スポーツ自転車のフェス「サイクルモードインターナショナル2017」の花形は、先にお伝えしたレポートのとおりロードバイクだが、注目度の高さは電動アシスト自転車も負けていない。というのも、当イベントではスポーツタイプの電動アシスト自転車が一堂に会すからだ。欧米では、この手の電動アシスト自転車は「e-Bike」と呼ばれており、人気を博している。そんなe-Bikeの最新事情とメーカーごとの注目モデルを紹介しよう。
最新モデルを紹介する前に、e-Bikeについて軽く説明しておきたい。電動アシスト自転車は、「シティサイクルタイプ」「子乗せタイプ」「小径タイプ」「スポーツタイプ」に大きく分類される。今回フォーカスするのはスポーツタイプだが、「スポーツタイプ=e-Bike」ではない。クロスバイクなどのスポーツ自転車の車体に電動アシストを装着していればスポーツタイプと称されるが、実は、搭載されるアシストユニットがシティサイクルタイプなどと同じというモデルもある。このようなモデルはe-Bikeには属さない。e-Bikeとは車体だけでなくアシストユニットもスポーツ自転車用に開発されたものが装備されているモデルのことを指すのだ。もちろん、日本の法規に基づいたアシスト力となるので、一般的なユニットもスポーツタイプのユニットも出力は同じ。大きく異なるのは、アシストのフィーリングだ。シティタイプの電動アシストはペダルの軸とは別にアシスト力を伝える歯車があるのが一般的なのに対し、スポーツタイプのユニットはペダルと同軸でアシスト力を伝えるため、よけいな抵抗がなくペダルを踏んだ力にアシストを上乗せできるようになっている。
スポーツタイプのアシストユニットはペダルを漕ぐ感触が失われないように自然なフィーリングにチューニングされているので、アシストに唐突な感じがなく、かなり心地いい
そして、スポーツタイプのアシストユニットは軽量で小型なところもポイント。車体を軽くするためだけではなく、ユニット自体がコンパクトなことで設計の自由度が高まり、よりスポーティーなハンドリングに仕上げることができるのだ。たとえば、ロードバイクやマウンテンバイクの場合、チェーンステー(リアタイヤを支えるフレームの下部分。下の写真参照)が短いほうが、ペダリングに対する反応や曲がる際のクイックさが増すため、よいとされている。つまり、ペダルの軸とリアホイールの軸が近いほど、性能が発揮しやすいスポーツ自転車ということになるのだ。スポーツタイプのアシストユニットは年々小型化されており、最新のe-Bikeになるほどリアタイヤが中央寄りに設計されている。スポーツタイプの電動アシスト自転車とe-Bikeの違いをパッと見て明確に判断できるのは、この部分かもしれない。
矢印の部分がチェーンステー。シティサイクルタイプと同じアシストユニットを搭載するモデルは、シートチューブとリアタイヤの間にバッテリーを装着するため、どうしてもチェーンステーが長くなり、ペダル軸とリアホイールの軸が離れてしまう
いっぽう、小型化が進むスポーツタイプのアシストユニットはバッテリーもコンパクトなので、メインフレームに搭載可能に。上の「PAS Brace」に比べ、ペダル軸とリアホイールの軸の間隔が近くなっていることがわかる
2015年に、ロードバイクの車体に電動アシストユニットを搭載した「YPJ-R」をリリースすると同時に、「YPJ」というスポーツタイプに特化したブランドを立ち上げたヤマハ。その後、2016年にはクロスバイクタイプ「YPJ-C」を投入し、日本におけるe-Bikeの普及を牽引している。そんな「YPJ」シリーズに新たに仲間に加わるであろう、マウンテンバイク(MTB)タイプの「YPJ-XC」が展示されていた。実は、2016年に開催されたイベントで「YPJ-XC」の前身と思われるコンセプトモデルを見たことがあるが、今回のモデルは参考出展でありながら、細部の仕上げを見ても近々の市販を前提としていることは明らかだ(実際に、2018年には製品化する見込みだという)。詳細は未定となっていたが、「YPJ-XC」に採用されているバッテリーは大容量タイプ。バッテリーが大容量になると車重が増してしまうが、軽量・コンパクトな新型アシストユニット「PW-X」を装備することで相殺するものと思われる。
マウンテンバイクタイプ「YPJ-XC」には、日本国内で発売されているモデルにはまだ採用されていない新型アシストユニット「PW-X」とバッテリーが搭載されていた
「PW-X」は従来のものよりもモーターがコンパクトになり、よりスポーツモデルに適した設計となっているそう。今後、このユニットを搭載したe-Bikeが出てくるのが楽しみだ
さらに、欧州で高い評価を得ているモーターユニット「PW-SE」と大容量のバッテリーを組み合わせたモデルが複数展示されており、その中には、ロードバイクタイプやクロスバイクに搭載したモデルも並んでいた。ヤマハブースにいたスタッフに聞いてみたところ、ロードバイク仕様「YPJ-ER」とフラットバーロード仕様「YPJ-EC」は日本で発売する予定だという。既存のロードバイクタイプ「YPJ-R」やクロスバイクタイプ「YPJ-C」は、バッテリー容量を少なめ(2.4Ah)にすることで車重を軽くしているが、アシスト最大距離は48kmと短い。これに比べて、この「PW-SE」と大容量バッテリーが採用されたモデルは、車体の重みは増すものの長距離ツーリングもできるようになるのが魅力だ。欧州に比べ、日本の規格はアシストされる速度域が大幅に低いため、日本仕様に調整されると欧州モデルほどのスピード感やパワフルさは望めないが、アシスト時間の長さはe-Bikeを選ぶうえでの大きなアドバンテージとなるはず。
欧州向けのモーターユニット「PW-SE」を搭載した「YPJ-ER」は、ロードバイクの車体に太くてオフロードも走れるタイヤとディスクブレーキを装備し、より幅広いフィールドで遊べる仕様となっている
ロードバイクにフラットなハンドルを装備したフラットバーロード「YPJ-EC」も、モーターユニット「PW-SE」を搭載して日本市場に登場予定
モーターユニット「PW-SE」を付けた試作車「YPJ-TC」は、このまま市販化されてもおかしくない完成度だ。フェンダーやキャリアを装着し、街乗りやツーリングに活躍してくれそう
ヤマハに続き、電動アシスト自転車の展示スペースを大きく確保していたシマノは、変速機やブレーキなどを中心とした自転車の重要なパーツ「コンポーネント」を製造しており、その分野では世界一のシェアを持つ。そんなシマノが電動アシストユニット「STEPS(ステップス)」を手がけることが発表され、大きな注目を集めていた。「STEPS」は、先行するヤマハやパナソニック、ボッシュなどのユニットと同じく、ペダルと同軸でアシストを提供する機構となっている。e-Bikeの運動性を左右する、チェーンステー長を短く設定できる仕様としてあるのはさすがだ。くわえて、左右のペダル間の距離を示す「Qファクター」も他社に比べて短い設計となっており、スポーツ自転車のコンポーネントを長く手がけてきたシマノらしい仕上がりだといえる。
「STEPS」の国内向けのユニット。ディスクブレーキと一体になったスピードセンサーやサイクルコンピューターなどもセットとなっている
このユニットを搭載した市販予定車が展示されていた。シマノはユニットの提供だけなので、車体はすべて他ブランドのものとなる。
「MIYATA(ミヤタ)」から2018年2月1日に発売される「CRUISE」。ディスクブレーキを搭載したクロスバイクタイプで、価格は26万9000円(税別)
モデル名や価格は未定だが、「LOUIS GARNEAU(ルイガノ)」からもクロスバイクタイプが登場する予定だ
オーダーフレームなども手がける「GHISALLO(ギザロ)」の「GHISALLO E-305(仮称)」は、スチールパイプを使ったフレームの造形が魅力。予定価格は38万円(税別)で、2018年春頃に発売予定
カーボン製の板バネのような構造で衝撃を吸収するユニークなフロントフォークを搭載したモデルは、「Seraph(セラフ)」の「E-01S」。2018年春頃の発売を見込んでおり、価格は38万円(税別)の予定となっている
MTBタイプは参考出品のみ
参考出品とはいえ、このMTBタイプの乗り心地はよさそう。というのも、QファクターがシマノのMTB向けコンポーネントと同一の177mmとした設計になっているからだ。ユニットがコンパクトなので、リアタイヤがかなり前側に配置できる
マウンテンバイク好きな筆者にとって、ここ最近で非常に興味深いe-Bikeといえば、パナソニックから2017年8月に発売されたマウンテンバイクタイプ「XM1」。シティタイプの電動アシスト自転車を得意とする同社から、まさか国産初のマウンテンバイクタイプが出てきた時には正直おどろいた。もちろん、パナソニックにはクロスバイクタイプの製品もラインアップされているが、アシストユニットはシティタイプと同じものを使っている。その点、新たに開発したスポーツタイプのアシストユニットを搭載した「XM1」は別格の扱いで、本気のe-Bikeを作ってきたと言えるだろう。実際に「XM1」に試乗したこともあるが、山の中で遊べ、かつ普通の道路でも走りやすい上々の出来栄え。今回のサイクルモードでは「XM1」しか展示されていなかったが、今後、新たな展開に期待したい。
27.5インチサイズのホイールや油圧式のディスクブレーキ、100mmストロークでロック機構を搭載したフロントサスペンションなどのパーツを搭載した「MX1」。2017年12月1日には手前側にあるカラー「マットバーニングリーブス」がリリースされる
プレミアム感の高いe-Bikeを展開する「BESV(ベスビー)」には、既存モデルに加えて3車種の新型モデルが展示されていた。特に注目すべきは、シマノ製ユニット「STEPS」を搭載したマウンテンバイクタイプ「TRS1」。これまでBESVは自社製のインホイールタイプのモーターを搭載していたが、初めて他メーカーのユニットを採用することとなる。このことからも、シマノ「STEPS」は非常に完成度が高いといえるだろう。その他の部分も、「TRS1」のクオリティは上々。カーボン製のフレームを採用し、車重は18kgと、e-Bikeとしては軽量な部類となっている。それでいて140kmのアシスト距離を実現しているというからおどろきだ。Qファクターやチェーンステー長も一般的なマウンテンバイクと同等のスペックとなっており、100mmストロークのサスペンションが装備されている。
2018年3月に発売予定のマウンテンバイクタイプ「TRS1」(価格は46万2000円)。ほかにもシマノ製ユニットを搭載したマウンテンバイクタイプが展示されていたが、デザインはほぼ同一だ
後ろ側のギアはかなり大きいサイズとされており、いかにも登りそうな設計。これはぜひ乗ってみたい
このほか、ロードバイクタイプ「JR1(仮称)」とクロスバイクタイプ「JF1」も展示。この両モデルは、BESV製のインホイールタイプのモーターが採用されている。どちらも、2018年夏頃発売予定。
ロードバイクの車体に、フレームと一体したデザインのバッテリーを搭載する「JR1」。車重は16kgで航続距離は100km、価格は27万5000円(予定)となっている
「JR1」は、ハブ軸と一体となったインホイールタイプのモーターを採用
「JR1」と同じタイプのアシストユニットを採用しているように見える、クロスバイクタイプ「JF1」は車重17kg。価格は22万9000円(予定)となっている
2017年11月に日本国内への導入が発表された、「ボッシュ」のアシストユニット。欧州で高いシェアを誇るボッシュ製ユニットは、3軸センサーを用いた繊細なアシストが持ち味だ。筆者が実際に試乗した際のフィーリングも自然で、自分がペダルを漕ぐ力にモーターのアシスト力がきれいに上乗せされるような感覚が得られる、かなり上質な仕上がりとなっている。すでに、2018年に4メーカーから搭載車種のリリースが決定しており、その中の1モデルが「TREK(トレック)」に展示されていた。クロスバイクバイクタイプの人気モデル「VERVE」にボッシュのユニット「BOSH e-Bike SYSTEMS」を搭載した「VERVE+」は、最大100kmの航続距離が可能。フェンダーも装着され、街中での使い勝手を高めたモデルと言えるだろう。
前後にライトやフェンダーなどを搭載した「VERVE+」。価格は21万3000円で、2018年1月発売予定
昨年のサイクルモードで「TAGETE27.5」というマウンテンバイクタイプのe-Bikeを出展し、その後、市販も実現したイタリアンブランド「Benelli(ベネリ)」には、さらに走破性を高めた「NERONE27.5+」がラインアップ。搭載されるアシストユニットは同じだが、「TAGETE27.5」よりも0.9インチ太い3インチのブロックタイヤを履かせることで、グリップと凹凸を乗り越える性能を向上させているようだ。「TAGETE27.5」を山の中で試乗した際には、パワフルなアシストとマウンテンバイクならではの遊べる車体構成に感心したものだが、この「NERONE27.5+」の幅が増したタイヤなら、よりアクティブな楽しみ方ができるだろう。
湾曲したフレームが目を引く「NERONE27.5+」。価格や導入時期などは未定だが、2018年には国内販売を開始したいとのこと
太めのタイヤはパワフルなアシストと相性がよいため、山で走らせたらかなり楽しめそう
会場の片隅みに「e-BIKE WORLD」という看板とともに置かれていたのは、2016年に「SPECIALIZED(スペシャライズド)」が展示していた「TURBO LEVO」。出力が大き過ぎるため日本の法規には適合せず、公道では走行できないモデルだ。しかし、SPECIALIZEDでは「TURBO LEVO」を輸入しており、日本国内3か所のクローズドコースでレンタル車両として試乗することができる。筆者もそのような場所で試乗したことがあるが、どんな坂でも登って行けてしまいそうな桁違いのアシスト力とトラクション性能のよさに強い衝撃を受けたほどだ。そんなパワフルなアシストを、実際に体験してもらおうと、当イベントに実機を持ち込んでいたのだ。海外製e-Bikeの本領を体感した来場者たちは、みな驚きを隠せない様子。この走行性は体験する価値あり! なお、「TURBO LEVO」が試乗できるクローズドコースは夏場のみの期間限定オープンなため、現時点では日本国内で試乗できるところはない。しかし、試乗できる機会を増やしいきたいということだったので、また来年にはこのような場を設けてくれるはずだ。
日本のe-Bikeとは比べ物にはならないほどの本格的な走破性を持つ「TURBO LEV」
フレームにビルトインされたモーターとバッテリーはともに自社製。前後にサスペンションを装備し、3インチタイヤを履くなど走破性は異次元のレベルだ
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。