曽根原ラボ

「イメージセンサーのフォーマット」と「画角」の関係を整理しよう

カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになるような情報を、できるかぎりわかりやすくお伝えしたい! という想いで始まった連載「曽根原ラボ」。第5回で取り上げるテーマは「イメージセンサー(撮像素子)のフォーマットと画角の関係」です。

連載5回目は、イメージセンサーのフォーマットによって画角が異なることと、それがどういう違いを生むのか(生まないのか)を解説します

連載5回目は、イメージセンサーのフォーマットによって画角が異なることと、それがどういう違いを生むのか(生まないのか)を解説します

APS-Cサイズやマイクロフォーサーズ規格などフルサイズ(35mm判)以外のフォーマットでは、レンズの画角を説明するのに、フルサイズを基準に「35mm判換算で焦点距離○○mm相当」と表現します。たとえば、フルサイズに対して画角が1.5倍大きくなるAPS-Cサイズで焦点距離50mmのレンズを使う場合、画角は「35mm判換算で焦点距離75mm相当」になるわけです。

ここで気になるのが、この“相当”という言葉。疑問を持っている人もいるかと思いますが、上の例で言えば「フルサイズでの焦点距離75mmと同じような写真が撮れる」ということなのでしょうか?

今回は、フルサイズとAPS-Cサイズで比較しながら、そのあたりを整理してみたいと思います。

「画角」とは?

まずは、「画角」の定義をおさらいしておきましょう。

画角とは、画像として写される光景の範囲を角度で表したものです。簡単に言えば「写せる範囲の角度」ですね。

画角の広いレンズのことを「広角レンズ」と呼びますが、これはつまり「広」い画「角」のレンズということです。それなら「望遠レンズ」は挟角レンズのほうが正確なような気もしますが、それだと意味がわかりにくいので望遠レンズと呼ぶのでしょう。焦点距離が50mm前後の「標準レンズ」も同様の理由だと思います。

広角(焦点距離20mm)で撮影した写真

α7 IV、20mm F1.4 DG DN、ISO100、F8、1/13秒、ホワイトバランス:日陰、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、17.7MB)

α7 IV、20mm F1.4 DG DN、ISO100、F8、1/13秒、ホワイトバランス:日陰、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.7MB)

広角で撮影した写真の例です。焦点距離は20mmで、画角は約95度(対角)。眼前の光景を広々と写すのに適した画角と言えます。

標準画角(焦点距離50mm)で撮影した写真

α7 IV、FE 50mm F1.4 GM、ISO100、F2、1/500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、16.5MB)

α7 IV、FE 50mm F1.4 GM、ISO100、F2、1/500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、16.5MB)

標準画角で撮影した写真の例です。焦点距離は50mmで、画角は約47度。広角でも望遠でもない、いい意味で普通に撮れるところが標準とされるゆえんではないでしょうか。

望遠(焦点距離500mm)で撮影した写真

EOS R5、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM、500mm、ISO1600、F9、1/320秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード撮影写真(8192×5464、14.3MB)

EOS R5、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM、500mm、ISO1600、F9、1/320秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、14.3MB)

望遠(超望遠)で撮影した写真の例です。焦点距離は500mmで画角は約5度まで狭くなります。遠くの被写体を大きく写せるのが魅力の画角ですので、やはり挟角レンズではピンときませんね。

フォーマットによって変わる「焦点距離」と「画角」の関係

次に、「イメージセンサーのフォーマット」における「焦点距離」と「画角」の関係について少し説明しておきたいと思います。

一眼カメラは一般的に、フルサイズ(35mm判)、APS-Cサイズ、マイクロフォーサーズ規格という3種類のイメージセンサーが使われています。この順にセンサーのサイズは小さくなり、サイズが小さいほどレンズの焦点距離に対して得られる画角は狭くなります。

先に、「広角」を説明するのに焦点距離20mmで撮影した写真を、「標準画角」を説明するのに焦点距離50mmで撮影した写真を、それぞれ示しましたが 、これはフルサイズでの話です。

フルサイズよりもセンサーサイズが小さいAPS-Cサイズでは、焦点距離が1.5倍(カメラによっては1.6倍)長くなり、得られる画角は、たとえば、焦点距離20mmなら35mm判換算で35mm相当、焦点距離50mmなら35mm判換算で75mm相当に変わります。この場合、焦点距離20mmは「準広角」に、焦点距離50mmは「中望遠」になるわけです。ちなみに、焦点距離がフルサイズの2倍長くなるマイクロフォーサーズ規格では、焦点距離20mmは40mm相当の「準標準」に、焦点距離50mmは100mm相当の「中望遠」になります。

写真用のレンズはどういうわけか、「画角」ではなく「焦点距離」でスペックを表記するのが一般的です。これが「イメージセンサーのフォーマット」と「画角」の関係をややこしくしている原因なんですが、世界的にそういうことになっていますので慣れるしかありません。写真関連の用語は奥が深いです。

フォーマットの異なるカメラでフルサイズとAPS-Cサイズを比較

では本題に入ります。フルサイズとAPS-Cサイズで、同じ画角で撮り比べるとどうなるのかを見ていきましょう。

まずは、イメージセンサーのフォーマットが異なる2つのカメラでチェックします。フルサイズセンサーを搭載するミラーレスカメラ「α7 IV」と、APS-Cセンサーを搭載するミラーレスカメラ「X-H2」を使って、それぞれ画角を揃えて撮影した作例を以下に掲載します。

フルサイズの焦点距離75mmで撮影

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、75mm、ISO200、F4、1/100秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、21.3MB)

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、75mm、ISO200、F4、1/100秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、21.3MB)

APS-Cサイズの焦点距離50mm(35mm判換算75mm相当)で撮影

X-H2、XF16-80mmF4 R OIS WRM OIS、48.5mm(35mm判換算73mm相当)、ISO200、F4、1/100秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード撮影写真(7728×5152、21.9MB)

X-H2、XF16-80mmF4 R OIS WRM OIS、48.5mm(35mm判換算73mm相当)、ISO200、F4、1/100秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.9MB)

フルサイズのほうは焦点距離を75mmにセットして撮影しました。APS-Cサイズのほうは、フルサイズの画角に揃えるため、焦点距離を約50mm(35mm判換算で約75mm相当)にセットしています。(厳密には焦点距離が48.5mmになったので約73mm相当です)。

注目したいのは、この2枚の写真に違いを見いだせるかどうかです。カメラとレンズが違うため、トーンや色の仕上がりの違い、焦点距離の違いによるわずかなボケ量の違い、誤差とも言える程度の画角の違い、などはありますが、少なくとも筆者は、どちらも「中望遠で撮った写真」であることに違和感を覚えません。

上の比較作例のフルサイズのほうは、ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」で撮影しました。標準ズームレンズ「FE 24-105mm F4 G OSS」と組み合わせています

上の比較作例のフルサイズのほうは、ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」で撮影しました。標準ズームレンズ「FE 24-105mm F4 G OSS」と組み合わせています

APS-Cサイズの作例は、富士フイルムのAPS-Cミラーレスカメラ「X-H2」を使用。標準ズームレンズ「XF16-80mmF4 R OIS WRM OIS」と組み合わせて撮影しました

APS-Cサイズの作例は、富士フイルムのAPS-Cミラーレスカメラ「X-H2」を使用。標準ズームレンズ「XF16-80mmF4 R OIS WRM OIS」と組み合わせて撮影しました

フルサイズのカメラでフルサイズとAPS-Cクロップを比較

イメージセンサーのフォーマットと画角の関係は、同じカメラとレンズを使って比較すると、さらに理解が深まると思います。

フルサイズのイメージセンサーを搭載するカメラの多くは、「APS-Cサイズでクロップして撮影する」機能が備えられていますので、その機能を利用して、フルサイズとAPS-Cサイズの違いを比較してみましょう。同じカメラとレンズであれば、仕上がり設定も揃えられるので、より厳密に違いをチェックできるはずです。

フルサイズセンサーを搭載するカメラの多くは「APS-Cサイズで撮影する」機能を搭載しています

フルサイズセンサーを搭載するカメラの多くは「APS-Cサイズで撮影する」機能を搭載しています

以下に、ソニーの「α7 IV」を使って、フルサイズとAPS-Cクロップで撮影した作例を掲載します。先の作例と同様に、画角は焦点距離75mm(相当)に揃えています。

なお、フルサイズと同じ画角・同じ絞り値で撮影する場合、APS-Cサイズはフルサイズよりも被写界深度が約1段分深くなります。そこで、ここでは、より正確に比較するため、フルサイズでは絞り値をF5.6、APS-Cクロップでは絞り値をF4に設定し、できる限り被写界深度が同じになるようにしました。

ソニー「α7 IV」 フルサイズで撮影

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、75mm、ISO200、F5.6、1/50秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、22.0MB)

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、75mm、ISO200、F5.6、1/50秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、22.0MB)

ソニー「α7 IV」 APS-Cクロップで撮影

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、50mm(75mm相当)、ISO200、F4、1/100秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(4608×3072、10.9MB)

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、50mm(75mm相当)、ISO200、F4、1/100秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4608×3072、10.9MB)

この比較作例を見れば、同じカメラとレンズを使い、画角を揃えてフルサイズとAPS-Cクロップで撮影した場合、ほとんど同じ画像が得られることがわかると思います。もちろんAPS-Cクロップでは記録画素数が少なくなりますが、画作りが同じなので、よほど大きくプリントして粗探しをしない限り見分けはつかないと言っていいと思います。

このように、イメージセンサーのフォーマットが違っていても、画角が同じで、かつ被写界深度も同じになるように絞り値を調整すれば、撮れる写真は基本的に同じになります。

フルサイズとAPS-Cサイズで写真が同じになるワケ

イメージセンサーのフォーマットによらず、画角と被写界深度が同じなら撮れる写真は同じになるということはわかりましたが、それはどのような理屈でそうなるのでしょうか? 考えてみたいと思います。

焦点距離24mmで撮影

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO400、F16、1/30秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、16.7MB)

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO400、F16、1/30秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、16.7MB)

この写真は、ソニーのフルサイズミラーレス「α7 IV」を使って、レンズの焦点距離を24mmにして撮影したものです。広角らしいパースペクティブの強さで、近くのものは大きく、遠くのものは小さく写っています。

焦点距離105mmで撮影

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、105mm、ISO400、F16、1/30秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、15.4MB)

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、105mm、ISO400、F16、1/30秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、15.4MB)

焦点距離24mmの写真と同じ撮影位置から、同じくソニー「α7 IV」を使って、レンズの焦点距離を105mmに伸ばして撮影した写真です。中望遠らしく、遠くのものが大きく写り、適度な圧縮効果が出ています。

焦点距離24mmの写真から105mm相当をクロップ

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO400、F16、1/30秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST元画像(1600×1065、1.2MB)

α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO400、F16、1/30秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
元画像(1600×1065、1.2MB)

そしてこちらは、焦点距離24mmで撮影した写真から、焦点距離105mmで撮影した写真と同じ撮影範囲を切り取ったものです。盛大にトリミングしていますので解像感やコントラストは相応に低下していますが、それ以外は105mmの写真と何ら変わることがありません。

焦点距離24mmで撮影した写真から赤枠部分を切り取りました

焦点距離24mmで撮影した写真から赤枠部分を切り取りました

以上のことから、広角で撮った広い画角の写真は、望遠レンズで写すことのできる画像を内包していることがわかります。望遠レンズというのは光景の一部分を光学的に拡大しているにすぎず(技術的には非常に高度なことです)、その周囲には仮想のイメージサークルが広がっていると考えてもよいでしょう。

このことを踏まえれば、先に示したフルサイズとAPS-Cサイズの検証結果も容易に理解できると思います。端的に言えば、焦点距離50mmのレンズがカバーするイメージサークルの中に、APS-Cサイズのイメージセンサーが記録する焦点距離75mmの範囲が含まれているのです。

まとめ 画角が同じなら撮れる写真は同じ。焦点距離ではなく画角でとらえるようにしよう

今回は、レンズの画角の説明で見かける「35mm判換算で焦点距離○○mm相当」の“相当”に対する、ひとつの見解を書かせてもらいました。

結論としては、本文で長々と説明したように、「画角が同じであれば、イメージセンサーのフォーマットが違っていても撮れる写真は基本的に同じ」になります。

このように書くと誤解を生むかもしれませんので補足しておきますと 、センサーのサイズによってダイナミックレンジやノイズの量、さらにはボケの量が異なるため、仕上がり具合を含めて同じクオリティの写真が撮れるわけではありません。あくまでも、同じ画角なら間違いなく同じ撮影領域で撮ることができるということです。

デジタルカメラには、フルサイズ、APS-Cサイズ、マイクロフォーサーズ規格、さらには中判サイズと多くのフォーマットが存在していますが、どのフォーマットもレンズの焦点距離は同じです。そのため、焦点距離の判断に混乱することもあるかと思いますが、焦点距離ではなく画角でとらえれば、すっきり理解できるようになると思います。

曽根原 昇

曽根原 昇

信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。

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