サムスンの11インチタブレット「Galaxy Tab A9+」の人気がじわじわと高まっている。2023年12月5日時点での価格.com「タブレットPC」カテゴリーの人気売れ筋ランキングは2位で、Androidタブレットとしては最上位に位置している。人気の秘密に迫ろう。
2023年10月23日に発売された、ミドルレンジWi-Fiタブレット「Galaxy Tab A9+」。コストパフォーマンスにすぐれた11インチモデルだ
Androidタブレットは、これまで市場が小さく、選択肢も少ない状況が長く続いていた。特にハイエンドモデルが少なかったのだが、サムスンが2023年夏に最新SoC「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載する「Galaxy S9」シリーズや、「Sペン」を同梱するミドルハイの「Galaxy Tab S9 FE」を投入。シャオミ「Xiaomi Pad 6」も高性能が好評など、注目を集める製品ジャンルになりつつある。
そうした中、よりコスパを追求した、国内の「Galaxy Tab」シリーズ最安モデルとして登場したのが、今回取り上げる「Galaxy Tab A9+」だ。11インチという、タブレットとしては正統派サイズの大型ディスプレイを搭載しながら、価格は、直販サイトで35,799円と手ごろ。価格.com最安価格では、一時期30,000円台前半まで値下がりしていたほどだ(価格はいずれも税込)。
11インチは、自宅でのWebページやSNSの閲覧、電子書籍の閲覧、動画の視聴などに使いやすいサイズだ
ディスプレイの解像度は1920×1200ドット(WUXGA)。「Galaxy」というと、有機ELディスプレイのイメージが強いかもしれないが、本機は液晶を採用してコストを削減している。
ディスプレイの画質自体は、輝度が高く明るい表示で特に問題を感じない。リフレッシュレートは最大90Hzなので、通常の用途では画面スクロールも滑らかだ。ゲーム用途では120Hzのリフレッシュレートが欲しいところではあるが、WebページやSNS、電子書籍の閲覧などであればまったく問題なく使えるディスプレイだ。
動画視聴の面では、HDRには非対応なものの、横持ちにしたときに左右2つずつ、計4つのスピーカーを搭載しており、音質が良好なのがポイント。Dolby Atmosにも対応しているので、手軽な動画視聴デバイスとして活用できそうだ。
本体側面。上部には電源ボタンとボリュームボタンを配置する
底面には接続端子らしきものが見える。オプションのキーボードがあればそれを接続できるものと思われるが、現状国内では販売されていない。microSDメモリーカードスロットは右側にある
本体側面には左右に2つずつのスピーカーを配置。指紋認証センサーは搭載されていない
逆の側面にはスピーカーとUSB Type-C端子を装備。気になるのが左端、角の部分に空けられた穴。サイズ的にペンデバイス「Sペン」が収まりそうだが、現状アクセサリーとしては用意されていない
本体サイズは257.1(幅)×168.7(高さ)×6.9(厚さ)mmで、重量は約480g。同じ11インチで有機ELディスプレイ「Dynamic AMOLED 2X」を搭載する上位モデル「Galaxy Tab S9」が254.3(幅)×165.8(高さ)×5.9(厚さ)mm/約498gなので、本機のほうがわずかに大きく、重量については少し軽い。個人的視点ではあるが防水性能がない点が気になった。浴室や台所仕事の合間に利用する場合、水がかぶらないような配慮がいる。
タブレットのデザインとしては一般的で、特にほかのタブレットと差異化はそれほど意識していないようだ。シンプルでどのような利用シーンでも違和感のないデザインと言えるだろう。
本体背面。ツートンカラーを採用している
搭載されるカメラは、背面のアウトカメラが約800万画素、インカメラは約500万画素。アウトカメラはオートフォーカスに対応するので、記録用としてなら問題ないだろう。インカメラもビデオ会議や顔認証で使う分には十分だ。ただし、いずれのカメラもスマホのカメラのようなきれいな写真を手軽に撮ることを目的にしたものではないことは理解しておきたい。
スマホでは少なくなったシングルカメラ。約800万画素だがオートフォーカス対応なのでQRコード読み取りなど、「写真撮影を楽しむ」以外の用途がメインだろう
インカメラは約500万画素。ビデオ会議や顔認証といった用途なら十分だ
本機はSoCに「Snapdragon 695」を採用している。メモリーは4GB、ストレージは64GB。最大1TBまでのmicroSDXCメモリーカードにも対応する。
このSoCは、ソニー「Xperia 10 IV」やオッポ「OPPO Reno7 A」などの2022年に登場したミドルレンジスマートフォンに広く搭載されていたものだ。SoC自体も2021年の秋に登場したもので最新型ではなく、本機の登場したタイミングだけで見ると、それほど高性能とは言えない。
いくつかのベンチマークを試してみた。3Dグラフィックの性能を計測するアプリ「3Dmark」は「Wild Life」のスコアが1210、処理性能一般を計測するアプリ「Geekbench 6」はCPUのSingle-Coreが909、Multi-Coreが1929となった。
「Geekbench 6」の結果。Single-Coreが909、Multi-Coreが1929
「3Dmark」の一般的な計測モード「Wild Life」結果は1210だった
パフォーマンスとしては3万円台のものとしては妥当なレベルで、「Snapdragon 695」を搭載する他製品(スマートフォンを含む)と比べても同程度のパフォーマンスだ。WebページやSNS、電子書籍の閲覧、動画の視聴など一般的なタブレットの用途には十分なレベルで、使っていて不満を感じるシーンはそれほど多くはないだろう。
苦手なのは、ハイパフォーマンスが要求められるゲームだ。たとえば「原神」のような3Dグラフィックスを重視したゲームだと、キャラクターが入り乱れる戦闘シーンでコマ落ちが発生することもあった。また、タブレットと相性がよいと言われるリズムゲームでも画質設定によっては引っ掛かりを感じるだろう。
90Hzのリフレッシュレートは多少物足りないとはいえ必要なレベルはクリアしている。だが、それよりもタッチサンプリングレートがそれほど高くないようで(数値は公表されていない)、機敏なタッチに対応できない印象だった。こうした面でもゲーム用途の適性はそれほど高くない。
続いて、本機の画面デザインなどユーザーインターフェイス(UI)に迫ろう。マルチウィンドウは最大3つのアプリの同時起動・表示が行える。加えて、画面下部にはWindowsのようなタスクバーが表示され、アプリの起動のコントロールも行える。いずれも、画面サイズを生かした機能だ。
画面の下に表示されるタスクバーの左側にはアプリ一覧、中央にはショートカットに登録したアプリと最近起動したアプリが並ぶ。タスクバーを使うことでアプリを素早く切り替えることが可能だ。
通常のホーム画面。下部に見えるのがタスクバーで、アプリアイコンのドラッグ&ドロップで登録できる。常時表示されているので、素早く登録したアプリが起動できる。なお、タスクバーは、アプリを起動した状態でも下部に常に表示する設定を選べる
アプリ起動中の場合、タスクバーの左側にあるアプリ一覧を開くボタン(赤く囲まれた分)から、アプリを起動可能。ホーム画面にいちいち戻らなくてよいのは便利だ
タスクバーからマルチウィンドウ表示も可能だ。アプリを起動中にタスクバーから別アプリのアイコンにタッチしてそのまま画面上にドラッグすると画面を分割できる。左右、上下にアプリを並べて起動が可能だ。
アプリ起動中に下のタスクバーからアプリアイコンをドラッグ&ドロップすることでデュアルウィンドウになる
さらにもうひとつのアプリをドラッグ&ドロップすればトリプルウィンドウになる
正確には、トリプルウィンドウに加えて4つ目のアプリをポップアップアプリとして起動して同時に表示できる。この機能は高価なフォルダブルスマホ「Galaxy Z」シリーズなどとも共通で、サムスン製タブレットの魅力だろう。Googleも「Pixel Fold」や「Pixel Tablet」でタブレットUIを用意しているが、起動できるアプリ数を含めて「Galaxy」のほうが操作性はより洗練されている。
3分割のマルチウィンドウに加えて、ポップアップウィンドウとして4つ目のアプリも起動可能だ
内蔵のアプリ「Samsung Note」などと組み合わせ、ドラッグ&ドロップで別アプリのコンテンツを活用できる。この場合、Google検索の結果のリンクをドラッグ&ドロップした
「設定」→「便利な機能」→「ラボ」にある「すべてのアプリでマルチウィンドウ」のトグルをオンにすることで、全画面を強制されるようなアプリでもマルチウィンドウで起動できる
周辺機器を見てみよう。先にも述べたように、本機はアナログ入力に対応する「Sペン」が用意されない。加えて、キーボード付きカバーもラインアップされていないので、キーボードを使うなら、市販のBluetoothキーボードが別途必要になる。ペン入力についても市販のタッチペン・スタイラスを用意する必要がある。
ノートPCの代替として使うなら、「Sペン」が同梱する「Galaxy Tab S9 FE」、あるいはオッポ「OPPO Pad2」、シャオミ「Xiaomi Pad 6」のようなキーボード付きカバーが用意された製品を選ぶ必要があるだろう。
冒頭で触れたように、Androidタブレットは、高性能なものが増えており、用途が広がっている。そうした中で本機のポジションは、手ごろな価格で、WebページやSNS、電子書籍の閲覧、動画の視聴といったタブレットに求められる基本的な用途を十分にカバーできるというものだ。
2023年12月5日時点での価格.com最安価格は35,700円(税込)。本格的なゲームや写真・動画撮影の用途では物足りない部分があったり、性能、キーボード付きカバーやSペンのような周辺機器もそろっていなかったりと、上位モデルと差別化されている部分があるが、この価格は良好なコストパフォーマンスを実現していると言っていい。
タブレットの王道を行く11インチのディスプレイを採用し、十分な画質で、パフォーマンスも良好。それでいて価格が手ごろでバランスにすぐれているのが「Galaxy Tab A9+」の魅力。価格.com「タブレットPC」カテゴリーの人気売れ筋ランキングが2位(2023年12月5日時点)まで上昇したのも、このバランスのよさによるところが大きいはずだ。
なお、同価格帯の11インチタブレットとしては、34,980円(税込)のAmazon「Fire Max 11」がある。こちらは画面解像度が2000×1200と高く、標準アクセサリーとしてペンやキーボードも用意されているが、Google Playに対応しない点がネック。より幅広い用途で使いたいのなら、正統派のAndroidタブレットである本機のほうが有利なのは間違いない。