レビュー

富士フイルム「XF10」のスナップシューターとしての実力をチェックした

この春、価格.comで最も人気を集めているコンデジは、2019年3月15日に発売された「GR III」だ。売れ行きは好調で、発売から約1か月が経過した時点でも価格.com「デジタルカメラ」カテゴリーの売れ筋ランキングは1位をキープしている。そんな人気のGR IIIのライバルになっているのが今回紹介する、富士フイルムのコンデジ「XF10」だ。GR IIIとは価格も立ち地位も異なるモデルではあるが、価格.comのデータやクチコミ掲示板の書き込みを見ると、スナップシューター(スナップ撮影に向いたコンパクトなカメラ)として注目し、GR IIIと比較する方が多く見られるようだ。

2018年8月発売のXF10。その年に価格.comユーザーに最も支持された製品を選出する「価格.comプロダクトアワード2018」において、デジタルカメラ部門で金賞を受賞したユーザー評価の高いモデルだ。カラーバリエーションはシャンパンゴールドとブラックの2色

「GR III」購入検討者がもっとも比較している製品

「XF10はGR IIIのライバルとなっている製品」と言うと、カメラに詳しい方は「似た部分はあるが、コンセプトや機能が異なるのでライバルではない」と一笑に付すかもしれない。GR IIIは価格.com最安価格が108,000円台でスナップ撮影に特化した機能性を徹底追求したモデル。XF10は価格.com最安価格が40,000円台(※いずれも2019年4月19日時点)で富士フイルムのラインアップの中では「X100F」の下位に位置付けられたエントリー向けのモデル。確かに、価格も立ち位置も異なっており、一見すると競合する製品ではない。だが、価格.comユーザーの行動データから市場状況を分析するマーケティングサービス「価格.comトレンドサーチ」で調べてみると、価格.comのユーザーはこの2つのモデルをよく比較していることが見えてくる。

価格.comトレンドサーチには、特定の製品の購入を検討しているユーザーが比較しているほかの製品をランキングで示す「ライバルランキング」という指標がある。このランキングは日によって変動する仕様だが、GR III 発売後の日別データをチェックしてみたところ、GR IIIのライバルランキングの1位はほとんどの日でXF10になっていた。いっぽう、XF10のライバルランキングの1位はほとんどがGR III。このことから、GR IIIの購入検討者はXF10が、XF10の購入検討者はGR IIIが最も気になる存在であり、互いに比較し合っているということが読み取れる。

4月中旬のある日のGR IIIのライバルランキング。ランキング1位はXF10だ。比較後どちらの製品を購入したのかを示す比較後購入者比率はXF10が上回っており、GR IIIの勝利は29%となっている。ほかの日でもXF10を選択する方が多い傾向にある

こちらはXF10のライバルランキング。1位はGR III。この日のXF10の勝率は50%

こちらはXF10のライバルランキング。1位はGR III。この日のXF10の勝率は50%

GR IIIとXF10がよく比較されているのは、画質周りの基本スペックが似ていることが大きいのだろう。いずれも、APS-Cサイズの撮像素子(有効画素数も2424万画素で同じ)と、35mm判換算で焦点距離28mm相当の画角の単焦点レンズ(絞り開放F2.8)を採用している。GR III購入検討者の動向としては、「GR IIIが欲しい→でもちょっと価格が高い→同じようなスペックの安価なモデルとしてXF10に注目」というところではないだろうか。スナップ撮影用のカメラが欲しいと考えている方が、GR IIIが気になりながらもXF10の情報も調べていると推測できる。

GR IIIとXF10を比較している方にとって気になるのは、「XF10はスナップ撮影にどのくらい使えるのか?」ということだろう。そこで今回は、スナップ撮影での使い勝手に注目してXF10の実力をチェックした。GR IIIとの違いも加味しながら、次項目以降で携帯性や操作性、画質をレビューしていこう。

レンズがほとんど繰り出さないコンパクトボディを実現

XF10の最大の特徴は、APS-Cセンサーを搭載しながらも112.5(幅)×64.4(高さ)×41.0(奥行)mmで約278.9g(付属バッテリー、メモリーカード含む)という小型・軽量ボディを実現していることだ。スナップ撮影用として見ると、このコンパクトボディは非常に魅力的だ。厳密に比較するとGR IIIのほうがひと回りまではいかないがコンパクトで、重量も20g程度軽いが、持ち運ぶうえでのサイズ感はほとんど変わらないと感じた。

加えて、パンケーキ型の薄型レンズを採用し、電源オン時にレンズがほとんど飛び出さないのがいい。レンズの繰り出し量はわずか1mmくらいで、電源オン時のボディの厚さは42mm程度。起動時間もハイパフォーマンスモード時で約0.7秒と速く(通常モードだと約1.1秒)、シャッター音も非常に小さい。このあたりもスナップ撮影用としてはポイントが高い。

使い方で気に留めておきたいのは、GR IIIのようにレンズがボディ収納される沈胴式ではないうえ、「X100F」や「X70」のようにアダプターリング経由でフードやフィルターを装着できる構造でもないということ。付属のレンズキャップを装着していないと電源オフ時でもレンズ前面はむき出しになる。どうしても保護フィルターを付けたいのであれば、サードパーティー製のアクセサリーを活用するなどの工夫が必要になる。

APS-Cコンデジとしては小型・軽量な重量約278.9g(付属バッテリー、メモリーカード含む)のコンパクトボディを実現。内蔵フラッシュも搭載している

奥行は41.0mm。十分にスリムな筐体だ

奥行は41.0mm。十分にスリムな筐体だ

非球面レンズ2枚を含む5群7枚構成の単焦点レンズ(焦点距離18.5mm:35mm判換算28mm相当の画角、開放F2.8)を採用。電源オン時でもレンズが1mm程度しか繰り出さないのも特徴だ

対応バッテリーは容量1800mAhの「NP-95」。撮影可能枚数は約330枚だが、RAW+JPEG記録の単写で何回か撮った限りは、1回の充電でRAW/JPEGをそれぞれ500〜600枚程記録できた。十分なバッテリー性能と言っていいだろう

専用のレンズキャップが付属。取扱説明書では、この画像のようにレンズキャップの紐を付属のハンドストラップに取り付けることが推奨されているが、これでは撮影中にキャップがぶらぶらと垂れさがることになる。撮影時はキャップを完全に取り外して使ったほうがいいだろう

シンプルかつ必要十分な操作性。レバーやフリック操作の使い勝手に注意

XF10の操作性はシンプルかつ必要十分なものだ。2種類のコマンドダイヤル(シャッターボタンと一体型のコマンドダイヤルとリアコマンドダイヤル)、フォーカス枠を上下左右ダイレクトに移動できるフォーカスレバー、レンズ部のコントロールリングに加えて、2種類のファンクションボタン、Q(クイックメニュー)ボタン、ドライブボタンも用意されており、ダイレクトな設定変更にも十分に対応できる。タッチパネルにも対応しており、タッチ操作でフォーカス枠を移動できるタッチAFや、そのままシャッターを切るタッチシャッターが可能なのも使いやすいところだ。

また、コンパクトボディながらグリップも比較的しっかりとして、背面にサムグリップもあるのでホールド感は悪くない。ボディ内手ブレ補正を搭載するGR IIIのように1/20秒を切る低速シャッタースピードで手ブレを抑えることはできないが、遠景を撮るのであれば1/30秒程度のシャッタースピードが確保できれば、ラフに撮っても手ブレはほとんど発生しなかった。

背面にフォーカスレバーやQボタンを搭載。液晶モニター(3.0型、約104万ドット)はタッチパネル対応の固定式

上面には前後のコマンドダイヤルや撮影モードダイヤルを装備

上面には前後のコマンドダイヤルや撮影モードダイヤルを装備

レンズ部に感度やホワイトバランス、デジタルテレコンなどの機能を割り当てられるコントロールリングを搭載。グリップにはシボ加工の入ったゴム素材が施されている

撮影時の画面。仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」やフォーカスモードの設定をタッチ操作で呼び出せるようになっている

気になったのは、「X-T30」や「X-E3」など富士フイルムのミラーレスと同様に、十字ボタンが省略されていること。メニュー画面もフォーカスレバーで操作する仕様なのだが、十字ボタンと比べるとレバーは誤動作が多くなるのが正直なところ(本音を言えばミラーレスを含めて十字ボタンを復活してほしい……)。また、タッチパネルの操作では、画面を上下左右にフリックすることで割り当てた機能を呼び出せる「タッチファンクション」に対応しているが、フリックに対する反応が極端に鈍い。タッチパネルのレスポンスが改善した最新のミラーレスX-T30では実用的だと感じたが、XF10はX-E3と同様に扱いにくい機能だと感じた。先に紹介したようにXF10はダイレクトな操作性が十分に確保されているので、わざわざタッチファンクションを使う必要はなく、誤操作を防ぐ意味でもこの機能はオフにしておいていいと思う。

フォーカス枠の移動だけでなく、メニュー画面の操作もフォーカスレバーで行う仕様。十字ボタンは省略されている

上下左右のフリック操作に機能を割り当てられるタッチファンクションはとても便利な機能だと思うが、XF10はタッチパネルの感度がもうひとつでこの機能が扱いにくい

AFはお世辞にも高速な動作ではないので過度に期待しないほうがいい。少なくとも像面位相差AFに対応する最新の高速ミラーレスのような性能ではない。GR IIIと比べると、像面位相差AFが働く場合はGR IIIのほうがAFは速い。ただ、GR IIIは低照度下やコントラストが低い被写体だとピントが合わないことも多いので、AF速度の差が出るときはあるものの合焦率はそれほど違いがないように感じた。

AF性能の低さを補うというわけではないが、XF10には、フォーカス距離と絞り値を固定する「スナップショット」という機能が搭載されている。フォーカス距離2m/絞り値F8と、フォーカス距離5m/絞り値F5.6の2種類を選択することが可能だ。GR IIIのフルプレススナップ(シャッターボタン半押しでAFが動作し、シャッターボタン全押しで一定のフォーカス距離でシャッターを切る機能)のような機能ではなく、AFとの併用はできないが、ファンクションボタンに機能を割り当てておいて素早く切り替えられるのが使いやすい。被写体まで数メートルの距離感で素早く撮ることが多いスナップ撮影では非常に重宝する。

スナップショットはフォーカス距離で固定する機能。絞り値も2mでF8、5mでF5.6に固定される

スナップショットはフォーカス距離で固定する機能。絞り値も2mでF8、5mでF5.6に固定される

このほか、XF10は、メカシャッター時は絞り優先モードやシャッタースピード優先モードだとF2.8で1/1000秒、F3.2〜3.6で1/1250秒、F4〜6.4では1/2000秒、F7.1で1/2500秒、F8以降で1/4000秒といったように絞り値にあわせて最速シャッタースピードが変わることも押さえておきたい(※注意:マニュアル露出ならどの絞り値でも1/4000秒まで選択できる)。NDフィルター機能は内蔵しておらず、明るい屋外にて、絞り優先モードのまま絞りを開放付近にすると露出オーバーになってしまう。この場合は、マニュアル露出に切り替えるか、最速1/16000秒のシャッタースピードに対応する電子シャッターを活用する必要がある。明るい屋外でも絞り開放付近で撮りたいのであれば、シャッター方式を「メカシャッター+電子シャッター」(基本的にはメカシャッターで動作し、メカシャッターでは対応できないシャッタースピードが必要になる場合に自動的に電子シャッターになる)にしておくのがいいだろう。

また、メモリーカードへのデータ書き込み中は操作を受け付けないのも購入前に知っておきたい点だ。ワンショットで撮っていても撮影後にメニューの呼び出しがワンテンポ遅れるときがある。バッファ容量はけっして多くなく、書き込み速度90MB/sのSDXCメモリーカード(128GB、UHS-I)を使用した場合、RAW+JPEG(FINE)だと約6コマ/秒連写で6コマまでの記録となり、バッファフルフルの状態になると操作できるようになるまで5〜6秒程度の時間がかかる。被写体をじっくりと見て1枚1枚をしっかりと撮っていくのであればそれほど気にならないだろうが、設定を変えながら連続してシャッターを切るような撮り方だとストレスを感じるだろう。

XF10は最速1/16000秒の電子シャッターに対応。動体歪みが発生したり、フリッカーの影響を受けるものの高速シャッタースピードを使えるのは便利だ

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