カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになるような情報を、できるかぎりわかりやすくお伝えしたい! という想いで始まった連載「曽根原ラボ」。第2回で取り上げるテーマは「高画素デジタルカメラ(高画素機)」です。
連載2回目は高画素機の画質について考えてみます
ここで言う高画素機とは、APS-Cサイズやフルサイズの撮像素子(イメージセンサー)を搭載するデジタルカメラのこと(※高画素が当たり前の中判デジタルカメラは除外します)。2023年4月3日時点での最高画素数は、フルサイズ機がソニーの「α7R IV」(2019年9月発売)と「α7R V」(2022年11月発売)の有効約6100万画素で、APS-C機が富士フイルムの「X-H2」(2022年9月発売)と「X-T5」(2022年11月発売)の有効約4020万画素です。ひと昔前と比べると大幅に高画素化していることがわかります。
問題は、どうしてそんなに高い画素数できれいな写真が撮れるのか? ということです。フルサイズにしろAPS-Cにしろ、かつては2000万画素を超えたあたりで「すごい! でもこれ以上の高画素化は、高感度耐性が弱くなるし、データ容量も重くなるからもういい!」と心配する声もありました。それなのに、デジタルカメラの画素数はその後も平然と、3000万画素を超え、4000万画素を超え、5000万画素を超えていき、それでもとても高画質な画を提供してくれています。
なぜだ!? というあたりを考えてみるのが今回のテーマというわけです。
デジタルカメラの画素数と画質を考えるうえで避けて通れないのが「画素ピッチ」です。画素ピッチとは、撮像素子の隣り合う画素の中心から中心の距離のこと。撮像素子の、1つひとつの画素は非常に小さいため、通常この距離の単位はμm(マイクロメートル、1マイクロメートル=0.001mm)で表記されます。
画素と画素の間の距離のことを画素ピッチと言います。画素ピッチが広いほうが画質的には有利です
知っている人にとっては常識だと思いますが、基本的に画素ピッチが広いほど1画素あたりの画素サイズは大きくなります。画素サイズが大きい=受光面積が広いため、より多くの光を取り込めるのがポイント。画素ピッチが広いほうが、ダイナミックレンジと高感度特性の両方で有利で、結果的に画質はよくなります。
同じ画素数で考えるなら、APS-Cサイズよりフルサイズのほうが、フルサイズより中判のほうが画質がよいと言えます。あくまで、「基本的に」の話ですが。
キヤノン「EOS 10D」で撮影した19年前の写真。ダイナミックレンジが狭いせいか、男の子の肌が白飛びしているのがわかるでしょうか?
EOS 10D、EF20-35mm F3.5-4.5 USM、34mm(35mm判換算55mm相当)、ISO100、F5.6、1/200秒、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード(最新のRAW現像ソフトで明るさ調整済み)
上に掲載したのは、19年ほど前(2004年)に撮影した写真です。カメラは2003年3月に発売された、キヤノンの「EOS 10D」というデジタル一眼レフです。撮像素子はAPS-Cサイズで、画素数は有効約630万画素ということが価格.comで調べてわかりました。価格.com便利ですね。
有効約630万画素ということは計算上、画素ピッチは7μmを優に超えることになり、最新のデジタル一眼カメラと比べて非常に広いことになります。それならさぞや高画質かと思いきや、写真を見てみると、画面の中央を走り去る男の子の顔や手は明らかに白飛びしており、よくない意味でコントラストが高いです。おかしいですね、画素ピッチが広ければダイナミックレンジも広くなるはずなのに……。
同じくキヤノン「EOS 10D」で撮影した19年前の写真。日傘が激しく白飛びしてしまい、空間に穴が開いてしまっているかのようです
EOS 10D、EF20-35mm F3.5-4.5 USM、28mm(35mm判換算45mm相当)、ISO100、F5.6、1/320秒、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード(最新のRAW現像ソフトで明るさ調整済み)
この写真も、同じくキヤノン「EOS 10D」で撮影したものです。日傘をはじめとして、日の当たった白い部分が、それほど無理な露出をしていないにも関わらず白飛びしています
こうした結果を見ると、「画素ピッチが広い=高画質」という原則は、必ずしも成り立たないことがわかるのではないかと思います。デジタルカメラが普及してから20年以上の歴史の中で、デジタルカメラは着実に進化を積み重ね、画質を落とさずに「高画素化=解像感の向上」を果たしてきているのです。
結果から言ってしまえば、これらは撮像素子自体の進化であり、画像処理エンジンの進化であり、交換レンズの進化でもあります。それらが相乗的に作用することで、高画素機は、画素ピッチの狭さを克服した高画質を実現しています。
ここからは、最新の高画素機の実力を見ていきたいと思います。
ソニーの高画素機「α7R V」。有効約6100万画素のフルサイズミラーレスカメラです
まず紹介したいのが、フルサイズミラーレスカメラとして最高画素数(2023年4月3日時点)を誇る、有効約6100万画素のソニー「α7R V」です。
見た目ではまったくわかりませんが、「α7R V」の撮像素子は約6250万の画素からできており、そのうち約6100万画素を撮影に使っています。途方もないですね
有効約6100万画素という画素数は前モデル「α7R IV」と同じで、おそらく撮像素子も同じものだと思われます。変わったのは画像処理エンジンで、「α7R IV」の「BIONZ X」と比べて最大約8倍の処理能力を持つとされる「BIONZ XR」を新たに採用しています。
α7R V、FE 24-105mm F4 G OSS、35mm、ISO100、F8、1/125秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(9504×6336、23.7MB)
遠距離を撮影する機会の多い風景写真は、まさに高解像機の実力が発揮されるところ。この写真を見ると、細かな樹々の枝1本1本まで詳細に描き分けられており、非常に高い解像感が得られていることがわかります。比較したわけではありませんが、同じ画素数の「α7R IV」より明らかに解像性能は高いです(ちなみに筆者は元「α7R IV」ユーザーです)。同じ撮像素子でも解像性能が異なるのは、画像処理エンジンの進化によるところが少なくありません。カメラ内部にあって実感しにくい画像処理エンジンですが、実は画質の向上にとって非常に重要なファクターなのです。
α7R V、FE 24-105mm F4 G OSS、70mm、ISO100、F8、1/1600秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(9504×6336、16.5MB)
画素ピッチは約3.7μm(計算上の値)で、先述の「EOS 10D」の半分ほどしかありませんが、階調性はとても高く、豊かなトーンで微妙な明暗を表現してくれます。ハイライトもギリギリまで粘ってくれるので、白飛びなども露出で無理をしなければ心配する必要はありません。こうしたところは新型の画像処理エンジン「BIONZ XR」がイイ仕事をしてくれているからでしょう。
α7R V、FE 24-105mm F4 G OSS、73mm、ISO250、F4、1/500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(9504×6336、12.5MB)
高画素のメリットのひとつが、ディテールの描き方がとてもていねいで、結果的に質感や立体感が向上することだと思います。A3サイズやA2サイズ程度にプリントするのに、これほどの画素数は正直必要ありませんが、それでも実際にプリントしてみると高画素機ならではの繊細な質感描写を実感してしまうのですから不思議です。
α7R V、FE 24-105mm F4 G OSS、75mm、ISO3200、F56、1/1600秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(9504×6336、18.6MB)
風の強い日で、動くネモフィラの花を止めて写したかったため、感度をISO3200まで上げて撮影しました。よほど拡大しない限り、写真として十分に成立していると思います。高画素化によって画素ピッチが狭くなっても、撮像素子のマイクロオンチップや裏面照射型の採用、また画像処理エンジンの進化などによって、高感度のノイズ耐性も昔に比べて劇的に向上しています。
富士フイルムの高画素機「X-H2」。有効約4020万画素のAPS-Cミラーレスカメラです
次に紹介する高画素機が、有効約4020万画素の富士フイルム「X-H2」です。
「X-H2」は、APS-Cサイズの撮像素子を採用するデジタルカメラとして初めて4000万画素を超えたのがポイント。すぐ後に発売された「X-T5」も同じ撮像素子と画像処理エンジンを搭載しています
ポイントはAPS-Cサイズの撮像素子を採用するデジタルカメラとして初めて有効画素数が4000万画素を超えたこと。画像処理エンジンも第5世代の最新型「X-Processor 5」を採用しています。正直言いますと、筆者も初めは「APS-Cサイズで4000万画素も必要なのか? 活用できるのか?」といぶかしく思っていましたが、実際に使ってみると驚くほど高画質だったため、感動のあまり購入してしまったカメラです。
X-H2、XF16-80mmF4 R OIS WR、24mm(35mm判換算36mm相当)、ISO125、F8、1/100秒、ホワイトバランス:晴れ、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、23.6MB)
「X-H2」は、遠景を写しても、2000万画素クラスのAPS-Cサイズ機とは一線を画す、すばらしい解像感を見せてくれます。画素ピッチは3.04μmと驚きの狭さですが、そんな狭小な画素サイズでもうまく解像性能を引き出せているのは、やはり高性能な画像処理エンジン「X-Processor 5」の採用があったからでしょう。
あまりにも解像性能が高いためか、富士フイルムは「40MP推奨レンズ」というものを公表しています。カメラボディの性能を絞り開放から生かせるレンズという意味のようですが、逆に、レンズの性能を最大限に引き出していると考えれば、推奨レンズ以外でもそれほど気にする必要はないと思います。
X-H2、XF16-80mmF4 R OIS WR、48mm(35mm判換算72mm相当)、ISO125、F6.4、1/1900秒、ホワイトバランス:晴れ、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.0MB)
この写真は輝度差の強いシーンを撮影したものですが、ハイライトの粘りや微妙なトーンの再現性なども大変秀逸です。繰り返しになりますが、とても有効4020万画素のAPS-C機とは思えないほどの、大変すぐれた階調再現性です。また、APS-Cサイズの特性上、同じ画角なら手前から無限遠までの広い範囲を先鋭に写すことができます。風景写真など、パンフォーカスで写真を撮る機会が多い撮影ではフルサイズより撮りやすさを感じることができます。
X-H2、XF16-80mmF4 R OIS WR、45mm(35mm判換算68mm相当)、ISO400、F4、1/680秒、ホワイトバランス:晴れ、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、18.6MB)
高画素のメリットは解像感だけでなく質感描写も向上すること、というのは上述の「α7R V」でも話しましたが、それはAPS-Cサイズ機でも同じことが言えます。サイズの小さな撮像素子は、大きな撮像素子に比べて質感描写が劣るためか、どこかノッペリと単調な表現になりがちでしたが、高画素機ならそうした問題もなくウットリするようなすばらしい立体感を味わえます。
X-H2、XF16-80mmF4 R OIS WR、48mm(35mm判換算72mm相当)、ISO3200、F5.6、1/750秒、ホワイトバランス:晴れ、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、22.3MB)
「α7R V」のときと同じく、風に揺らめくネモフィラを止めて写すために、感度を高くして撮影しています。ISO3200でもノイズがほとんど気にならない高感度特性は、非常に立派な結果と言えるでしょう。高画素化しながらもすぐれた高感度特性を実現できたのは、裏面照射型の撮像素子を採用するなどのほかに、やはり画像処理エンジンの進化が大きく関係しているのでしょう。
デジタルカメラの高画素化が現在ほど進んでいなかったころ、画素ピッチが4μmより小さくなると、レンズの解像性能が撮像素子の解像性能に追いつけなくなる、という話がありました。ところが、今回撮影に使った「α7R V」と「X-H2」は、どちらも画素ピッチが4μm未満の高画素機です。これは、デジタルカメラだけでなく、レンズの性能も全体的に進化していることを示していると思います。
過去には、高い解像感を得るためには高画素化が求められるものの、高画素化によって狭まる画素ピッチは高感度特性に悪影響を及ぼす、という話もありましたが、撮像素子自体が集光効率を向上するように進化した結果、そうした問題も今や完全にクリアされています。むしろ、画素ピッチの広い昔のデジタルカメラ(たとえば今回紹介した約20年前の一眼レフ)より、圧倒的にすぐれた高感度特性を手に入れています。
増大した画素数から得られた信号を演算処理するのは、非常に難しい問題でしたが、画像処理エンジンの大幅な進化によって、特に待たされることなくスムーズに画像を保存してくれます。大切なことなので何度でも言わせてもらいますと、デジタルカメラの画質向上は、撮像素子だけでなく、実は目に見えないところで頑張っている画像処理エンジンによるところも大きいのです。
大きくプリントするのでもないのに、必要以上の画素数は不要と思われるかもしれませんが、高画素なデジタルカメラから得られた画像は、解像感にすぐれるだけでなく、質感描写や階調性が高いのも事実です。ただいたずらに画素数という数字を増やしているだけではなく、リアルに画質向上を果たしているのが高画素機というわけです。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。