2016年11月4〜6日で開催された自転車フェス「サイクルモードインターナショナル2016」ではロードバイクが展示の主役だったが、電動アシスト自転車も見逃せない。当イベントは“スポーツ自転車フェス”であるゆえ、電動アシスト自転車もアクティブなものばかりが並んでいた。オフロードを走行したり、山を登ったり、時速50kmで走れたりと、会場に並んだ製品を見る限り、“電動アシスト自転車=ママチャリ”のイメージは皆無だ。そんな電動アシスト自転車の最新注目モデルをピックアップするとともに、各バイクの特徴を深堀りしてお届けしよう。
国産モデルで唯一、ロードバイクタイプの電動アシスト自転車を展開しているヤマハ。2015年に誕生した「YPJ-R」は、容量を最小限に抑えたバッテリーやコンパクトで軽量なドライブユニットを採用することにより、ロードバイクの軽さを生かした走りを実現した。筆者も試乗したことがあるが、アシストがロードバイクのよさを“消して”いないところがすばらしい。車体が15.4kg(Mサイズ)と電動アシストにしては軽く仕上がっていることもあるが、モーターの介入具合が絶妙で、ペダルを踏んで加速していく心地よさもしっかり得られる。また、電動アシスト自転車では法規制により時速10kmを超えるとアシスト力が減っていくが(時速24kmでアシストがゼロになる)、スピードがある程度のってしまえばそれ以降、速度を維持するのは苦ではない。ゆえに、ロードバイクの走行で一般的に気持ちいいと言われる時速30kmの域までラクな力でもっていける、“初心者でもスポーツ自転車を気軽に楽しめる”1台だ。
“ロードバイク×電動アシスト”と言えば「YPJ-R」! アルミフレームのロードバイクに軽量なアシストユニットを組み合わせている。価格は24万8400円
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そんな「YPJ-R」をベースにカスタマイズしたモデル「YPJ-C」が、2016年10月に発売された。「YPJ-C」はバータイプのハンドルにすることで街中での乗りやすさを高めたのがポイント。ヤマハは「YPJ-C」のことを“クロスバイク×電動アシスト”と言っているが、クロスバイクとは本来、MTBのフレームにロードタイプのホイールを履かせたものを指すため、“フラットバーロード”にカテゴライズされるのでは? と少々思うところはあるものの、「YPJ」シリーズの選択肢が増えたことはよろこばしいことだ。
2016年10月に発売されたばかりの「YPJ-C」は、“ロードバイク×電動アシスト”の「YPJ-R」の基本的なフレームやドライブユニットをもとにしているが、タイヤが28Cと太いものになった(YPJ-Rは25C)。価格は19万9800円
ロードバイクのように前傾姿勢でなく、フラットな姿勢で乗れるようにバータイプのハンドルとエルゴノミック形状のグリップを採用
「YPJ-C」のバッテリーも「YPJ-R」と同じく、容量を抑えて車体を軽量にする設計となっている。アシスト可能な距離は最大48km
そのほかに気になったのは、競輪などのトラックレースで先導車をつとめるペーサーとして作られた「YPJ-K」だ。大きなバッテリーと大サイズのフロントギアを装着し、トップスピードは時速50kmを確保。ヤマハには過去に先導者として活躍した「ケイリンPAS」があり、時速60kmまでのモーターアシストを実現している。「YPJ-K」は現在試作段階なため、実用化された時の完成度が楽しみでならない。
「ケイリンPAS」よりも一般的な自転車のシルエットとなった「YPJ-K」
大きな前側のチェーンリングは迫力がある。トラック競技で使用されるモデルらしく、ギアはシングルスピード
「SPECIALIZED(スペシャライズド)」のブースでは、当イベントで一番乗ってみたいと胸が高鳴った「TURBO LEVO」と遭遇した。「TURBO LEVO」は電動アシスト自転車ながら前後にサスペンションを装備したフルサスMTBで、アシストを使って山を登り、ダウンヒルを楽しむといった使い方ができるのが魅力。街乗り用の電動アシストよりも強力なアシストを有しているので、急坂も楽に登れてしまう。ダウンヒル系のMTBコースはリフトやゴンドラを使って山の上まで搬送するところが多いが、「TURBO LEVO」なら自分の力で登れてしまうかも! ただ、残念ながら日本の電動アシスト自転車の規格には適合していないため、日本国内では未発売。公道で乗ることはできなくともクローズドのMTBコースなどでは走行できるので、ぜひ、国内でも発売してほしい。
27.5インチの太めのタイヤ(27.5プラスと呼ばれる規格)を装着した「TURBO LEVO」。日本では販売されていないが、今後は試乗できる機会を作りたいというメーカーの言葉に期待がつのる!
バッテリーがフレームと一体となったスタイリッシュなデザイン。スマートフォンと接続してパワーの出方などをセッティングすることもできる
リンク式の本格的なリアサスは、きちんと路面にパワーを伝えてくれそう
もうひとつ、MTBタイプの電動アシスト自転車を出展しているブースを発見した。オートバイメーカーでもある「Benelli(ベネリ)」のブースにあったのは、サスペンションはフロントのみだが27.5インチのタイヤを装備し、オフロードもきちんと走れそうな「TAGETE(タジェーテ) 27.5」と「ALPAN 27.5TS」。滑りやすい未舗装路での走行を考慮して、モーターはチェーンを介してアシストするタイプを採用している。SPECIALIZEDの「TURBO LEVO」のようにダウンヒルコースを駆け抜けるような性能は期待できないが、フラットなオフロード程度であれば十分に楽しめそう。2車種とも2017年春に発売予定となっている。
手前にあるのが、コンポーネントにシマノのデオーレを採用した「TAGETE 27.5」。先行100台のみ19万8000円の特別価格で発売され、以降は価格をあらためて設定することになるそう
「ALPAN 27.5TS」のコンポーネントはシマノのALTASを採用。「TAGETE 27.5」よりもアシストのレベル調整がひとつ少ない5段階となっている。価格設定は「TAGETE 27.5」同様で、先行100台のみ16万9800円
「TAGETE 27.5」「ALPAN 27.5TS」ともに、バッテリーとモーターユニットはフレームに搭載する方式となっている
それ以外にも、ヨーロッパでは市販されてるロードタイプ「E-MISANO CONCEPT」や、太いタイヤを履いたMTBタイプ「NERONEFAT CONCEPT(ネローネファット コンセプト)」も展示されていた。反響次第では日本導入も検討するそうなので、期待して待ちたい。
ホイールの軸(ハブ)にモーターを搭載するロードタイプのコンセプトモデル「E-MISANO CONCEPT」
「NERONEFAT CONCEPT」は、アルミ製のフレームに27.5プラス規格のタイヤを装備。油圧のディスクブレーキを採用している
ヨーロッパで大人気の電動アシスト自転車「BESV(ベスビー)」から2014年に登場した小径モデル「BESV PS1」は、カーボンフレームを採用した17.4kgの軽さと、スタイリッシュな見た目で日本国内でも話題を集めた。もちろんデザイン性だけでなく性能もすぐれており、前後のサスペンションと太めのタイヤで小径車が苦手とする凹凸や段差をものともせずに快適に走れることを試乗で確認した。そんな「BESV PS1」のエントリーモデル「BESV PSA1」が2017年2月に発売される。フレームがアルミ製となる以外は「BESV PS1」と違いはなく、「BESV PS1」と同じシルエットの電動アシスト自転車を9万円ほど安い価格でゲットできるのは大きな魅力だろう。
前後20インチのタイヤにサスペンション、そしてディスクブレーキも装備した炭素繊維を10層に重ねたカーボンフレームの「BESV PS1」。フル充電で90km走行できる。価格は27万6000円
同じ写真が続けて並んでいるように見えるが、こちらはアルミフレームの「BESV PSA1」。パッと見ただけでは、「BESV PS1」と見分けがつかないかも!? フレーム以外の装備や構造は「BESV PS1」と同じで、価格は18万5000円となっている
ただ、ブースでもっとも注目を集めていたのは「BESV」の最上位モデル「BESV LX1」と、日本未発売の「BESV TRB1」と「BESV CF1」だ。「BESV LX1」はMoto GPを走るレーシングバイクと同様のプロセスで製造されるアルミフレームや、スマートフォンと連携して走行履歴や経路を記録できるといった高機能なパーツやシステムが搭載されているが、筆者はロードバイクと同じホイール径700Cのタイヤを履いているところを推したい。一般的に自転車はタイヤ径や大きいほどスピードが維持しやすいが、漕ぎ出しのパワーが必要になる。いっぽう電動アシスト自転車はスピードがある一定までいくとアシスト力が減ったりゼロになってしまうものだが、スタート時の加速は得意。つまり、電動アシストと大きなタイヤ径はお互いに弱いところを補足しあえる相性のよい組み合わせなのだ。このようなことから、「BESV LX1」はとても走りやすい自転車だと想像できる。
「BESV LX1」のように700Cのタイヤを装着している電動アシスト自転車は、日本ではまだまだ少ない。価格は39万8000円
「BESV LX1」と並んで多くの人が足を止めていた、日本では発売にいたっていない2車種についても見てほしい。まず、MTBタイプの「BESV TRB1」は太めの27.5プラス規格のタイヤに前後サスペンションを装備しており、オフロードでも高いグリップを発揮してくれる。電動アシストによるパワーがかかっても、その力をしっかりと路面に伝えて走行できそうだ。そして残る1台は、ライトまで一体となったフレームが特徴的な「CF1」。モーター出力が日本の法規に対応していないため、国内発売はされていないが街中での使い勝手はよさそう。
バッテリーをビルトインした太いフレームを有する「BESV TRB1」は、バイクのような印象
「CF1」のデザインはシティバイク的だが、タイヤは700Cでコンポーネントはシマノ・デオーレ。ディスクブレーキも搭載されており、走行性能も高そうだ
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。