特別企画

ポートレートが変わる! 日中シンクロの効果的な活用テクニック

日中シンクロとは、自然光(環境光)下でフラッシュを照射する撮影テクニックを指す。ポートレートでは、光量を補うためだけでなく、画作りのひとつとして利用することも多い。今回はプロフォトのクリップオンストロボ「Profoto A10」と関連アクセサリーを使って、ポートレート撮影時に日中シンクロを効果的に活用するポイントを解説する。

今回は、フラッシュにクリップオンタイプの「Profoto A10」を使用した。左は「Profoto A10」に「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を、右は「Clic マグナム」を装着した状態。いずれも携行性にすぐれた「Aシリーズ」フラッシュ専用のアイテムだ

今回は、フラッシュにクリップオンタイプの「Profoto A10」を使用した。左は「Profoto A10」に「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を、右は「Clic マグナム」を装着した状態。いずれも携行性にすぐれた「Aシリーズ」フラッシュ専用のアイテムだ

掲載する写真作例について
一部を除きすべてRAW形式で撮影し、「Adobe Lightroom」を使ってJPEG形式に出力しています。

クリップオンタイプをワイヤレスで使用する

今回使用した「Profoto A10」は、カメラに取り付けて使用できるクリップオンタイプのフラッシュだ。最大出力76Wsのフラグシップモデルで、滑らかかつ均一な光を作り出せる丸型のラウンドヘッドを採用している。

筆者としては、ワイヤレスでの使い勝手のよさにも大きな魅力を感じている製品だ。スムーズにカメラとシンクロでき、光量調整をはじめとしたセッティングが直感的に行えるのがいい。

「Profoto A10」を利用したワークフローについては、以前記事を書いているので、そちらもぜひ参考にしてほしい。スペックを詳しく解説している。

「Profoto A10」をライトスタンドにセットしたところ。ここではマンフロット製のアンブレラホルダーを使い、スタンドに取り付けた。クリップオンタイプのフラッシュをワイヤレスで使用する際は、自由に角度調整できるこうしたホルダーが必要になる

「Profoto A10」をライトスタンドにセットしたところ。ここではマンフロット製のアンブレラホルダーを使い、スタンドに取り付けた。クリップオンタイプのフラッシュをワイヤレスで使用する際は、自由に角度調整できるこうしたホルダーが必要になる

ヘッドは90度の角度調整と360度の回転が可能。バッテリーはリチウムイオン。フルパワーで最大450回発光できる

ヘッドは90度の角度調整と360度の回転が可能。バッテリーはリチウムイオン。フルパワーで最大450回発光できる

操作性がシンプルなのも「Profoto A10」の魅力だ。ボタンの数が最小限で簡易。液晶画面も大きい

操作性がシンプルなのも「Profoto A10」の魅力だ。ボタンの数が最小限で簡易。液晶画面も大きい

ワンタッチでセットできて便利な「Clicシリーズ」のアイテム

今回の撮影ではフラッシュをそのまま直接被写体に照射するほかに、「Aシリーズ」フラッシュ専用のライトシェーピングツール「Clicシリーズ」のアイテムも利用してみた。「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」と「Clic マグナム」の2つで、いずれも、マグネット式でセッティングに手間がかからないのが魅力だ。

なお、オフカメラでワイヤレス発光するのに欠かせないコマンダーには「Profoto Connect Pro」を使用した。

Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ

「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」は、ワンタッチで組み立てられるソフトボックス。やわらかい光を照射できるのが特徴で、ポートレートでは肌の質感を滑らかに再現したい場面で使用した。

「Clic ソフトボックス」をセットしているところ。ワンタッチで組み立てられるのがすばらしい

「Clic ソフトボックス」をセットしているところ。ワンタッチで組み立てられるのがすばらしい

スタンドアダプターも搭載していて、ハンドルは非常に握りやすい。手持ちでの使用も可能なほど軽量なのも魅力。今回はフロント径が80cmタイプを使用したが、これ以外にも60cmタイプと70cmタイプが用意されている

スタンドアダプターも搭載していて、ハンドルは非常に握りやすい。手持ちでの使用も可能なほど軽量なのも魅力。今回はフロント径が80cmタイプを使用したが、これ以外にも60cmタイプと70cmタイプが用意されている

ライトスタンドにセットしたところ。マグネット式で、「Profoto A10」がそのままダイレクトに装着できる

ライトスタンドにセットしたところ。マグネット式で、「Profoto A10」がそのままダイレクトに装着できる

Clic マグナム

「Clic マグナム」は、光量を1.8段ほどアップでき、晴天時の太陽光に負けない光量でフラッシュを照射したいときなどに重宝するアイテム。光質そのものは直当てとほぼ同様の効果になる。

「Clic マグナム」を「Profoto A10」にセットしたところ。こちらもマグネット式でワンタッチにセットできる

「Clic マグナム」を「Profoto A10」にセットしたところ。こちらもマグネット式でワンタッチにセットできる

日中シンクロの魅力とは

では、具体的に日中シンクロの撮影に入っていこう。自然光や定常光といったその場に存在する光の下でストロボを照射する日中シンクロは、その役割が主に以下の3つに集約される。

[1] 光量を補うため
[2] 質感を補うため
[3] 描写に変化を加えるため

[1]は、特に明暗差の大きなシーンで有効だ。典型例としては、逆光のシーン。背景を明るく飛ばさずに、手前の暗い被写体(人物)に対してフラッシュを照射することで、明暗差をなくしたり、自分好みにコントロールしたりできる。

[2]は、フラッシュによって被写体のコントラストをしっかり演出できるようになるということ。洋服やリップなど、その被写体の色合いもしっかり表現できるようになる。

「3」は、日中シンクロの最大の魅力だと私は個人的に思っているのだが、自由な角度からさまざまな光質の光を照射することで、自然光のみで撮影を行うよりも、バリエーションを増やした画作りができる。

以下に掲載する2枚の写真は、同じシーンにて、フラッシュのあり・なしで撮影したもの。フラッシュは、カメラに取り付け直当てしている。露出のみで言えば、フラッシュがなくても十分撮影できるシーンではあるが、フラッシュを照射することで、それがアクセントになり、硬いコントラストで独特の描写。日中シンクロによって表現に幅ができるのだ。

自然光のみ

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/40秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:風景、JPEG撮影写真(4000×6000、14.0MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/40秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:風景、JPEG
撮影写真(4000×6000、14.0MB)

フラッシュ発光

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:風景、JPEG撮影写真(4000×6000、12.2MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:風景、JPEG
撮影写真(4000×6000、12.2MB)

日中シンクロをうまく行うためのポイント1
人物が影になる場所で撮ってみよう

日中シンクロは、太陽光に負けないようにフラッシュを人物に照射することが大事だ。たとえば、ダイレクトに太陽光が人物に当たっている状態で、そこにフラッシュを照射してもほとんど日中シンクロの効果は出ない。効果的なシーンは日陰や逆光だ。

日陰は、画角内すべてが日陰になるのではなく、“人物だけが日陰で隠れるような場所”を選ぶのが理想的。つまり、背景には太陽光が当たっている場所ということだ。

自然光のみ

晴天下、高架下に立ってもらい撮影。モデルだけが日陰になった状態だ。こうした場所は背景との露出差が大きく、日中シンクロが行いやすいEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.4、1/2500秒、ISO100、+0.3EV、RAW現像撮影写真(6000×4000、7.4MB)

晴天下、高架下に立ってもらい撮影。モデルだけが日陰になった状態だ。こうした場所は背景との露出差が大きく、日中シンクロが行いやすい
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.4、1/2500秒、ISO100、+0.3EV、RAW現像
撮影写真(6000×4000、7.4MB)

フラッシュ発光

「Profoto A10」をカメラに取り付け、モデルに直当てした。フラッシュによる硬い光によって暗部が起こされ、メリハリのある描写になっている。絞り値をF8に絞ることで、背景もくっきり写したEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、9.0MB)

「Profoto A10」をカメラに取り付け、モデルに直当てした。フラッシュによる硬い光によって暗部が起こされ、メリハリのある描写になっている。絞り値をF8に絞ることで、背景もくっきり写した
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、9.0MB)

日中シンクロをうまく行うためのポイント2
自然光の割合はシャッター速度で調整しよう

日中シンクロは、自然光とフラッシュの割合が仕上がりに大きく影響する。自然光の割合を減らせば、フラッシュの存在感は増す。いっぽう、自然光の割合を増やせば、フラッシュはメインライトというより補助光の意味合いが強くなる。

自然光の割合は自分の表現内容に応じて、シャッター速度で微調整していこう。絞りでも調整可能だが、被写界深度に影響を及ぼすことも考慮しながら行おう。感度は自然光とフラッシュの両方の露出に影響するため、基本的に固定にしておく。

以下に掲載する写真は、「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を1灯、斜め左上から照射し、シャッター速度を変えながら撮影した比較作例だ。低速になるほど自然光の割合が増え、背景が明るくなっている。逆に、高速になるほど自然光の割合が減り、背景が暗くなっていることがわかる。

フラッシュ発光(F11、1/50秒、ISO100)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/50秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、9.0MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/50秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、9.0MB)

フラッシュ発光(F11、1/125秒、ISO100)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/125秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.6MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/125秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.6MB)

フラッシュ発光(F11、1/250秒、ISO100)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/250秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.7MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/250秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.7MB)

自然光のみ(F11、1/250秒、ISO100)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/250秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、6.1MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F11、1/250秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、6.1MB)

シーン1 木漏れ日を生かした1灯ライティング

ここからは実際の撮影シーンを紹介していこう。

まずは、木漏れ日の差し込む樹木を背景に日中シンクロしてみた。「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を使った1灯ライティングだ。このアイテムは2枚のディフューザー越しにやわらかい光を照射できるのが特徴。自然光のみでも撮影できるシーンだが、日中シンクロで撮った作例は、ソフトボックスからのやわらかい光によって、肌の質感がよりきちんと描写できた。

自然光のみ

まず自然光のみで撮ってみた。やや逆光気味のシーン。自然な描写で、これはこれで悪くないEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.8、1/2500秒、ISO400、RAW現像撮影写真(6000×4000、11.4MB)

まず自然光のみで撮ってみた。やや逆光気味のシーン。自然な描写で、これはこれで悪くない
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.8、1/2500秒、ISO400、RAW現像
撮影写真(6000×4000、11.4MB)

フラッシュ発光

ソフトボックスを斜め左上から照射。顔に光が当たったことで、表情がより明るく浮き上がって見える。肌の質感もメリハリがあるEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.8、1/200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、9.0MB)

ソフトボックスを斜め左上から照射。顔に光が当たったことで、表情がより明るく浮き上がって見える。肌の質感もメリハリがある
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.8、1/200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、9.0MB)

上の作例と同じ設定で自然光のみ

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.8、1/200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.7MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.8、1/200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.7MB)

フラッシュ発光(背景の露出暗め)

上の作例に対し、絞り値をF8に絞って撮影した。フラッシュは設定に合わせ適正で発光。自然光の割合が減って背景が暗く落ち、さらに絞ったことで被写界深度も深くなり、同じシーンにも関わらず、異なる描写になった。こうしたバリエーションを自分好みに作り出せるのも日中シンクロの面白いところだEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.8MB)

上の作例に対し、絞り値をF8に絞って撮影した。フラッシュは設定に合わせ適正で発光。自然光の割合が減って背景が暗く落ち、さらに絞ったことで被写界深度も深くなり、同じシーンにも関わらず、異なる描写になった。こうしたバリエーションを自分好みに作り出せるのも日中シンクロの面白いところだ
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.8MB)

上の作例と同じ設定で自然光のみ

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、7.9MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、7.9MB)

撮影風景。ソフトボックスはなるべく被写体に寄せたほうが、やわらかい光になる。ここでは、画角に入らないところまで寄せて撮っている

撮影風景。ソフトボックスはなるべく被写体に寄せたほうが、やわらかい光になる。ここでは、画角に入らないところまで寄せて撮っている

シーン2 ドラマチックな描写を狙う2灯ライティング

ここでは2灯のライトを使って撮影してみた。モデルに対して「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を照射し、後方のアジサイに向けて「Clic マグナム」を照射した。このように個別に当てたいところへ光を照射できるのも、日中シンクロの魅力だ。

2灯でフラッシュ発光

背景はやや暗く落ちる露出設定にしている。暗くなるモデルに対し、「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を照射。やわらかい光がモデルの存在感をより引き立てている。また、背後に向けて照射した1灯によって、アジサイの質感が周囲に埋もれず立体的に描写されているEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.5MB)

背景はやや暗く落ちる露出設定にしている。暗くなるモデルに対し、「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」を照射。やわらかい光がモデルの存在感をより引き立てている。また、背後に向けて照射した1灯によって、アジサイの質感が周囲に埋もれず立体的に描写されている
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F8、1/200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.5MB)

撮影風景。斜め左上から1灯と、後方にもう1灯見える

撮影風景。斜め左上から1灯と、後方にもう1灯見える

「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」にはグリッド(別売)を付けている。グリッドは照射範囲を狭めるアイテム。ここではモデルの顔周りを中心に、上半身に向けて光を照射。それ以外はゆるやかに減光させ、立体感が出るようにライティングしている

「Clic ソフトボックス2.7’(80cm)オクタ」にはグリッド(別売)を付けている。グリッドは照射範囲を狭めるアイテム。ここではモデルの顔周りを中心に、上半身に向けて光を照射。それ以外はゆるやかに減光させ、立体感が出るようにライティングしている

最初はアクセサリーなしで直当てしてみたが、晴天下で光量が足らず、あまり効果が出なかったため「Clic マグナム」で光量をアップした。このアイテムは大光量が必要な撮影で有効だ。なお、「Clic マグナム」にも専用のグリッドがある(別売)

最初はアクセサリーなしで直当てしてみたが、晴天下で光量が足らず、あまり効果が出なかったため「Clic マグナム」で光量をアップした。このアイテムは大光量が必要な撮影で有効だ。なお、「Clic マグナム」にも専用のグリッドがある(別売)

自然光のみ

背景をぼかしてモデルに焦点を当てた。空が飛んでいることからもわかるとおり、上のフラッシュ作例よりもこちらのほうが全体的に露出は明るい。今回の撮影ではモデルが影になるように、太陽光の当たらない高架下を選んでいるEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.5、1/400秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.5MB)

背景をぼかしてモデルに焦点を当てた。空が飛んでいることからもわかるとおり、上のフラッシュ作例よりもこちらのほうが全体的に露出は明るい。今回の撮影ではモデルが影になるように、太陽光の当たらない高架下を選んでいる
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.5、1/400秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.5MB)

シーン3 ハイスピードシンクロで背景をぼかす

ここまで見てきた日中シンクロの作例は、いずれも1/250秒以下のシャッター速度で撮影している。これは“たまたま”ではない。実はフラッシュは同調できるシャッター速度がカメラの機種ごとに決まっている。これを同調速度と言う。

一般的に同調速度は1/200秒〜1/250秒前後の機種が多い。今回使用したキヤノン「EOS R3」の場合、同調速度はメカシャッターで1/200秒、電子先幕で1/250秒、電子シャッターで1/180秒。同調速度を超えてフラッシュを発光すると、シャッター幕が写り込み画像がケラれ、正しく撮影できなくなる。

つまり、同調速度内にシャッター速度を収め、好みの露出で撮るためには、絞りを絞っていくほかないのだ。特に明るい晴天下ではこの傾向は顕著になる。

たとえば[シーン1]では、背景を暗くした日中シンクロを紹介したが、絞り値をF8に設定しているため、背景が比較的くっきり写っている。ここではそれを狙っているのだが、逆にこの露出で背景をぼかそうと思ったら、通常の日中シンクロでは対応できない。

ここで登場するのがハイスピードシンクロだ。詳細については、別の機会にきちんと解説しようと思うが、この機能を使うと同調速度にとらわれず、フラッシュを発光できるようになる。つまり、高速シャッターを利用しながら、絞りを開いて被写界深度の浅い日中シンクロ撮影が行えるようになるのである。

自然光のみ

モデルには日陰に立ってもらった。F2.2まで絞りを開いているので背景ボケはかなりダイナミックだ。ただし、シャッター速度は1/1000秒なので、この状態だと通常発光では対応できないEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.2、1/1000秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.9MB)

モデルには日陰に立ってもらった。F2.2まで絞りを開いているので背景ボケはかなりダイナミックだ。ただし、シャッター速度は1/1000秒なので、この状態だと通常発光では対応できない
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.2、1/1000秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.9MB)

フラッシュ発光(ハイスピードシンクロ)

「Clic マグナム」を1灯使い、ハイスピードシンクロで撮影した。シャッター速度は1/1000秒と同調速度を超えているが、問題なくシンクロできているEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.2、1/1000秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.8MB)

「Clic マグナム」を1灯使い、ハイスピードシンクロで撮影した。シャッター速度は1/1000秒と同調速度を超えているが、問題なくシンクロできている
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.2、1/1000秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.8MB)

フラッシュ発光(ハイスピードシンクロ)

上と同じシチュエーションで、シャッター速度だけさらに高速にし、背景の露出を落としたEOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.2、1/2000秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.9MB)

上と同じシチュエーションで、シャッター速度だけさらに高速にし、背景の露出を落とした
EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F2.2、1/2000秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.9MB)

撮影風景。斜め左上、高い位置から1灯で照射している

撮影風景。斜め左上、高い位置から1灯で照射している

ハイスピードシンクロは同調速度に関係なくフラッシュが利用できるようになる大変便利な機能だが、ひとつ注意したい点がある。それは光量だ。

ハイスピードシンクロ時は、通常発光よりもフラッシュの光量が弱くなる。しかも、シャッター速度が高速になるほど減少幅は大きくなる。今回、「Clic マグナム」を使っているのは、光量を可能な限り大きくするためだ。ハイスピードシンクロを使いたければ、なるべく発光量の大きなフラッシュを利用するのが理想的だと言えるだろう。

また、ハイスピードシンクロを利用するには、フラッシュやカメラにその機能が搭載されていることが前提になる。自分の機材で確認しておこう。

なお、冒頭でお見せした高架下のカットは、通常発光で撮影したもの。明るかったこともあって絞り込んで撮っている。以下に、同じシーンで撮影したハイスピードシンクロ作例を掲載しよう。いずれも、カメラに「Profoto A10」を取り付け直当てで撮影した。

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.2、1/3200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.0MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.2、1/3200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.0MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.2、1/3200秒、ISO100、RAW現像撮影写真(6000×4000、8.1MB)

EOS R3、RF50mm F1.2 L USM、F1.2、1/3200秒、ISO100、RAW現像
撮影写真(6000×4000、8.1MB)

まとめと補足

今回は、プロフォトの「Profoto A10」を使ったが、このフラッシュに限らず、最近のクリップオンストロボは、大抵の機種でワイヤレス発光に対応し、今回のような撮影が存分に楽しめる。カメラにオンして使うだけが、クリップオンストロボではないのだ。

いっぽう、特にクリップオンタイプの場合、晴天下で使うときは光量不足にならないように撮影を工夫する必要がある。ここでは日陰を使ったり、光量がアップするアイテムを使ったりして光量不足を回避した。そういった意味では、自然光の選択肢は狭まるものの、曇天時のほうが日中シンクロは利用しやすいことも付け加えておきたいと思う。

また、ハイスピードシンクロを利用する場合は、明るいレンズも利用したいところだ。本記事ではすべての作例をキヤノン「RF50mm F1.2 L USM」で撮影した。F1.2の開放絞り値によるハイスピードシンクロは、ポートレートをよりドラマチックに演出してくれる。

ポートレートは自然光の撮影も楽しいが、フラッシュを使うとさらに世界観が広がり、バリエーションを残すことができる。夏から秋にかけては晴れ間も多くなる。ぜひ、日中シンクロで個性を引き出してみてほしい。

モデル:片岡真千

河野鉄平

河野鉄平

フォトグラファー。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年独立。ポートレートを中心に活動。2022年1月に新著『上手い写真は構図が9割』(玄光社)発売。ポーラミュージアムアネックス(2015年/銀座)など写真展も多数。Profoto公認トレーナー。
Instagram:teppei_kono_eye
Twitter:@teppei_kono

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