連載バックナンバーはこちら!
“鉄人レース”とも呼ばれるトライアスロンは、過酷なスポーツというイメージが強い。そんな競技に今、ひとりの男がチャレンジしている。「価格.comマガジン」編集者、牧野(37歳)だ。トライアスロンが趣味の筆者からその魅力について吹き込まれ、ちょっと興味があるそぶりをしていたら、いつの間にかチャレンジすることに……。準備期間は1年間。果たして、超初心者の牧野は完走し、トライアスロンの魅力と感動をお届けできるのか?
いよいよ目標のレースまであと数か月。トレーニングは順調(?)にこなせるようになってきた今、そろそろレースに使用するアイテムをそろえていきたいところ。そういえば以前の取材で、レース時に着用するウェアも必要だと聞いた気が……。手持ちの自転車用ウェアではダメなのか? 今回も、困ったときに助けてくれるトライアスロンショップ「アスロニア」を訪ねて、トライアスロンウェアの選び方について聞いてみた。
今回もお話を聞いたのは、日本最大級のトライアスロンショップ「アスロニア」の蒔田(まきた)俊史さん
牧野 以前少しうかがいましたが、トライアスロンウェアは3種目の間ずっと着用していられるものだったような……。
蒔田 その通りです! 種目を切り替える「トランジション」の時間を短縮するために、1着のウェアで3種目すべてをこなせるようになっているのがトライアスロン用のウェアの特徴です。もちろん、それぞれの種目に合わせたウェアに着替えても問題ないのですが、当然時間もロスするし、その分荷物も多くなります。レースに出るなら専用の機能を持ったトライアスロンウェアを準備するのがいいと思います。
牧野 具体的にはどんな機能ですか?
蒔田 ではその機能の紹介をしていきましょう。
まずポイントになるのが素材です。撥水性を高めていること、さらに吸汗・速乾素材を使用しているのが特徴です。撥水性は最初の種目、スイム時に水の抵抗を抑えるのに役立ちます。最初の種目のスイムで全身が濡れてしまうので、速乾素材を使っていることは快適にレースを続けるために必要な要素です。
牧野 なるほど。早速ひとつ疑問なんですけど、自転車用のパンツには乗車中にお尻が痛くならないようにパッドが付いていますが、トライアスロン用ウェアにも付いているんですか?
蒔田 いい質問ですね。トライアスロン用のパンツにもパッドが付いていますよ。ランニング時、脚の動きのジャマにならないように薄手のパッドが付いています。薄い分乾きも速いので、ランニング中に水分を含んで重くなることがありません。
左が自転車用ウェアで、右がトライアスロン用ウェアのパッド。自転車用は幅が広く、厚みもある
牧野 それはよかった! 自転車に乗るとお尻が痛くなることが多くて、少し心配していたんですよ。
蒔田 さらに素材の話になりますが、日焼けを防止するUVカット素材も使用されています。日焼けによって体力が奪われるのは、もはや常識ですしね。
牧野 そうですね。まずは完走を目指す自分にとっては大切な要素です。
蒔田 あとはエネルギージェルなどが入るポケットが付いていたり、少しタイトなデザインで筋肉をサポートする機能があったりと、さまざまな種類が発売されています。
牧野 デザインもいろいろとありますよね。タンクトップ型だったり、半袖だったり。これらはただのデザイン的な違いなんでしょうか?
蒔田 形状もウェアの機能のひとつではあるんですが、どちらかと言えば好みで選ぶことになると思います。
蒔田 形状で大きく分けると、トライアスロンウェアには「ワンピース」と「セパレート」の2種類のタイプがあります。どちらかと言えば、「ワンピース」タイプはシルエットがキレイに見えます。ただ体型がはっきりと出るので、トレーニングを積んだ中級者以上が着用することが多いのですが、好みで決めても問題ありません。
「セパレート」(写真左)を上下セットでそろえるのと、「ワンピース」(右)1着の価格はほぼ変わらないので、試着してみて使いやすいほうを選ぶとよい
蒔田 「セパレート」のメリットとしては、「ワンピース」に比べてトイレに行きやすい点があげられます。「ワンピース」は、いったん上から脱がないといけないので。
牧野 緊張してトイレの回数が増えそうなので、自分は無難に「セパレート」がよさそうですね(笑)。
蒔田 あと「セパレート」は上がL、下がMというように上下でサイズを変えられるので、自分によりフィットするものを選べていいですね。
同じデザインで袖のあり/なしを選べるウェアもある
蒔田 袖あり、袖なしも選ぶ際の大きなポイントになります。袖なしのほうが昔からよく使われていたトライアスロンのスタイルです。スイムの際に「肩周りが動かしやすい」と、変わらず人気があります。
ただ近年は、袖ありのタイプの人気も高まっています。袖部分の素材はストレッチ性が高いので、特に動かしにくいということはないですね。
牧野 半袖タイプはデザイン的には自転車用のウェアに近いですね。
蒔田 確かにそうですね。あと袖ありタイプは日焼け予防のメリットもあります。先ほども話しましたが、日焼けのダメージはバカにできないところがあって、3時間ほどで終了する51.5kmのレースでも、かなり体力を消耗することになると思います。距離の長いレースに出場する予定があるなら、あらかじめ袖ありタイプにしておいてもいいかもしれません。
これらのように、トライアスロンウェアはいろいろと選ぶポイントはありますが、いずれにせよサイズ感には注意してください。基本的に身体にぴったりとフィットするものを選んでください。フィットしていないと、特にスイム時にすき間から水が侵入して大きな抵抗になります。キツすぎるのも問題ですが、サイズ感には注意してくださいね。
フロントジップを搭載しており、温度調節が簡単に行える。首回りが広いデザインのため、夏のレースにも対応可能だ。オンラインショップ価格は、トップが17,280円(税込)、ショーツが11,880円(税込)
「筋肉のムダなブレを抑える」「血流を改善して疲労の回復を早める」などの効果がある「コンプレッションウェア」で知られるブランド、ツータイムズユー。同製品は、初心者でも使用しやすいセパレートタイプでありながら、競技中に着圧効果をもたらしてくれる。
「コンプレッションウェアのブランドらしく、少しタイトな作りです。でも動きにくいわけではなく気持ちいいタイトさ。袖ありのタイプですが、肩周りも動かしやすくて泳ぎやすそう」(牧野)。
ファスナーの内側にはフラップが付いていて、ファスナーが肌に触れないように設計されている。細かい機能だが、レース中にスレることもあるため、意外とうれしい気づかい
バックポケットは、左、中央、右の3つ。それぞれは小さいが収納力は十分
パンツの裾にはシリコングリップが付属。3種目中、ズレずにフィットし続ける
どんな体型にも似合うシンプルな色づかいとデザイン。公式サイト価格は、トップとショーツともに10,800円(税込)
肌へのストレスが少ないフラットな縫い目や、ウェア内部の熱気を素早く逃がす表面の凹凸形状による快適性が特徴。フロントジップ+袖なしという初心者にも使いやすい「セパレート」タイプだ。
「オーソドックスな雰囲気ですが、ストレッチ性が高くてとても動きやすいですね。実際に走ってみましたが、ウェアがしっかりとフィットしてくれるので、とても快適でした!」(牧野)。
バックポケットは2つだが、ひとつひとつが大きいので、片側にエネルギージェル3つは収納できる
51.5kmからロングディスタンスまでカバーする汎用性の高いモデル。公式サイト価格は、30,375円(税込)
フランス生まれのトライアスロンブランド、ゼロディ。この「TTスーツ」は、さまざまな距離のトライアスロンにも対応するワンピースモデルだ。身体の各部分には、1着でそれぞれの種目が快適にこなせるように異なった素材を配置している。
「素材のストレッチ性やパネルの配置がよいせいか、ノンストレスで着心地がいいですね。スイムのテストができなかったですが、下半身に撥水性の高い素材を配置しているので、スムーズに泳げるような気がします」(牧野)。
脇の下と背中には、通気性の高いメッシュ素材を使用。肩周りが動かしやすいだけではなく、速乾性と通気性にすぐれている
フロントジップ式のため、着脱しやすい。また前面には、軽量性と伸縮性の高い素材を使用しており、ストレスフリーな着心地
ロゴ部分がシリコングリップになっているため、裾がズレにくい
長距離のトライアスロンにも対応するゲル入りのパッドを採用。薄手にも関わらず、クッション性が高い
バックジップを採用しているので、水の抵抗を抑えながら泳ぐことが可能。オンラインショップ価格は、23,760円(税込)
袖なし+ワンピースというオーソドックスなスタイルのトライアスロンウェア。コンプレッションウェアメーカーが開発しているため、着圧効果によって疲労軽減効果も期待できる。
「今回テストした中では、上位の着心地ですね。フィット感がいいし、素材の肌触りもいいので快適にレースができそう」(牧野)。
バックジップは、フロントジップに比べて少し着づらいところはあるが、気になるほどでもない。ポケットは付いていないので、短い距離のトライアスロンに向いているモデルといえる
いろいろな種類がそろうトライアスロンウェアではあるが、最終的には好みで選んだほうが快適なレースを行うことができるだろう。単純に好みと言っても、機能の好みもあるし、デザインの好みもある。ただトライアスロンウェアは、ハレの舞台で自分の気持ちを高めてくれる“衣装”のようなもの。筆者の経験上、レース中に「もうダメだ」と思ったときに、お気に入りのウェアを着ていたことで意外と踏ん張れたこともある。完走に向けて何気に重要なポイントでもあるので、気分が上がるモデルをじっくりと選びたい。
ミラソル デポルテ代表。自転車、トライアスロン、アウトドア関連のライターとしても活動中。趣味はロングディスタンスのトライアスロン。