「鹿のおとしもの」と、キヤノン「EOS R8」
毎回違う相棒カメラと一緒に、日常や旅先で出会う何気ないけれど心が動いた瞬間や、そのときに感じたことなどを写真と文章でつづっていく連載「今日も、カメラと一緒に」。
第2回の相棒は、キヤノンのフルサイズミラーレスカメラ「EOS R8」です。今回は「EOS R8」とキットレンズの標準ズーム「RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM」を連れて1泊2日で京都と奈良を旅してきました。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F9.0、1/50秒、ISO100、+2.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、9.0MB)
こんにちは、写真家の金森玲奈です。今回の旅のお話の前に(今さらですが)少し自己紹介をさせてください。
私は元々あまり積極的な性格ではなく、人と関わるのも得意なほうではありませんでした。今思うと周りに対していろいろな感情を「閉じて」いた子どもだったように思います。将来の目標もやりたいことも見つからないまま大学受験を失敗し、一浪した後に東京工芸大学の写真学科に入学しました。
高校まで一眼レフカメラなど触ったこともなかった私が写真学科の存在を知って興味を持ったきっかけは「写真ってなんとなくカッコよさそう」というミーハーな思い付きでしたが、やってみたいと思った目標に向かって自分から行動したのはおそらく初めてで、私にとってはこの写真との出会いがその後の自分の生き方を変える大きなターニングポイントになったと思います。とはいえ、写真学科に入ってすぐこの安易な思い付きを後悔することになるのですが……。
写真を始めていちばん変わったのは人と話すようになったことです。学生時代の私は街で生きている猫ばかり撮っていました。大学が近かったこともあり、新宿・歌舞伎町などで写真を撮っていると見知らぬ人に声をかけられることも多く、何を撮っているのかを説明したり、相手の会話に付き合ったりという経験が増える中で、少しずつ写真を介して自分の意思を伝えたり、人と対話することに慣れていきました。
そんな経験を通して少しずつ自分の思いを言葉で伝える、やりたいと思ったことをとにかくやってみるという覚悟を持てるようになりました。大学卒業後に初めて個展を開催したのが「とにかくやってみる」の最初の一歩でした。
次に挑戦したのはひとり旅に行くこと。大学卒業後、美術系大学で働いていたときに学生さんに九州の干潟の写真を見せてもらったのがきっかけで毎年その干潟に通うようになったり、映画「塔の上のラプンツェル」にも登場したランタン揚げを見に台湾に行ってみたりと、写真を始める前の自分では想像できないほどアクティブな人間になれたおかげで、その後もいろいろな場所を旅しました。
話すと長くなるのでこの続きはまたの機会に。そろそろ今回の京都・奈良ひとり旅のお話を。
旅は非日常です。初めての土地へ行くワクワクした気持ちや思いがけない出会いなど、日常では体験できないことに次々驚かされるビックリ箱のような時間だと思っています。
そんな非日常を今回の相棒でどう撮ろうか、新幹線の中であれこれ考えながら一路京都へ。
お久しぶり!京都タワー
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F6.3、1/160秒、ISO100、+2.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、1.4MB)
のれんの向こうは別世界?
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、30mm、F6.3、1/60秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、9.6MB)
12年ほど前から私は自分の日常を撮っています。自分自身の記録としての側面が大きいため、撮り方はいたってシンプルです。カメラの設定はほぼ初期設定のまま、撮影時に色味や階調をいじることはしません。
フィルムカメラ時代からのクセで連写もあまりしないほうです。撮るときに意識するのは私が「何」を「どう」見ていたのかということだけ。これは構図が持つ側面も大きいですが、私は自分が目の前の光景をどのようにとらえたのかを写真に投影するのに最も大きな役割を担っているのは「露出」だと思っています。
なので、どんなときも明るさを決めることをいちばん大切にしています。もちろん、私の考えるスタイルがすべての人にとって最適解であるとも思いませんが、どんなふうに目の前の光景を残したいのか、いくつもある選択肢の中から自分が求める答えにたどり着くための組み合わせを見つけられたら、きっと「自分らしい」と思える写真を手にできるのではないかと思います。
さて、デジタルカメラが主流となった今、撮影時の選択肢はフィルム時代と比べて格段に増えました。メーカーごとに名称は異なりますが主に「フィルター機能」と呼ばれる撮影機能はその最たるものでしょう。
まさにひとつの世界観を持ったフィルターを通して見ることで、非日常のスパイスを写真にプラスできるように思います。そこで今回の旅では、「EOS R8」のフィルター機能「クリエイティブフィルター」を意識して使ってみました。
平日のこの日はひと組だけでしたが、鴨川はカップルが等間隔に座るので有名だとか
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/60秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/60秒、ISO200、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、8.8MB)
現実世界をミニチュアのようにしてしまうフィルター「ジオラマ風」は、意外とスナップと相性がよいと思っています。ピントを合わせたいと思った被写体以外が大きくボケるこのフィルターは、撮影者が何に注目したのかをより視覚的に見る側に伝えられる効果があります。
友人と街を歩いているとつい変なものに気を取られ、「一体何を見つけたの?」とよく聞かれる私にとって「私の見ていたものはコレ!」と写真が強調してくれるのはなんともありがたいものです。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/80秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、6.1MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/80秒、ISO500、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、8.9MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/100秒、ISO100、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、12.4MB)
今回の旅の目的のひとつは、京都と奈良の神社仏閣にお参りしてお守りと御朱印をいただくことでした。
写真と出会うまで、私には趣味らしい趣味と呼べるものはありませんでした。趣味と言えるほど熱量を持って何かに向き合ったことがないと言ったほうがいいかもしれません。そういう意味では写真は私の最初の趣味と言えます。
そして写真を通して少しずつ自分が興味があるもの、好きだなと思うものを意識するようになりました。たとえば御朱印集めもそのひとつです。写真を撮りにいろいろな場所に行く中で、その日の思い出にと訪れた場所にある神社などで御朱印をいただくようになり、今ではこのお寺の御朱印をいただきたいからここへ行こう、と計画を立てるほどに。これも今は私の趣味と自信を持って言えますし、そう言える自分のことも好きになれたような気がします。
そしてもうひとつの目的は実はカフェ巡り! 今回の旅でもカフェに行ってきました。カフェでスイーツをかわいく撮るのが最近の私の新しい趣味なのです。
京都でお目当てのお寺のお守りと御朱印をいただき、近鉄電車に乗って次の目的地である奈良へ。近鉄奈良駅近くの商店街にはすてきなお店がいっぱいです。写真好きな人たちに人気のカメラ雑貨店「PHOTO GARDEN」さんは公募の写真展なども企画されているそうで、奈良だけに「シカ部門」もあるとか
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、45mm、F6.3、1/80秒、ISO1250、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、12.5MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、38mm、F6.3、1/80秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:水彩風
撮影写真(6000×4000、10.3MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F6.3、1/60秒、ISO125、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:トイカメラ風
撮影写真(6000×4000、12.3MB)
「活版印刷 丹」さんは、奈良ならではの意匠を使った活版印刷のカードなどがとてもすてきなお店。お店のマダムに店内撮影の許可をいただくとテーブルが自慢だからぜひ見てほしいと言われ、よくよく見ると何と大小さまざまな活字がびっしりと敷き詰められていました。実際に使われていたモノたちの醸し出す雰囲気を引き立てるのはやはり「トイカメラ風」一択です
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F9.0、1/60秒、ISO3200、-0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:トイカメラ風
撮影写真(6000×4000、13.5MB)
夜ご飯は観光センターに併設したおしゃれなカフェへ。壁のイラストがかわいいなと思ったらなんとカメラを持った女性だったという、うれしい偶然もありました
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/60秒、ISO3200、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:水彩風
撮影写真(6000×4000、10.3MB)
シメは奈良の名産イチゴ「古都華(ことか)」たっぷりのパフェ。シカちゃんのクッキーが何ともキュート
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F4.5、1/60秒、ISO800、-1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、3.5MB)
あいにくの雨模様となった2日目の朝はシカたちに会いに奈良公園へ。
「EOS R8」を携えて奈良公園へ
シカたちもご出勤
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/80秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
オハヨウ
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F7.1、1/80秒、ISO800、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、16.3MB)
池の周りにいたシカたちは朝ご飯の真っ最中で鹿せんべいを持っていない人間には見向きもしてくれませんでした。
立派な角の雄ジカに最短撮影距離まで肉薄。この後、食事に夢中なこの子に頭突きされました
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F7.1、1/125秒、ISO100、-0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ラフモノクロ
撮影写真(6000×4000、12.9MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F6.3、1/100秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ラフモノクロ
撮影写真(6000×4000、20.3MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F4.5、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ラフモノクロ
撮影写真(6000×4000、12.3MB)
一方的にシカたちとたわむれた後は昔ながらの街並みが残る「ならまち」へ。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、44mm、F6.3、1/160秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ラフモノクロ
撮影写真(6000×4000、15.3MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/80秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:トイカメラ風
撮影写真(6000×4000、13.8MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/60秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、8.4MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、33mm、F5.6、1/80秒、ISO100、-1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ラフモノクロ
撮影写真(6000×4000、3.5MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、30mm、F5.0、1/80秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:トイカメラ風
撮影写真(6000×4000、15.6MB)
奈良ネコ
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/80秒、ISO125、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、16.7MB)
少し歩き疲れたので玄関横に野菜の無人販売所のある古民家カフェ「よつばカフェ」さんでひと休み。
「ジオラマ風」は発色が鮮やかになるのでさくらんぼの赤が引き立ちます
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、47mm、F6.3、1/60秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート、クリエイティブフィルター:ジオラマ風
撮影写真(6000×4000、9.3MB)
こちらの名物、その名も「鹿のおとしもの」。おとしものに見立てた甘納豆がアクセントの、きな粉味のやさしいプリンでした
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、35mm、F5.6、1/60秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、14.0MB)
「クリエイティブフィルター」が活躍した「EOS R8」
今回の旅では普段はほぼ使わない「クリエイティブフィルター」を意識して使いました。と言いつつ、使ってみるとやはり楽しくて、旅という非日常の中で出会ったシーンをより印象的に残せたことに大満足です。
私は旅行に行くと知らない場所に来たワクワク感でついつい歩き回ってしまいますが、今回一緒に旅をしたキヤノンの「EOS R8」はキットレンズの「RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM」を装着しても約671g(バッテリー、カードを含む)と軽量なので一日中持ち歩くのに最適でした。
さて、次の相棒と今度はどこへ行こう。
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、37mm、F5.6、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:オート
撮影写真(6000×4000、8.7MB)
金森玲奈 公式Webページ/SNSアカウント
https://www.kanamorireina.com/
Instagram:kanamorireina
Twitter:@kanamorireina
写真家。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務などを経て2011年からフリーランスとして活動を開始。怪我と障害がきっかけで引き取った2匹の飼い猫との日々を撮り続けている。