小型のポータブル電源のリアル購入を検討している筆者が、今気になる3製品をガチ比較。予算は2〜3万円台で、自宅で普段使いしながらも、持ち運んでアウトドアで使えて、災害時の備えにもなる。そんなわがままに応える1台を検討する。はたして、どのモデルを選ぶのだろうか。
最初に買ったのは、チェアだった。そこからは、タープ、ペグ、焚き火台、テーブル、屋外用ガスコンロ、テント、寝袋、アウトドアワゴン……と、気づいたらキャンプ道具がどんどんと増えていった。
こうなってくると、屋外にいるタイミングでも電源を確保したくなる。もちろん、オートキャンプ場ならば、車からも電気を確保できるが、長時間の使用には限界もあるものだ。対して、もしポータブル電源があれば、カメラやテザリングに使うスマホの充電はもちろん、仕事で使うノートPCの充電、電気毛布や、ポータブルプロジェクターにゲーム機など、キャンプ場での自由度も一気に広がるだろう。
ただし、容量や出力が十分なポータブル電源が欲しいと考えた場合、候補となる製品は概ね10万円を超える高額なものになってしまう。さらに、そのサイズも中型〜大型のクーラーボックスくらいになるため、部屋数の限られる賃貸住まいで常設するのは現実的ではないと感じた。また、重量がありすぎると、都度の持ち運びも重労働だ。結果的に、屋外での使用頻度が下がってしまっては元も子もない。
また、大容量のモバイルバッテリーという選択もあるが、スマホを数回充電するのがやっとということが多く、バッテリー容量が心もとない。ポート数も限られており、一度に充電・給電したい機器の数に対応できないことも多そうだ。
そこで、目を付けたのが、近年よく見かける超小型ポータブル電源だ。大容量のモバイルバッテリーよりも容量やポート数が多く、価格も2〜3万円程度で手が届く。まさに“ちょうどよい”バランスなのだ。防災という視点でも、大型の家電の駆動は諦めるとして、夜間の照明の確保や、家族のスマホを充電できるくらいの最低限の備えにはなる。
検討の結果、具体的な候補は、2024年に発売された以下の3製品となった。
(1)アイリスオーヤマ「バッテリーステーション IBT-A60100」
(2)Anker「Solix C300 Portable Power Station」
(3)Jackery「ポータブル電源 240 new」
これらを比較しつつ、忖度なしで個人的に購入したい一台に絞り込んでみたい。
はじめに用語について補足しておくと、ポータブル電源が出力できる電力を「定格出力」と呼ぶ。接続する電化製品の合計の消費電力がこれを上回ってしまうと、電化製品が安定して動かない。概ねの目安だが、一般的なドライヤーが1200Wくらい、電気ケトルが1250Wくらいなので、小型のポータブル電源のACポート(定格出力300W程度)では、こうした機器の使用は諦める必要があるのだ。
いっぽうで、電気毛布や扇風機、32V型(インチ)のテレビなどは、消費電力が60W程度なので使える製品は多い。なお、炊飯器や電気ケトルの代わりとして使える小型のクッカーならば、超小型の低出力製品を探すと、300W程度のものもあるようで、小型のポータブル電源でも接続できる機器は見つけられる。
アイリスオーヤマ「バッテリーステーション IBT-A60100」、価格.com最安価格は16,800円(税込。以下同)、2024年7月16日発売
1つ目は、家庭にコスパと安心を届けるアイリスオーヤマからピックアップ。本体サイズは約77(幅)×155(高さ)×82.5(奥行)mmで、重量は1.36kg。「500mlの牛乳パックとほぼ同サイズ」という謳い文句がわかりやすかった。ハンドルとしては、手持ちのストラップが備わっており、持ち運びもしやすそうだ。
サイズは500mlの牛乳パックより少し背が高い
バッテリー容量は60000mAh/222Whで、定格容量は36000mAh。使用目安としては、3000mAhのスマートフォンを約13回、70WhのノートPCを約2回充電可能。電気毛布も使えるようだが、目安の時間表記はない。また、本体に内蔵されたLEDライトは3段階で調節でき、最大144時間点灯できるという。まさに、モバイルバッテリーとポータブル電源の間に存在するような選択肢である。
ポート類は、USB Type-A(出力)×3、USB Type-C(出力)×1、USB Type-C(入出力)×2という構成。出力は最大100W(複数ポート使用の場合は合計98Wまで)に対応する。バッテリー本体を充電しながら、それを経由して接続した機器への給電・充電が行える「パススルー充電」にも対応している。
USB Type-Cが豊富なのはうれしい
何よりデザインがよい。IP54に準拠する防じん防滴性能を備えていることもアウトドアシーンでは魅力的だ。どうせメインはスマートフォンやノートPCの充電なのだから、もうこれで十分なのでは……、と早くもポチりそうになった。
防水防じん性能はIP54に準拠。アウトドア環境での使用も安心
しかし、まだ2製品が残っている。逸る気持ちを落ち着かせなくては。
冷静に考えると、ACのコンセントが使えないので、筆者のようにアウトドアシーンで使いたい場合には、自由度がやや限られてしまいそうだ。「夏に扇風機を使いたい」と思った際に、「やっぱりコンセントが欲しかったな」となりそうな気もする。この点は、最終的に何を優先すべきかで決断しなくてはならない。
また、使用されているバッテリーがおなじみの「リチウムイオン電池」であり、保証期間は最大2年間。動作温度が0〜35度と、真夏・真冬のアウトドアシーンではやや心もとないかもしれない。さらに、充電に必要な時間が5時間と長めなこと——などは、購入検討前に留意しておくべきだろう。
Anker「Solix C300 Portable Power Station」、価格.com最安価格24,180円、2024年10月3日発売
2つ目は、スマホのモバイルバッテリーや充電器でもおなじみのAnkerから選出。サイズは約164(幅)×240(高さ)×161(奥行)mmで、重量は約4.1kg。小型モデルといえども、1つ目の選択肢と比べるとだいぶ大きく・重くなる。こちらも「2Lのペットボトル約2本分の体積」という公式のたとえがわかりやすい。
棚や引き出しにも収まる
ポイントは、(製品写真ではわかりづらいが……)本体に棒状の手持ちハンドルが一体化しているほか、同梱の肩掛けストラップを装着して、手ぶらで持ち運べること。アウトドアの移動では、両手が荷物でふさがることが多いので、肩掛けを選択できるのはシンプルにうれしい。
携帯中も両手が空けられるのはありがたい
バッテリー容量は、モバイルバッテリーでおなじみの「mAh」の表記ではなく、ポータブル電源らしい288Whという表記のみになる。使用目安としては、「iPhone 15」であれば約19回、ノートPCは約5回充電でき、電気毛布は約3.8時間使えるとあった。なお、本体にLEDライトを内蔵するが、こちらの使用時間はざっと確認しただけでは見あたらなかった。
バッテリーには「リン酸リチウムイオン電池」が採用されており、製品寿命が長い。保証期間も最大5年間だ。価格.com最安価格24,180円と、1つ目の候補よりも高いが、5年使えると思えば、コストパフォーマンスは高い。
ポート類もAC×3、USB Type-C×2 (140W)、USB Type-C×1 (15W)、USB Type-A×1、シガーソケット×1と充実。さらに、ACのコンセントが使えること、車のシガーソケットから充電できることは見逃せない。オートキャンプ場では、エンジンをかけていて問題ない日中に充電を行っておけば、夜間の電力を確保しておけるだろう。
ACコンセントが接続できるのは魅力的
さらに、コンセントからの充電速度が速いことも見逃せない。ACからは最大68分でフル充電でき、別売りのソーラーパネル(100W)を使用した場合には最短3.2時間でフル充電できるそうだ。パススルー充電のサポート、フル充電の状態での保存が行えることもうれしいポイントだ。
また、ACの定格出力は300W(50/60Hz)、瞬間最大600Wで、さらにAnker独自のSurgePad技術によって定格出力500Wまでの家電を使えることも興味深い。定格出力が大きい電気ケトルは無理だとしても、定格出力が300W程度の小型のクッカーにはチャレンジできそうだ。
なお、動作温度も、機器への充電で-20〜40度、本体の充電で0〜40度となっており、冬のアウトドア環境でも安心だ。
弱点としては、小型モデルでありながら4.1kgとやや重めなこと。防水防じん性能は備えていないことがあげられる。
Jackery「ポータブル電源 240 new」、価格.com最安価格32,800円、2024年5月7日発売
最後の一台は、ポータブル電源の定番ブランドであるJackeryのこちら。価格は、先述のAnker製品と比べると高い。前世代モデルが世界累計50万台以上を販売しており、さらに改良を遂げた一台ゆえに、ポータブル電源の入門機としては王道の選択肢と言える。
バッテリーには、寿命の長い「リン酸リチウムイオン電池」を採用しており、保証期間も最大5年と長い。長期保管に役立つ「超ロングスタンバイモード」も備える。
最速60分でフル充電できる
製品のポイントは、容量が256Whであり、先述のAnkerのものより若干小さいものの、重量が約3.6kgで、500gほど軽い。サイズは、約231(幅)×168(高さ)×153(奥行)mmとコンパクト。横長の形状やものを置きやすい平らな天面、収納可能なハンドルなども相まり、取り回しのよさが際立っている。また、動作温度も-10〜45度と幅広く、特に夏のレジャーでの活躍が期待できそうだ。
使用目安としては、スマートフォン(29W)を約11回、ノートPC(87W)を約2回充電可能。電気毛布(55W)なら約3.7時間使える。
ポート類は、シガーソケット出力ポート、USB Type-A出力ポート、USB Type-C出力ポート、USB Type-C入力・出力ポート、AC出力ポート、AC入力ポートを搭載。LEDライトやディスプレイも備える。
ディスプレイでバッテリー残量が確認できる
ACの定格出力は、300W(瞬間最大600W)で、パススルーにも対応する。充電に関しては、AC充電で1.9時間、緊急時のみの使用が推奨される緊急充電モードで1時間だ。また、別売りのソーラーパネルも使用可能だ。
別売りのソーラーパネルも気になる
気になるポイントとしては、先ほどのAnkerと比べると、USB Type-CとACの数がやや限られることだ。とはいえ、小型のポータブル電源ゆえに、さほど多くの機器との接続はないと割り切れば、気にならないかもしれない。
また、こちらも防水防じん仕様は備えていないが、防水設計の収納バッグが公式サイトで販売されているので、雨天時に備えたい場合には、合わせて購入を検討してみるとよいだろう。
以下が、3製品の主要スペックをまとめた表組みだ。
スペック表は筆者作成
3製品のスペックを比較しつつ熟考した結果、筆者は、候補2の「Anker Solix C300 Portable Power Station」を購入した。元々モバイルバッテリーや充電ケーブル、充電器などの周辺機器で親しんできたブランドであったことも背中を押した。
筆者が購入した「Anker Solix C300 Portable Power Station」
具体的な決め手は、以下だった。
(1)肩掛けができるので、アウトドアワゴンが使えない場所でも往復移動回数を減らせる
(2)シガーソケットからの充電ができて、オートキャンプ場での使い勝手がよい
(3)USB Type-CとACポートの数が多いので、ガジェットを同時に充電できる
(4)定格出力を少しオーバーする機器も使える
(5)将来的に別売りのソーラーパネルで拡張できる
(6)動作温度が-20度まで対応していて、冬のアウトドアシーンでも使える
(7)10年支えて5年保証である
(8)ACからの充電速度が速い
(9)充電量の管理がズボラでもOK
小型ポータブル電源選びの決め手は、使用スタイルをリアルに想定できるかがキモだと感じた。キャンプ、防災用といったシチュエーションから、使う予定の機器や家族の人数など、ぜひ想像に想像を重ねて吟味していただきたい。
ちなみに、実際に手元に製品が届いたのだが、肩掛けストラップは、持ち運ぶとき以外にはビロビロと広がってじゃまかも……と後から気づいた。まぁ、このあたりはご愛嬌。今のところ、不満なく使用している。あとはピッタリとハマる保護バッグが見つかれば、雨天時も安心して使えるだろう。