今日も、カメラと一緒に

モノクロフィルムの記憶がよみがえった「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」との数日間

「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」と標準マクロレンズ「HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited」

「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」と標準マクロレンズ「HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited」

毎回違う相棒カメラと一緒に、日常や旅先で出会う何気ないけれど心が動いた瞬間や、そのときに感じたことなどを写真と文章でつづっていく連載「今日も、カメラと一緒に」。

第3回の相棒に選んだのは、リコーイメージングのモノクロ専用一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」です。本機とともに、フィルムカメラ時代に慣れ親しんだモノクロの世界を振り返るような、そんな日々を過ごしました。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/30秒、ISO12800、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、18.8MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/30秒、ISO12800、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、18.8MB)

最初は苦手だったモノクロの世界

こんにちは、写真家の金森玲奈です。

今回の相棒カメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」は、PENTAXのブランド名の由来になっている「ペンタプリズム」が少し懐かしく感じるデザインも魅力的な、APS-Cサイズのモノクロ専用一眼レフです。

前回、写真を始めたきっかけは大学の写真学科に入学したからというお話をしましたが、私が入学した1999年当時はまだフィルムカメラ全盛の時代でした。デジタルカメラは1台100万円以上するプロのカメラマンが使うものだと授業で教わり、衝撃を受けたのを覚えています。

そして大学に入っていちばん衝撃を受けたのが、実はフィルム時代の写真は薬品を使うので化学の知識などが必要な理系分野の要素が強い学科だったということ。高校までバリバリの文系で化学や数学が大の苦手だった私が急に温度管理や薬品の分量を計算することが必須の世界に飛び込んでしまったのです。

そんなことも知らずに写真学科に入ろうと決めたのが悪いのですが、当時の私には寝耳に水なことばかりで、フィルム現像が苦手すぎて1年生の最終課題を家電量販店に現像に出したネガでプリントしたのが先生にバレて怒られたりもしました。苦手意識が強すぎたのと当時入っていた部活「カラー写真研究会」(カラーネガを自動現像機ではなく全暗室で手焼きプリントする部活)の影響で、課題以外の自分の写真はネガ現像を自分ではできないカラーネガフィルムを使うようになったほどでした……。

最初はネガ現像恐怖症でしたPENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/6400秒、ISO200、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ネガポジ反転撮影写真(6192×4128、10.4MB)

最初はネガ現像恐怖症でした
PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/6400秒、ISO200、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ネガポジ反転
撮影写真(6192×4128、10.4MB)

ネガをポジにする楽しさとモノクロの世界が持つ魅力

そんな私がモノクロの世界に引き込まれたのは大学4年生になってから。在籍していた研究室の教授の「モノクロ暗室に入れるのは大学にいる間ぐらいだから卒業制作はモノクロで作りなさい」という鶴の一声で、モノクロフィルムで撮る必要に迫られたのがきっかけでした。

それから必死に同期で現在の夫にネガ現像を特訓してもらい、ひたすら暗室に入ってプリントをするうちに、撮ってからプリントするまでを自分の手で完結できる面白さに目覚めていきました。自分のやりたいことを自分の力で実現できるという体験から、以前に比べて自分に自信を持てるようになったのもこのころからかもしれません。それとともに、現実とは違った白と黒で彩られたモノクロの世界にはまっていきました。

「色」の力はとても強いです。人間がいろいろなものや状況を認識するのに色が持つ役割は大きいと思います。モノクロの世界では色という情報がない分、物のフォルムや質感、光の硬さなどに敏感になります。それと同時に、現実離れした世界は見る人の想像力をかき立てる力も持っているように思うのです。

何を話していたの?PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/200秒、ISO6400、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、13.8MB)

何を話していたの?
PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/200秒、ISO6400、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、13.8MB)

フィルム時代から続く自分ルール

デジタルカメラでは撮った時点で画像を完成させることもできるため、撮影時にカメラの設定で自分の世界観を写真に反映させていくスタイルの人も多いでしょう。

前回、私の撮影スタイルはいたってシンプルだという話をしましたが、これはフィルム時代のやり方をデジタルでも踏襲しているからだと思います。デジタルで撮るときは基本的にRAWで撮影をしますが、これはフィルムでいうところのネガを作るという部分に当たると言っていいでしょう。それをパソコンという明るい暗室の中で自分の意思を加えていき、最後は紙にプリントする。過程は変わりましたが、そうしてようやく撮った「画像」が「写真」になるように思うのです。

とはいえ、RAWで撮っているからと言って現像時に劇的に色や階調、明るさを変えることはありません。あくまで撮影時のイメージにより近付けるために少し明るさや色味を補う程度なので、ほぼそのままJPEGに変換しているだけということがほとんど。それでも、RAWで撮るのは未来への可能性をより多く残したいからです。

写真を始めたばかりのころ、私はプリントがとても下手でした。その写真をどういう風に仕上げたいかが自分の中で定まっていなかったのもありますが、単純に経験不足だったからです。だからこそ、何年も経ってから昔のネガをプリントしたときにようやく自分が望むプリントを焼けたよろこびはとても大きかったです。

モノクロからは少し逸脱しますが、たとえば、ホワイトバランスで色味を大きく変えたいと思っても、JPEGではそれはかないませんよね。いつか違った世界観を写真にプラスしたいと考えたときの選択肢を増やす意味で、デジタルにおいてはRAWという選択肢を頭の片隅に置いておいてもらえたらうれしいです。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/250秒、ISO400、-0.3EV、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、10.7MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/250秒、ISO400、-0.3EV、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、10.7MB)

縁の下の力持ちたちPENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/1000秒、ISO400、-0.3EV、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、9.4MB)

縁の下の力持ちたち
PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/1000秒、ISO400、-0.3EV、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、9.4MB)

モノクロ専用カメラだからこその新しいモノクロ写真の可能性

さて、前項で自分ルールについて語りましたが、今回はモノクロ専用一眼レフの「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」だからこそ、撮影時に使った機能があります。

それは「デジタルフィルター」です。この機能には、フィルムのような粒状感をプラスしたり、ネガとポジを反転した状態の画像にしたりと、銀塩写真経験者の心をくすぐるポイントを押さえたフィルターが目白押し。そんななかで個人的に気に入ったのが「トイカメラ」と「ハイコントラスト」です

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/250秒、ISO400、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:トイカメラ撮影写真(6192×4128、14.8MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/250秒、ISO400、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:トイカメラ
撮影写真(6192×4128、14.8MB)

「トイカメラ」はセピア調色のようなあたたかみのある黒と、四隅が少し暗く落ちた感じが特徴のフィルターです。名称的にはレンズの周辺減光をイメージしたフィルター効果なのでしょうが、周辺の落ち具合が暗室でプリントをする際の「焼き込み」に近い印象を受けました。

明るい部分の階調を出すためにその部分にだけ適正な露光時間にプラスして光を当てることを「焼き込み」と呼びますが、これはネガフィルムの像を印画紙に露光するときの引き伸ばしレンズによる周辺減光を補うために行うことも多く、周囲が暗く落ちることで画面中央部に見る側の視線を集める効果が生まれます。「トイカメラ」は周辺の落ち具合が絶妙で、実際に暗室で焼き込んだような気持ちになれました。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/80秒、ISO200、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:トイカメラ撮影写真(6192×4128、6.9MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/80秒、ISO200、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:トイカメラ
撮影写真(6192×4128、6.9MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/250秒、ISO400、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:トイカメラ撮影写真(6192×4128、4.9MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/250秒、ISO400、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:トイカメラ
撮影写真(6192×4128、4.9MB)

もうひとつの「ハイコントラスト」は、写真家の森山大道さんの作風を想起させるような高コントラストな描写が特徴のフィルターです。中間の階調を潰してまでハイライトとシャドウ部を際立たせる潔さに、このフィルターを使うだけでカッコいい写真が撮れた気になってしまいますが、実はこれはモノクロ写真を始めたばかりのころに陥りがちな症状? に似ている、ちょっと危険なフィルターだなとも思いました。

モノクロフィルムで撮影した写真を暗室でプリントするときに、写っているものの階調は撮影時の光の状況である程度決定されますが、ハイライトとシャドウの中間の階調を滑らかに再現したり、逆にハイライトとシャドウを強調したりするために、露光時に多階調(マルチグレード)フィルターというものを使うことがあります。銀塩プリントを始めたばかりのころは、シャドウ部とハイライト部にメリハリがあって、とにかくシャドウ部がしっかり黒ければよいぐらいにしかプリントの焼き具合を判断する術がなく、大学1年生のときはとにかく不必要にコントラストが高くて黒っぽい写真ばかり焼いていたものです。

ハイコントラストのメリハリのある描写は確かに魅力的ですが、デジタルにおいてそういった表現を左右する機能を使う場合はそれが撮ったシーンに合っているのかをしっかり意識しておく必要があります。カメラに搭載されたフィルター効果にばかり目がいって本当に残したかった部分が伝わらなかったらもったいないと思います。

そういう意味で危険なフィルター効果だとお伝えしましたが、とはいえ、ハイコントラストのモノクロ写真ってそれだけでカッコよく見えちゃうんですよね。

紫陽花越しのアジサイPENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/500秒、ISO200、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ハイコントラスト撮影写真(6192×4128、9.4MB)

紫陽花越しのアジサイ
PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/500秒、ISO200、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ハイコントラスト
撮影写真(6192×4128、9.4MB)

1年ぶりに実ったベランダのオリーブPENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/320秒、ISO400、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ハイコントラスト撮影写真(6192×4128、9.7MB)

1年ぶりに実ったベランダのオリーブ
PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/320秒、ISO400、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード、デジタルフィルター:ハイコントラスト
撮影写真(6192×4128、9.7MB)

思い出は、鮮明すぎないほうがいい

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/60秒、ISO1600、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、11.1MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/60秒、ISO1600、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、11.1MB)

写真は過去を呼び覚ましてくれる「記憶の栞(しおり)」のような存在だと思います。ずっと忘れていても写真を見た瞬間にそのときの情景が鮮やかによみがえり、当時のさまざまな感情が呼び起こされることも。それはしあわせな気持ちばかりではなく、少し鼻の奥がツンとするような気持ちもあったりなかったり。

写真は常に過去しか写らないものです。そして過去は変えられないからこそ、当時のうれしい気持ちや、ときに後悔の想いがあふれることもあるのだと思います。そんな写真の存在が私にはありがたくもあり、残酷に感じることも。そしてその残酷さは現実と同じ色の付いた過去と対峙したときに特に強く私の胸を締め付けます。

私がモノクロの世界に惹かれたもうひとつの理由は、現実とリンクする「色」の持つ強烈なメッセージ性を白と黒だけの世界がオブラートのようにやわらかく包んでくれるからなのかもしれません。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/160秒、ISO400、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、9.0MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/160秒、ISO400、+0.7EV、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、9.0MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/60秒、ISO3200、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、12.2MB)

PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/60秒、ISO3200、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、12.2MB)

次男の瞳に映る「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」と私PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/60秒、ISO2500、カスタムイメージ:スタンダード撮影写真(6192×4128、14.6MB)

次男の瞳に映る「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」と私
PENTAX K-3 Mark III Monochrome、HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited、53.5mm(35mm判換算)、F2.8、1/60秒、ISO2500、カスタムイメージ:スタンダード
撮影写真(6192×4128、14.6MB)

変わらないと思っていた当たり前の日常は、時間の経過とともに変化していきます。自分自身の記録として過去を振り返るにはモノクロに彩られたぐらいの鮮明さが私には合っているのかもしれません。そんなことを思い出させてくれた「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」との数日間でした。

金森玲奈 公式Webページ/SNSアカウント
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Twitter:@kanamorireina

金森玲奈

金森玲奈

写真家。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務などを経て2011年からフリーランスとして活動を開始。怪我と障害がきっかけで引き取った2匹の飼い猫との日々を撮り続けている。

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