られている。
「Xperia 1 II」同様、IPX5/8等級の防水仕様と、IP6X等級の防塵仕様に対応するほか、交通系ICカードの併用に対応したFeliCaポートやワイヤレス充電のQi(チー)ポートも引き続き備えている。逆に、フルセグ・ワンセグのテレビチューナーはついに非搭載となった。なお、通信キャリアやサブブランド取り扱いモデル、SIMフリーを含めて、今夏発売のスマートフォンでテレビチューナーを搭載するものは存在しない。
ディスプレイも前モデル同様で、縦横比21:9の超縦長で、3,840×1,644の4K表示に対応する約6.5インチの有機ELディスプレイを採用する。10bitの階調やBT.2020の色域に対応し、プロ用モニターの画質を再現した「クリエイターモード」にも引き続き対応している。視界を妨げるノッチやパンチホールがない平面のディスプレイはやはり見やすい。21:9のアスペクト比を生かせる超ワイド表示に対応した動画やゲームが近ごろ増えているのも心強い点だ。
フラットかつノッチやパンチホールのないディスプレイ。映像に集中しやすく、タッチ操作の抜けも少なく操作性もよい
なお、新たに、ディスプレイが120Hzのリフレッシュレートと240Hzのタッチサンプリングレートに対応した。通常のアプリについては120Hz表示が上限だが、ゲーム最適化機能「GameEnhancer」に登録したアプリについては、1コマごとに残像低減のための黒い画面が差し込まれた240Hz相当の駆動に対応する。このような高速駆動ディスプレイの搭載は「Xperia 1」シリーズでは待ち望まれていたもので、競合機種と比べて見劣りしていた点がこれで解消されたと言える。
ディスプレイのサイズと解像度は変わらないが、120Hz駆動、および残像低減機能付き240Hz相当駆動に対応した
背面の素材はマットな質感のフロストガラス。好評だったSIMフリー版「Xperia 1 II」のイメージを受け継いでいる
ボディ上面にヘッドホン端子を配置。ヘッドホン端子からの出力は「Xperia 1 II」と比べて音圧が約40%向上している
ボディ下面にUSB Type-Cポートを配置。USB PD規格の急速充電(最大30W)に対応する
ボディ右側面には、上からボリューム調整、指紋認証センサー内蔵の電源ボタン、新搭載のGoogleアシスタント呼び出しボタンが配置される
サウンド機能では、ヘッドホン端子と左右対称に配置されたステレオスピーカーを搭載するほか、ストリーミングなどさまざまな音源に対応するサウンドエンハンサー「DSEE Ultimate」を搭載し、立体音響技術「Dolby Atmos」にも対応するなど、前モデル「Xperia 1 II」のものを踏襲している。ただし、スピーカーとヘッドホン端子のいずれも、「Xperia 1 II」と比較して音圧が約40%向上した。歴代の「Xperia 1」のスピーカーは、どれも音がよかったが、本機は、音圧が向上したことでメリハリの効いた、より迫力のあるサウンドが楽しめるようになった。また、内蔵スピーカーだけで、立体音響技術「360 Reality Audio」対応のコンテンツを再生できる。このほか、細かな点だが、「Xperia 1 II」で見られた、スピーカー使用時のボディの共振問題も解消されている。
基本スペックは、最新のハイエンドSoC「Snapdragon 888」に、12GBのメモリーと256GBのストレージ、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。OSは、Android 11だ。定番のベンチマークアプリ「GeekBench 5」を使って処理性能を調べたところ、「シングルコア」は1,127、「マルチコア」は3,585、GPUの処理性能を計測する「Open CL」は4,610、「Vulkan」は1,263となっており、「Snapdragon 888」搭載機としては標準的なスコアとなった。
「GeekBench 5」の結果。いずれも「Snapdragon 888」搭載機としては標準的な性能と言える
通信機能では、3キャリア版ともに、5G通信で従来からのSub-6に加えて、ミリ波にも対応した。なお、映像のプロ向けモデルの「Xperia PRO」では、ミリ波用のアンテナを4方向に搭載しているが、本機については2方向となっている。
ZEISS監修のレンズを搭載したメインカメラは、約1,220万画素の超広角カメラ(16mm)、約1,220万画素の広角カメラ(24mm)、約1,220万画素の望遠カメラ(70mm/105mm)に、構図認識のためのToFセンサーを組み合わせた4眼カメラだ。最近では1億画素以上の高画素センサーを備えたカメラを搭載するスマートフォンも出てきているが、本機のカメラはいたずらに画素数を高くすることは避け、カメラの基本性能としての光量確保および高速レスポンスを重視したものとなっている。
前モデル「Xperia 1 II」との大きな違いは、望遠カメラがプリズムを使って90°角度を変えるペリスコープ構造になったことで、望遠カメラの焦点距離が70mmに加えて超望遠の105mmにも対応した点だ。また、すべてのカメラがデュアルフォトダイオード(Dual PD)センサーを採用しており、高速なAFが行えるほか、標準カメラの広角カメラに加え、超広角カメラと望遠カメラも、被写体を追尾し続けるコンティニュアスAFに対応した。人気の「瞳AF」もすべてのカメラで利用できる。なお、ソフトウェアの面では、従来の「カメラ」アプリが廃止され、カメラ専用機的な操作性を持ったソニー独自のカメラアプリ「Photography Pro」に一本化された。なお、スナップ撮影用に手軽に利用できるよう、「Photography Pro」には、タッチシャッター操作も可能なベーシックモードも追加されている。
独自のカメラアプリ「Photography Pro」に新しく搭載された「BASIC」モード。 スマホのカメラでは一般的な背景ぼかしや美顔撮影。パノラマ撮影、動画撮影も可能だ
以下に、「Xperia 1 III」のメインカメラを使って撮影した静止画の作例を掲載する。いずれも、「Photography Pro」のオートモードを使用して撮影したものだ。
曇天の銀座の街の様子を撮影。画素数は1,220万画素と高くないが、壁のレリーフはしっかりと解像しており、周辺までしっかりと写っていることがわかる。色味も自然だ
同じ風景を超広角カメラで撮影。16mmの超広角なので、街の様子がかなり広く収まる。広角レンズならではの周辺部における若干のゆがみはあるが、解像感はしっかり保たれている
70mmの望遠で撮影。時計塔の細部がより鮮明に写る。カメラを切り替えても色合いなどの変化はほとんどない
105mmの望遠で撮影。よりディテールがクッキリ写り、ぼやけなども見られない。16mmから105mmと選べる焦点距離の幅が広いため、ほとんどカメラ専用機のように使える
夜の街を広角カメラで撮影。HDRが動作しており、ハイライトから暗部まで肉眼の印象に近い印象で写った。無理に明るく仕上げている感じがなく、自然な印象だ
超広角カメラで撮影。全体の明るさなどは広角カメラとほぼ変わらないが、ピントが合わせ切れておらずややぼんやりとした印象を受ける
望遠カメラに切り替えて撮影。望遠カメラでの夜景撮影は難易度が高いが、シャッター速度が稼げており、手ぶれや被写体ブレも見られず、しっかりピントも合っている
ノイズが現われており、鮮明さも70mmよりやや落ちている。さすがに100mmオーバーの望遠での夜景撮影は難しいようだ
望遠カメラは、最短焦点距離が目測で30cm程度に抑えられており、テレマクロ撮影も行いやすい。ピントもしっかり合っており、葉脈などのディテールがしっかり確認できる
日中の風景を逆光で撮影。樹木の日陰部分などを見るとフレアが少なく、逆光でもしっかり解像する
相当暗い夜間での美術館を広角カメラで撮影。1/1.7型大判センサーを搭載する広角カメラは、光量を多く取り込みやすいため、こうした低照度撮影に強く、手持ちでも手ぶれを抑えた撮影ができる
「Xperia 1 III」では、カメラが3基ともコンティニュアスAFに対応したことで、動く被写体への対応がさらに強化された。また、ペリスコープタイプの望遠カメラは最短撮影距離が極端に長くなる場合があるが、本機については目測で30〜40cm程度に抑えられており、テレマクロ撮影なども行いやすい。なお、焦点距離を105mmに切り替えても最短撮影距離は変わらないので、使い勝手も良好だ。基本的な画質は、ナイトモードやHDRが動作した場合でも、肉眼の印象に近く、夜間などの低照度撮影などでも、無理に明るく仕上げるというような感じはなく、自然な印象で写せるのが好感触だ。現実以上に鮮やかな風景を手っ取り早く撮りたいというニーズには向かないが、RAWデータでの保存が可能なので、腕に覚えのある人なら、レタッチなどを行うことで超現実的な映像を作り出すこともできる。全体的に、カメラ機能は、これまでの「Xperia 1」シリーズの中でも最高レベルにきれいで使いやすく、現状のハイエンドスマートフォンの中でも最高レベルと言えそうだ。
また、動画撮影機能も強化されており、4K HDR 120fpsの動画撮影が可能になったほか、ソフトウェア処理で風雑音を消去する「インテリジェントウインドフィルター」を備えており、より扱いやすく強化されている。
本機は、前モデル「Xperia 1 II」よりも500mAh増加した容量4,500mAhのバッテリーを搭載している。電池持ちに関するスペックを見ると、連続待ち受け時間が約420時間、連続通話時間は約2,040分となっており、「Xperia 1 II」の連続待ち受け時間約420時間、連続待ち受け時間の約1,610分よりやや向上している。
実際の利用イメージでは、1日に3時間程度使えば2日ほどでバッテリー残量はゼロになる感じだ。ゲームなど負荷のかかる状態が続けば、フル充電でも半日は持たない。ただし、このバッテリー持ちの悪さは、本機に限らず、「Snapdragon 888」を搭載するハイエンドスマートフォンでは共通して見られる傾向なので、致し方ないといったところだろう。
なお、充電機能では、USB PD規格(最大30W)の急速充電と、Qi規格(最大15W)のワイヤレス充電に対応している。なお、本機が搭載するQiポートはリバース充電に対応しており、ほかのQi対応機器への充電も行える。
冒頭に触れたように、本機はかなりの高価な製品だ。ただし、各キャリアでは、端末購入補助プログラムが用意されており、ユーザーの経済的負担を少しでも軽くする措置が用意されている。各社の端末購入プログラムを行使した場合の実質負担金や条件を以下に比較したので参考にしてほしい。
端末価格自体はNTTドコモが最安で、ソフトバンクがもっとも高額になるが、端末購入補助プログラムを使用した場合の実質負担金は、ソフトバンクがいちばん抑えられる。なお、auとソフトバンクは購入から13月目以降にプログラムを行使できる(13〜24か月の期間の分割払いは必要)。また、NTTドコモは実質負担金が最も高いものの、プログラム行使時に端末の買い換えが不要だ。
実質負担金を抑えられるという点で、これらの端末購入プログラムは魅力的だ。ただし、いずれも、端末の査定によっては下取りが行えない場合や、損傷の程度によって最大で22,000円のユーザー負担が発生する場合がある。また、auとソフトバンクについては、端末の買い換えも必要なので、プログラム行使時の製品ラインアップに好みのものが見当たらないということも可能性としては起こりうるだろう。ただ、プログラムを行使しなかったとしても、ユーザーの負担が増えることはないので、登録だけはしておき、行使するかはそのときに考えればよいとも言える。
以上、「Xperia 1 III」をレビューしてきたが、基本スペック、デザイン、ディスプレイ、カメラ、サウンドと、どこを取っても非常に高い次元でまとまっており、まさにハイエンドモデルの「Xperia 1」シリーズの到達点と言いたくなる完成度を実現していた。15万円を超える高価な製品ではあるが、現在発売されているハイエンドスマートフォンの中でも、見るべきところが多く、注目度の高さも十分に理解できる。購入後の満足度も非常に高そうだ。
競合製品としては、サムスン「Galaxy S21」シリーズ、シャープ「AQUOS R6」、オッポ「Find X3 Pro」、ライカ「Leitz Phone 1」などがあげられる。また、ゲーミングスマートフォンのASUS「ROG Phone 5」やヌビア「RedMagic 6」も対抗馬となり得るだろう。ただし、本機は機能的な面で抜け漏れがないうえ、全体のバランスがよく、なかでも、レスポンスがよく本格的なオートフォーカス機能を備えたカメラや、高音質スピーカー、21:9の美しい超ワイドディスプレイなど、独自の魅力が多く備わっており、ある意味では頭ひとつ抜きんでた印象すらある。
シリーズの仕切り直しとして2019年に登場した「Xperia 1」の掲げたコンセプトを、高いレベルで実現した本製品。ただ、その代償として、価格的にはかなり高くなってしまった。「高嶺の花」、そんな言葉がぴったりくる1台だ。
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