スマホとおカネの気になるハナシ

「ahamo」の弱点“通信品質”で対抗する! 俄然有利なKDDIの5G戦略

スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回の話題は、KDDIが立て続けに発表した新料金やサービスを、「ahamo」対策として読み解く。KDDIは「ahamo」の弱点である通信品質で優位に立とうとしているようだ。

KDDIのネットワーク品質が好調だ。その背景を解説しつつ、それをどう活用しようとしているのか迫ろう

KDDIのネットワーク品質が好調だ。その背景を解説しつつ、それをどう活用しようとしているのか迫ろう

※本記事中の価格は税込で統一している。

各社が「ahamo」対抗プランをアップデート

NTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」が突如通信量を10GB増量し、料金据え置きのまま30GBの通信量を実現したことが、市場に大きなインパクトをもたらしたことは以前の当連載でも触れたとおりだ。それゆえさっそく、競合各社から「ahamo」対抗策がいくつか出てきている。

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2024/10/07 11:00

実際、ソフトバンクは2024年10月25日、サブブランドの「ワイモバイル」で「シンプル2 M/L」を対象に、「データ増量オプション」(月額550円、加入から7ヵ月目までは月額0円)のデータ容量を2倍にすることを発表。データ通信量が20GBの「シンプル2 M」にこれを適用し、なおかつ各種割引サービスを適用することで30GBの通信量を月額2,480円、7ヵ月目までであれば月額1,980円で利用できる。

また同日、オンライン専用の「LINEMO」に関しても、ahamo対抗策として「LINEMOベストプランV」に向けて提供されている「LINEMOベストプランV 30GBがおトクキャンペーン」の内容を変更。当初、20GBの料金で30GBの通信料が利用できるのは6か月間だけだったが、その制限がなくなり常に30GBで利用できるようになる。

そしてもう1つ、ahamo対抗策を打ち出しているのがKDDIだ。同社がこれまで「ahamo」対抗プランと位置づけてきたのは、サブブランドのUQ mobileで提供している「コミコミプラン」である。これは月額3,278円で20GBのデータ通信量と1回10分以内の国内無料通話がセットになったプランだ。

料金は「ahamo」よりやや高いが、オンライン専用ブランドではないので店頭でサポートを受けられることに加え、あまった通信量を翌月に繰り越すことも可能だ。UQ mobileならではの独自性を打ち出すことで「ahamo」への対抗を図ってきたプランでもある。

だが、その「ahamo」が30GBに通信量を増量したことを受け、KDDIは2024年11月12日より新たに「コミコミプラン+」の提供を開始する予定だ。これはコミコミプランをベースに、やはり月額3,278円で据え置いたまま、10分間の無料通話に加え30GBのデータ通信が利用できるというもの。加えて提供期間無期限の「コミコミプラン+ データ10%増量特典」を適用することで、当面は通信量をさらに3GB増量、33GBのデータ通信が利用可能となる。

KDDIが「ahamo」対抗策として、サブブランドのUQ mobileで打ち出した新プラン「コミコミプラン+」。料金据え置きで通信量を30GBに増量しただけでなく、当面は特典でさらに3GBの通信量がプラスされる

KDDIが「ahamo」対抗策として、サブブランドのUQ mobileで打ち出した新プラン「コミコミプラン+」。料金据え置きで通信量を30GBに増量しただけでなく、当面は特典でさらに3GBの通信量がプラスされる

新トッピングと割引メニューを発表した「povo」

しかしながらKDDIの「ahamo」対抗策はこれだけにとどまらず、オンライン専用プランの「povo」でも「ahamo」対抗というべき施策を打ち出している。それは2024年10月18日より提供を開始した「360GB(365日間)26,400円」というトッピングだ。このトッピングは文字通り、26,400円を支払うことで360GBのデータ通信が利用できるもの。仮に1か月間30GBずつ利用したとすると、1か月当たりの料金は実質2,200円となる。

さらに「povo」では、このトッピングの提供と同時に、対象となる1年間のトッピングを初めて購入すると、トッピング代の10%がau PAY残高で還元される「1年間トッピング デビュー割」を実施している。これを上記のトッピングに適用すれば実質価格は23,760円となり、月当たりでは実質1,980円で利用できる計算となる。

「povo」でも「ahamo」を意識し、30GBの通信量を1か月当たり実質2,200円で利用できるトッピング「360GB(365日間)26,400円」を新たに追加。割引施策を適用すれば実質1,980円にまで引き下げることも可能だ

「povo」でも「ahamo」を意識し、30GBの通信量を1か月当たり実質2,200円で利用できるトッピング「360GB(365日間)26,400円」を新たに追加。割引施策を適用すれば実質1,980円にまで引き下げることも可能だ

もちろん「povo」は「ahamo」と比べた場合、5分間の国内無料通話や国際ローミングが標準で付属しないなど、不足する部分がいくつかあることに留意が必要だ。だがそれでも月当たり30GBのデータ通信が利用できるサービスとして、非常に安いことは間違いないだろう。

「ahamo」の弱点“通信品質”を突くKDDI

いずれのプラン・トッピングも、「ahamo」に対抗してお得さを高めている点は注目に値する。だが、サービスに決定的な違いがない以上、月額数百円の節約と携帯電話会社を変える手間を天秤にかければ、どこまで乗り換えの動機になるか疑問だ。そこでKDDIはもうひとつ、これらプラン・トッピングの発表と同時に、「ahamo」対抗の決定打というべき要素を打ち出している。

それはネットワークの通信品質だ。4Gの時代なら、どこのネットワークも品質が高く、大きな違いはなかった。しかし、5Gの今は様子が違う。2023年にNTTドコモが、コロナ禍明け後の需要の読み違えなどから都市部で著しく通信品質が低下、多くのユーザーの不満を高めたことは記憶に新しい。そして今現在も、そうした状況を抜け出したとは言えない。

そのいっぽうで、ここ最近通信品質の評価を急速に高めているのが実はKDDIなのである。実際KDDIは2024年10月17日、英国の調査会社であるOpensignalが2024年10月に公表した「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」で、18部門中13部門で1位を獲得したことを明らかにしている。

KDDIはOpensignalが2024年10月に公表した「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」で、18部門中13部門で1位を獲得したことを明らかにしている

KDDIはOpensignalが2024年10月に公表した「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」で、18部門中13部門で1位を獲得したことを明らかにしている

この評価はダウンロードやアップロードの速度から、動画やゲームの体感品質、エリアカバーなど多様な角度から携帯電話会社のネットワークを調査し、評価するもの。従来この調査ではソフトバンクが高い評価を受けており、KDDIの評価は決して高いとは言えなかったのだが、今回の調査では一転してKDDIが非常に高い評価を受けるにいたっている。

KDDIの通信品質には「サブ6」の設計・運用方法という技術的な裏付けがある

一体なぜ、KDDIのネットワークの評価が急速に高まっているのだろうか。同社の説明によると、その要因は大きく2つあるようだ。

1つは5Gのネットワーク設計である。現在5Gで主に運用されている電波は、4Gから転用した周波数帯と、「サブ6」と呼ばれる5G専用に新たに割り当てられた周波数帯の2種類がある。「サブ6」は、周波数帯が6GHz以下で4Gから転用した周波数帯よりも高く、面でのエリアカバーにはあまり適さないものの、5Gらしい高速大容量通信が可能だ。「サブ6」の能力は高いが、使いこなすにはコツがいる。そうした「サブ6」の活用方法は携帯電話会社によって大きな違いがある。
 
活用法のひとつは、新たに割り当てられた「サブ6」の基地局1つで広いエリアをカバーすること。考え方としてはシンプルで正攻法と言える。そしてもうひとつの活用法は、4Gから転用した周波数帯で広いエリアをカバーし、「サブ6」は都市部の商業施設や鉄道路線など、人が多く訪れる場所に絞って密に整備する方法。NTTドコモは前者、KDDIとソフトバンクは後者の方法を取って5Gのエリアカバーを進めている。なお、割り当てられた周波数帯自体が少なく4Gからの転用が難しい楽天モバイルも、必然的に前者の方法を取っている。

そしてこの違いが、通信品質に大きく影響しているという。その理由は、元々広がりにくい性質の「サブ6」では、1つの基地局でカバーできるエリアが限られてしまい、密に設置しないと場所によって通信品質の著しい低下を招きやすい。結果として広げたエリアの端で、アンテナは立つが通信ができない、いわゆる「パケ止まり」の状態に陥りやすいのだという。

それゆえ前者の方法で整備を進めたNTTドコモらはパケ止まりが生じやすい。そのいっぽう、後者の方法で整備したKDDIやソフトバンクは、4Gから転用した周波数帯で面をカバーし、「サブ6」の基地局も密に設置していることから品質低下が起きにくくなっているのだそうだ。そして、このKDDIの指摘はユーザーの実感ともおおむね矛盾がないように思われる。

KDDIは4Gから転用した周波数帯で広いエリアを5G化するいっぽう、「サブ6」の基地局は人が多く集まるエリアに集中して設置。「サブ6」で広いエリアをカバーしようとすると発生しやすい「パケ止まり」が生じにくいことが通信品質向上につながっている

KDDIは4Gから転用した周波数帯で広いエリアを5G化するいっぽう、「サブ6」の基地局は人が多く集まるエリアに集中して設置。「サブ6」で広いエリアをカバーしようとすると発生しやすい「パケ止まり」が生じにくいことが通信品質向上につながっている

「サブ6」の基地局設置数でも他社を大きく上回る

そして通信品質向上につながった2つ目の要因が、その「サブ6」の基地局設置数である。実はKDDIは「サブ6」の周波数帯を獲得する際、総務省に他社を大きく上回る数の基地局を設置する計画を提出。それにしたがってすでに約3.9万もの基地局を設置している。

しかし、これまではその「サブ6」に属する周波数帯の1つである3.7GHz帯が衛星通信と干渉してしまうことから、3.7GHz帯を用いているKDDIらは電波の出力を弱めなければならず、性能を思うように発揮できなかった。だが2024年4月以降、電波干渉の影響が大幅に緩和されたことで、最も多くの「サブ6」基地局を設置していたKDDIのネットワークが本領を発揮し、他社をしのぐ品質を実現するにいたったようだ。

KDDIは他社をしのぐ約3.9万の「サブ6」基地局を設置。衛星通信干渉の影響が緩和したことでその実力がフルに発揮され、通信品質向上に大きく寄与したようだ

KDDIは他社をしのぐ約3.9万の「サブ6」基地局を設置。衛星通信干渉の影響が緩和したことでその実力がフルに発揮され、通信品質向上に大きく寄与したようだ

5Gの時代、通信品質は乗り換えの動機になり得る

しかも現在のところ、「サブ6」の周波数帯免許を複数保有しているのはNTTドコモとKDDIの2社だけで、「サブ6」を1つしか持たないソフトバンクや楽天モバイルよりも有利。そのうえ、衛星干渉の影響がほぼなくなり、KDDIは2つの「サブ6」周波数帯を存分に活用できるようになった。そして、NTTドコモに対しても上述のネットワーク設計の違いによって、エリアカバーでも優越している。

それだけにKDDIは今後、通信量を増量した新プラン・トッピングに加え、通信品質の高さを前面に打ち出して「ahamo」に対抗していくのではないかと考えられる。それが大きな効果を発揮して通信品質に不満を持つNTTドコモのユーザーを奪えるかどうかが、大いに注目される点ではないだろうか。

佐野正弘
Writer
佐野正弘
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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田中 巧(編集部)
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田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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