パナソニックが展開するTechnics(テクニクス)ブランドから、完全ワイヤレスイヤホンの新モデル「EAH-AZ80」「EAH-AZ60M2」が発表された。いずれもブラックとシルバーの2色展開で、発売日はともに6月15日を予定。市場想定価格は、「EAH-AZ80」が36,600円前後、「EAH-AZ60M2」が27,700円前後だ。
「EAH-AZ80」は、「EAH-AZ70W」を上回る“80”のナンバーを冠したTechnicsブランドの完全ワイヤレスイヤホンの最上位モデルだ。有線イヤホンのような高音質を完全ワイヤレスイヤホンで実現することを目標に開発したそうで、特に音質に関わる部分にはかなりこだわったという。
Technics「EAH-AZ80」。イヤホン単体のバッテリー駆動時間は約7時間、充電ケース併用で約24時間(いずれもノイズキャンセリングオン、AACコーデック接続時)。対応コーデックはSBC、AAC、LDAC
完全ワイヤレスイヤホンの多くは、コストを抑えながら音質の向上を狙えるため、DSPなどのデジタル処理を使ったアプローチが多く用いられている。いっぽう、Technicsでは、音に味付けをせず、アーティストのエネルギー・空気感まで再現するというTechnicsの目指す音づくりを実現するために、デジタル処理のみには頼らず、アナログ・機構構造などを含めてトータルで音づくりを行うという開発手法を従来モデルから実践している。
Technicsの音づくりは、デジタル処理のみには頼らず、アナログ・機構構造などを含めてトータルで行う
最新モデルの「EAH-AZ80」においても、この開発手法を引き続き実践したそうで、音質面で従来モデルを超えることを目標に、まずはこれまで最も大きかった「EAH-AZ70W」と同じ10mm口径のドライバーユニットを使うことを決定。そのうえで、色付けの少ないきめ細かな再生と広い音場感を実現するため、振動板に有線イヤホン「EAH-TZ700」にも使われている剛性の高いアルミニウム素材を採用することを決めたそうだ。さらに、このアルミニウム振動板の特性にあわせ、ドライバーの空気の流れを精密にコントロールする「アコースティックコントロールチャンバー」や、ドライバーユニットの前面にある空間形状を最適化して高域特性をコントロールする「ハーモナイザー」を完全新規設計で作り込んだという。
振動板に有線イヤホン「EAH-TZ700」にも使われている剛性の高いアルミニウム素材を採用した10mm口径のドライバユニットを採用。このドライバー特性に合わせてアコースティックなチューニングを追い込んだ
左が「EAH-AZ80」のドライバーユニット。右の8mm口径のドライバーユニットとの大きさの違いが一目瞭然だ
また、デジタル処理による情報の欠落をなるべく発生させず、聴感上の劣化が少なくなるようにするため、サウンドモードに「ダイレクトモード」を新搭載したのも「EAH-AZ80」の大きな特徴のひとつだろう。従来モデル「EAH-AZ60」では、サウンドモードがオフだった場合も、回路的にフラットなイコライザーブロックを利用していたため、わずかに音質が劣化していたが、「EAH-AZ80」では動作をシンプル化することで音質劣化を抑制し、より自然な音体験ができるようになったそう。サウンドモードの処理内容にまで手を入れ、愚直なまでに素の音を追い込む姿勢というのは、まさにTechnicsらしさと言えそうだ。
サウンドモードに追加された「ダイレクトモード」。動作をシンプル化することで音質劣化を抑制している
とはいえ、目指す音づくりを実現するために、10mmという大口径のドライバーユニットを搭載し、それにあわせて「アコースティックコントロールチャンバー」や「ハーモナイザー」といったアコースティックな部分にも手を入れたとなると、実際の装着時に耳に収まるか気になるところだ。いくら音質がよくても、耳にしっかりとフィットしなければ、長時間快適に装着することはできない。開発担当者によれば、「EAH-AZ70W」も音質は高評価だったが、サイズの大きさから特に耳の小さなユーザーから装着感の面で候補から外れることがあったそう。そのため、「EAH-AZ80」ではこの部分にもかなり力を入れて開発したそう。
具体的には、「EAH-AZ60」(と新モデル「EAH-AZ60M2」では、イヤホン本体の小型化を行い、耳を圧迫する力で安定性を向上させるというアプローチだったが、「EAH-AZ80」では新たに「コンチャフィット」と呼ばれる形状を採用。耳を圧迫する力に頼らず、耳甲介に収まる形状とすることで、高い安定性と快適性を追求したという。この形状にたどり着くまでに300個以上の形状試作を行い、延べ234人の装着試験を実施したそうで、音質に関わるアコースティックな部分に関しても、イヤホン形状と共存できるように作り込んだそうだ。
「EAH-AZ80」のイヤホン本体。内側が独特のフォルムになっている
「EAH-AZ80」の形状試作。製品版の形状にたどり着くまでに300個以上の試作したそう
「EAH-AZ80」を装着したところ。軽い付け心地で耳からの飛び出しも少ない
イヤーピースはXS2/S2/XS1/S1/M/L/XLの全7サイズが付属。周辺部はやわらかめで耳にやさしくフィットするように、中心部の軸は硬めで遮音性をしっかりと確保できるように工夫したという
このように、音質と装着感に関して大きな進化を遂げた「EAH-AZ80」だが、ほかにも注目したい進化ポイントは多い。たとえば、ノイズキャンセリング機能まわりでは、周囲のノイズに対して高精度に処理できるデジタル処理と、デジタルよりも高速に処理でき、ノイズキャンセリングの遅延を感じにくいアナログ処理を掛け合わせた「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」はそのままに、会話帯域の中高音域のノイズキャンセリング性能を「EAH-AZ60」からさらにアップ。外音取り込みの「アンビエントモード」についても、フィードフォワードマイクの性能とフィルター性能の向上により、より高音の音が聴こえやすくなったという。
「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」は、会話帯域の中高音域のノイズキャンセリング性能が向上
「アンビエントモード」は、フィードフォワードマイクの性能とフィルター性能の向上により、高域の音が聴こえやすくなった
独自の通話音声処理技術「JustMyVoice」テクノロジーに関しても、風ノイズ環境下での発話検知マイクのロジックを変更し、従来は発話検知にのみ使っていた発話検知マイクを音声にミックスすることで明瞭度がアップ。さらに、発話音声解析アルゴリズムにも改良が加えられ、発話音声のこもり感も改善したという。
独自の通話音声処理技術「JustMyVoice」テクノロジーも進化
扇風機の前で通話を行うという風ノイズ低減のデモ。「EAH-AZ60」では内容をほぼ聴き取れないような状況だが、「EAH-AZ80」ではきっちりと声だけを拾い上げてくれる
さらに、「3台マルチポイント接続」に対応した点も見逃せないポイントだろう。テレワーク等の広がりにより、さまざまなデバイスと同時接続できる“マルチポイント”はワイヤレスイヤホン・ヘッドホンではもはや定番の機能になりつつあるが、従来型のマルチポイントは2台までの同時接続までしかサポートしていなかったのに対し、「3台マルチポイント接続」では、デバイス接続制御の見直しなどにより、スマートフォンとタブレットとノートパソコンといったように合計3台までのデバイスに同時接続(デフォルトは2台までの設定、LDACコーデックでは同時接続は2台まで)が可能となった。
ほかにも、イヤホンの装着を自動で検出する装着センサーの搭載、充電ケースのワイヤレス充電対応、イヤホンや充電ケースの充電状況をそれぞれ確認できる充電ケースへのLEDの追加など、ハードウェアの細かな進化点は多岐に及ぶ。専用アプリも、充電ケースがなくてもイヤホンの電源をオフにできるようになったり、マルチポイント接続時の接続先ガイダンスのカスタマイズができたり、音声ガイダンスのボリュームを調整できるなど、細かなアップデートが実施されているそうだ。
充電ケースにワイヤレス充電機能が追加されたほか、LEDも2つに増設され、イヤホンの充電状況と充電ケースのバッテリー残量の両方を直感的に確認できるようになった
「EAH-AZ60M2」は、型番が示すとおり、既存の「EAH-AZ60」をベースに細部をブラッシュアップした強化モデルという位置づけで、「EAH-AZ80」と共通する新機能が追加されている。
Technics「EAH-AZ60M2」。イヤホン単体のバッテリー駆動時間は約7時間、充電ケース併用で約24時間(いずれもノイズキャンセリングオン、AACコーデック接続時)。対応コーデックはSBC、AAC、LDAC
イヤホン本体のデザインについては、既存の「EAH-AZ60」とほぼ同じで、ハードウェア的には、イヤホンの装着を自動で検出する装着センサーが新たに追加されている。音質面では、サウンドモードへの「ダイレクトモード」の追加が「EAH-AZ60」からの進化点だ。
「EAH-AZ60M2」のイヤホン本体。装着センサーが新たに追加されたが、形状は従来の「EAH-AZ60」からほぼ変更はない
ノイズキャンセリング機能は、「EAH-AZ80」にあった中高音域のノイズキャンセリング性能アップこそないが、フィードフォワードマイクの性能引き上げとフィルター性能の向上による「アンビエントモード」の精度改善は「EAH-AZ60M2」にも搭載。独自の通話音声処理技術「JustMyVoice」テクノロジーは、発話音声解析アルゴリズム改良が盛り込まれた。このほか、「3台マルチポイント接続」への対応、充電ケースのワイヤレス充電対応、イヤホンや充電ケースの充電状況をそれぞれ確認できる充電ケースへのLEDの追加も、「EAH-AZ80」と共通する進化ポイントだ。
最後に、「EAH-AZ80」「EAH-AZ60M2」ファーストインプレッションをお伝えしよう。
さっそく「EAH-AZ80」から試してみたが、まず一番驚いたのが装着感だ。ノイズキャンセリング機能搭載の完全ワイヤレスイヤホンは、遮音性を高めるためにイヤホンを耳にギュっと押しける形で装着する製品が多く、耳にイヤホンを装着している感覚がしっかり現れることが多いのだが、「EAH-AZ80」は比較的軽い付け心地で、耳への負担はかなり少ないなというのが正直な感想だ。耳からの飛び出しも少なく、10mmの大口径ドライバーユニットを搭載して音質を追求したモデルとしてはなかなかよくできていると思う。
肝心の音質については、クリアネスなサウンドが特徴的で、低域も余計な付帯音がなく、迫力がありながらヌケもあって気持ちよく鳴ってくれるし、ボーカルも声のニュアンスがしっかりと感じ取れる。楽器の音色や響きもとてもきれいで心地よい。「ダイレクトモード」に切り替えてみると、S/Nがさらに向上し、細部のニュアンスがよりくっきりと感じられるようになった。
続いて「EAH-AZ60M2」を試してみたが、こちらは「EAH-AZ80」以上に「ダイレクトモード」の効果が顕著だった。特に低音域でかすかに感じ取れた濁りがなくなり、楽曲全体の見通しがとてもよくなった。「EAH-AZ80」もだが、音質を重視するなら「ダイレクトモード」は常にオンで運用するのがよさそうだ。
AV家電とガジェット系をメインに担当。ポータブルオーディオ沼にどっぷりと浸かっており、家のイヤホン・ヘッドホンコレクションは100を超えました。最近はゲーム好きが高じて、ゲーミングヘッドセットも増えてます。家電製品総合アドバイザー資格所有。