デノンから、サウンドバーの新しいエントリーモデル「DHT-S217」が発表された。2022年5月19日に発売予定で、価格はオープンだが、29,700円前後(税込)での実売が予想される。型番でピンと来る方も多いと思うが、本機は2019年に発売されて大ヒットした「DHT-S216」の後継モデルだ。しかし機能と音質の両面で大きく進化し、従来モデルからワンランク上にアップグレードしたとも言えるクオリティを備えているのが特徴。その詳細を紹介していこう。
まずは、DHT-S217の基本スペックから見ていこう。本機は横幅890mm・高さ66mmで、サブウーハーを内蔵するワンボディ型サウンドバー。内部に25mmツイーター、45×90mm楕円形ミッドレンジ、75mmサブウーハーを2基ずつ搭載する3ウェイ・6スピーカー設計だ。
HDMI端子は入出力が1系統ずつで、4K信号のパススルー伝送に対応。そのほかに光デジタル入力とAUX入力を装備する。ワイヤレスではBluetooth経由での音声入力にも対応(対応コーデックはSBC)。テレビとはHDMIケーブル1本で接続できるほか、スマホなどの音楽を手軽に再生して楽しめる。……という感じで、サウンドバーとしては、非常にシンプルな仕様となっている。
本体サイズは890(幅)×120(奥行)×67(高さ)mmで、重量は3.6kg
前世代モデルのDHT-S216は、2019年当時、老舗オーディオブランドならではの“Hi-Fi感覚”でチューニングを施したサウンドバーとして開発された。デノンのハイエンド製品を開発してきたサウンドマスター・山内慎一氏が音決めを行ったのも特徴で、実際にシンプルなエントリークラスのサウンドバーながら、音質のクオリティが高く評価されてヒットしたという経緯がある。
今回発表されたDHT-S217も、ホームシアターファンやオーディオファン層が満足できるような「ピュアでストレートな音質」を実現するサウンドバーという基本思想は変わらない。山内慎一氏が音決めを担当したのも同じ。さらに言うなら、実は本体デザイン、内部ユニット構成まで、DHT-S216と同じ仕様が継承されている。ネットワーク接続には非対応で音質に振り切るという割り切った仕様も従来モデルと同じだ。
内部スピーカーユニットの構成は、25mmのツイーター、45×90mmの楕円形ミッドレンジ、75mmのサブウーハーを左右それぞれ2基ずつ搭載する、3ウェイ・6スピーカーの2.2ch設計。この内部ユニットの配置やユニット自体も、従来モデルDHT-S216と同じ
では、従来モデルからの変更点はというと、まず仕様面では、新たにHDMIポートがeARC対応になった。そして立体音響「Dolby Atmos」およびロスレスオーディオのデコードに対応したことが大きい。音声フォーマットはDolby TrueHD、Dolby Digital Plus、Dolby Digital、リニア PCM(7.1ch)、MPEG-2 AAC、MPEG-4 AACをサポートし、Dolby Atmosもロスレス(Dolby TrueHD)ベースのフォーマットに対応している(なお本機は、Dolby Atmosイネーブルドスピーカーは非搭載タイプのため、Dolby AtmosはDSPによる再現となる)。
インターフェイス部の基本は従来モデルと変わらないが、上述の通りHDMIポートがeARC対応になったことは大きなポイント
SHT-S217(左)とDHT-S216(右)のサイド面。バスレフポートを設け、低域の量感を最適化する仕組みは同じだが、DHT-S217では材質がマットになったという細かい違いがある
DHT-S216(上)とSHT-S217(下)を並べて表面と底面を見比べてみると、どちらも同じ位置に下向き配置の75mmサブウーハーの開口部が見えるなど、基本構造はほとんど同じなのがわかる
実はよく見ると、平面的だった脚部の形状がDHT-S217では四角錐台に変更されており、高さが従来モデルより20%アップしていたりする。このあたりの作り込みによって低域の量感表現などがブラッシュアップされているようだ
さらに細かい部分では、同ブランドのハイエンドAVアンプと同じSoCや、上位モデルと同じ電源部のパーツを採用するなどの点で進化している
ちなみに基本のサウンドモードも従来モデルと同じで、「Movie」「Music」「Night」「Pure」という4種類を備える。「Movie」は映画、「Music」は音楽、「Night」は夜間など音量を絞る場合に適したチューニングとなるが、特に特徴的なのは最後の「Pure」モード。従来モデルのDHT-S216以降に発売されたデノンサウンドバーの全機種に搭載されているサウンドモードで、内部にあるDSPのバーチャル処理機能をバイパスする機能となる。音声信号をデコード後にクラスDアンプにダイレクト伝送して鳴らすことで、鮮度の高いピュアなサウンドを実現するというものだ。DHT-S217にも、このこだわり機能はしっかり継承された。
「Pure」モードのイメージ図。オーディオメーカーのデノンが、ハイエンドの世界で目指してきた音作りを、サウンドバーでも追求したことがわかる象徴的な機能と言えるもの
音声機能でDHT-S216と異なるのは、新しく対応したDolby Atmosに関わる部分だ。従来モデルではバーチャルのサラウンドモードとして「DTS Virtual:X」に対応していたが、DHT-S217はDolby Atmosのデコードに対応したので、代わりにDTSの音声モードは省略された。DHT-S217では、「Movie」「Music」のサウンドモードを選択した場合に、Dolby Atmosモードが自動で適用される形となる。なお「Pure」モードに設定するとDSPをバイパスするので、Dolby Atmos再生は適用されない。
つまり、DHT-S217でDolby Atmosならではの音を楽しむ場合は、「Movie」または「Music」のサウンドモードを選ぶ必要がある。なお、入力ソースがステレオ音声の場合に「Movie」「Music」を選んだときも、アップミキサーによってDolby Atmosが再現される仕組みになっている。
DHT-S217とDHT-S216のリモコンもほとんど同じで、大きく違うのはDTS Virtual:Xのボタンが省略されたことくらいだ。リモコンのボタンをワンプッシュするだけで、手軽に4種類のサウンドモードを切り替えられるほか、台詞などの音声を聞き取りやすくする「ダイアログエンハンサー」などの機能も同じリモコンで操作可能
以上がDHT-S217の基本的な製品プロフィールとなるのだが、内蔵するスピーカーユニットや本体の基本設計が従来モデルとほぼ同じと聞くと、「それではたして音質が変わっているのか?」と気になる方も多いと思う。今回、デノンの視聴室でDHT-S217とDHT-S216のサウンドを聴き比べる機会があったので、そのインプレッションを簡単にお伝えして、本記事を締めくくろう。
結論から言うと、DHT-S217は従来モデルと比較して大きく音が変わっている。というのも、デノンからは本機の上位モデルにあたる「DHT-S517」が2022年2月に発売されており、こちらも価格.comの各ショップで品切れが続くほどのヒットモデルとなっているが、DHT-S217の基本的な音質傾向はこの上位モデルに近い。つまり、デノンサウンドバーの2022年モデルとして、しっかり上位モデルゆずりの進化を遂げたエントリーモデルとなっている(もちろん製品としてのグレードは異なるので、絶対的な音の余裕や低域の量感などのクオリティは、上位モデルのDHT-S517にゆずるが)。
「Pure」モードに設定して基本となる音質をチェックしたところ、「“Hi-Fi的”な素性のよい音」という特徴は従来モデルから引き継ぎつつ、DHT-S217はさらに進化して、基本的な音の鮮度がより増しており、低域の抜けもよくなっている印象だ。上述の通り、DHT-S217はデノンのハイエンドAVアンプと同じSoCや、上位モデルと同じ電源部のパーツを採用するなど音質に関わる細部が変更されていたりするが、こういった細かい作りこみでサウンドを進化させたということだろう。
なお、「Movie」「Music」の各サウンドモードをオンにすると、サウンドが一気に左右・上下方向に広がり、低域がより豊かになる。2ch再生時は「Pure」モード、映画や音楽のDolby Atmos対応コンテンツを再生するときは「Movie」または「Music」モードといった具合に、使い分けて楽しむのがよさそうだ。
というわけで、デノンサウンドバーの新しいエントリーモデル、DHT-S217を見てきた。大ヒットモデルのDHT-S216の後継モデルとして、単に機能面でDolby Atmosやロスレスオーディオのデコードに対応したというだけではなく、基本となる音質も含めてワンランク上に進化したと言える1台。ぜひ注目してほしい。
オーディオ&ビジュアル専門サイトの記者/編集を経て価格.comマガジンへ。私生活はJ-POP好きで朝ドラウォッチャー、愛読書は月刊ムーで時計はセイコー5……と、なかなか趣味が一貫しないミーハーです。