SNS時代の映像表現として“Vlog”(ブイログ)が話題です。海外ではYouTubeのチャンネル登録者数が1,000万人を超えるメガクリエイターが誕生し、ハリウッド俳優のウィル・スミスが参入したり、世界最大の総合格闘技団体「UFC」がプロモーションにVlogを活用したりするなど、ここ数年大きなトレンドとなりつつあります。
映画「バッドボーイズ」「メイ・イン・ブラック」などの主演で知られるウィル・スミスは2018年の春にVlogをYouTubeでスタート。約2年で800万人以上のチャンネル登録者数を得るまでに成長しています
Vlogは日本でも動画共有アプリ「TikTok」の人気ジャンル(ハッシュタグ)としてフィーチャーされたり、ソニーがVloggerに向けたカメラのプロモーションを行ったりするなど、ブームの兆しが見えています。
ソニーは「#VlogWithSONY」のハッシュタグなどを活用して、Vlogクリエイター向けのキャンペーンを展開しています
本稿では、そんな旬のVlogの特徴やジャンル解説などを交えつつ、レベル別の機材や編集アプリ、ソフトなどをご紹介していきます。ぜひ、記事の最後までじっくりとご覧ください。
Vlogの読み方は「ブイログ」、ビデオブログ、ビデオログの略称です。まだ新しい言葉なので、厳密な定義はありませんが、「テキストや写真、イラストなどでつづられるBlog(ブログ)」の動画版、いうなれば動画ブログであると考えればわかりやすいでしょう。
自撮りや1人称視点で身の回りのできごとを撮影し、その映像の組み合わせで構成されるパターンが王道です。登場人物の自然な姿を撮影し、生の声を届けるというリアルさや、そこから生まれる共感を重視した内容が特徴です。
初期のVlogは、Vlogger(ヴロガー)と呼ばれる個人クリエイターがひとりで出演、撮影、編集を行い低予算で制作するインディーコンテンツの1ジャンルでした。けれども、Vlogというジャンルが一般化した現在では、本格的な制作チームを抱えた大規模チャンネルや、企業Vlogも登場するなど、より幅広い制作スタイルへと多様化が進んでいます。
Vlogは入り口が広く、奥が深い世界。スマホだけで気軽に始められますし、こだわれば機材総額は青天井、という世界です。
本記事では内容をわかりやすくするためにレベル分けをして、それぞれのレベルに合うカメラや、Vlog制作に便利なアクセサリーを紹介していますが、厳密なルールがあるわけではありません。始めたばかりの人が上級者向けの機材を使うことに何ら問題はありませんし、初級向けで紹介されている機材をずっと使い続けることもあるでしょう。レベル分けは、ひとつのご参考に、ということで読み進めていただければ幸いです。
Vlogの魅力のひとつは、高度な専門性や高価な機材がなくても制作を始められることです。「コレがないとできない」「アレがないとダメ」という発想はひとまずなくしして、まずは始めてみることが大切です。自分の日常を気軽に動画でYouTubeやInstagramにシェアするという目的であれば本格的な機材は必要ありません。
初級者、ビギナーが使用する最初のVlog用カメラは型落ちのスマホでも、まったく問題ありません。厳密な基準があるわけではありませんが、筆者は2016年に発売された「iPhone 7(1200万画素センサー&光学式手ブレ補正を搭載)」くらいのスペックがあれば十分だと感じています。視聴者の大半がスマートフォンで見るという前提であれば、フルHD(1080)で動画撮影できる性能があればOKでしょう。
「これからVlogを始めてみよう!」という場合は、三脚なしの手持ち、ライトなし自然光での撮影で十分です。あれこれアクセサリーをそろえなければならいということは決してありませんので、安心してください。
ただし、センサーサイズが小さいスマホのカメラは暗所での撮影に弱いので、日中に撮影を行い、室内であれば窓に正対して撮影するなどの工夫をするとよいでしょう。また、トークシーンの撮影時には騒音や風切り音が入る場所を避け、室内や車内で撮るなどすれば、比較的きれいな音声が録音できるはずです。
カジュアルさとリアリティが味になるVlogは、「これがなくては始められない」と考えずに「まずやってみる」というスタンスでスタートすればOK。そうすれば、きっとすぐに“機材沼”にハマっていくことでしょう(笑)。
注:“沼”とは、より高いクオリティやバリエーションを求めて次々と製品を購入してしまう状態のこと。代表的なのは“レンズ沼“。
ちなみに、スマホでの Vlog制作にアクセサリーを追加するなら、フレキシブル三脚が便利です。ちょっとした自撮り棒の変わりにもなりますし、スマホを何かに立てかけて撮影している時にパタンと倒れてしまうイライラから解放されますよ。
以下の動画はアップル「iPhone XS」で筆者が撮影した動画です。アクセサリーとしてスマホ用ジンバルを使用し、編集はアップル「Final Cut Pro X」で行ったので、完全にスマホオンリーで仕上げたわけではありませんが、カメラとして使用したのはiPhoneのみです。映像に多少の粗さはありますが、出張の思い出を印象に残る形で記録できたと思います。より本格的なVlogにしたければ、これに自撮りでの場面説明などを加えていけば一丁あがりです。
コンパクトデジタルカメラ(コンデジ)は、スリングバッグや上着のポケットに入れてもじゃまにならないサイズで、必要な時にサッと取り出して撮影できる機動力がVlog向きです。一般的なスマホよりズームなどのカメラの基本的性能が高く、画質もより高いコンデジはVlog中級者にぴったりと言えます。
誰が言ったか定かではありませんが「ベストなカメラは、いつも手元にあるカメラ」という言葉を借りるなら、毎日持ち歩くのが難しいミラーレス一眼カメラよりコンデジのほうがすぐれていると言えるかもしれません。
Vlogにおける定番の撮影方法といえば自撮り(セルフィー)です。YouTubeの動画などで「今日は○○にやってきました!」という感じで始まる動画を見たことがある人も多いのではないでしょうか?
こういった手法でVlogを撮影行う際にあると便利なのが、自撮り用のディスプレイです。ディスプレイを凝視しながら撮影を行うと目線がずれて違和感が出てしまいますが、トークの合間で構図や表情を確認しながら撮影を行うためには、やはりこの自撮りディスプレイが欠かせません。
というわけで、自撮りディスプレイ搭載で、スマホより大きい1インチセンサーを搭載し、光学式手振れ補正に対応、さらに広角から望遠までカバーできるズームレンズがある、という基準でコンデジを絞り込むと、ソニー「RX100」シリーズがVlog向けカメラの筆頭の候補として上がってきます。
なお、望遠性能にこだわらず、自撮りディスプレイと1インチセンサー搭載という条件で選ぶならパナソニックの「LUMIX DMC-LX9」やキヤノンの「PowerShot G5 X Mark II」も候補に入ってきます。
Vlog撮影をステップアップするアクセサリーはいくつもあり、優先順位を決めるのは難しいところ。しかし、あえてひとつ選ぶなら、撮影の幅が広がるジンバルは要チェックのカテゴリーです。
撮影の際の手ブレや揺れを低減するのが主な機能ですが、動きながらタイムラプスを撮る“ハイパーラプス“などの撮影にも使えるのが魅力。自撮りに加えて、インパクトのある映像をVlogに加えたいなら、購入を検討してみてください。
ジンバルを使って筆者が撮影した動画のサンプルはこちらでご覧いただけます。スムーズな回転や、移動しながらの滑らかな映像はジンバル ならではと言えるでしょう。Vlogのスパイスとして使用すると撮影がより楽しめます。
Vlog(ビデオブログ)とまぎらわしい単語にV-logというものがあります。これは映像データの記録方式のことで、パナソニックの「LUMIX DC-GH5」や「LUMIX SH-1」などのカメラが対応しています。ちなみに、Log撮影とは編集時にカラーコレクション/グレーディングをしやすくする記録方法であり、パナソニック以外にもソニーの「S-log」、キヤノンの「Canon Log」、ニコンの「N-log」 、富士フイルムの「F-log」などがあります。
しかし、パナソニックさん。なぜ「P-log」にしなかったのでしょうかね?
「Vlogはカジュアルな動画」という理解は半分正解で、半分間違い。もちろん、カジュアルさはVlogのよさでもありますが、映像の質にこだわる“ガチ勢”の機材への投資額は驚異的です。海外のクリエイターなどREDの業務用カメラやマシンアームを駆使した撮影をするなど、上を見ればキリがない世界です。
※ “ガチ勢”とは本気で何かに取り組む人たちのこと。おもにゲームをプレイする姿勢などで使われる用語で「ガチでプレイする勢力」の略。対義語は“エンジョイ勢”。
Vlog制作にこだわっていくに連れてトライしたいのが編集時の加工です。もちろん、スマホやコンデジで撮影した動画データでも十分に加工できますが、より高品質な映像に仕上げるならLogやHDR方式での撮影が行えるカメラを選ぶとよいでしょう。
パナソニックのミラーレス一眼カメラ「LUMIX DC-GH5」は、10bit 4:2:2のデータをカメラ単体で記録できるため、編集時にカラー補正が行いやすいというメリットがあります。自撮りディスプレイを備えミラーレス一眼カメラとしては比較的コンパクトな点も機動力が求められるVlog向きです。
またソニーのミラーレス一眼カメラ「α6600」と「α6400」は、ダイナミックレンジが広いHDR(HLG)での撮影が行えるため、編集時に白飛びや黒つぶれの補正がしやすくなっています。Vlogの撮影においてはスタジオ撮影などとは異なりライティングの条件を整えることが難しいので、後補正がしやすいのは大きな魅力です。
上級者ともなれば、カメラへのこだわりが強く、スキルもあるため何を使ってもよいのですが、以下に挙げるカメラもVlogと相性がよいと思います。
ソニー「α7 III」は、自撮り用のディスプレイこそ搭載しないものの、フルサイズセンサー搭載機としては手軽に購入できることや、サードパーティー製のレンズが豊富なことから人気です。本来は「α7S」シリーズが動画向けのモデルですが、長らく新モデルが発売されていないことから、現時点では「α7 III」が動画ユーザーの定番チョイスとなっています。
キヤノンは、フルサイズセンサー搭載ミラーレス一眼レフ市場への参入が他社より遅れたこともあり、ボディ内手振れ補正やハイフフレームレート(スローモーション)撮影などでソニーに遅れを取っていますが、「EOS R」は自撮り用のディスプレイを備えるなど、Vlogでの使い勝手は悪くありません。とはいえ、本命は今後発売予定の「EOS-R5」となりそうです。
富士フイルムの「FUJIFILM X-T4」は、APS-Cセンサーモデルの中では圧倒的に豊富なメーカー純正レンズのラインアップを持つことから幅広い撮影に対応可能です。また、「エテルナ」を始めとした独自のフィルムシミュレーション機能により、カメラの映像処理だけでまるで映画のような独特なカラーの動画が撮影できるのも魅力です。
ちなみに、Blackmagic Designの「Pocket Cinema Camera 4K」やパナソニックの「LUMIX S1」なども動画にこだわりのあるユーザーに人気のカメラです。しかし、どちらかというと自撮りなどを駆使するVlog向けというより、カメラを構えて被写体にフォーカスし撮影する、いわゆる従来の撮影に向いています。
基本的に自分が撮りたいスタイルの映像から逆算して必要な機材を購入すればいいので、以下の製品を全てそろえる必要はありませんが、映像をレベルアップしたり、快適に撮影を行ったりするのに役立つアクセサリーをピックアップしたので、ぜひ、参考にしてみてください。
カメラに内蔵されているマイクは、広い角度の音を拾うため、正面で話している人の声以外の環境音が入りやすく、ノイズの多い音声になりがちです。そこで役立つのが、指向性の強いショットガンマイク。これを使用することで、ノイズが多少ある場所で撮影した場合でも音声がクリアに収録できるようになります。状況説明のシーンなどで、より高音質の音声を届けたいのであれば、外付けのマイクを使用すると良いでしょう。
RODEのビデオマイクシリーズは、Vlog制作の現場で幅広く使用されている製品で、カメラの電源をオン/オフにすると、それに連動してマイクの電源もオン/オフになるのが特徴の製品です。電源をオンにし忘れて音声が撮れていなかった、オフにし忘れて電池が切れてしまうといったトラブルを回避できるのが便利です。
移動しながらの撮影が多いVlogでは、三脚は必ずしも必須機材ではありません。しかし、風景のタイムラプスや商品紹介シーンなどで、製品の撮影がある場合は三脚を使用すると安定した見やすい映像が撮れます。
シネマティック系と呼ばれるVlogに多い滑らかなスローモーションやハイパーラプスなどの映像を撮影したい場合に必要なアクセサリーがジンバル、スタビライザーです。手ブレをモーターによる補正で低減することで、ダイナミックにカメラを動かして撮影をしても、滑らかで、まるで映画のような雰囲気のある映像に仕上げられます。
Vlogではスタジオライトのような大きなライトが必要になることはあまりありませんが、ちょっとしたコンパクトサイズのライトがあると重宝します。室内の撮影で光源が足りない場合や、背景が短調な場所での撮影になってしまった場合に、アクセントとしてライトを追加するだけで雰囲気のある映像になります。
センサーサイズが大きく、絞りを開けられるレンズをつけたカメラで撮影する魅力のひとつは映像のボケ表現です。しかし、日中の太陽光の下などでは絞りを開けていくと、いくらISO感度を下げても映像が明るくなりすぎてしまうのです。シャッタースピードを上げて対応することもできますが、これだと動きに滑らかさが失われパラパラとした映像になってしまうという問題があります。
こういった問題を防ぐために使用するのがNDフィルターです。レンズの先端に取り付けて、入ってくる光を減らす(暗くする)ことで、絞りを大きく開けても適正露出での撮影が可能になります。明るい場所でボケを生かした映像が撮影したいなら、必須のアクセサリーです。
ここでは撮影した動画を編集してVlogを仕上げるのに必要なアプリ、ソフトウェアをご紹介します。初級はとにかく手軽にはじめられることを最優先とし、中〜上級はステップアップのしやすさも重視してチョイスしました。
スマホを使って無料でVlog始めるということを重視するなら、最初の編集は無料のスマホ向けアプリで十分です。ここで紹介しているアプリを使用すれば、複数の動画を1本にまとめる、動画の不要な部分をカットする、トランジション(場面転換のエフェクト)を加える、BGMを追加する、テキスト(テロップ)を表示する、といった基礎的な編集がスマホのみで行えます。iPhoneユーザーであれば、プリインストールされている「iMovie」でも必要十分な編集が行えますよ。
Adobe Premiere Rush Android/Windows/iOS/iPad OS/macOS用 無料(プロジェクト3つまで)
iMovie iOS/iPad OS/macOS用 無料
動画編集のソフトウェアを選択する基準は、動作の軽快さや扱えるデータの種類、ユーザーインターフェイスの洗練度合い、カラーコレクションのしやすさ、ほかのソフトウェアとの連携、価格などさまざまな要素があります。
これらに加えて、忘れてはならない重要な点がステップアップのしやすさです。マイナーなソフトウェアを選んでしまうと、せっかく操作に熟達しても趣味の領域で終わってしまいます。
たとえば、マイクロソフトの「Excel」を使いこなせれば仕事に役立つことも多いでしょう。いっぽうで、ユーザー数の少ない「謎のスプレッドシートソフト」が使えても、私用以外の用途で生かせるチャンスは少ないはず。これは、そのまま動画編集のソフトウェアにも当てはまります。
そのため、初めは無料アプリなどを使ってとにかく手軽にトライするだけでよいのですが、中級以上に進むのであればメジャーな動画編集ソフトを使用するほうがよいでしょう。
また、スマホ編集から卒業したい中級者の人は、無料のPC/macOS 版「Premiere Rush」や「iMovie」を使用するという選択肢もありますが、せっかく本格的な編集を始めるのであれば有料版の「Premiere Pro」か「Final Cut Pro X」を使用するほうがベターだと思います。多少操作メニューが複雑になるといった点が初心者には心配ですが、編集に必要な機能を覚えるだけなのでハードルは高くありません。
特に「動画編集を副業にしたい」と考えている人は最初から業界標準ともいえる「Premiere Pro」を使うようにするほうが、後々ソフトウェアの乗り換えで苦労することがないでしょう。
なお、「有料の編集ソフトウェアは金額が高い」とお悩みの方にはBlackmagic Designの「DaVinci Resolve 16」という救世主が存在します。完全プロフェッショナル仕様の高品質な編集ソフトウェアでありながら無料で、動作や書き出しも軽快、しかもカラーコレクション&グレーディングにおいてはほかの有料ソフトを超える性能を備えている、というすばらしいソフトウェアです。無料版では複数ユーザーコラボレーション機能などは使用できませんが、Vlog編集においてはまず使うことがない機能だと思いますので、無料版でまったく問題ありません。
Adobe「Premiere Pro」 Windows/macOS用 月額2,480円(税別)から
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Vlogは、スマホと無料アプリだけでも始められるので、必ずしも複雑な機材が必要ではありませんが、道具をそろえるのも楽しみのひとつ。「インフルエンサーになる!」という大それた目標がなくても、購入した機材を活躍させるための趣味にもなるというわけです。購入したカメラをイマイチ使えていない人や、これからカメラを購入して何を撮ろうか迷っている人は日常の撮影からスタートしてVlogの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
世界50か国以上を旅したバックパッカー。週刊アスキー編集部などを経て、AppBankに入社。「バイヤーたてさん」として仕入れとYouTubeを活用したコンテンツコマースに取り組み、上場時は広報として企業PRを担当。現在はフリーランスで活動中。