富士フイルムからAPS-Cミラーレスの新モデル「X-T3」が発表になった。従来モデルから処理性能が大幅に向上したことで、画面全域での高速・高精度な位相差AFや、充実した4K/60p動画記録を実現するなどの進化を遂げている。ここではX-T3の主な特徴をレポートしよう。
X-T3は、ボディ中央に電子ビューファインダー(EVF)を装備する一眼レフスタイル「X-Tシリーズ」の新モデル。シルバーとブラックの2色のカラーバリエーションが用意されている。発売は2018年9月20日
X-T3は、撮像素子と画像処理エンジンを新開発の第4世代にアップデートしたことで、オートフォーカス(AF)や動画などでさらなる高性能化を実現している。
撮像素子は、「Xシリーズ」として初となる裏面照射型の「X-Trans CMOS 4」(有効約2610万画素)で、画像処理エンジンは、クアッドコアCPU採用の「X-Processor 4」。第3世代の従来モデル「X-T2」と比べると、撮像素子の読み出し速度は約1.5倍、画像処理エンジンの処理速度は約3倍に向上している。
Xシリーズにおける撮像素子の読み出し速度とプロセッサー処理速度の遍歴
X-T3は、像面位相差AFの画素数が従来の50万画素から216万画素に増え、位相差AFが画面全域をカバーするようになった。さらに、位相差AFの低照度限界も従来の-1EVから-3EVに拡張。位相差AFの演算アルゴリズムの改善によって、AF/AEサーチ回数が約1.5倍増加し、動体追従性も向上しているとのことだ。
従来は画面の縦75%×横50%だった位相差AFのカバーエリアは画面全域に拡張
像面位相差AF の画素が216万画素に増えたことで、低照度限界は-3EVに向上
らに、AFポイントの分割数と距離情報が、従来の60データ(5エリア×4エリア×3情報)から240データ(5エリア×8エリア×6情報)に増えたことで合焦精度も大きく向上。特に、低コントラストな被写体と、高周波成分の多い被写体に対する合焦率が上がっている。富士フイルムの検証では、合焦率は前者が従来の60%から90%に、後者が18%から96%になり、Xシリーズとしてこれまでで最高のAF精度を実現したとした。
また、顔の特徴に関するデータベースを充実化することで、顔検出/瞳AFの性能もアップ。動く顔に対しての追従性が上がったうえ、瞳AFはAF-Cでも利用できるようになった。
AFポイントの分割数と距離情報が増加しことで合焦精度がアップした
新製品発表会で上映された、X-T3の瞳AFの紹介動画を記録したもの。動く人物の瞳にピントを合わせ続けているのがわかる
処理性能の向上により、連写性能も向上。メカシャッターでは縦位置グリップを装着しなくてもボディ単体で最高約11コマ/秒連写が可能となった。ブラックアウト時間は、ボタン単体でも縦位置グリップ装着時でも同じスペックとなり、ノーマルモードで106msec、ブーストモードで96msecまで短縮している(従来はノーマルモード130msec、縦位置グリップ利用時のブーストモード114msec)。
ボディ単体で最高約11コマ/秒のメカシャッター連写が可能。ブラックアウト時間も短縮されている(※画像のブーストモード時のブラックアウト時間は間違っています)
電子シャッターでは、フル画素で最高約20コマ/秒、1.25倍クロップ(1660万画素)で最高約30コマ/秒のブラックアウトフリー連写を実現。従来は1/30秒程度だったイメージセンサーのスキャン速度も、20コマ/秒連写時で1/60秒、30コマ/秒連写時で1/40秒に向上し、動体の歪みをより抑えられるようになった。
また、電子シャッター時には「プリ撮影機能」の利用が可能。シャッターボタンを半押しした時から撮影をスタートし、全押し時に約0.5〜1秒前さかのぼって記録を開始する。20コマ/秒時とクロップ30コマ/秒時は最大20コマさかのぼることが可能だ。
最高約20コマ/秒(フル画素)、最高約30コマ/秒(1.25倍クロップ)のブラックアウトフリー連写が可能
電子シャッターでの高速連写を活用したプリ撮影機能を搭載する
倍率0.75倍で369万ドットの電子ビューファインダー(EVF)を採用。輝度やアイセンサーの反応速度が向上している
動画撮影も大きく強化されており、ボディのSDメモリーカードには4K/60p 4:2:0 10bitの記録が可能。8bit深度に比べてより滑らかな階調表現が可能な10bit深度での4K/60p動画をカメラ内に記録できるのはミラーレスとしては初だ。さらに、HDMI出力では4K/60p 4:2:2 10bit記録にも対応する。
コーデックは新たにH.265/HEVCにも対応。圧縮方式も4K/30pまではALL-Intraを選択できるようになった。ALL-Intraではビットレート400Mbpsでの記録を行う。
従来モデルとX-T3の動画撮影をまとめた資料。X-T3は、4K/60pが1.18倍クロップ、4k/30pがクロップなしとなり、従来以上のオーバーサンプリングを生かして高画質な映像を記録できるようになった
また、イメージセンサーのスキャン速度の向上により、従来と比べてローリングシャッター歪みは約50%改善。高感度撮影時のノイズ性能は、アルゴリズムの進化と新機能「4Kフレーム間NR」(※4K/30pまで使用可能)の搭載によって、ISO12800でのノイズを約2段分改善したとのことだ。動画用のAFもトラッキング性能が向上し、顔検出/瞳AFにも対応する。
動画の連続記録時間は4K/60p時が20分で、それ以外は29分29秒となっている
2018年内のファームウェアアップデートによって、HDR動画撮影(HLG/Hybrid Log Gamma)にも対応する予定
画質の進化では以下の内容が主なトピックとなっている。
・有効約2610万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 4」センサーの採用
・ベース感度ISO160
・長秒撮影時のノイズを低減
・Xシリーズ史上最高画質
・「カラークローム・エフェクト」の搭載
・「モノクロ調整」の搭載
有効約2610万画素という画素数は、APS-Cサイズのセンサーを搭載するデジタルカメラとしては最高クラス。そのうえで裏面照射型になったことで、より解像感が高くてノイズの少ない画質が期待できる。また、従来は拡張感度であったISO160が常用の最低感度となった。こうした進化によって、富士フイルムはX-T3の画質をXシリーズ史上最高とうたっている。
長秒撮影時の固定パターンノイズを大きく抑制できるようになった
機能面では、より深みのある色・階調を再現できる「カラークローム・エフェクト」に対応。中判ミラーレス「GFX 50S」に搭載されていた機能で、連写時でも使用できるとのこと。また、モノクロ撮影時に計18段階の色調(温黒調〜冷黒調)を選べる「モノクロ調整」も追加されている。
GFX 50Sとは異なり、カラークローム・エフェクトは連写時にも使用できる
モノクロ調整を使えば、温黒調・冷黒調のモノクロ写真を撮影できる
ファインダーで表示されたオートホワイトバランスの値で固定する「AWBロック」機能が追加された。ミックス光源で撮影する場合に便利だ
MF一眼レフのマイクロプリズム機構をデジタルで再現する機能も追加
ボディサイズは132.5(幅)×92.8(高さ)×58.8(奥行)mmで重量は約539g(バッテリー、 SDカード含む)。従来モデル「X-T2」と比べるとわずかに重くなっているが、サイズ感はほとんど変わらない。デザインや操作性は細かいところがチューニングされている
ロック付きの視度補正機構になり、誤操作を防げるようになった
端子カバーは外せるようになった。
撮影可能枚数は、ノーマルモード時で約390枚。2個のバッテリーを搭載できる縦位置グリップ「VG-XT3」利用時は約1100枚となる。なお、VG-XT3は、連写や動画撮影中にバッテリーが切り替わっても動作が停止しなくなった
フルサイズミラーレスの新モデルが話題を集める中で登場したX-T3だが、APS-Cセンサーのよさを感じる万能型の小型・軽量ミラーレスに仕上がっている。AFや連写、動画、画質などが従来モデルから大きく進化を遂げているが、なかでも特に注目なのは動画。カメラ内で4K/60p 4:2:0 10bit、HDMI出力で4K/60p 4:2:2 10bitの記録が可能になったのはインパクトがある(※4K/60p記録自体も、APS-Cサイズの撮像素子を搭載するミラーレス/一眼レフとしては初対応)。従来と同様、防塵・防滴・耐低温(-10度)構造を実現したほか、ダブルスロット仕様のSDメモリーカードスロットを継承したのもうれしい点だ。
市場想定価格はボディ単体が185,000円前後(税別)。2006年9月発売のX-T2は170,000円前後(税別)だったので価格はやや上がっているが、性能の向上を考慮すると納得できる範囲ではないだろうか。
新製品発表会ではあらためて「高画質と高い光学性能を小型・軽量ボディに凝縮する」というXシリーズのコンセプトを紹介。フルサイズではなくAPS-Cセンサーのシステムだからこそ、レンズを含めてシステム全体を小型化・高速化できるメリットをアピールした
カメラとAV家電が大好物のライター/レビュアー。雑誌編集や価格.comマガジン編集部デスクを経てフリーランスに。価格.comではこれまでに1000製品以上をレビュー。現在、自宅リビングに移動式の撮影スタジオを構築中です。