スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回の話題は、シニア向けスマートフォンだ。シニア向けに設計された製品の落とし穴や、代替となる選択肢を考えた。
FCNTが2023年に経営破綻したことで、その先行きが危ぶまれたシニア向けスマートフォンの定番「らくらくスマートフォン」。だが、同社が中国レノボ・グループの傘下 となって生まれ変わったことで、復活を果たした。実際2024年10月31日、FCNTは「らくらくスマートフォン」の新機種として3機種を発表している。
FCNTは2024年10月31日に「らくらくスマートフォン」の新機種を発表。従来のNTTドコモ向けだけでなく、新たにソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドに向けた「らくらくスマートフォンa」など3機種を販売する
だがここ最近、「らくらくスマートフォン」のようなシニア専用に設計されたスマートフォンが、シニア向けとして必ずしも最適とは言えないのでは? という声も増えている。その理由はシニア向けスマートフォンの特性にあるようだ。
シニア向けスマートフォンは、シニアを対象としているため、ほかのスマートフォンとは異なる要素が多い。なかでも最大の違いとなるのがインターフェイス・操作性で、シニア向けスマートフォンの多くはシニアが見やすいよう、通常のスマートフォンと比べホーム画面や設定画面などのアイコンや文字は大きく、配置も独特だ。
「らくらくスマートフォン F-53E」のホーム画面。シニア向けに大きな文字サイズとアイコンで、見た目にもわかりやすいパネル調の独特なインターフェイスを採用している
加えて本体前面下部に設置され、押すだけでホーム画面に戻れる「ホームボタン」も、一般的なスマートフォンから姿を消しつつあるがシニア向けスマートフォンでは健在だ。
「らくらくスマートフォンa」の本体下部。最近は見ることが少なくなったホームボタンが、新機種でも健在であることがわかる
さらに「らくらくスマートフォン」シリーズの場合、ディスプレイを触れただけではタップしたことにはならず、押し込むことで初めてタップしたことになる「らくらくタッチパネル」を搭載していることが多い。
これは従来型携帯電話のボタン操作になじんだシニア層が、触れただけで操作ができるスマートフォンでの誤操作を防ぐために設けられた仕組み。画面をタッチしただけでタップ操作ができる一般的なスマートフォンとは少々異なる操作が求められ、そうした点からもインターフェイスの独自性が強いことが理解できるだろう。
また、シニア向けスマートフォンは、最近の一般的なスマートフォンと比べると画面サイズも小さい傾向だ。実際、「らくらくスマートフォン」の新機種「らくらくスマートフォン F-53E」は、以前の機種より大きくなったものの5.4インチの有機ELディスプレイを搭載。すでに6インチ台が一般的となっているスマートフォンのディスプレイの中ではかなり小さい部類に入る。
その理由は片手での持ちやすさに重点を置いているためだ。これも従来型の携帯電話に近いコンパクトなサイズ感に重点を置いているためだろう。
いっぽうで、カメラは世代を問わずニーズが大きいことから年々強化が進められている。チップセットも、最高性能ではないものの発売時点で最新のものを搭載する傾向が強い。実際、「らくらくスマートフォン F-53E」の場合、チップセットにはクアルコム製のミドルクラス向けとなる「Snapdragon 6 Gen 3」を搭載し、OSも最新の「Android 14」を採用。カメラもソニー製の約5030万画素イメージセンサーを搭載するなど、スマートフォンとしての基本機能・性能はしっかり強化がなされている。
「らくらくスマートフォン F-53E」のカメラは約5030万画素のイメージセンサーを採用。最近のミドルクラスのスマートフォンとしては一般的な性能を持つ
以上のことからシニア向けスマートフォンは、中身は一般的なスマートフォンと大きく変わらないものの、画面サイズやインターフェイスなどで独自要素が多く、そうした癖となる要素はシリーズで堅持されている。それはもちろんシニアへの配慮ゆえのものであり、既に同じシニア向けスマートフォンを使っている人達の買い替えニーズを想定しているためだ。だが、最近はそうしたシニア特化の設計が、逆に不便さをもたらすケースが指摘されている。
それはスマートフォンの使い方をほかの人に教えてもらうときである。多くのシニアはスマートフォンになじみが薄く、加えてインターネットにも疎遠な場合があり、新しい使い方を覚えたい、あるいはトラブルが生じた場合は、電話や対面などアナログな手段で詳しい人に直接聞くことが多い。
そしてその対象となりやすいのがスマートフォンになじんだ身内、具体的に言ってしまえば“子ども”だ。だが子ども世代が利用しているスマートフォンは当然シニア向けではないし、シニア向けスマートフォンに多く採用されているAndroidではなく、iOSを搭載した「iPhone」を利用している割合も高い。
それゆえ「iPhone」ユーザーの子どもが、シニア向けスマートフォンを利用している親から質問を受けても、使ったことがないので使い方を教えることができない。使い方を教える子ども側からすると、親世代にも「iPhone」など、自分と同じスマートフォンを使ってほしいというのが本音なのだ。
しかも最近では、一般的なスマートフォンであってもシニアなどが利用しやすい仕組みを整えるケースが出てきている。実際「iPhone」の場合、「iOS 17」以降搭載機種であれば、アプリのアイコンなどを大きくシンプルにわかりやすく表示するなど、インターフェイスをシンプルにする「アシスティブアクセス」機能が利用できる。そうした機能を利用すれば、特殊な要素が多いシニア向けスマートフォンをあえて選ぶ必要はないのではないか、と自然に考える人が増えてくる。
「iOS 17」で新たに搭載された「アシスティブアクセス」を利用すれば、アプリのアイコンが大きく表示されるなど、「iPhone」のインターフェイスをシニア向けスマートフォンのようにわかりやすいものに変更できる
ただ実際に利用するシニア側は、大きく異なる考えを持っていることを忘れてはならない。それは「今使っているスマートフォンから環境を変えたくない」ということであり、「らくらくスマートフォン」を提供しているFCNTの調査からもその傾向が見えてくる。
実際同社の調査によると、これまで提供していたNTTドコモで「らくらくスマートフォン」を使い続けたい人が約90%に上ったほか、今使用している「らくらくスマートフォン」に満足している人も約90%に上るという。上記の新しい「らくらくスマートフォン F-53E」はまさに、そうした声に応える製品として企画されたものだ。
「らくらくスマートフォン」は利用者の満足度が非常に高く、およそ9割の人たちが今後も使い続けたいと考えているらしい
スマートフォンの使い方を覚えるのに苦労しているシニアは少なくない。そうした人たちがシニア向けスマホから「iPhone」などに乗り換えれば、環境の変化でさらにストレスを抱えてしまいかねない。できるだけ現在使用しているスマートフォンを長く使い続けたい、機種変更する場合も環境を大きく変えたくないのが、シニア側の要望なのだ。
しかも、実は現在のシニア世代におけるスマートフォン利用率はかなり高い。各種調査を見るに、すでに8割から9割という状況にあるようだ。それゆえ多くのシニアはすで1台目のスマートフォンを保有しており、それがシニア向けスマートフォンである割合も高いと考えられる。
「NTTドコモ モバイル社会研究所」のWebサイトより。同研究所が2024年1月に実施した調査では、60代のスマートフォン保有率は9割を超えており、70代でも8割、80代前半でも6割を超えている状況にあるという
それゆえシニアである親のスマートフォンの買い替えを考える際は、「誰が使い方をサポートしてあげられるのか」に重点を置いて機種選びをすべきだろう。そして、初めてスマートフォンを購入するケースで、子どもがサポートすることが多いのであれば、可能な限り子ども側が使っている機種に合わせたほうが、後々を考えると安心であることは間違いない。ただその場合、新機種への買い替えがストレスとならないよう、子ども側が新しいスマートフォンの使い方に慣れるまでていねいにサポートすることが大前提となる。
子ども側でサポートに手間をかけられない、あるいは親側がすでに携帯電話ショップで使い方を聞くことに慣れているのであれば、やはり携帯大手が販売する製品、その選択肢のひとつとしてシニア向けスマートフォンを選ぶのもよいだろう。
シニア向けスマートフォンなら、ショップで使い方をしっかりサポートしてくれるだけでなく、専用の電話サポートが用意されている機種もある。子ども側のサポートに限界があるならば、それらを頼れる。
ソフトバンクはワイモバイルで「らくらくスマートフォン」を初めて扱うに当たり、ボタンを押すだけでサポートに電話ができる「押すだけサポート」を提供。さらにショップでのサポートにも力が入れられている
特殊な操作性で周囲によるサポートが難しいシニア向けスマートフォンは、必ずしもベストとは言えなくなってきているのは確かだ。しかし、実際のサポートにかかる手間を考慮するならば、依然シニア向けスマートフォンが一定の優位性を持つことは間違いない。
しかし、これから初めてスマートフォンを選ぶ場合、候補をシニア向けスマートフォンに限定する必要はなく、子どもが「iPhone」なら親も「iPhone」、子どもが「Android」なら親も「Android」という具合で、プラットフォームを揃えてもよいだろう。
ただ何より、端末を実際に使用するのはシニアの親側であることを忘れてはならない。買い替えをサポートする際は後々もめることがないよう、親側の意向もしっかり聞き、そのうえでベストなものを選ぶのがよいのではないだろうか。