TVS REGZAが2024年の4K有機ELテレビフラッグシップモデル「X9900N」シリーズを発表した。サイズ展開は65V型、55V型の2つで、どちらも2024年7月12日発売。各モデルの市場想定価格は以下のとおり。
「65X9900N」 65V型 市場想定価格646,800円前後
「55X9900N」 55V型 市場想定価格481,800円前後
年初の「CES 2024」についての情報のとおり、「Micro Lens Array Plus(MLA+)」技術を使ったLGディスプレイ製最新有機ELパネルを搭載したモデルと見て間違いないだろう。
なお、年初のメッセージのとおり、TVS REGZAは「有機ELも本気、Mini LED液晶も本気」とのこと。有機ELテレビとMini LEDバックライト搭載液晶テレビを「ふたつのレグザ最高峰」として展開していく構えだ。Mini LEDバックライトを搭載した液晶テレビのフラッグシップモデル「Z970N」シリーズについては別記事にて紹介する。
TVS REGZAのテレビブランド「REGZA(レグザ)」として、有機EL、液晶テレビそれぞれの高峰モデルを用意する。4K液晶テレビのフラッグシップモデル「Z970N」シリーズは75V型、65V型の2モデル
独自構造を採用した有機ELパネルは、放熱用のシートが3層重ねられている
冒頭のとおり、「X9900N」シリーズで注目されるのは、有機ELパネルが最新版となったこと。説明上は最新の「マイクロレンズアレイ有機ELパネル」とされていて、これは「CES 2024」で発表されたLGディスプレイ製の「MLA+」のことだろう。効率よく光を取り出すため、従来のパネルよりも明るい映像を得られることが大きな特徴だ。
TVS REGZAでもピーク輝度で言えば2,000nit程度は出せるとしており、これは従来モデル(「X9900M」シリーズ)の約2倍だという。全白信号の場合でも従来モデルから約1.3倍の輝度を確保しているそうで、やはりこの明るさの向上が「X9900N」シリーズの要所と言えそうだ。
ご存じの方も多いと思うが、LGディスプレイ製の有機ELパネルは「WRGB」による「ホワイトOLED」と呼ばれることがある。「RGB」は赤緑青(Red、Green、Blue)のことで、「W」は白(White)のこと。ホワイト系の単色発光パネルのピクセルごとにRGBとWのフィルター(カラーリファイナー)を被せてフルカラーを得るという仕組みだ。
Wのフィルターは明るさを補うための役割があるのだが、純度の高い色を取り出すためにはRGBだけを使ったほうがよさそう、と何となく思っていただけるだろう。そこで役立つのが絶対的な輝度の向上だ。RGBのサブピクセルだけを使った場合でもかなりの明るさを得られるようになり、色再現の面でも有利になっているという。
映像が明るければ高画質というわけではないが、基礎体力が上がっていることは間違いなく、これをどう使うかがTVS REGZAの腕の見せ所というわけだ。
また、有機EL層の裏側に放熱用のシートが3層重ねられていることもポイント。1層目の「熱伝導アルミシート」は主に有機EL層の熱を全体に分散させる役割で、2層目に配置される厚みのある「熱伝導アルミプレート」でそれを放熱していく。3層目の「熱伝導アルミプレート」はさらに裏側に配置されている映像処理エンジンや電源からの熱をシャットアウトし、放熱する役割を果たしているという。
基礎体力の上がったパネルを制御するのが、オリジナルの映像処理エンジン「レグザエンジンZRα」。このあたりはCESでの展示説明のとおりだが、AIによる映像最適化が進化した大きなポイントだという。
これまでコンテンツタイプをベースに最適化を図っていたところ、この「レグザエンジンZRα」では、映像におけるシーンの判別をリアルタイムで行う。
たとえばAIが夜景のシーンだと判別した場合、映像の小さな面積の光をより輝かせ、暗い部分を沈める……という適応的な処理を行う。コンテンツに応じた最適化であるため、そもそもの判別の精度が高くなければ成り立たない機能だと言える。
夜景や花火のデモ映像を見る限り、シーン判別の機能はかなり有効で、「AIシーン高画質」をオンにすると、コントラスト感がグッと増して、かなり“映える”映像へと変化していた。
AIによるシーン判別を行う機能は「AIシーン高画質PRO」と呼ばれる
写真上のように「AIシーン高画質」機能はオン/オフが可能。機能をオンにすると、下のようにモードの表示がされていた。このときのデモ映像はまさにリング競技だ
映像の最適化は明るさだけでなく、色の表現にも及ぶ。こうした映像信号処理、パネル操作を含む処理を「有機EL高コントラストテクノロジー」と呼んでいる
また、有機ELテレビならではの暗部階調表現についても言及された。「X9900N」シリーズでは、ディザリング(意図的にノイズなどの加工をして、視覚的な滑らかさなどを得る処理のこと)のアルゴリズムを改めて、暗部での階調の滑らかさを改善しているという。
有機ELテレビの魅力と言えば暗部の表現力であるため、このあたりの処理が画質マニアにとっては重要になりそうだ。
「X9900N」シリーズではディザリングのアルゴリズムを改めて暗部階調の滑らかさを向上させているとのこと
ここまでは主に「X9900N」シリーズだけの特徴、従来モデルからの進化点を紹介してきたが、もちろんレグザに共通する高画質化技術をもれなく搭載している。やはりAIによる画質の自動最適化がポイントで、誰にとっても使いやすく、その恩恵を享受しやすいテレビを目指しているということだろう。
テレビ放送番組のようにジャンル情報を取得できないネット動画の再生時でも、AIが映像を自動判別して最適化を図る。これを「ネット動画ビューティPRO」と呼んでいる
データ容量が限られがちなネット動画では、「バンディング」と呼ばれる等高線状のノイズが発生しやすい。これを抑えるのが「ネット動画バンディングスムーザーPRO」
バンディングノイズ処理の際には人物や人の顔を検出して、そこに処理をしないなど、違和感が生じないように工夫されている。こちらは人物検出のデモ映像。検出された人物の部分がピンク色で表示されている
レグザおなじみの「クラウドAI高画質テクノロジー」を搭載。TVS REGZAが人力で放送番組をチェックし、基準から大きく外れた「偏差」を補正するもの。特に地上デジタル放送をよく見るユーザーは注目したい機能だ
目に付きやすい肌のカラーシフトを補正するのが「ナチュラルフェイストーンPRO」だ
映像の解析だけでなく、室内の環境に応じた映像最適化も行う。「おまかせAIピクチャーPRO」では、室内の明るさ、色温度、外光の影響に加えてコンテンツの種類を総合的に判断して最適化を施す
「X9900N」シリーズにはミリ波レーダーで視聴者を感知し、画面までの距離に応じた画質・音質の最適化を行う機能がある。これは2023年のレグザ(「X9900M」「Z970M」シリーズ)から搭載していた機能だが、その精度が向上したという。
視聴者がテレビの近くにいる場合はノイズを抑えて自然に見えるように映像を処理し、逆に離れている場合は精細感を高めてメリハリを感じやすいように強めの処理をする
ミリ波レーダーが基準にするのは、いちばん前にいる視聴者だ
フラッグシップモデルとあって、スピーカーシステムも豪華。上向きや横向きなど合計18個のスピーカーユニットを独立したアンプで駆動する
こちらがスピーカー配置のイメージ
さらに、各スピーカーを個別に最適化し、その後に合算する。こうすることでより緻密な補正をするのが狙いだ
環境に応じた音質の最適化機能「オーディオキャリブレーションPRO」を搭載。リスニングポイント(リモコンを持って計測した位置)までの各スピーカーからの音の到達時間も計測し、補正する点が新たに採り入れられたポイント
指定したチャンネルの番組をすべて録画できる「タイムシフトマシン」(いわゆる全録)機能も搭載。「X9900N」も「Z970N」も画質だけでなく録画機能の充実が見逃せないポイントとなっている
“推し活”仕様の録画機能は先行した「Z870N」シリーズと同様。登録しておいたアイドルや俳優が出演した番組を自動でリスト化してくれる
最近では、テレビ放送番組がネット動画サービスでも視聴できるようになっていることも多い。そこで、選んだ番組がネット動画サービスでも配信されているかどうか、一目でわかるようアイコンが付くという機能も搭載した
各種ネット動画再生にも対応。リモコンのダイレクトボタンも充実している。また、リモコンはBluetoothでの操作に対応。テレビのほうを向けなくても操作できるようになった
スマホのミラーリングも簡単。iPhone(iOS)からもAndroid端末からもスムーズに接続できる
ゲーム対応機能として、144Hz駆動に対応。そのほか写真のゲーミングメニューが用意され、現在の映像情報などを随時確認できるようになっている
「X9900N」「Z970N」シリーズは回転スタンドを採用。簡単に画面の角度を調整できるので、広いリビングなどでの使用に便利だろう
2023年モデルの有機ELテレビを振り返ると、主要メーカー各社のフラッグシップモデルは、サムスンディスプレイの「QD-OLED」もしくはLGディスプレイの「MLA」パネルを使った“明るい”有機ELを訴求していた。TVS REGZAの2023年モデル「X9900M」シリーズはと言えばそれらの高輝度パネルを採用しておらず、どうしても一歩譲るところがあったのは事実だろう。
2024年モデル「X9900N」シリーズは最新の高輝度「MLA+」パネルを採用し、他社製有機ELテレビと比べても少なくともスペック上は見劣りする部分はない。しかも画質や音質の最適化機能が充実しているうえ、テレビひとつで全録が可能な「タイムシフトマシン」を搭載している。これほど商品力の高いテレビはなかなかないだろう。
繰り返しにはなるが、明るければ高画質というものではない。それでも基礎体力を増したTVS REGZAの新フラッグシップモデルに注目しないわけにはいかないだろう。また別の記事にて、画質についての詳細レビューをお届けしたい。
最後に、担当者から聞いた裏技的な“モノクロモード”も紹介しておこう。「映画プロ」モード時に「色の濃さ」を「-50」まで下げると、完全に色が抜けて、グリーンにもレッドにも傾かないモノクロ映像が表れるというものだ。
「何それ?」と思われるかもしれないが、映画マニアにはなかなか有用な機能だ。そもそもモノクロ映像をちゃんとモノクロとして表示するのはなかなか難しく、素材の時点でグリーンやレッドに“寄って”いるものもあるだろう。こうしたマニアックな機能を忍ばせてくれるのもレグザならでは。モノクロ映画を見る機会は少ないかもしれないが、ユーザーはぜひ試してみてほしい。
なお、この仕様になっているのは「X9900N」シリーズのみ。液晶テレビでは画面の均一性(ユニフォーミティ)を確保するのが難しいからのようだ。つまり、「X9900N」の素性のよさと、その自信が表れた機能なのだ。
対象の映像モードは「映画プロ」のみ
「色の濃さ」を「-50」とすると、完全にモノクロになる。「-49」との違いは明らかだった