JVCケンウッドから、ビクターブランドの家庭用高級プロジェクター「DLA-V900R」「DLA-V800R」が発表された。メーカー希望小売価格は、それぞれ2,970,000円(税込)と1,650,000円(税込)。
上が「DLA-V800R」で、下が「DLA-V900R」。筐体とレンズは従来モデル「DLA-V80R」「DLA-V90R」と同じ
AVマニアであれば、型番を耳にしただけでおおよそのスペックは想像がつくだろう。どちらも液晶パネルに4KのD-ILA(反射型液晶)素子を使い、「8K/e-shiftX」技術で8K(8,192×4,320)解像度表示を実現するハイグレードモデルだ。
新製品の大きな進化ポイントは液晶パネルが第3世代モデルへ変更されたことと、レーザー光源の出力アップ、それにともなう信号処理のアップデート。パネルも光源もプロジェクターにおける重要パーツであり、基礎体力の向上が望めるありがたいアップデートと言える。
「DLA-V800R」のリアパネル。HDMI入力2系統など、インターフェイスも従来モデルと同じ。「DLA-V900R」も同様だ。HDMIでは最大48Gbps信号の入力に対応。8K(7,680×4,320)/60pや4K/120p信号にも対応する。背面吸気/前面排気という仕様も変わらない
昨今は手軽に大画面で映像投写できる小型プロジェクターが人気になっているものの、それらの価格は高くても20〜30万円前後。その中で「DLA-V800R」「DLA-V900R」の値付けは破格だと言える。
なぜそんなに高いのか、と言えば投写に使う液晶パネル、光源のレーザー、レンズなど主要パーツをはじめ、すべてにコストが掛かっているから。そしてそれらの資源はすべて画質のために投入されている。
置きたい場所に置いて、おしゃれに映画……という世界観とは無縁の画質特化型プロジェクター「DLA-V900R」
現在価格.comで人気の小型/モバイルプロジェクターの多くはDLP方式と呼ばれるもので、この方式に使われるパネル(DMD)の解像度はフルHD(1,920×1,080画素)かそれに準じたものに限定されている。いっぽう、「DLA-V800R」「DLA-V900R」に使われるパネルの解像度は4K(4,096×2,160画素)。DLP方式が悪いわけではないのだが、家庭用ソリューションとして4Kパネルが提供されていないので、この時点から画質への優先度が異なるのだ。
小型プロジェクターでもレーザー光源を使っているモデルも登場してはいる。寿命が長く、明るい映像を得やすいレーザー光源にコストを集中投下すれば、割とバランスのよい、コストパフォーマンスにすぐれた製品を生み出せるというわけだ。ただし、レンズなどには基本的にコストは割かれていない。カメラに詳しい方には共感していただけるはずだが、物理特性を追い込むのに非常にコストがかかるからだ。
「DLA-V800R」「DLA-V900R」は“安くてもよいもの”を求めるという世界観でのコストパフォーマンスとは無縁だが、こういった突き詰めた高級機にしか実現できない世界があり、そこに魅力があることも事実。製品の発売前に短い時間両機の画質に触れたのだが、自分のこととしてプロジェクターの買い替えを考えているくらいなのだから……。
なお、DLP方式でも「4Kプロジェクター」はあるものの、上記のとおりパネル解像度はあくまでフルHD。一般的に「画素ずらし」と呼ばれる方法で映像を時分割表示して(高速でフルHD映像を複数投写して、1枚の4K映像を作るイメージで)4K解像度の表示を実現している。4K映像信号の入力ができて、4K映像の表示ができるので「4Kプロジェクター」というわけだ。
同じロジックで言えば、「DLA-V800R」「DLA-V900R」は4Kパネルで「画素ずらし」を行う8Kプロジェクター(8K/60p入力にも対応)であり、その意味でもほかの家庭用プロジェクターとは一線を画している。
前置きが長くなったが、以下に新製品の特徴を列挙していく。まずお伝えしたいのは、液晶パネルが新規仕様であること。JVC/ビクターが独自で開発する反射型液晶素子「D-ILA(ディーアイエルエー)」の4K(4,096×2,160画素)版が第3世代モデルとなった。先代との違いは、液晶の配向制御性を高めて、画素の平坦性が向上したこと。パネル自体のネイティブコントラストで言えば、先代から約1.5倍ものコントラストを得ているという。
また、コントラストを向上させて黒が沈むほど平坦性が気になるもの。そこで製造工程を見直して、ムラ(平坦性)の改善にも取り組んだそうだ。
0.69型の第3世代「4K D-ILA」を搭載。「DLA-V900R」のネイティブコントラストは15万:1、「DLA-V800R」は10万:1。どちらも従来モデルから大きく数値を向上させている(従来モデル「DLA-V90R」は10万:1、「DLA-V80Rは8万:1」)
レーザー光源を搭載することとその名称「BLU-Escent Laser」は従来モデル同様だが、新世代の光源を使い、3,300ルーメンの数値を実現。現在も(JVCブランド時代からの)フラッグシップモデルとして位置付けられる「DLA-Z1」をもしのぐ数値。同社製プロジェクターで最も明るいプロジェクターとなった。
発光効率の面でも少しずつ向上していることに注目。「DLA-Z1」は冷却用ファン音がかなり大きいため、新製品には明るさだけでない使いやすさがありそうだ
新たな液晶パネルを採用したこととあわせて手を入れられたのが「画素ずらし」技術のひとつである「8K/e-shiftX」。4K解像度を持ったパネルの1画素を上下左右の4方向に0.5画素ずつ“ずらし”て高速表示。8K解像度を得るというものだ。
これまでは8Kへのスケーリングをシンプルに行っていたところ、まずは斜めに画素がずれた画像を生成してオリジナル画像と比較、演算。その後に超解像の適用処理を行う。最後に画像のエッジリンギングの低減処理を実施。この手順を踏むことで、単純なスケーリングで映像が“なまって”しまうことを避けられるという。
パネル解像度は4Kだが、「画素ずらし」で8K表示が可能。「DLA-V900R」「DLA-V800R」は、8K/60p入力にも対応する8Kプロジェクターなのだ
下段が新しい超解像処理の手順イメージ
中央が従来の処理で映像が“なまって”しまう例。右の新処理ではそれが回避できるという
効果のイメージ。左が従来処理で右が新処理
HDR(HDR10)入力時、黒の沈み込みをコントロールするという「Deep Black Tone Control」機能も新機軸だ。担当者によれば、さまざまなHDR10コンテンツを確認したところ、黒の光り出し、最暗部と呼べる部分にはほぼ映像と呼べる情報は入っていなかった。そこで、情報のない最暗部についてはあえて意図的に黒く沈めてしまうことで、見た目のコントラスト感を向上させるという。
夜空など、暗い中に明るい情報が点在する絵柄などに有効な機能と言えるだろう
また、HDR映像再生時にシーンやフレームに応じた最適なトーンマッピングを行う「Frame Adapt HDR」については従来モデルと同様。これまで「HDRレベル」を「Auto」モードとしておくと「Max CLL」(コンテンツの最大輝度)を参照して最適化を図っていたが、新たに「DML」(Max Display Mastering Luminance=マスタリングモニターの最大輝度)を参照するようになった。
「Max CLL」は意図しないノイズのような情報を拾ってしまうことがあり、マスタリングモニターが想定している1,000nit(もしくは4,000nit)を超える数値が散見されるという。基本的にマスタリングモニターを超える輝度では編集されないだろう、というきわめてまっとうな発想だ。ちなみに、「DML」の数値は多くのコンテンツが持っているものだという。地味だがありがたいアップデートだ。
もうひとつの新機軸として面白いのは、SDR再生時の映像モードに「Vivid」が新設されたこと。これはアニメなどビデオ系のコンテンツ再生時に、より鮮やかさを強調するモード。従来のJVC/ビクター製プロジェクターでビデオ系コンテンツを再生するならば、推奨されるのは「Natural」だった。色温度はしっかり6500Kを基準として、忠実なsRGBの再現を目指した間違いないモードだと言える。
しかし、昨今のテレビアニメ作品などを見るにはどうしても地味だと思われる節があったという。そこで企画されたのが「Vivid」モード。色を鮮やかに見せて、色温度も7500Kへ変更、ガンマもよりコントラスト感が出るように明暗差をつけるなど、“映え”重視と言える構成だ。ビクター流のアニメモードと言ったところだろう。
新製品のネイティブコントラストが向上したことは前述のとおり。いっぽうでレーザー光源を瞬時に絞り、画面のコントラストを最適化するダイナミックコントラストについては元々数値のうえでは無限大だった。
しかし、レーザー光源を搭載するプロジェクターのこうしたダイナミック制御がすべてすばらしく効果的なわけではないことには注意したい。映像に合わせてリアルタイムで調整されるので、その動きが気になってしまうことがあるのだ。ビクターではコントラスト感を出す方向の「強」、穏当な「弱」というモードを用意していたが、これに「バランス」を追加した。
「強」「弱」はピーク輝度を中心に参照していたそうだが、「バランス」ではAPL(Average Picture Level=平均輝度)も重視するという。
メーカーとしては図のような使い分けを想定しているとのこと
レンズについては従来モデルから変更されていない模様。「DLA-V900R」は16群18枚オールガラスレンズを搭載。「DLA-V800R」は15群17枚のオールガラスレンズを搭載。このあたりが両機の大きな違いだ。
レンズシフト幅にも差があり、「DLA-V900R」は上下100%、左右43%のシフトが可能。「DLA-V800R」では上下80%、左右34%のシフトが可能。画質のためにはあまり使わないほうがよいが、設置環境によってはこのシフト幅が有用だろう。小型プロジェクターの定番になりつつある、オートフォーカスなどはもちろん搭載しない
“お買い得感”のある(!?)「DLA-V800R」
で、最終的に画質はどうなのか? これがいちばん気になるところなのだ。どちらでも説明どおりにコントラストが向上している印象はあったのだが、より感心したのは「DLA-V800R」のほう。
先代の「DLA-V80R」と「DLA-V90R」を横並びで見ると、確かに「DLA-V80R」の画質はすばらしいけれど、「DLA-V90R」には勝てないな……というちょっとネガティブな印象も持ったものだったのだ。それが「DLA-V800R」では、セカンドモデルでよくぞここまで……という映像の力強さがあるなと感じられたのだ。いや、もちろん「DLA-V900R」に勝っているわけではないが。
新たなロジックで動くスケーリング/超解像の効果も顕著だった。「DLA-V900R」で効果を見る限り、顕著すぎるのではないかと心配になるほどだ。それを見越してか、もちろん超解像の効果は調整可能。デフォルトの「5」から担当者の好みだという「3」まで下げると、見慣れた感のある映像で少し安心する。
短い視聴時間ではあったが、フィルム撮影の古めの映画を再生してもグレインと干渉するような不穏な動きも見られなかったので、かなり使い出のある機能ではないだろうか。
超解像の効果は任意に調整可能
新機能のデモンストレーションを中心に受けたのだが、”あえて黒を沈める”という新機能「Deep Black Tone Control」の効果もてきめん。家庭用プロジェクターでの映画/映像再生を研究し続けているJVC/ビクターならではのうまい“味付け”機能だと思う。
映像のリニアな再現という発想からは少し外れるものの、Ultra HDブルーレイ「インターステラー」のワームホールシーンは、没入感がグッと増す印象。120インチのスクリーンで見ると、黒が締まっているな、という気持ちよさだけでなく、トータルの印象変化にまでつながる大きな効果があると感じられた。
“味付け”という意味では、「Vivid」モードもよくできている。色温度まで変えてしまうのはどうなのか? という心配もあるとは思うが、下品にはならない節度のある味付けで、確かにブルーレイ「すずめの戸締まり」がより魅力的に見えた。アニメに限らず、ビデオ系のコンテンツに広く使えそうなモードだ。
「Vivid」という名称ではあるが、一般的なテレビやプロジェクターでありがちな店頭モードとは異なる。テレビアニメシリーズにもよくフィットしそうだ
というわけで、「DLA-V800R」と「DLA-V900R」は主要ハードウェアを刷新して、新機軸となる機能も追加した意欲作だ。「DLA-V80R」「DLA-V90R」ユーザーは買い替え必至、というものではないにしても、10年以上前のフルHD素子のJVCプロジェクターユーザーである筆者を「そろそろ、買い替えか……」という気持ちにさせるほどの魅力はあった。
気になることと言えば、有機ELテレビと従来モデルの中間のようだな、とすら感じさせた解像感をうまく飼い慣らせるかどうかと、もう少し安価な「DLA-V70R」の後継機は登場しないのか、この2点だ。
前者はいろいろ遊び甲斐がありそうだというポイントでもある。後者はドイツのオーディオショー「HIGH END 2024」で「DLA-V800R」相当のモデルが15,999ユーロ、「DLA-V900R」相当のモデルが25,999ユーロと発表されていたのだから、日本国内での購入はすでにお買い得感があるのだが……。このあたりも含めて静観しつつ、ともすればそのうちに購入レポートもお届けしたいと思う。