スマホとおカネの気になるハナシ

プラチナバンド獲得で楽天モバイルの料金・サービスはこう変わる!

多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、念願のプラチナバンドを獲得した楽天モバイルの今後を4つの視点から占った。

楽天モバイルが念願のプラチナバンドを獲得

周波数帯域が1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」は、電波が遠くに飛びやすいことから広いエリアをカバーしやすく、携帯電話会社にとって必要不可欠と言われている。そのいっぽうで、空きが少なく新たな割り当てが難しいという側面もある。それだけにプラチナバンドを巡っては、“持つ者”と“持たざる者”との間で激しい議論や攻防が繰り広げられてきた歴史がある。

そして最近まで、プラチナバンドを巡って注目されていたのが楽天モバイルだ。楽天モバイルは最後発の携帯電話会社なので、割り当てられている周波数帯は4G向けの1.7GHz帯と、5G向けの3.7GHz帯、28GHz帯のみ。それゆえプラチナバンドの免許を持っていないことから既存の携帯3社と比べ競争上不利だとして、その割り当てを訴えていたのである。

だが、その楽天モバイルも、ついにプラチナバンドを獲得する日が来たようだ。2023年10月23日、総務省は新たに携帯電話向けに割り当てる700MHz帯の免許を楽天モバイルに付与したのだ。

総務省は2023年10月23日、楽天モバイルに新しい700MHz帯の周波数免許を付与。これによって楽天モバイルも念願のプラチナバンドを獲得したことになる

総務省は2023年10月23日、楽天モバイルに新しい700MHz帯の周波数免許を付与。これによって楽天モバイルも念願のプラチナバンドを獲得したことになる

獲得したのはドコモの提案した隙間のプラチナバンド

ただ過去の歴史を振り返るに、ソフトバンクの前身のひとつであるソフトバンクモバイルがプラチナバンドとなる900MHz帯の免許を獲得したのは、2007年の携帯電話事業参入からおよそ5年後となる2012年。いっぽうで楽天モバイルは、2019年に携帯電話事業に参入してからおよそ4年で免許を獲得していることから、ある意味早いタイミングでの割り当が実現したとも言えるだろう。

その理由は、楽天モバイルに新しいプラチナバンドを割り当てないと、携帯電話業界全体に大きな混乱が起きる可能性があったからだ。というのも楽天モバイルは総務省の議論において、ほかの3社のプラチナバンドを分割し、一部を楽天モバイルに再割り当てするという案を提示していたのだ。

だが、プラチナバンドを奪われる側の携帯3社はこれに猛反発。喧々諤々(けんけんがくがく)の議論の末に楽天モバイルの主張が認められたのだが、もし実際に再割り当てを実施するとなれば、プラチナバンドを奪われる既存3社にかかる負担が非常に大きく、ただでさえ遅れが指摘されている5Gのネットワーク整備がいっそう遅れてしまうなどの懸念もあった。

そこでNTTドコモが提案したのが、今回の700MHz帯である。実はこの帯域は、すでに携帯3社に割り当てられている700MHz帯と隣接する地上デジタルテレビ放送などとの干渉を避けるために空けられていたもの。そのうち干渉の影響が少ない3MHz幅を携帯電話向けに割り当ててはどうかと提案がなされ、検証の結果それが認められ、最終的に楽天モバイルへ割り当てられるにいたったわけだ。

楽天モバイルに割り当てられた700MHz帯は、元々他社が使う700MHz帯と、地上デジタルテレビ放送との干渉を避けるために空けられていた周波数帯の一部。帯域幅は3MHz幅と非常に狭い

楽天モバイルに割り当てられた700MHz帯は、元々他社が使う700MHz帯と、地上デジタルテレビ放送との干渉を避けるために空けられていた周波数帯の一部。帯域幅は3MHz幅と非常に狭い

プラチナバンド獲得の影響を気になる4つの視点から解説

楽天モバイルのネットワークにプラチナバンドが導入されれば、ユーザーからつながりにくい場所があると指摘されることの多い楽天モバイルのネットワークが、大幅に改善されることが期待される。ユーザー目線では、「プラチナバンドがいつ導入されるのか」「品質改善が進むのか」「既存の端末は対応するのか」「料金に影響は出るのか」といった点が気になるところではないだろうか。各種資料や楽天モバイル側の説明などからそれらの動向を確認してみよう。

視点1:プラチナバンドがいつ導入されるのか
KDDIのローミング協定が終わる2026年を予定

まずプラチナバンドの導入時期についてだが、楽天モバイルが総務省に申請した開設計画を見るに、今回免許を獲得した700MHz帯によるサービスの提供開始時期は2026年3月となっている。プラチナバンド獲得を声高に訴えていた楽天モバイルにしては、その利活用の時期がおよそ2年半後というのはかなり遅い印象を受けてしまう人も多いことだろう。

楽天モバイルが総務省に申請した開設計画。プラチナバンドによるサービス開始時期は2026年3月頃

楽天モバイルが総務省に申請した開設計画。プラチナバンドによるサービス開始時期は2026年3月頃

そこに大きく影響しているのは、現在の楽天モバイルの料金プラン「Rakuten最強プラン」である。このプランの詳細については第10回で取り上げているのでそちらを参照いただきたいが、先行投資で経営が非常に厳しい楽天モバイルは、「Rakuten最強プラン」の提供を機として自社での基地局整備を大幅に減らし、よりコストが抑えられるKDDIとのローミングをフル活用することで当面のエリアをまかなう方針を打ち出している。

そして、このプランの提供に先駆けてKDDIと締結した新たなローミング協定の期間は、2026年9月までとされている。楽天モバイルがプラチナバンドによるサービスの開始を2026年としたのは、基地局整備を先送りしてコストを抑えるため、KDDIとのローミング協定の終了が近づいてから本格的に整備を進めたいためだろう。

もちろん楽天モバイル側は前倒しでプラチナバンドの基地局整備を進めることも打ち出してはいるが、仮に前倒しされたとしても、本格的な活用が進むのはやはり2026年からではないかと考えられる。それゆえプラチナバンドの効果がユーザーに目に見える形で現れるには、2年以上待つ必要があるのではないかと筆者は見る。

視点2:品質改善が進むのか
つながりやすくなるが、速度向上は期待薄

今回の700MHz帯を用いたサービスが始まったとしても、品質改善に関して過度な期待は禁物だ。もちろんつながりやすさの面では改善が進む可能性が高いのだが、先にも触れたとおり今回の700MHz帯は周波数の帯域幅、要はデータが通る道の幅が非常に狭く、高速大容量通信には適していない弱点も抱えている。

携帯3社に割り当てられているプラチナバンドは10〜15Mhz程度の帯域幅だが、今回の700MHz帯はその3〜5分の1程度。それゆえLTEでの最大通信速度はダウンロードで30Mbps程度と遅く、現状では複数の周波数帯を束ねて高速化する「キャリアアグリゲーション」という技術も利用できない。それら技術が使えるようになるのにも時間を要するだけに、通信速度の面ではあまり期待できないと見るべきだろう。

総務省「情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班 700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第4回会合の楽天モバイル提出資料より。3MHz幅の700MHz帯はキャリアアグリゲーションが規定されておらず、利用するには標準化団体の「3GPP」に規定を盛り込んでもらう必要がある

総務省「情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班 700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第4回会合の楽天モバイル提出資料より。3MHz幅の700MHz帯はキャリアアグリゲーションが規定されておらず、利用するには標準化団体の「3GPP」に規定を盛り込んでもらう必要がある

視点3:既存の端末は対応するのか
グローバルバンド「バンド28」なので、iPhoneなど対応するスマホは多い

端末側の対応に関しては安心できる材料が多い。なぜなら今回割り当てられた700MHz帯は、ほかの3社に割り当てられている700MHz帯と同様「バンド28」と位置づけられており、多くの端末が対応している周波数帯だからだ。それに加えて楽天モバイル側も、その対応に際して端末側の特別なアップデートなどは必要ないと説明している。

これまで楽天モバイルが販売した端末を見ても、多くの周波数帯に対応するアップルの「iPhone」シリーズだけでなく、楽天モバイルオリジナルの「Rakuten Hand 5G」などもバンド28に対応しているようだ。モバイルWi-Fiルーターの「Rakuten WiFi Pocket 2C」など、対応していない端末も一部存在するようだが、多くの端末はそのまま新しいプラチナバンドを利用できるものと考えられる。

無論サービス開始までその動作を保証できるわけではないのだが、現状の情報を考慮するに端末側の心配はあまり必要ないと言えそうだ。

楽天モバイルが2022年に発売し、現在も販売しているオリジナル端末「Rakuten Hand 5G」なども、新しい700MHz帯に対応している

楽天モバイルが2022年に発売し、現在も販売しているオリジナル端末「Rakuten Hand 5G」なども、新しい700MHz帯に対応している

視点4:料金に影響は出るのか
プラチナバンド投資がかさむのはしばらく先、料金の影響もそのころ

では最後に、プラチナバンドによる料金への影響についてだが、影響が出るのはかなり先ではないかと筆者は見ている。先にも触れたとおり、楽天モバイルは当面KDDIとのローミングに重点を置く方針で、プラチナバンドの本格活用が進むのは2年以上先であるとすると、料金に手を加えるのもそれくらいの時期になると考えられるからだ。

もちろん周辺環境が変われば新料金プランを打ち出す必要に迫られる可能性はあるだろうが、プラチナバンドが直接料金に影響する可能性は当面低いと筆者は見ている。ユーザー側の期待も高いプラチナバンドだが、その効果とユーザーへの影響は長い目で見据える必要があるだろう。

佐野正弘
Writer
佐野正弘
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
記事一覧へ
田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×