KDDIは、2017年2月22日に記者発表を行い、次世代移動通信システム「5G」の基礎技術となる28GHz帯を利用した、複数の基地局をまたぐ“ハンドオーバー”実験が成功したと発表した。現在主流の4Gネットワークの次を担う5GネットワークとKDDIの取り組みについてレポートする。
2020年の実用化を目指して開発が進んでいる5Gネットワーク。KDDIでは、どのような取り組みがなされているのだろうか
現在のスマートフォンなどで使われている「LTE」および「LTE Advanced」や「WiMAX2」といった「4G」の次を担う第5世代移動通信システム「5G」は、2020年の実用化を目指して、現在、世界中で開発が進められている。5Gネットワークは、スマホなどの高速データ通信に加えて、モノがインターネットにつながるIoTを支える情報インフラとしても期待されている。KDDIの説明によると、スピードアップを目的にした“高速・大容量”に加えて、IoTを念頭にする“多接続”、ARやVRで重要となるリアルタイム性を確保する“低遅延”という3つが5Gネットワークのポイントとなっており、いずれのスペックも4Gと比べて10倍以上の性能アップを目指しているという。
5Gネットワークでは、高速・大容量、多接続、低遅延という3つのポイントで、いずれも4Gと比べて10倍以上の性能アップを目指している。多様なニーズに柔軟に対応できるネットワークを目指している
そんな「5G」だが、まだ具体的な仕様は固まっておらず、世界各地で研究や開発が進められている段階だ。だが、重要な要素については、業界内である程度の技術的指標が設けられている。そのひとつに、使用する電波の帯域がある。5Gでは、従来の4Gで使われている20MHz程度の帯域と比較しても圧倒的に広い800MHz程度の広帯域の電波を使用する必要があるが、こうした広帯域の電波を確保するには、今まで誰も使っていなかった高周波数帯を使うしかない。
今回KDDIが検証を行った28GHz帯は、LTEで使われている800MHz帯や2GHz帯と比べて、ニーズがほとんどないガラガラの状態で、広帯域を確保しやすい。だが、波長がとても短く、基地局から発せられた電波が遠くに届きにくいうえに広がりにくいという、扱いにくい性質を備えている。こうした欠点を補うため、5Gの基地局はアンテナから発せられるビームの幅を絞り電力を集中することで電波が届く範囲を延伸する「ビームフォーミング」という技術を使う。なお、このビームフォーミングも、5Gを支える重要な基礎技術なのだ。
ただ、このビームフォーミングを使う際は、端末の位置を追いかけ次々と基地局を切り替えるハンドオーバーが難しいという問題があった。しかし、KDDIは、現在、衛星通信で使っている30GHz帯の技術を応用することで、これを克服。都市部の道路や高速道路といった、実際に使われる状況下で、ハンドオーバーの実証実験を行い、国内で初めて成功した。通信速度についても、今回の実験では、走行中の自動車で最大3.7Gbpsという実効スループットを達成しており、28GHz帯という高周波数帯を使った移動しながらの高速通信という、5Gに必要な条件をひとつクリアしたことになる。
発表会で展示されていた、試作の28GHz帯の基地局のアンテナ。この中にアンテナが多数内蔵されており、それらが端末を追尾しながら通信を行う
こちらはスマホに該当する端末側のアンテナ。現在のところワンボックスカーの荷室いっぱいに機材が満載されている
車に積まれた機材はモデムに当たる部分。その隣にあるのは電源で、現在のところ1000W以上の大電力だそうだ。もちろん、実用化の際にはこれが大幅に省電力化される
静止状態での実効スループットは3.75Gbps。現在のLTEネットワークの大体10倍のスピードアップとなっている
市街地を比較的ゆっくりとしたスピードで走行する端末の自動車がハンドオーバーした瞬間。ふたつの電波が途切れることなく切り替わった
スピードの速い高速道路でのハンドオーバーの様子。基地局間の距離は大体数百mといったところ、こちらも途切れずに切り替わった