2016年4月13日、LGエレクトロニクス・ジャパンは都内で発表会を開催し、4K有機ELテレビ「LG OLED TV」の新モデルを5月下旬から発売すると発表した。同社は昨年、局面型パネルを採用した4K有機ELテレビを日本市場で発売したが、今年は平面型のパネルを採用したハイエンドシリーズ「OLED E6P」と、曲面型パネルを採用した「OLED C6P」、スタンダードシリーズの「OLED B6P」の3シリーズ5モデルを投入する。いずれも、明暗差に富んだ映像を実現する高画質化規格「HDR(ハイダイナミックレンジ)」に対応したほか、最先端のHDR技術「DolbyVision(ドルビービジョン)」を国内のテレビで初めてサポートしたのが特徴だ。ここでは、画質面のファーストインプレッションを交えながら、新製品の特徴を紹介しよう。
「4K」に次ぐテレビの高画質機能として、“HDR(ハイダイナミックレンジ)”が大きな注目を集めている。すでに数年前からデジタルカメラに機能が搭載されているが、テレビの場合の“HDR”とは、映像の輝度情報を拡張し、肉眼で見る映像と同じような明暗差に富んだ映像をテレビで実現する機能のことを指す。国内でも、昨年後半からHDR規格への対応をうたった製品が徐々に登場しているが、有機ELテレビとしてHDR機能を搭載した製品は、今回発表された製品が初となる。
HDRに対応したしたことで、これまでのダイナミックレンジを超えた明暗表現が可能となった
今回発表された新製品群は、HDR規格を推進する世界的な業界団体である「UHD Alliance」の品質保証を受け、「Ultra HD Premium」を取得している。有機ELパネルを採用したテレビの場合、ピーク輝度540nits以上、黒レベル0.0005nits以下をクリアしないと「Ultra HD Premium」を取得できない。黒レベル0.0005nits以下については、みずから発光する有機ELパネルであれば簡単にクリアできるが、540nits以上のピーク輝度を確保するのには従来の有機ELパネルでは難しい。そのため同社は、この要求スペックをクリアするために、素材の見直しを含め、有機ELパネルにさらなる改良を加えたという。
実際に、発表会の会場でHDR規格対応映像と従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)の映像の比較視聴をしてみたが、いままでのSDR映像がいかにダイナミックレンジを狭めていたのかを改めて認識した。比較視聴したのは宇宙空間の模様を収めた映像だったのだが、特に明部は液晶テレビほどピーク輝度がないにも関わらず、太陽の光が煌びやかでまぶしいと感じてしまうほどだった。白とびせずに、あそこまで鋭くて立体感のある光の表現を見たのは初めてだ。また、宇宙空間の深く沈むような締まった黒と、太陽の強い光源との境目ににじみがほとんど感じられなかったのも驚いた。自発光でバックライトを必要としない有機ELパネルだからこそ、これほどまでの明暗差に富んだ映像を実現できるのだろう。発表会で、LGエレクトロニクス・ジャパンの李仁奎(イ・インギュ)社長が、有機ELパネルこそHDR表現に最適とアピールしていたのもうなずける。
今回の新製品のもうひとつのポイントが、「DolbyVision(ドルビービジョン)」のサポートだろう。DolbyVisionとは、制作者の意図通りの画質を再現するため、コンテンツ制作、配信、再生のすべての対応が必要となるHDRのエンドツーエンドソリューションで、ハリウッドのスタジオなどで広く支持されている。国内のテレビでは、今回発売された新製品群が初めてDolbyVisionを正式にサポートした製品となっており、DolbyVisionに対応したHDR映像に含まれる輝度、色彩、コントラスト、ディテール情報を正確に表現することができる。
DolbyVisionのデモンストレーションの様子。テレビとコンテンツの両方が対応していれば、写真のようなピーク輝度とコントラストにすぐれた映像を体験できる
実は次世代Blu-ray「Ultra HD Blu-ray」でもオプションでサポートされることが発表されているが、現時点で対応するディスクコンテンツが国内では発表されていない。そのため同社は、世界最大級のオンラインストリーミングサービスを提供するNetflixと協力し、DolbyVisionに対応したコンテンツ配信を進めていくという。なお、NetflixのDolbyVision対応タイトルは、説明欄にDolbyVisionのロゴが表示されるとのことだ。DolbyVisionをいち早く体験したいというユーザーにとっては朗報だろう。
Netflixと協力し、DolbyVisionに対応したコンテンツ配信を進めていくという
ちなみに、NetflixはDolbyVision以外のHDRコンテンツについても順次拡大していくという。国内のコンテンツとしては、弐瓶勉原作のSFアクションアニメ「シドニアの騎士」が近日配信予定ということが発表会で明らかにされた。初のHDR対応アニメということなので、こちらにもぜひ注目したいところだ。
今回発表会で発表された製品の中でひときは注目を集めていたのが、国内初投入となった平面型有機ELパネルを採用する「OLED E6P」だ。3mmのガラス製バックカバーの上に2.57mmの有機ELパネルを一体化することで、最薄部わずか約7mmの薄型ボディを実現。さらに、「OLED E6P」は、「フルシネマスクリーン」と呼ばれる独自のベゼルデザインを採用。ぎりぎりまで画面となるようにガラス部分を除いたベゼル幅を1mmまで抑制。これにより、まるで空間上に映像が映し出されるかのような圧倒的な没入感を実現しているのだ。バックライト機構が必要ない有機ELテレビだからこそ、こういった大胆なボディデザインを取り入れることができるのだろう。
ハイエンドシリーズ「OLED E6P」。横から見ると一枚の板のようにしか見えない
ガラス部分を除いたベゼル幅を1mmまで削ったという「OLED B6P」の特徴的なベゼル部分
機能面についてはハイエンドシリーズの「OLED E6P」と曲面型パネルを採用した「OLED C6P」でほぼ共通となっており、テレビの設置空間に合わせて音質を自動補正する「マジックサウンド機能」や、2D-3D変換に対応したパッシブ方式の3D機能、USB HDD録画機能などを搭載。スマートテレビ機能は、付属の「マジックリモコン」に搭載されているマイクを使ってネット検索できる「声でネット検索」機能や、注目したいポイントや文字を最大500%拡大できる「マジックズーム」機能などを新たにサポートした、最新の「WebOS 3.0」を搭載している。
このほか、チューナーについては、地上デジタルを2基、BS・CSデジタルチューナーを2基搭載。CSデジタルの4Kチューナーは非搭載となっており、4K放送「スカパー! 4K」を視聴するには、別途チューナーが必要となる。BSデジタルの4K放送がまだ始まっていない点や、このクラスの製品を使用するユーザー層を考慮すると、妥当な選択と言えそうだ。
4K解像度による精細感と有機ELならではの圧倒的な黒の表現性にHDRとDolbyVisionいう武器が加わり、画質面でさらに磨きのかかった有機ELテレビ。今回、地上デジタル放送のコンテンツを視聴できなかったため、この部分については未知数なものの、デモンストレーション映像を見た限りでは、画質に対してのニーズが厳しい日本市場でも十分戦えるレベルだと感じた。
価格は、ハイエンドシリーズ「OLED B6P」の65インチが90万円前後、55インチが70万円前後、局面型パネルを採用した「OLED C6P」の55インチが47万円前後となっている。大型有機ELパネルの製造歩留まりがよくなり、製造コストが下がったとはいえ、国内のハイエンド液晶テレビと比べてもまだまだ割高感は否めない。ただ、今回の発表会で価格が明らかにされなかったスタンダートモデル「OLED B6P」については、「液晶テレビに比べて1.2〜1.3倍くらいの価格設定にしたい」という発言があったので、もう少し手に入りやすい価格になるはず。現時点でHDRとDolbyVisionへは対応することは明らかになっているので、価格次第では上位モデル以上に注目を集めそうだ。
発表会に展示されていたスタンダートモデル「OLED B6P」。詳細は後日発表されるとのこと