ソニーは2022年9月28日、映像制作用カメラ商品群「Cinema Line(シネマライン)」シリーズの新製品「FX30」を発表した。プロの映像クリエイターを目指す人をターゲットにした、同シリーズの中では入門機に位置付けられたモデルだ。入門機とはいえ、ソニーの最新モデルということで、十分な機能を持つシネマカメラに仕上がっている。
「Cinema Line」のエントリーモデルとしてラインアップに加わった「FX30」
まずは、「FX30」の基本性能から見ていこう。
最大のトピックは撮像素子で、「Cinema Line」シリーズとしては初めて、APS-Cサイズ(Super 35mm)のセンサーを採用している。動画撮影時の有効画素数が約2010万画素(静止画撮影時は約2600万画素)の裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサーだ。このセンサーと、最新の画像処理エンジン「BIONZ XR」を組み合わせることで、6Kオーバーサンプリングによる、4:2:2 10bitでの高画質な4K動画記録を実現している。
4K動画は最大120pのハイフレームレートに対応。最大5倍のスローモーション映像を記録できる。なお、4K/120p記録時は、フルサイズセンサー採用機が10%ほどのクロップなのに対して、本機は38%ほどクロップされる。
APS-Cサイズの裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサーを採用。動画撮影時の有効画素数は約2010万画素
フルサイズよりもひと回り小さいAPS-Cサイズの撮像素子ということで高感度の画質が気になるところだが、本機は、ISO800とISO2500の2つの基準感度を持つデュアル・ベースISOを採用し、高感度でもノイズを抑えた記録が可能だ。ダイナミックレンジも十分な広さで、Log撮影時(S-Log3時)は14+stopを達成している。
デュアル・ベースISOを採用。ISO800とISO2500の2つの基準感度が用意されている
撮影機能では、「Cinema Line」シリーズの他モデルと同様に、豊かな中間色と自然な肌色が特徴のルック「S-Cinetone」に対応。インポートしたLUTファイル(.cube)をピクチャープロファイル(PPLUT1〜4)として使用することもできる。
ピクチャープロファイルではLUTファイルを登録することが可能
さらに、「Flexible ISO」「Cine EI Quick」「Cine EI」の3つのLog撮影モードを搭載。このモードでは、LUTファイルを埋め込んで、モニタリングしながら撮影することも可能だ。このあたりの機能性の高さは、「Cinema Line」シリーズならではの部分と言えよう。
LUTファイルを埋め込んで使用できるLog撮影モード
「FX30」には、ミラーレスカメラ「αシリーズ」で培ってきた技術も多数投入されている。
特に注目なのは、横93%×縦97%の広い領域を495点の像面位相差AFがカバーするAFシステム。「αシリーズ」の最新モデルではおなじみの「リアルタイム瞳AF」(人物/動物/鳥)と「リアルタイムトラッキング」に対応しており、カメラまかせのAF撮影でもメインの被写体を捕捉しやすい。AFトランジション速度やAF乗り移り感度の設定も可能で、より柔軟性の高いAF撮影が可能なのもポイントだ。
さらに、フォーカス移動による画角変動を最小化するフォーカスブリージング補正機能と、被写界深度を可視化するフォーカスマップ機能も搭載している。
人物/動物/鳥の「リアルタイム瞳AF」に対応
フォーカスマップ機能を利用している画面。被写界深度外の前方は赤色、後方は青色で表示される
「αシリーズ」ゆずりという点では、ボディ内5軸手ブレ補正を搭載しているのも押さえておきたい特徴だ。画角が狭くなるものの、手ブレ補正効果が向上する「アクティブモード」にも対応している。
なお、メカシャッターを搭載していないため、静止画撮影は電子シャッターで動作する。連写は不可で、フラッシュにも非対応だ。
「FX30」のボディは、基本的に、フルサイズセンサーを搭載する上位モデル「FX3」を踏襲している。
ボディサイズは129.7(幅)×77.8(高さ)×84.5(奥行)mm(突起物を除く)で、重量は約646g(バッテリーとメモリーカードを含む)。サイズは「FX3」と同じで、重量は約70g軽い。シネマカメラとしては非常に軽量コンパクトなので、取り回しがよく、より自由度の高い撮影に対応できる。
また、「FX3」と同様に、ボディにネジ穴(1/4-20 UNC)が5か所用意されている。ケージを使わずに、小型マイクや外部モニターなどのアクセサリーを直接取り付けることが可能だ。
左が「FX30」で、右が「FX3」。両モデルでボディサイズは共通だ
操作性は「FX3」とほぼ同じで、グリップ上部に、広角側と望遠側に分けてズームスピードを8段階で調整できるズームレバーを搭載。電動式のパワーズームレンズだけでなく単焦点レンズでもズーム操作が行える。全画素超解像ズームと組み合わせれば、単焦点レンズ1本で幅広い画角の映像記録が可能だ。
液晶モニターはバリアングルタイプの3.0型タッチパネル液晶。画素数は「FX3」の約144万ドットから約236万ドットに向上している。
人さし指で操作できる位置に、細かくズームスピードを調整できるズームレバーを搭載
バリアングルタイプの3.0型タッチパネル液晶モニター(約236万ドット)を採用
このほか、冷却ファンを搭載し、放熱に配慮したボディ構造を採用することで、4K/60pの長時間記録を実現。4K/60p 4:2:2 10bit記録時の連続撮影時間は、最大で約13時間だ。
対応バッテリーは大容量のZバッテリーで、1回の充電での撮影可能時間は115分。USB Type-C 端子でのUSB PD高速充電にも対応する。
大容量のZバッテリーを採用
CFexpress Type Aカード/SDカードに対応するメモリーカードスロットを2基搭載
HDMI Type-A端子を搭載。対応の外部レコーダーにHDMIで接続する際は、16bit RAW動画の出力が可能だ。USB マルチ/マイクロUSB端子でのタイムコード入力にも対応している
「FX3」と同様、カメラのステータスを一覧表示し、設定値を変更できる「メインメニュー」を採用。フレームレートやLog撮影設定などをひと目で確認できる
XLRハンドルユニットが同梱するキットも用意される。本ハンドルユニットはXLR端子を2基備えており、別売のXLRマイクと組み合わせることで、デジタル信号での高音質録音を実現する
「Cinema Line」シリーズは、映像のプロ向けの業務用機器で、本格的な仕様の高額製品がラインアップしている。その中で、「FX30」は、特に若い層を中心に、これから本格的に映像クリエイターを目指す人をメインターゲットに据えた、同シリーズの裾野を広げる「シネマカメラ入門機」に位置付けられている。よりコンシューマーに近い立ち位置の製品で、同シリーズとしては新しい展開だ。
価格は、ボディ単体が273,900円、XLRハンドルユニットが同梱するモデルが328,900円(いずれも税込)。シネマカメラとしてはお求めやすい価格設定だ。それでいて、LUTを活用できるLog撮影モードなど、最新のトレンドを踏まえた機能を搭載しているのが魅力的。「αシリーズ」ゆずりの高性能なAFなど、使い勝手にすぐれるのもポイントで、ワンオペレーションで映像制作のスキルを磨くのにもってこいの製品と言えるだろう。
なお、ソニーは、2022年10月14日の「FX30」の発売に合わせて、「新Cinema Line カメラ発売記念クリエイター応援キャンペーン」と題したキャッシュバックキャンペーンを実施する。キャンペーン期間(購入期間)内に「FX30」と対象レンズを同時購入し、応募した人に10,000円もしくは20,000円をキャッシュバックするという内容だ。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。