ここからはレンズの描写性能以外のところで、使ってみての印象をレポートしていこう。
今回、AFについてはAF-Sのワンショットを利用したが、5本のレンズで駆動レスポンスに極端な差はないという印象。AF-Cでの追従だとまた違ってくるとは思うが、明るい状況でのAF-Sならどのレンズでもスムーズなピント合わせが可能だ。
ただし、細かいところの使い勝手を比較すると差があった。あらゆる状況でピントが合いやすく、かつ精度が高いのはRF50mm F1.2 L USM+EOS R5とNIKKOR Z 50mm f/1.2 S+Z 7II。次いでLUMIX S PRO 50mm F1.4+S1R、50mm F1.4 DG HSM+S1R、Planar T* FE 50mm F1.4 ZA+α7R IIIの順になる。
EOS R5はユーザー評価の高い新世代のAFシステムを搭載しているので順当と言えるが、Z 7IIについては、特に暗所でのピント精度が非常に高いのが印象に残った。夜景などの難しいシーンでもピントを外すことがまずなく、安心してAF撮影が行えた。ニコンのフルサイズミラーレスはAF-Cの性能でユーザーから厳しい意見が出ているところがあるが、AF-Sについてはフルサイズミラーレスの中でトップクラスの性能を持っていると思う。
LUMIX S PRO 50mm F1.4+S1Rは逆光でのピント精度が落ちるのが気になった。また、50mm F1.4 DG HSM+S1RはLUMIX S PRO 50mm F1.4と比べると、わずかではあるが速度が遅くなる時があった。Planar T* FE 50mm F1.4 ZA+α7R IIIについては、ほかと比べると全体的に合焦率が低く、ピントの精度ももうひとつ。特に暗所と逆光で差を感じた。AF-Cでの利用だったり、最新世代のα7R IVだと違った結果になるのかもしれないが、狙ったところに正確にピントを合わせるという点では、今回の組み合わせの中で最もストレスを感じた。駆動音とフォーカスブリージングが大きいのも気になったところだ。
瞳AFについては、Z 7IIとLUMIX S1Rが特に使いやすかった。いずれもオートエリア時に左右の瞳を選択できるほか、AFエリアを絞って瞳AFを使えるのも便利だ。なお、ソニーは、α7R IVなど最新世代のミラーレスなら左右の瞳の選択が可能となっている。
Z 7IIは、シングルポイントよりも広い範囲で被写体を捉える「ワイドエリアAF(L)」でも瞳AFを利用できる
LUMIX S1Rは、1点AFでエリアを細かく絞って瞳AFを使用することが可能
なお、MFの操作についてはLUMIX S PRO 50mm F1.4の印象がよかった。適度なトルク感のあるフォーカスリングで、近接での微妙なピント合わせがやりやすかった。
今回、5本のレンズと4つのカメラボディを使用してみて大きな違いを感じたのが適正露出だ。レンズではなくカメラ側の実効感度や画像処理によるところが大きいと思われるが、RF50mm F1.2 L USM+EOS R5での適正露出の露出値をそのまま設定して同じシーンを撮影すると、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S+Z 7IIは0.3段程明るく、Planar T* FE 50mm F1.4 ZA+α7R IIIは0.3段程暗く、LUMIX S1Rを組み合わせたライカLマウントの2本は0.3〜0.7段程暗くなることが多かった。Z 7IIとLUMIX S1Rでは1段分の差が出ることもあった。
使ってみて特に気になったのがLUMIX S1Rで、これまでの感覚で露出値を手動設定すると、LUMIX S1Rはほとんどの場合においてアンダーになった。特にストロボを使ってマニュアル発光で撮影する際にこれまでの感覚とは異なっていて使い始めは少々面食らった。
今回の検証は、カメラボディが持つレンズの光学補正機能をオン(もしくはオート)にして行った。レンズ本来の性能を見るには、こうした補正機能はオフにしたほうがいいという意見もあると思うが、最新のレンズは電子補正が前提になっているものが多いことと、パナソニックのフルサイズミラーレスは歪曲収差補正と色収差補正が自動的に入るようになっているため、各レンズで条件をそろえるためにオンにした次第だ。
では、光学補正機能をオフにするとどういった結果になるのであろうか? 以下に、周辺光量補正・歪曲収差補正のオン・オフを比較した画像(絞り値F1.4で撮影したもの)を参考までに掲載しよう。なお、補正機能がオフのものは、サードパーティー製のRAW現像ソフト(Z 7IIはRawTherapee、その他はDxO PhotoLab 4)を使い、RAWデータに付随する内蔵レンズプロファイルを外して出力したものになる。α7R IIIとLUMIX S1Rについては周辺光量補正の情報が外せなかったため、周辺光量補正のオン・オフで撮り分けたRAWデータを活用した。また、RawTherapeeでの出力は撮影画像よりもわずかに画素数が多くなるので、Z 7IIについては微妙にトリミングして調整している。
RF50mm F1.2 L USM(カメラボディEOS R5)
NIKKOR Z 50mm f/1.2 S(カメラボディZ7 II)
Planar T* FE 50mm F1.4 ZA(カメラボディα7R III)
LUMIX S PRO 50mm F1.4(カメラボディLUMIX S1R)
50mm F1.4 DG HSM(カメラボディLUMIX S1R)
こうして見比べてみると、光学補正機能のオン・オフを切り替えられるRF50mm F1.2 L USM+EOS R5、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S+Z 7II、Planar T* FE 50mm F1.4 ZA+α7R IIIについては、レンズの性能をベースにそれなりに補正がかかるようになっている。注目なのはLUMIX S PRO 50mm F1.4+S1Rで、特に歪曲収差についてはかなり強い補正が入っているようだ。ほかと比べると周辺光量補正もやや強めとなっている。
パナソニックはマイクロフォーサーズシステムを含めて電子的な光学補正を積極的に取り入れているメーカーだが、標準レンズに対してここまで補正をかけるのは徹底していると言えよう。
今回取り上げたミラーレス用の大口径・標準レンズはどれもハイレベルな描写性能を持っているが、特に、RF50mm F1.2 L USM、NIKKOR Z 50mm f/1.2 S、LUMIX S PRO 50mm F1.4の最新3モデルが頭ひとつ抜けている印象を受けた。
この3本はいずれも開放から解像感が高く、ボケも上質な感じで甲乙付けがたい。あえてタイプに分けるとすれば、RF50mm F1.2 L USMは解像力とボケのバランス型で、NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sはボケ重視型、LUMIX S PRO 50mm F1.4は解像力重視型と言えるのではないだろうか。どのレンズでも、最新の高性能レンズらしい突き抜けた高画質を楽しむことができる。
Planar T* FE 50mm F1.4 ZAは、最新3モデルと比べると、ボケの大きさや滑らかさ、輪郭の色付きなど細かいところの描写でやや違いが出るところがあるものの、カールツァイスレンズらしい発色とコントラストが特徴だ。レンズの味という点でも撮影を楽しめる1本である。
50mm F1.4 DG HSMは、開放F1.4の大口径ながら約10万円という価格が魅力の、コストパフォーマンスの高いレンズだ。ほかの4本と比べて価格帯が異なるため、周辺部などの細かい描写性能では不利なところがあるが、今回の比較でかなり健闘していることがわかったはずだ。
RF50mm F1.2 L USM(キヤノン)
RF50mm F1.2 L USM。画像右はEOS R5に装着したイメージ
開放F1.2からシャープな描写と美しいボケ味を両立した、RFマウント用の大口径・標準レンズ。UDレンズや研削非球面レンズを効果的に配置することで色収差を抑制し、高解像・高コントラストを実現。ASCコーティングによってフレア・ゴーストも大幅に低減する。偶数枚の絞り羽根(10枚円形絞り)を採用しているのも特徴だ。
対応マウント:キヤノンRFマウント
レンズ構成:9群15枚
絞り羽根:10枚(円形絞り)
最短撮影距離:0.4m
最大撮影倍率:0.19倍
フィルター径:77mm
サイズ(最大径×長さ):89.8×108mm
重量:950g
NIKKOR Z 50mm f/1.2 S(ニコン)
NIKKOR Z 50mm f/1.2 S。画像右はZ 7IIに装着したイメージ
S-Line最高クラスの光学性能を持つ最新の大口径・標準レンズ。大口径Zマウントならではの理想的なレンズ構成やマルチフォーカス方式の採用によって、開放F1.2から画像全域での高い解像力と大きく滑らかなボケを両立。ナノクリスタルコートとアルネオコートによって高い逆光性能も実現している。
対応マウント:ニコンZマウント
レンズ構成:15群17枚
絞り羽根:9枚(円形絞り)
最短撮影距離:0.45m
最大撮影倍率:0.15倍
フィルター径:82mm
サイズ(最大径×長さ):約89.5×150mm
重量:約1090g
Planar T* FE 50mm F1.4 ZA(ソニー)
Planar T* FE 50mm F1.4 ZA。画像右はα7R IIIに装着したイメージ
カールツァイスレンズならではの高コントラスト・高解像を実現した、開放F1.4の大口径・標準レンズ。高い面精度を誇る高度非球面AAレンズ1枚を含む非球面レンズ2枚を用いた光学設計によって、像面湾曲や歪曲収差を低減。プラナーの名にふさわしい像面平坦性を持つ1本だ。
対応マウント:ソニーEマウント
レンズ構成:9群12枚
絞り羽根:11枚(円形絞り)
最短撮影距離:0.45m
最大撮影倍率:0.15倍
フィルター径:72mm
サイズ(最大径×長さ):83.5×108mm
重量:778g
LUMIX S PRO 50mm F1.4(パナソニック)
LUMIX S PRO 50mm F1.4。画像右はLUMIX S1R5に装着したイメージ
描写性能を追及した「LUMIX S」シリーズを象徴する、新世代の大口径・標準レンズとして登場した1本。非球面レンズ2枚、EDレンズ3枚を使った最新の光学設計によって、開放F1.4から高解EOS R5は最新の高性能AFシステムを搭載しているのでそれほどの驚きはないだろうが、 像・高コントラストな画質を実現している。クラッチ操作で瞬時にMFに切りかられるのもこのレンズの特徴だ。
対応マウント:ライカLマウント
レンズ構成:11群13枚
絞り羽根:11枚(円形絞り)
最短撮影距離:0.44m
最大撮影倍率:0.15倍
フィルター径:77mm
サイズ(最大径×長さ):90×約130mm
重量:約995g
50mm F1.4 DG HSM(シグマ)※Lマウント用
50mm F1.4 DG HSM。画像右はLUMIX S1Rに装着したイメージ
最高性能を追求した「Artライン」の大口径・標準レンズ。一眼レフ用の光学設計はそのままに、Lマウント用にAF駆動や制御アルゴリズムを最適化することで、高速AFやカメラ内収差補正機能などに対応した。なお、ミラーレス用としてはライカLマウント用のほかにソニーEマウント用も用意されている。
対応マウント:ライカLマウント
レンズ構成:8群13枚
絞り羽根:9枚(円形絞り)
最短撮影距離:0.4m
最大撮影倍率:0.18倍
フィルター径:77mm
サイズ(最大径×長さ):85.4×123.9mm
重量:890g