全体的にモッサリとしたデザインで、ひと昔前の2in1タブレットに見える「dynabook KZ20/X」。しかし、このもっさりボディには理由がある。子どもが使っても壊れにくいノートPCを追求して開発されており、耐衝撃や落下耐性に強いボディとなっているためだ。それを知ると、本機はリーズナブルでありながらどこでも安心して使えるPCとして価値があると感じる。事実、価格.comの2in1タブレットカテゴリの人気売れ筋ランキングで1位(2024年7月2日時点)だ。
Dynabook「dynabook KZ20/X」、価格.com最安価格64,680円(税込。2024年7月2日時点)
全国のすべての子どもたちにデジタルデバイスを。
「GIGAスクール構想 第2期」の標準仕様書に合わせて作られた基本仕様はそのままに、一般ユーザーを対象としてECサイト限定で販売されているのが「dynabook KZ20/X」だ。いわばキッズPCという枠組みに入るモデルだ。
なんといっても価格が安い。タブレットとしても使用可能な2in1ノートPCながら、価格.com限定モデルならば64,680円。しかも、2in1ノートのなかでは珍しくWindows 11 Proがインストールされている。
外装を見ていこう。本体のベゼルは近年まれに見るほどの太さ。外装の素材は、これもまたノートPCでは珍しい熱可塑性(ねつかそせい)ポリウレタンだ。耐摩耗性、弾性、耐油性にすぐれていることから、自動車のバンパーやスニーカーのソールなどでも使われている素材だが、まさに「dynabook KZ20/X」の外装もバンパーのようなもの。やさしいタッチの手触りで、金属製ボディのような冷たさは感じないし、ほかのアイテムと一緒にバッグの中に入れたとしても傷などが付きにくい安心感がある。
2020年からはじまったGIGAスクール構想で導入されたノートPCは故障率が高いという話を耳にする。それも、机から落としてしまう、ヒンジの開き角の限界を超えて開こうとする、キートップを無理に外そうとする、砂場で使うなどなど、ハードウェアが問題なのではなく、子どもたちの扱い方が行政やメーカーの想像を超えていたというのが主な理由とのことだ。
そう考えると太ベゼルで防御力を高め、キーボードを着脱できる2in1スタイルは理にかなっている。
ディスプレイと、キーボードドックを外したところ。キーボードドック側のヒンジ部分に太い2本のガイドがあり、ディスプレイを強固に支える
Webカメラはディスプレイ上部(約200万画素)に加えて、背面(約500万画素)にも備わっている
重量はキーボードドックを外した状態で約590g。キーボードドック接続時で約1.097kg。厚みのあるボディだが、軽くて持ち運びしやすい
ディスプレイの右側面にはmicroSDカードスロット、電源ボタン、ボリュームボタンが備わっている
ディスプレイの左側面には、USB 3.2(Gen1)Type-Cコネクタ×2、USB 3.2(Gen1)Type-Aコネクタ×1、イヤホンジャック、電源アダプター用端子が備わる
19VのACアダプターが付属。なお、USB Type-Cポート経由でも充電は可能。公称駆動時間は約6.5時間(JEITA3.0)。インターネットに接続しながら作業していても、5時間以上は駆動した
マルチタッチ対応ディスプレイの大きさは10.1型(1280×800)。数値的には小さい印象を持つかもしれないが、実際に使ってみると別だ。「Microsoft 365」の「Word Online」「Excel Online」などのビジネスシーンで欠かせないツールを使う分には問題ないどころか、見やすいと感じた。低解像であるがゆえに、タブメニューやツールアイコンのサイズが大きく表示されるため、操作しやすい。ただし、操作しやすいのはシングルウィンドウに限り、マルチウィンドウでの作業は操作性が低下する。
ディスプレイの解像度は10.1型と小さなディスプレイサイズにマッチしており、文字もアイコンも見やすい
「Microsoft 365」の「Word Online」を表示すると、編集領域は15行まで表示が可能だった。「Excel Online」もほぼ同様だ
個人的に感心したのがキーボードだ。キーピッチは17mmで、10.1型ノートPCとしてはかなり余裕がある。また、キーストロークは1.4mmもあるため底突きしにくく、しかも打鍵時にキートップがブレにくい。「dynabook KZ20/X」のキーボードは各キートップの左上側および右下側にアンカー(突起)が付いており、この構造が効いているのだろうか。
キーボードドックはタイプ時にキートップがブレにくく、着実な文字入力が可能だ
スタイラスペンの利用も可能だ。純正品として用意される「充電式アクティブ静電ペン」はキーボード部分に内蔵可能。これは、ありがたいいっぽうで、残念でもあると感じるところ。本来であれば、キーボードドックを持ち歩きたくないタブレット利用時に使いたくなるのがスタイラスペンだからだ。
キーボードドックには「充電式アクティブ静電ペン」が収納可能。充電は別途USBケーブルで接続して行う
安価でありながら6GHz帯のWi-Fi 6Eに対応している点は評価したい。対応ルーターの導入が必要になるが、5GHz帯ですら混み合うことがある会議室などでもハイスピードな通信が期待できる。
「dynabook KZ20/X」のCPUはインテル「Celeron N4500」だ。Celeronは低価格のノートPCやミニPCでの採用例が多いCPUで、ベンチマークソフト 「Cinebench R23」で計測した処理速度は第5世代の低電力CPU「Core i3-5010U」や「Core i5-2520M」に近いポテンシャルとなっている。メモリーは8GBで、増設、交換はできない。
2024年現在、SNSなどではCeleron=低スペックであることが取り沙汰され続けている。キッズPCにも採用されていることから、子どもたちに処理能力が低いPCを使わせるのはいかがなものか、といった意見も目立つ。
そういった状況を加味した上で、実際にさまざまな用途で使ってみた。
本機は日本全国の子どもに使ってもらうことを目指すキッズPCの一種。スペックはかなり控えめと言わざるをえない
Webブラウジングしたり、「Microsoft 365」のツールを使ったりするぶんには何ら問題がない。前述したように、シングルウィンドウ・シングルタスクであればほぼストレスは感じない。 Windows11標準付属のアプリ「ペイント」を使った画像編集も問題なく行える。256GBのストレージは、フラッシュメモリータイプゆえに、データの保存、読み込みの待ち時間もさほど多くはない。
しかしマルチタスク環境となると、快適性が大幅にダウンする。OSやアプリのアップデートなど、バックグラウンドでの何かしらの処理が始まると、操作時のレスポンスが悪くなる。これは2コアCPUの特性とも言えるだろう。またTeamsなどのオンラインミーティングアプリを起動すると、メモリーが不足するのか、文字入力ですら遅延を感じる。
オンラインで教科書となるPDFの画面を見て、要点をノートに記していくような教育には十分に役に立つ。3Dモデル教材を生徒側が操作して理解度を高めたり、マインクラフトなどを活用したノーコードプログラミングを行ったり、メタバースサービスを用いたコミュニケーションを行うにはスペック不足だ。
2in1ノートPCで64,680円という価格を考えると妥当なスペックではあると考えられるが、一般販売モデルは多少高くなったとしても、16GBモデルを提供したほうがいいのではないだろうかと感じる。
キーボードドックを外すとWindowsタブレットとして機能するので、縦位置表示も可能。写真やコミックなどのビューワーに最適
Windows11標準付属のアプリをシングルタスクで使うのであれば、ストレスは感じない
「dynabook KZ20/X」(PassMark CPUスコア1978)と同価格帯のPCをチェックすると、「Core i5 1135G7」搭載モデル(同スコア9834)や、「Ryzen 3 7330U」(同スコア10906)搭載モデルなど処理能力で本機を上回るモデルも選べる。
しかし、前述のように「2in1構造でタブレットとしても使える」「Windows 11 Proがインストールされている」「防水性こそないがタフなボディでアウトドアでも安心して使える」といった特徴を兼ね備えているのは「dynabook KZ20/X」だけだ。
AAA級タイトルのゲームを遊んだり、クリエイティブ作業ができるデスクトップPCやノートPCを持っているのであれば、セカンドマシンは必ずしもスペックを追い求める必要はない。そう考えるユーザーに評価されているのだろう。
大ぶりなボディかつ、ディスプレイ側にUSBや各種インターフェースが集められているため、見た目には重量感があるが、タブレットとして使うときの重量は約590gと意外にも軽い。キーボードドック接続時も約1.097kg。1kgを切ることはなかったが、それでも2in1タイプとしては納得できる重量だ。非力なCPU、かつメモリーは8GBまでしか選べない仕様だが、移動先で報告書や資料作成をするためのデバイスとしてとらえれば利用価値は高い。むしろそういったニッチなニーズに合致するからこその人気だろう。
もし、CPUだけでもできるだけスペックが高いものが欲しいのであれば、「Pentium Silver N6000」(同スコア3047)の「dynabook K70/HX」を狙ってもいいだろう。