“鉄人レース”とも呼ばれるトライアスロンは、過酷なスポーツというイメージが強い。そんな競技に今、ひとりの男がチャレンジしようとしている。「価格.comマガジン」編集者、牧野(36歳)だ。トライアスロンを趣味にしているライターの私からその魅力について吹き込まれ、ちょっと興味があるそぶりをしていたら、いつの間にかチャレンジすることに……。準備期間は1年間。果たして超初心者の牧野は完走し、トライアスロンの魅力と感動をお届けできるのか?
トライアスロン用のウェットスーツは、サーフィンやスキューバダイビングのウェットスーツと何が異なるのかを専門家に聞いてみた!
【連載バックナンバー】
【第1回シューズ選び】
「そもそもトライアスロンという競技について」「シューズの選び方」を解説した前回に続き、第2回の今回は「トライアスロンに必要な持ち物」「ウェットスーツの選び方」について紹介する。
今回も東京・千駄ヶ谷にあるトライアスロン専門ショップ「アスロニア」の店長、蒔田(まきた)俊史さんにお話をうかがった。
トライアスロン専門ショップ「アスロニア」の店長、蒔田(まきた)俊史さん
牧野 前回はトライアスロンという競技について、じっくりお話ししていただきました。でもおそらくそれでもまだ全貌がつかめてないような気がしています……。
蒔田さん(以下蒔田) 前回、大体のことはお話しましたが、必要とされるギアについてはしっかりと話せてなかったかもしれないですね。トライアスロンにはかなり細かいものを含めて、たくさんのギアが必要になります。
牧野 自転車やランニングシューズは想像できますが、そのほかに具体的にはどんなものが必要なのですか?
蒔田 簡単なリストがありますのでここで紹介しますね。
スイム中は、トライアスロンウェアの上にウェットスーツを着用
蒔田 これでも、競技をするのに最低限必要なギアという感じでしょうか。
牧野 これでも最低限なんですね! ちなみに全部そろえるとなると、どれくらい費用がかかるものなのでしょうか?
蒔田 それぞれに上から下まで価格帯が幅広いので、何とも言えないところがありますが、トライアスロンウェアは15,000円、ウェットスーツは3万円、バイクは15万円、ヘルメットは15,000円、ランニングシューズは15,000円とすれば、大体20万円以上は必要になると言えます。1度に買いそろえるとなると大変ですが、たとえば1年後のレースを目指すとなれば、1年かけて少しずつそろえていけば、それほど負担にはならないと思います。
牧野 確かにそうですね。
蒔田 あとは、まったく運動経験のない状態からスタートする人は少ないと思います。「ランニングシューズは持っている」「ロードバイクは持っている」という場合があるかと思いますので、そうなるとさらに負担は少なくなるでしょう。
牧野 僕はランニングシューズは持っているので、多少は始めやすいかもしれないですね。
「アスロニア」には、同店オリジナルのトライアスロン用ウェットスーツ(左)もそろえる
蒔田 ランニングシューズなどは、これまで使っていたものをトライアスロンでも使用することは問題ないですが、ウェットスーツに関しては、専用モデルが必要なので必ず購入することになります。
牧野 自分はサーフィン用ウェットスーツを持っているのですが、それは使えないのでしょうか?
蒔田 まったく使えないわけではありませんが、安全性を考えればおすすめはできません。極端な話をすれば、トライアスロン用のウェットスーツは泳ぐためのもの、サーフィン用やダイビング用は防寒のためのもの、という言い方ができるでしょう。また、トライアスロン用ウェットスーツはスイム中の事故を防ぐために、浮力が高いというのが1番の特徴です。素材の中に気泡が含まれていて、浮きやすくなっているのです。
ウェットスーツのおおまかな違い。トライアスロン用は特に浮力の高さと水の抵抗の低さが特徴だ
蒔田 あとは、素材がやわらかく、ストレッチ性も高いので、スイムの動きを妨げません。浮力もあるのでスイムが苦手な人にとっては、安心・安全に泳ぐための手助けをしてくれるアイテムです。
牧野 そんな違いがあるんですね。確かに僕が所有するサーフィン用ウェットスーツは、ゴワゴワしていて動きにくいです。
蒔田 さらに言えば、トライアスロン用ウェットスーツは表面にはっ水加工が施されていて、水の抵抗を減らしてくれます。とにかく泳ぐための機能が満載なんです。逆に防寒効果はあまりありません。まったくないわけではないですが、基本的にトライアスロンは夏がメインシーズンなので、実際にそれほど防寒の必要がないんです。
あと特徴的なところといえば、2ピースタイプもあるというところでしょうか。ワンピースタイプよりも、圧倒的に着脱がしやすくなっています。
上下が分かれている2ピースタイプ。着脱がしやすくタイム短縮にもつながる
フロントジップが付いているモデルも。バックジップよりも着脱がしやすい
蒔田 さらにトライアスロン用ウェットスーツには、長袖の「フルスーツ」タイプとノースリーブの「ロングジョン」タイプがあります。
牧野 「ロングジョン」は気温が高いときのためのものですか?
蒔田 そういう意味もありますが、どちらかといえば動きやすさ、肩の回しやすさを重視したタイプです。手首まで覆われている「フルスーツ」は、「ロングジョン」に比べて浮力があるので、スイムが苦手な人だとか、気温が低いときのためのモデルです。
2ピースの「フルスーツ」を試着する牧野
サーフィン用と違って、肩が動かしやすいと感動!
「ロングジョン」も試着。「フルスーツ」よりも自然に肩が動かせる!
「フルスーツ」は浮力が高く、「ロングジョン」は肩が動かしやすい
蒔田 最後にもうひとつ。トライアスロン用ウェットスーツはオーダーメイドでも作れる、という点もあります。ユーザーのサイズを採寸して、本当にぴったりなものを作成します。
最近のモデルは既製品でも素材がやわらかく、動きやすいモデルが多いんですが、身体の部位によって素材の厚さを変えたり、パネルの組み合わせ方を変えたり、たとえば脚が沈みやすいという場合は、脚の部分を厚めに作ったりと、より泳ぎやすいようにカスタマイズできます。
牧野 それ、スゴイですね! でも身体のサイズが変わったら着られなくなったりしませんか?
蒔田 一般的に体重が2kg変わると、身体のシェイプが変わると言われています。トライアスロンを始めると身体が絞られていく人が多いので、オーダーメイドをするのは、トライアスロンを始めて1年くらいたってからでもいいかもしれません。
牧野 せっかくのオーダーがムダになりますもんね。ちなみに、ウェットスーツはどれくらいの耐久性があるんですか?
蒔田 大体、5年と言われています。特にトライアスロン用ウェットスーツは素材がやわらかいのでメンテナンスしていないと、劣化するのが早くなります。使い終わったら、専用シャンプーなどで洗ったあと、陰干ししておくと長持ちしますよ。保管する際も、折って畳んでしまうと折ったシワから劣化が進んでいくので、肩部が厚めのスーツ用ハンガーなどにかけておくといいと思います。
ウェットスーツのコンディションを長くキープするために使用する専用シャンプー(右)とソフナー(左)も発売されている
折りジワからも劣化していくので、畳んで保管する際はタオルなどを挟んでシワを防ぐように丸めて保管する
初心者としてはまず、レディメイドのモデルから使い始めて、それをもとにオーダーメイドのモデルで好みを反映させていくのが1番スムーズだろう。ということで、オーダー以外のウェットスーツも販売している「アスロニア」がイチオシする、初心者に最適で動きやすいウェットスーツを紹介していく。
レディメイドのタイプだが、S、M、ML、L、XLの5サイズ展開のため、自分にフィットするモデルが探しやすい。メーカー希望小売価格は、「フルスーツ」(左)が36,720円(税込)、「ロングジョン」(右)が34,560円(税込)
「アスロニア ゼロ」は、専門店「アスロニア」のオリジナルスーツ。水の抵抗を軽減する素材「スーパーコンポジットスキン」を採用しているほか、独自のカッティングにより水の中での動きやすさを追求している。5種類のサイズ展開、着脱しやすいフロントジップなど、レディメイドでありながら、オーダーメイドに匹敵する機能を持つウェットスーツに仕上がっている。
オーダーメイドのように、身体の部位によって素材の厚みを変更。泳ぎやすさと浮力を両立するために下半身を厚く、肩を動かしやすくするために背中の素材を薄くしている
メーカー希望小売価格43,200円(税込)。サイズはXS、S、M、ML、L、XL
ハイエンドなトライアスロンアパレルを展開するブランド、HUUB。その中でも比較的ビギナーでも購入しやすい価格帯のモデルが、この「アクシオム」。腕周りを覆う「フルスーツ」タイプなので浮力が高く、泳ぐのが苦手なトライアスリートをサポートする。もちろん気温が低いシーズンにももってこいだ。
着脱にコツが必要な背面ジップを採用したモデルではあるが、フロント側は表面がスムーズなので、水の抵抗が少なくタイムアップが期待できる。また肩周りには特に柔軟な素材を使用しており、ストロークの動きが制限されにくい。
メーカー希望小売価格は、66,960円(税込)。サイズはXS、S、M、ML、L、XL
HUUBブランドのロングセラー「イージス」シリーズの第3世代モデル。スイム中、身体のブレが大きい骨盤やお尻周りのサポートを強化する「X-Oスケルトン」構造を採用。ボディバランスが向上し、ストロークが効率化されるため、疲れにくくなる。また、ヒモを引っ張るだけで素早く開けられる「ブレイクアウェイジッパー」を搭載。
日本最大級のトライアスロン専門ショップ。蒔田さんが「国内外のブランドにこだわらず、ここにしかないアイテムを厳選して販売しています」と語る通り、オーソドックスなアイテムからマニアックなギアまで、トライアスロンに必要なギアを幅広く取りそろえる。また、トライアスロンスクールも運営しているので、初心者でも不安なくレース完走まで導いてくれる。
【店舗情報】
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷1丁目1番24号 鳩森八幡神社ビル1F
営業時間:【平日】12:00〜21:00【土・日・祝】11:00〜19:00
定休日:火曜日
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ミラソル デポルテ代表。自転車、トライアスロン、アウトドア関連のライターとしても活動中。趣味はロングディスタンスのトライアスロン。