TCLが2025年2月20日に IOC(国際オリンピック委員会)とワールドワイドオリンピックパートナーシップを締結した。その発表会とTCLの最新技術展示の模様をお届けしよう。
1981年に中国で設立されたTCLが、IOCとパートナーシップを締結した
中国のテレビメーカーの勢いが増している。価格.comで人気なのは中国を本拠地とするハイセンスとその傘下にあるTVS REGZA。昨今は人気売れ筋ランキングの上位をこの2ブランドで占めることも少なくない。
ここで取り上げるのは、冒頭のとおりTCL。日本では主にテレビを取り扱うメーカーとして徐々に認知度を増しているが、中国では冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどさまざまな生活家電(ホームアプライアンス)を展開している。
そんなTCLが大きな発表会を開催した。TCLはIOC(国際オリンピック委員会)とオリンピック、パラリンピックにおけるワールドワイドパートナーシップを締結したのだ。期間は2023年までで、オーディオビジュアルとホームアプライアンスカテゴリーにおけるトップパートナーとなる。
発表会会場の「ウォーターキューブ」こと北京国家水泳センター
発表会が行われたのは、中国北京の北京国家水泳センター。2008年北京オリンピックの象徴的な施設「ウォーターキューブ」として注目された場所だ。「ウォーターキューブ」は、競泳などの水上競技が行われる場所として作られた後、「アイスキューブ」としてスケートリンクとしても使えるようコンバートされ、2022年北京オリンピックではフィギュアスケート競技などが実施された。
ここで発表されたのは、2028年のアメリカロサンゼルス大会、2032年のオーストラリアブリスベン大会でオリンピックのデジタルディスプレイ、選手村の家電製品などにTCL製品が導入されること。
スマートディスプレイ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、スマートドアロック、オーディオ、プロジェクター、スマートグラスなどが現地のみならず遠隔での視聴体験の質を向上させるとしている。
TCLは、1981年の創業以来、スポーツを積極的にサポートしてきている。近年では2018年にFIBA(国際バスケットボール連盟)のグローバルパートナーになったほか、2021年からはeスポーツの世界にも参入。League of Legends Pro League(LPL)およびEDward Gaming(EDG)ともパートナー契約を結んでいる。
パートナーシップを締結したTCL李東生董事長(代表)とIOCのトーマス・バッハ会長。李董事長は、オリンピックのパートナーは長年の夢だったと語り、バッハ会長は「オリンピックファミリーへようこそ」と歓迎した
今回の発表は、それをさらに推し進めた格好と言えるだろう。グローバルでのテレビ市場を見れば、TCLはすでに世界のトップ企業だが、その存在感はさらに増していきそうだ。日本でのTCLの認知度はそれほど高くないかもしれないが、着実にシェアを拡大している。
液晶テレビのトレンドであるmini LEDバックライトを搭載した製品を比較的安価に展開するTCLは、日本でも「コスパ」を重視するユーザー層に注目される存在だ。2024年モデルでは「QM8B」シリーズなどが象徴的だろう。
55V型の「55QM8B」の価格.com最安価格は109,800円(2025年2月25日時点)、50V型の「50QM8B」であれば、同94,810円と10万円を切る価格で最新鋭の技術が盛り込まれたテレビを購入できるのだ。特に75V型や85V型モデルでのお買い得感の強いシリーズなので、大型mini LEDテレビを検討している方はチェックしてみてもよいだろう。
さて、ここからは発表会会場で紹介されたTCLの最新技術について追っていこう。
発表会会場に展示された98V型(インチ)テレビのサンプル。TCL傘下のパネルメーカーが手掛ける「HVA」パネルを採用している。その最新バージョンが「HVA Pro」ということのようだ。解像度は4K
会場では、TCL傘下にあるパネルメーカーTCL CSOT(China Star Optoelectronics Technology Co., Ltd.)独自の「HVA」液晶パネル技術を前面に押し出していた。「HVA」とは、VA液晶パネルの一種とのことで、VAならではの高コントラストを生かしたまま、IPSやADSパネルのような高視野角を得る技術だという。
一般的に、VAパネルは正面から見たときのコントラストは高いものの、角度をつけて横から画面を見ると色が変わりやすいという特徴を持っている。いっぽうのIPS、ADSパネルは、コントラストの面でVAに譲るものの、視野角が広く、横から画面を見ても色が変わりにくいという特徴を持つ。
つまり、双方の「いいとこ取り」をしたのが「HVA」というわけだ。展示された「HVA」パネルのテレビサンプルを見ると、確かに視野角が広い。スペックとしては178度の視野角とのことだ。
そのほかにも、360Hz、480Hzといった高いリフレッシュレート、高い応答速度、曲面ディスプレイの作りやすさ(高い曲げ率)が「HVA」のメリットだという。これらはテレビよりはPCモニターの分野で重宝される特徴だろう。
なお、頭の「H」とは企業名の頭文字をとったもの。CSOT(華星光電)を中国語発音(ピンイン)で表したときの「華星」の部分「Huaxing」の「H」をVAに付けた名称だ。
こちらは115V型(インチ)の「HVA」パネル搭載テレビのサンプル。“魅せる”タイプの外観も特徴的だ
ディスプレイ部はガラスパネルと一体になるように設計されている
スタンドの形状が独特なうえ、木目調仕上げ
それでは、日本国内での動きはどうなるのか、ということについても触れておきたい。
上の代表展示にも表れているように、TCLが日本のテレビ製品で推し進めるのはビッグスクリーンと「QD-Mini LED」戦略だ。つまり、98V型(インチ)などの大画面とそれを高画質で実現するための量子ドット(Quantum Dot=QD)技術とmini LEDバックライト搭載製品に力を入れるということ。
他社に対する強みとして特筆されるのは、傘下にパネルメーカー(TCL CSOT)を持ち、垂直統合型の物作りを実現していること。原材料の調達から製品組み立てまでを一貫して管理できるため、高い価格競争力を実現できるのだ。日本市場で、すでに「コストパフォーマンス」で注目される存在であることは上述のとおり。
また、日本市場向けのローカライズにも意欲的だ。ローカライズの手間のないチューナーレステレビとは異なり、日本市場で展開されるTCLのテレビは、4Kチューナーを搭載している。つまり4K放送を試聴、録画できるのだ。
日本市場向けには「TQC(Total Quality Control)研究開発センター」を設立し、多額の研究開発費を投じているという。具体的には、4Kを含むテレビ放送を受信できることだけでなく、それらの放送に合わせた画質のチューニングを行っているそうだ。さらにAIによるリアルタイムでの映像の最適化など、日本市場で重視される「画質」に適応する積極的姿勢を見せている。
日本でも発売されている「A300」シリーズ(左)も展示されていた。壁掛けを前提にした薄型テレビで、画面から壁までの厚みは約2.79cm。別売りで用意されるスタイリッシュな専用スタンドも話題となり、日本国内のクラウドファンディングでは目標額を大きく上回る1億円以上の支援を受け、製品化された。こうした独自の製品企画もTCLの特徴と言えるだろう
もちろん、日本の消費者が気になるのは、2025年の新製品だろう。年初の「CES 2025」ではmini LEDバックライトを搭載した液晶テレビ「X11K」シリーズの紹介があったが、これは98V型と85V型での展開。より手の届きやすいサイズの2025年の新製品発売も間もなくであることは間違いない。購入しやすく、画質もよいmini LEDバックライト搭載液晶テレビを期待して待ちたい。
さらに言えば、TCL CSOTは、印刷方式での有機ELパネルを量産すると2024年に発表している。こちらは21.6インチと14インチの主にPCモニター向けと目されるが、大型テレビへの展開も個人的に大いに期待している。
着実に日本でのシェアを伸ばすTCLは、液晶テレビでも有機ELテレビでも、次に“来る”かもしれない可能性を持ったテレビメーカーなのだ。
会場では医療用途のディスプレイとして印刷方式での21.6インチ有機ELパネルが展示されていた
最後に、会場に展示されたオーディオビジュアル製品を紹介しておこう。左が撮影もできるオーディオグラス「RayNeo V3」で、右が有機ELディスプレイを採用したスマートグラス「RayNeo Air 3」
サブウーハーとサラウンドスピーカーがパッケージされたサウンドバー「Q85H」。7.1.4chサウンドバーとして海外で展開されている製品だ。本体のバー部分とサラウンドスピーカー双方に上向きに音の出るイネーブルドスピーカーが搭載されている