連載第1回の“相棒”は、キヤノンの小型ミラーレスカメラ「EOS R10」と単焦点レンズ「RF24mm f1.8 MACRO IS STM」。APS-Cサイズの撮像素子を搭載した小型ボディと、35mm判換算で38mm相当の焦点距離のレンズの組み合わせは、私たち人間の目よりほんの少しだけ広い世界を見せてくれます
こんにちは、写真家の金森玲奈です。連載「今日も、カメラと一緒に」のスタートにあたり、まず、私とカメラのこと、そして本連載のコンセプトをご説明したいと思います。
私は、写真と出会って今年で四半世紀! になります。写真を始めたころはまだフィルムカメラの時代でした。それからデジタル一眼レフ、ミラーレスカメラと、変わっていくカメラたちとともに時間を重ねてきました。
写真の仕事をするようになって、自分が普段使っているカメラメーカー以外のカメラに触れる機会も増え、時に操作性の違いに苦労したり、好みの描写のレンズに出会ってしまって心が揺れたり。それでも、どのカメラを使っても「撮りたい」「残したい」という想いに違いはなく、だからこそ写真は撮る人の視点が写る、もうひとりの自分のような存在だと思うのです。そしてそれを記録してくれるカメラもまた、かけがえのない“相棒”だと思っています。
本連載「今日も、カメラと一緒に」では、毎回違う相棒カメラと一緒に、日常や旅先で出会う何気ないけれど心が動いた瞬間や、そのときに感じたことなどを写真と文章でつづっていきたいと思います。
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F2.8、1/80秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、11.7MB)
私の家には、怪我と障害がきっかけで引き取った2匹の猫がいます。
いつも同じようなシンクロポーズで寝ているのが愛らしくて、数え切れないほど似たようなシチュエーションを撮っています。それでも見るたびにシャッターを切ってしまうのは、毎回ただシンプルに「撮りたい」と思えるからなのでしょう。
同じなように見えても同じ瞬間は二度と訪れないということは、写真と出会ってから知ったいちばん大切な気づきかもしれません。だからこそ、残しておきたいと思った瞬間を逃さないでいたいと思います。
日課のうちの子の撮影も終わり、さて、今回の相棒とどこへ行こうと考えたとき、とある団地の中にあるオシャレなカフェに行ってみたかったことを思い出し、カメラとお財布だけを持って自転車で一路団地カフェへ向かいました。
憧れのプリンアラモードEOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/80秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.7MB)
せっかくなので「EOS R10」と記念に1枚(「EOS R6 Mark II」で撮影)
最近は団地内のスペースを使ってカフェやお店を営業するところが増えているようです。私自身は団地に住んだことはありませんが、小学生のころに団地にあるピアノ教室に通っていました。
同じ作りをした団地はまるで要塞のように見えて、ひとりで通うようになってからはちゃんと先生の家にたどり着けるか、毎回ドキドキしたものです。大人になってからはレトロな佇まいや植物がたくさん植えられている環境が気に入って、大学の通学途中で見かけた団地の桜を愛でたりしていました。
大学時代の私は街に暮らす猫ばかりを撮っていたので、お気に入りだったのにその団地の写真を1枚も撮っていませんでした。数年前にその団地は新しく建て替えられてしまって、私が好きだった桜の庭もなくなってしまいました。
あんなに好きな場所だったのに、記憶の中にしかその光景が残っておらず、それも少しずつ薄れていっていることが今はとても残念です。
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F4.0、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
下ろしたてのスニーカーを見てニヤニヤしていたら通路の目地に生えたちいさな植物たちが目に入りました。思わず目で追ったらなんだかあみだくじをしているような気分に
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、14.0MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.2MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
今住んでいる家の近所にもかなり古い団地があります。
団地の真ん中にある公園は、春は桜、夏は新緑、秋はイチョウと季節の移ろいを楽しませてくれます。ただ、残念ながら、ここも数年以内に建て替えが決定してしまっているので、駅への行き帰りなど、折に触れて自分が好きなこの場所の雰囲気を写真に残しています。
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、15.2MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.4MB)
生き生きとした花も、散って土に還ろうとしている花も好き
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F5.6、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.5MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/4000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.0MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.0MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、15.0MB)
「チェリーセージって言うのよ」
植え込みからひょこっと飛び出た赤い花を撮っていたら後ろからそう声をかけられました。声の主は目の前の団地から出てきた妙齢の女性で、「何を一生懸命撮っているのか気になって声かけちゃったわ」と言いながら、葉っぱを擦るとよいにおいがするということを教えてくれました。カメラを持っているとこんな風に見知らぬ人に話しかけられることがあります。
私は元々人見知りで、写真を始める前は見知らぬ人と話をするなんてとても無理でした。ですが、カメラや写真がその人との間に共通の話題を作ってくれ、写真が好きだからこそ興味を持ってくれた相手に勇気を出して話すことができるようになったと思います。
ひとしきり花の話をしていると「よかったら持っていきなさい」とふた枝ほど折って手渡してくれましたが、女性と別れて花を持っていると単なる花泥棒のようで落ち着かないことこのうえなく、なるべく平静を装いつつそそくさと帰宅の途につきました。
颯爽と買い物に出かける女性
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/1000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
「EOS R6 Mark II」で撮影
鳥の鳴き声に上を見るとなんとインコの集団が。大きな木があるこのあたりを根城にしているのでしょうか、新しい発見でした
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.9MB)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.0MB)
それからの数日は、我が家の猫たちがうっかり食べないように台所のレンジフードの上で夜を過ごしたチェリーセージを擦って目を覚ます、という新しい朝のルーティーンをこなし、いつもどおりの1日が始まるのでした。
チェリーセージと今回の相棒「EOS R10」(「EOS R6 Mark II」で撮影)
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/60秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、13.9MB)
写真にはいくつかの役割があると思っています。誰かに何かを伝えるための手段として、自分が表現したいことを具現化するための媒体として、そして忘れたくない瞬間を記録するための「キヲクの保管庫」として。どれが正しいということはなく、自分が求める写真との関わり方を見つけられたら、それはとても幸せなことだと思います。
さて、次の相棒と今度はどこへ行こう。
EOS R10、RF24mm f1.8 MACRO IS STM、24mm(35mm判換算38mm相当)、F1.8、1/64秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.1MB)
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Twitter:@kanamorireina
写真家。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務などを経て2011年からフリーランスとして活動を開始。怪我と障害がきっかけで引き取った2匹の飼い猫との日々を撮り続けている。