TVS REGZAがMini LEDバックライトを搭載した4K液晶テレビ「Z970N」シリーズを発表した。サイズ展開は75V型、65V型の2つで、どちらも2024年7月12日発売。各モデルの市場想定価格は以下のとおり。
「75Z970N」 75V型 市場想定価格660,000円前後
「65Z970N」 65V型 市場想定価格495,000円前後
「Z970N」シリーズは、「REGZA(レグザ)」ブランドにおける4K液晶テレビのフラッグシップモデルに位置づけられており、有機ELテレビのフラッグシップモデル「X9900N」シリーズと合わせて「ふたつのレグザ最高峰」として展開される。「X9900N」シリーズの詳細については以下関連記事を参照いただきたい。
TVS REGZAは、有機EL、液晶テレビそれぞれの高峰モデルを用意する。4K有機ELテレビのフラッグシップモデル「X9900N」シリーズは65V型、55V型の2モデル
4K液晶パネル自体は144Hz駆動に対応する倍速仕様。Mini LEDバックライトと量子ドット技術で高コントラストと色の高再現性を目指している
年初の「CES 2024」で発表されていたように、「Z970N」シリーズはハードウェア的にもソフトウェア的にも進化したMini LEDバックライトを搭載することが特徴だ。
従来比(2023年モデル「Z970N」シリーズ比)で約1.3倍の輝度を得られるというMini LEDバックライトを採用し、明るさを確保。ピーク輝度で言えば、従来は2,000nit程度だったところ、「Z970N」シリーズは3,000nitを実現しているという。表面は斜めから見たときに色の変化が少なくなるように「広視野角ワイドアングルシート」で処理。さらに映り込みを減らす「低反射ARコート」が施されている。
細かなバックライト(Mini LED)を個別に駆動して高コントラストを目指し、広い視野角が得られるように表面処理を施す。このあたりは、現在の液晶テレビとしてできる高画質のための施策を盛り込んだハードウェア的な正攻法と言えるだろう。
新映像処理エンジンの採用「CES 2024」で告知されていたとおり。映像処理能力を向上させた「レグザエンジンZRα」を搭載し、AIによる映像最適化処理を進化させている。これまでコンテンツタイプをベースに最適化を図っていたところ、「レグザエンジンZRα」では、映像におけるシーンの判別をリアルタイムで行う。
こうした処理は有機ELテレビのフラッグシップモデル「X9900N」シリーズと共通だ。
AIによるシーン判別を行う機能は「AIシーン高画質PRO」と呼ばれる
Mini LEDバックライトをよりダイナミックに制御することが「Z970N」シリーズの重要ポイント。バックライトのコントローラー自体も新規とのこと
「Z970N」シリーズのソフトウェア面での大きな進化は、「レグザエンジンZRα」によるパネルコントロールの方法だ。LEDの点灯時間だけでなく、電流を制御することでこれまでよりも高いコントラストを得ようとするもので、これを「Mini LED高コントラストテクノロジー」と呼んでいる。
上の写真のように、暗部についてはLED点灯のための電流を“絞り”、その余剰分を明部(ピーク部)に振り分けるイメージ。これまでもバックライトを“絞って”、その余剰分でピーク輝度を上げるように動作はしていたそうだが、それは「画面全体」に対して行われるような動きだった。全体としては明るい方向にはなっていたものの、どうしても黒の締まりが悪くなったように見えることがあったという。
そこで「Z970N」シリーズでは、余剰分の振り分け先を明部だけに限定することで、暗部はより“締まり”、明部はより明るくなる、そういう動きを実現できたそうだ。
左が2023年モデル「65Z970M」で、右が新モデル「65Z970N」。デモンストレーションの夜景のシーンでは、「65Z970N」の黒の“締まり”(黒らしさ)が印象的だった。ピークが伸張されるよりも、しっかり黒が“締まる”効果が大きそうだ
ちなみに、こちらはMini LEDバックライトの動作デモ映像。花の映像を映し出すとき、画面右のように局所的にバックライトを点灯させており、暗い部分とのコントラストを確保している。こうした動きができることがMini LEDバックライトの根本的なメリットと言える
映像表示のためのデバイスが異なるとはいえ、映像処理エンジンが共通である「X9900N」シリーズと基本的な映像処理機能は共通している。繰り返しになってしまうため、詳細は「X9900N」の記事も参照いただきたいが、以下にダイジェストで紹介しよう。
テレビ放送番組のようにジャンル情報を取得できないネット動画の再生時でも、AIが映像を自動判別して最適化を図る「ネット動画ビューティPRO」
データ容量が限られがちなネット動画では、「バンディング」と呼ばれる等高線状のノイズが発生しやすい。これを抑えるのが「ネット動画バンディングスムーザーPRO」
「クラウドAI高画質テクノロジー」はTVS REGZAのスタッフが人力で放送番組をチェックし、基準から大きく外れた「偏差」を補正するもの
目に付きやすい肌のカラーシフトを補正するのが「ナチュラルフェイストーンPRO」
室内の環境に応じた映像最適化が「おまかせAIピクチャーPRO」。室内の明るさ、色温度、外光の影響に加えてコンテンツの種類を総合的に判断して最適化を施す
ミリ波レーダーで視聴者を感知し、画面までの距離に応じた画質・音質の最適化を行う機能も搭載している。視聴者がテレビの近くにいる場合はノイズを抑えて自然に見えるように映像を処理し、逆に離れている場合は精細感を高めてメリハリを感じやすいように強めの処理をする
スピーカーシステムは「X9900N」シリーズとは別物で、11ユニットをマルチアンプ駆動する仕組み。比較すると少し規模は小さいものの、上向き、横向きのスピーカーを搭載して、音の広がり、画面との一体感を生み出す
こちらがスピーカー配置のイメージ
各スピーカーを個別に最適化し、その後に合算する仕組みは「X9900N」と共通。より緻密な補正をするのが狙いだ
環境に応じた音質の最適化機能「オーディオキャリブレーションPRO」を搭載。リスニングポイント(リモコンを持って計測した位置)までの各スピーカーからの音の到達時間も計測し、補正する点が新たに採り入れられたポイント
指定したチャンネルの番組をすべて録画できる「タイムシフトマシン」(いわゆる全録)機能も搭載。「X9900N」も「Z970N」も画質だけでなく録画機能の充実が見逃せないポイント
“推し活”仕様の録画機能は先行した「Z870N」シリーズと同様。登録しておいたアイドルや俳優が出演した番組を自動でリスト化してくれる
選んだ放送番組がネット動画サービスでも配信されているかどうか、一目でわかるようアイコンが付くという機能も搭載した
各種ネット動画再生にも対応。リモコンのダイレクトボタンも充実している。また、リモコンはBluetoothでの操作に対応。テレビのほうを向けなくても操作できるようになった
スマホのミラーリングも簡単。iPhone(iOS)からもAndroid端末からもスムーズに接続できる
ゲーム対応機能として、144Hz駆動に対応。そのほか写真のゲーミングメニューが用意され、現在の映像情報などを随時確認できるようになっている
「X9900N」「Z970N」シリーズは回転スタンドを採用。簡単に画面の角度を調整できるので、広いリビングなどでの使用に便利だろう
複数のテレビメーカーの発表会に参加して耳にするのは、Mini LEDバックライト搭載の液晶テレビシェアが伸びているということ。有機ELテレビよりは安価でありながら、高コントラスト化を果たしていて、“枯れた”技術をベースにしているという安心感もある。ユーザーがMini LEDバックライト搭載液晶テレビを指名買いすることもうなずける話だ。発表会のデモンストレーションという限定された状況ではあるが、「Z970N」シリーズのコントラスト感の向上を見てそれが強く感じられた。
ここで立ち止まって考えていただきたいのは、根本的なところでの有機ELの優位性について。画素単位で光をコントロールするため、黒の黒らしさは液晶テレビではとても再現できないレベル。結果として見た目のコントラスト感が高まり、これを高画質であると評価するわけだ。
そういうわけで、大雑把に「高画質を追求する」人は有機EL、と説明するのだが、これを言い換えるならば「暗い部屋で」「映画を見る」人だ。この2つの条件が重ならなければ有機ELテレビの絶対的優位性をなかなか実感できないだろうと思う。逆に言えば、映画を見るけれども部屋を暗くする(明かりを消したり、遮光をしたりする)ことはない人、そもそもあまり映画を見ない人は有機ELである必要性はあまりないだろう。有機ELテレビの再現性が必要になるのは、暗部にまで情報を詰め込んだ(予算を掛けた)映画であることが多いからだ。
そこで「Z970N」シリーズである。わざわざ真っ暗な部屋を作ることはしないが、さまざまなコンテンツを高画質で楽しみたい、テレビ番組の録画機能も充実していてほしい、というベーシックな要求にはもれなく応えてくれている。「X9900N」シリーズとの比較で言えば、「55X9900N」と「65Z970M」は同程度の価格であるわけで、サイズの大きな「65Z970N」はお買い得感のある選択になりそうだ。
「Z970N」と「X9900N」シリーズ、結局どちらを選ぶべきなの? と思われた方は上記の選択基準を参考にしていただければと思う。