リコーイメージング「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」(以下、「K-3 Mark III Monochrome」)は、「PENTAX」ブランドのAPS-C一眼レフのフラッグシップモデル「PENTAX K-3 Mark III」(以下、「K-3 Mark III」)をベースにした、モノクロ撮影専用の一眼レフカメラ。2023年4月28日の発売とともに即完売した話題の製品だ。ここでは、ベースモデルとの違いを掘り下げながら、このカメラの実力をレビューしよう。
「K-3 Mark III Monochrome」は、国内メーカーのデジタルカメラとしては初めてのモノクロ専用機(装着しているレンズは「HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited」)。2021年11月に開催されたファンイベント「PENTAXミーティングオンライン2021」にて「K-3 Mark III」の派生モデルとして提案され、その後PENTAXユーザーへのアンケート調査などを経て製品化された
まずは、「K-3 Mark III Monochrome」の外観デザインを見ていこう。
「K-3 Mark III Monochrome」のボディ自体はベースモデル「K-3 Mark III」と共通。サイズは約134.5(幅)×103.5(高さ)×73.5(奥行)mm(突起部を除く)、重量は約820g(バッテリー、SDメモリーカードを含む)で、「K-3 Mark III」とまったく同じスペックだ。
両モデルが異なるのは外装のディテール。「K-3 Mark III Monochrome」は、背面左上に「Monochrome」の文字を印字するほか、操作部のアイコンなど表示部に濃淡の異なる3つのグレーを採用。さらに、カメラ上面の表示パネルに白色のバックライトを採用するなど、細かいところまでモノクロの世界観を大切にしたデザインに仕上がっている。
「K-3 Mark III Monochrome」のデザインの特徴
・背面左上に「Monochrome」の文字を印字
・前面の「SR」バッジに専用のシルバーを採用
・操作部のアイコンなどの表示部に濃淡の異なる3つのグレーを採用
・上面右肩の表示パネルに白色のバックライトを採用
・画面表示の初期設定がモノクロ配色
「K-3 Mark III Monochrome」は、アイコンなどの表示部に濃淡の異なる3つのグレーを採用。軍艦部の「PENTAX」のロゴもグレーだ
前面の「SR」バッジは、ベースモデルのゴールドではなくシルバーで仕上げられている
左側面のボタン類では、フォーカスモード切り替えレバーの「AF」までもがグレーで揃っている
上面左肩のモードダイヤルも「AUTO」や「X」がグレーで塗られている
上面右肩の表示パネルには白色のバックライトを採用
背面左上に「Monochrome」の文字をグレーで印字。「グリーンボタン」もグレーの配色だ
ベースモデルと同様、SDメモリーカードのデュアルスロットを採用(スロット1のみUHS-IIに対応)。スロットを示すアイコンがグレーなのがポイント
インターフェイス部の文字・アイコンもグレーで統一されている
左が「K-3 Mark III Monochrome」で、右が「K-3 Mark III」(以下、同)。正面から見ると、「K-3 Mark III Monochrome」はグレーの配色によってベースモデルとは雰囲気が異なっているのがわかる
左側面
上面
背面
「K-3 Mark III Monochrome」では、ステータススクリーンなどの画面表示の初期設定にモノクロ配色が採用されている(※変更可能)
メニュー画面のカーソルも初期設定はグレー
パッケージのデザインは両モデルでほぼ共通。「K-3 Mark III Monochrome」のパッケージには「Monochrome」と書かれている
次に、「K-3 Mark III Monochrome」とベースモデル「K-3 Mark III」のモノクロ画質の違いを見ていこう。
いずれも、撮像素子に、ローパスフィルターレス仕様の裏面照射型CMOSセンサー(APS-Cサイズ)を採用している。有効画素数も約2573万画素で共通だ。異なるのはカラーフィルターの有無で、「K-3 Mark III Monochrome」は、カラーフィルターを省略することでモノクロ(モノクローム)撮影に特化しているのが特徴だ。モノクロ専用の撮像素子を生かすために、画像処理もベースモデルから一新している。
なお、「K-3 Mark III Monochrome」は、カラーフィルターがない分、受光感度が上がるため、感度はISO200スタートに設定されている。色情報がないためホワイトバランスの設定はなく、選択できる仕上がり設定「カスタムイメージ」は「スタンダード」「ハード」「ソフト」の3種類だ。
以下に、「K-3 Mark III Monochrome」と「K-3 Mark III」を使って、同じ感度(ISO200)で同じ被写体を撮り比べた結果を報告しよう。
まずは、「K-3 Mark III」で撮影したカラー写真を掲載する。どういった色の被写体でテストしたのかを見ていただきたい。
赤、緑、青の3色が揃った花を被写体にしてみた。使用した照明は色温度6500Kの高演色LED照明で、ホワイトバランスは6500Kに設定した
続いて、上記の被写体をモノクロで撮影した写真を掲載しよう。撮影設定は両モデルでできる限り揃えた。
■撮影設定
2モデル共通
JPEG記録サイズ:L、JPEG画質:スーパーファイン、明瞭度:±0、ディストーション補正:オフ、周辺光量補正:オフ、回折補正:オン、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オフ、高感度ノイズ低減:中
K-3 Mark III Monochrome
カスタムイメージ:スタンダード(パラメーターは初期設定)
K-3 Mark III
カスタムイメージ:モノトーン(パラメーターは初期設定)、ホワイトバランス:6500K(※照明の色温度が6500Kのため)、倍率色収差補正:オン
※「K-3 Mark III Monochrome」にホワイトバランスと倍率色収差補正の設定はない
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR、40mm(35mm判換算61mm相当)、ISO200、F11、0.6秒
撮影写真(6192×4128、10.0MB)
K-3、HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR、40mm(35mm判換算61mm相当)、ISO200、F11、0.6秒
撮影写真(6192×4128、9.8MB)
写真中央部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
それぞれのモデルで撮影した写真を見ると、トーンの出方が異なることがわかる。「K-3 Mark III Monochrome」はハイライトの階調性が高く、赤や黄、青など色の明るい部分のトーンがしっかりと表現されている。比べると、「K-3 Mark III」は、ヒマワリの黄色などハイライトが明るく、やや質感が失われている部分が見受けられる。緑の葉などを見ると、シャドウ側の再現性も「K-3 Mark III Monochrome」のほうがすぐれているようだ。
解像感については、切り出し画像だけをパッと見ると、「K-3 Mark III」のほうがメリハリがあってシャープに見えるかもしれないが、それは違う。よく見比べると、「K-3 Mark III Monochrome」のほうが線の描写が細く、全体として非常に繊細かつ緻密な描写が得られている。若干ナチュラルすぎるきらいもあるので、もう少し力強さが欲しい場合は、ファインシャープネスの設定を高めるとよいだろう。
このあたりの差は、やはりカラーフィルターの有無が大きいと考えられる。ベースモデル「K-3 Mark III」など一般的なデジタルカメラは、撮像素子の1画素ごとに赤(R)、緑(G)、青(B)のいずれかのカラーフィルターが備わっていて、補間処理によってカラー画像を生成したうえでモノクロ画像に変換する。いっぽう、「K-3 Mark III Monochrome」は、カラーフィルターがないため、1画素1画素が取得した輝度情報をダイレクトに画像に反映できる。これによって、より階調性にすぐれ、繊細な描写のモノクロ画像が得られるのだ。
ここでは、「K-3 Mark III Monochrome」と「K-3 Mark III」の高感度画質の違いを見ていこう。ISO200からISO102400まで感度別に撮影写真の切り出し画像を掲載していく。
写真中央部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO200、6192×4128、10.0MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO200、6192×4128、9.7MB)
写真中央部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO400、6192×4128、11.0MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO400、6192×4128、9.2MB)
写真中央部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO800、6192×4128、12.6MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO800、6192×4128、9.6MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO1600、6192×4128、13.5MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO1600、6192×4128、9.6MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO3200、6192×4128、15.2MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO3200、6192×4128、10.9MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO6400、6192×4128、16.6MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO6400、6192×4128、11.7MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO12800、6192×4128、17.5MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO12800、6192×4128、13.3MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO25600、6192×4128、16.8MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO25600、6192×4128、13.8MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO51200、6192×4128、16.3MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO51200、6192×4128、13.7MB)
写真中央上部の等倍切り出し画像
写真中央上部の等倍切り出し画像
「K-3 Mark III Monochrome」の撮影写真(ISO102400、6192×4128、16.8MB)
「K-3 Mark III」の撮影写真(ISO102400、6192×4128、13.5MB)
細かいところをチェックすると、ISO1600〜ISO3200を超えたあたりから両モデルの画質の差が徐々に広がっていくように見える。「K-3 Mark III」はISO3200から階調性/ディテールともに失われていくが、「K-3 Mark III Monochrome」はISO6400やISO12800でもキープしている印象。ISO25600以上になるとさすがに階調性が落ち、ハイライトのトーンが潰れ始めるが、それでもディテールはしっかりと残っている。ISO25600やISO51200ではノイズが増えるものの、「K-3 Mark III」と比べると解像感で大きな差が生まれている。
モノクロ写真の場合、粒状感を加えることで写真として成立するため、どこまで高感度が使えるかの判断は人によって変わってくると思うが、「K-3 Mark III Monochrome」ならISO6400は問題なく常用できるはずだ。場合によってはISO12800も活用できるだろう。
最後に、「K-3 Mark III Monochrome」で撮影した作例をいくつか掲載しよう。
「K-3 Mark III Monochrome」では、仕上がり設定「カスタムイメージ」として「スタンダード」「ハード」「ソフト」の3種類が用意されている。それぞれでキーやコントラスト、シャープネスの設定をカスタマイズできる。
さらに、独特のフィルター効果を加えられる「デジタルフィルター」も用意。選択できるのは「トイカメラ」「レトロ」「ハイコントラスト」「シェーディング」「ネガポジ反転」「ドラマチックアート」「粒状感モノクローム」の計8種類のフィルターで、特にモノクロ写真と相性がよいのは「粒状感モノクローム」と「ハイコントラスト」だ。「粒状感モノクローム」は3段階、「ハイコントラスト」は5段階で効果を設定できる。
「スタンダード」「ハード」「ソフト」の3種類の「カスタムイメージ」を利用可能。パラメーターを調整して仕上がりを追い込める
「K-3 Mark III Monochrome」の「デジタルフィルター」では、「粒状感モノクローム」(左)と「ハイコントラスト」(右)の使用頻度が増えるだろう
以下に掲載する作例は、「K-3 Mark III Monochrome」を使ってJPEG形式の最高画質で撮影したもの(JPEG撮って出し)。すべての作例で、明瞭度:±0、ディストーション補正:オン、周辺光量補正:オート、回折補正:オン、高感度ノイズ低減:オートに設定している。
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited、21mm(35mm判換算32mm相当)、ISO200、F3.2、1/8000秒、カスタムイメージ:ハード、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、17.3MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited、40mm(35mm判換算61mm相当)、ISO6400、F4.5、1/500秒、カスタムイメージ:ハード、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オン、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、13.3MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited、40mm(35mm判換算61mm相当)、ISO3200、F6.3、1/800秒、カスタムイメージ:ハード、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オン、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、16.3MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited、21mm(35mm判換算32mm相当)、ISO200、F11、1/500秒、カスタムイメージ:スタンダード、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、10.5MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited、21mm(35mm判換算32mm相当)、ISO200、F5、1/320秒、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、16.6MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR、20mm(35mm判換算30mm相当)、ISO1600、F8、1/5000秒、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ハイコントラスト(2)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、11.9MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR、20mm(35mm判換算30mm相当)、ISO200、F6.3、1/1600秒、カスタムイメージ:ハード、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(4128×6192、15.9MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR、40mm(35mm判換算61mm相当)、ISO200、F4、1/1250秒、カスタムイメージ:ソフト、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、16.5MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited、21mm(35mm判換算32mm相当)、ISO200、F3.2、1/6400秒、カスタムイメージ:ソフト、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、13.6MB)
K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited、21mm(35mm判換算32mm相当)、ISO8000、F3.2、1/50秒、カスタムイメージ:ハード、デジタルフィルター:粒状感モノクローム(3)、ハイライト補正:オフ、シャドー補正:オート、JPEG
撮影写真(6192×4128、16.4MB)
今回、「K-3 Mark III Monochrome」を使用してみて、素直に手に入れて長く愛用したい1台だと感じた。まず、一眼レフとしての完成度が高い「K-3 Mark III」をベースにしているのがよい。シャッターのフィーリング、光学ファインダーの見え方、グリップのホールディング性などあらゆる点が上質で、使っていて心地よくなるカメラだ。
そして、最大の特徴であるモノクロ画質の仕上がりもすばらしい。階調性にすぐれ、繊細かつ緻密な描写は、非常に高品位。国内メーカー製のほかのAPS-C機では味わえない、良質なモノクロ写真を撮ることができる。「デジタルフィルター」を使って粒状感をプラスしたり、コントラストを上げたりできるのも面白く、使い方の幅が広いのもポイントが高い。
「K-3 Mark III Monochrome」は、「PENTAX」ファンなら手に入れておきたい“逸品”であると同時に、モノクロ写真好きなら持っておいて損のないカメラだ。2023年4月30日時点での価格.com最安価格は299,700円。ベースモデル「K-3 Mark III」よりも10万円程度高いが、その価値は十分にある。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。