シャープの最新スマートフォン「AQUOS R10」が2025年7月11日に発売されました。大手キャリアではNTTドコモとソフトバンクが販売するほか、オープンマーケット向けのSIMフリーモデルはIIJmioやmineoでも取り扱われています。今回はメーカーから、ソフトバンク向けのモデルを借りてテストしました。
基本性能は据え置きながら、ブラッシュアップされた「AQUOS R10」。2025年7月11日発売。価格.com最安価格は99,800円(2025年7月18日時点)
「AQUOS R10」は、上位シリーズ「AQUOS R」の最新モデル。昨年発売された前機種「AQUOS R9」はデザイナー三宅一成氏の手によるデザインで注目を集めましたが、その後継機である「AQUOS R10」はそのデザインを継承しており、外見はほぼ同じです。
デザイン面の大きな特徴は、背面のカメラ周りのまん丸でも四角でもない「自由曲線」と、不揃いなカメラの配置。とてもシンプルなのですが、しっかりと主張もあるこのデザインは高く評価され、前機種はグッドデザイン賞のベスト100にも選ばれています。
エッジの角は落としつつも、フラットですっきりしたデザインの「AQUOS R10」
「自由曲線」を採用した、カメラ周りのデザインが特徴です
カメラの出っ張り部分の縁がキラリと光るなど、個性的ながらエレガントな印象
カラーバリエーションはカシミヤホワイト、チャコールブラック、トレンチベージュの3色。派手さはないものの、いずれも飽きのこない色です。前機種は2色展開だったので、選択肢が増えました。
カシミヤホワイト、チャコールブラック、トレンチベージュの3色を選べます
本機は、基本性能を大きく左右するSoCに、前機種「AQUOS R9」と同じクアルコム製の「Snapdragon 7+ Gen 3」を採用しています。RAMが12GBなのも同じ。ストレージはSIMフリーモデルで512GBが選べますが、キャリア向けのモデルは256GBで、こちらも据え置きです。メーカーはこの理由を、コストとのバランスや、SoCリリースのタイミングによるものと説明しています。
このように基本性能だけを見ると、前機種から大きく変わっていないように思えます。しかし、中身はしっかりとブラッシュアップされています。以下、具体的に見ていきましょう。
まずハードウェア面では、SoCがオーバーヒートしないための、冷却システムが見直されています。具体的には、熱を逃がすためのペイパーチャンバーと呼ばれる部品に、熱伝導率の高い銅を接着。この工夫により、ゲームや動画再生といった負荷かかかる作業でも、高いパフォーマンスを持続できる時間が最大で約2倍向上したとのことです。実際にアウトドアで長時間カメラを使用した際にも、多少温かくなることはありましたが、熱いと感じるようなことはなかったです。
薄く長いペイパーチャンバーに銅を圧着して冷却性能をアップしたとのこと
ソフトウェア面では、ストレージの一部をメモリーに割り当てられる「仮想メモリ」の最大値が、8GBから12GBにアップしています(初期設定は8GB)。違いをはっきりと体感できるものではないですが、メモリーに余裕を持たせられれば、長く使い続けた場合や、OSバージョンアップで負担が増えた場合などでも安定した動作が期待できます。
外部ストレージにも対応していて、SIMピンなしでトレイを取り出せます
microSDXCカードは、最大2TBをサポート。SIMはnanoSIM/eSIMのDSDVに対応しています
生体認証は指紋と顔認証に対応。電源ボタンが指紋認証センサーを兼ねていて、スムーズな動作でロックを解除できます
一見、USB type-C端子が2つあるように見えますが、右はスピーカーです。
各ベンチマークテストの結果は以下のとおり。筆者自身は前機種をテストしていませんが、オンラインで公開されている数値を見る限り、大きくは変わっていないようです。
スコアは1352389(内訳、CPU:359992、GPU:454514。MEM:305188。UX:232695)
3D描画専用のベンチマークアプリ「3DMark」の計測モードのひとつ「Wild Life Extreme」のスコアは2911でした
実際の使用状況に近い条件で性能を計測するベンチマークアプリ「PCMark Work3.0」の結果は16042でした
PCなどスマートフォン以外の機器でも使われる「GeekBench 6」の結果。左は通常の性能を示すCPUの結果で、Single-Coreは1840、Multi-Coreは4958になりました。右はグラフィック性能を示すGPUの結果でスコアは8134でした
操作性は非常に滑らかで、スクロールやスワイプがするすると動きます。アプリの起動なども速く、動画視聴やカメラ撮影を含めて、試用期間中にストレスを感じるようなことは、ほぼありませんでした。SoCが据え置きなのはメーカーのシャープが説明するようにコストやタイミングによるところが大きいのでしょうが、必要十分と判断されたのもわかる気がします。
本機のディスプレイは約6.5インチのフルHD+(2340×1080)の「Pro IGZO OLED」で、独自の「なめらかハイスピード表示」により、1〜120Hz(1コマごとに黒画面を差し込む残像低減機能を使用した場合は最大240Hz)のリフレッシュレートをサポートしています。
ここまでは前機種と同じですが、最大輝度は2000nitから3000nitにアップデートされています。ディスプレイ画面全体が白で表示されている状態での明るさを示す、全白輝度は1500nit。夏の太陽光下で試しましたが、強い日差しの下でも文字がしっかり読めるなど、明るくて見やすいディスプレイだと感じました。
HDR仕様ではない動画をHDR動画のように色鮮やかに表示できる「バーチャルHDR」機能を搭載するなど、動画再生にも適したディスプレイです。
夏の太陽光下でもディスプレイが見やすく、色も鮮やかに見えます
さらに、前機種から進化したのがスピーカー。本体下部のスピーカーが大型化されたほか、上部のスピーカーはスペース効率を上げるために、フルメタルボックス化されています。
フルメタルボックス化された上部のスピーカー。メタルにすることで壁を薄くし、容量を確保しているそうです
メーカーによれば、前機種比で音量は約25%、低音域は約35%向上しているとのこと。横にして動画を見る際に立体的で迫力があり、かつひずみのない、ステレオサウンドが楽しめます。また、音域ごとに音量を制御する新技術も採用。大きな音だけでなく、小さな音もクリアなので、ボリュームが上げにくいシーンでも音が聞き取りやすいです。
本機のカメラは、これまでの「AQUOS Rシリーズ」と同様に、老舗カメラメーカーのライカが監修しています。標準カメラは約5030万画素(F値1.9)で、ライカの「HEKTOR レンズ」を採用。35mm判換算の焦点距離は23mm相当で、ピント合わせの速い像面位相差オートフォーカスや光学手振れ補正にも対応しています。
もうひとつの広角カメラは、約5030万画素(F値2.2)。35mm判換算で焦点距離13mm相当の、ワイドさではライバルに引けを取らない立派な超広角カメラです。望遠はなく、ワンタッチでできるズームの切り替えは0.6、1、2の3段階。さらにデジタルズームで最大8倍まで拡大できます。
強い西日が当たっているものの空や雲もしっかり写っています。なお、通常の撮影ではイメージセンサーに並ぶフォトダイオード4個をひとつにまとめて感度を高めるピクセルビニングを行っています
光学2倍ズーム相当では、ピクセルビニングを解除し、画素数を約5030万画素にしたうえでデジタルズームを行い、光学的な劣化のない撮影ができます
解像感が低下し、壁のレンガがぼやけていますが、スマホの画面で見る分には十分にクリアです
解像感のあるシャープな印象の写真が撮れました
約5030万画素(F値2.2)のインカメラも含めて、カメラの構成は前機種と同様ですが、メインカメラには1/1.55インチの新しいセンサーが採用されています。特に暗所でノイズが低減されているとのこと。ナイトモードで撮影した夜景写真には、確かにざらつきなどは見られませんでした。暗いシーンを無理やり明るく持ち上げるのではなく、見たままが撮れる印象です。
ナイトモードで撮影。光量が少ないシーンでもディテールがとらえられています
ナイトモードで撮影。無理に明るく持ち上げる感じがなく自然です
背面には、「AQUOS R9 Pro」と同じ、14chスペクトルセンサーも搭載。光源情報を分析して、複雑な照明下などの難しいシーンでも自然な色味で撮影ができます。このセンサーの効果でしょうか、マジックアワーの微妙な空も、目で見たままの色で撮ることができました。
夕焼け空やそれらが映ったビルなど、見たままの色で撮影ができました
ポートレートモードで撮影。背景のボケ味が自然で色もきれいです
マニュアルモードも用意されていますが、基本的にはAIがシーンを判別してくれるので、ユーザーはシャッターを切るだけ。設定で「オートHDR」「オートナイト」「オートマクロ」がオンになっていれば、これらもカメラを被写体に向けるだけで自動的に切り替えてくれます。ライカ監修のカメラが、おまかせで撮れる手軽さは本機の大きな魅力です。
オートマクロで撮影。被写体にカメラを近づけるだけで自動的に切り替わります
さらに、撮影時にAIを活用し、「料理・テキストの影を消す」機能もあります。その名のとおり、料理撮影時や書類などを撮影する際に、被写体に落ちる影を自動的に消してくれるもの。撮影後に編集して消すのではなく、機能をオンにしておくと撮影後に自動的に影が消えます。料理写真をたくさん撮るときや、何枚もの書類を続けて複写したいときなどに便利。影の消え方も自然で、違和感がありません。
設定がオンになっていると、撮影時に映り込んだ影が自動で削除されます
保存された料理写真。影が削除されたという形跡は感じられません
AIはカメラ以外にも活用されていて、たとえば音声通話では、迷惑電話を自動検知してブロックできる機能や、話の内容からキーワードを自動的にメモしてくれる機能などが利用できます。これは「通話のハイライト」という機能で、オンにしておくと話した内容から日付とか時間、場所といったキーワードを拾って自動的に記録してくれます。
記録は「電話アシスタント」アプリで後から見返すことが可能。話した内容を思い出せるだけでなく、そのキーワードからダイレクトにWebサイトを検索したり、日時からカレンダーを開いて予定を登録したりといった使い方ができます。今はまだ簡単な自動メモという感じですが、今後に期待が膨らむ機能です。
通話中の画面でキーワードがどんどんメモされていき、後から「電話アシスタント」で見返すことができます
ほかにも、指紋センサーの長押しで決済アプリなどを一発起動できる「Payトリガー」や、SNSなどの画面を自動的にスクロールできる「スクロールオート」など、AQUOS独自の便利機能がいろいろと用意されています。
バッテリー容量は5000mAhで、WebやSNSを見たり、動画を見たり、写真を撮ったりといった使い方なら、丸2日くらいは余裕で使える印象です。「PCMark」のバッテリーテスト「Work 3.0 battery life」では、画面の明るさ50%で17時間26分バッテリーが持続するという結果でした。なお、急速充電は「USB Power delivery Revision3.0」をサポートしていますが、充電時間は約110分とそれなりにかかります。
通信はWi-Fi 7に対応。5Gの周波数帯は、ドコモが使用する「n79」も含めてサポートしていますが、エリア内なら超高速・大容量通信が可能なミリ波には対応していません。
このほか、IPX5/IPX8の防水、IP6Xの防塵に対応するほか、耐衝撃(落下)など全16項目のMIL規格(米国国防総省の資材調達基準)に準拠。OSはAndroid 15で、OSアップデート3回と5年間のセキュリティ更新が保証されています。
「AQUOS R10」は、前機種から基本性能が据え置きということで、正直なところ、目新しさはないと思っていました。しかし、いざ使ってみると、ディスプレイは明るく見やすく、スピーカーは迫力があり、カメラは自然な色合いで影もきれいに消えて、通話の自動メモも便利……と、全体として、とても使い勝手がよいスマートフォンという感想です。
ハイエンドスマホがどんどん高価になるものの、ミドル以下の端末ではカメラやAI機能などで割り切りが必要になることも少なくありません。そうしたなかで、基本性能を据え置きつつ、細部をていねいに磨き上げ、かつライカ監修のカメラという強味を持つ「AQUOS R10」は、スペックよりも使いやすさを重視する人、値上がり前のハイエンド端末を使っていた人にちょうどよい1台と言えるでしょう。