我が家の次男猫と今回の相棒カメラ「Z f」
連載「今日も、カメラと一緒に」第6回の相棒は、ニコンのフルサイズミラーレスカメラ「Z f」です。前々回の相棒「Z fc」と同様、ニコンらしさが随所に光る硬派な一面と、フィルム時代を思い起こさせるレトロな外観が魅力的。今回はそんなどこか懐かしさを感じるカメラで何気ない私の日常を見つめました。
我が家の朝のいつもの光景
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/100秒、ISO100、+2.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、5.2MB)
こんにちは、写真家の金森玲奈です。今回は私が30代になってから撮り始めたものについてお話ししたいと思います。話したいことがたくさんで少し長くなってしまいますが、お付き合いいただけたらうれしいです。
12年ほど前から撮り始めたもの、それは私自身の日常の風景です。この連載「今日も、カメラと一緒に」の第2回でもお話ししましたが、私は写真を始めてから10年近く、都会に生きる猫たちを撮り続けていました。
私が彼らを撮っていた2000年代初頭は「保護猫」という言葉もまだなく、地域で猫を見守る「地域猫活動」がようやく始まろうかというような時代でした。今ほど人の手助けもなく、誰にも知られずにいなくなるかもしれない猫たちの生きた証として、せめて自分が出会った猫だけでも写真で残したい。そう思って日々街を歩き回っては出会った猫たちをフィルムに収めていました。当時はそれが私の「日常」でした。だから、当時のフィルムに私の日々の生活はほぼ写っていません。
日々の暮らしの中で出会う何気ない瞬間にカメラを向けるようになったのは2009年ころから。それまで見つめ続けていた街の猫たちを撮れなくなって2年ほど経ったころでした。この話を始めると本当に長くなってしまうので、これはまたの機会に。
東京駅で出会った1匹の猫との物語はいずれまた
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/15秒、ISO3200、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、8.9MB)
とにもかくにも、猫しか撮ってこなかったこともあり、撮りたいものがなくなってしまっては、もう写真から離れたほうがいいのかもしれない……。そんな風に考え始めていたころ、大学の同期でもあった現在の夫が気分転換にとハッセルブラッドという中判カメラを貸してくれました。フィルムの装填も露出を測るのもピントを合わせるのも、すべて自分でやらなければいけないカメラを渡されて、とにかく身の回りのものでピント合わせの練習に明け暮れる日々が始まりました。
そうするうちに、それまで目を留めても撮ることはなかった、生活の中でほんの少し心が動いた光景を撮るようになりました。それは写真に撮らなければ記憶からこぼれ落ちてしまうようなささいな瞬間ばかりで、ただ「光がきれいだな」だったり、「あ、撮りたいな」と思った瞬間だったりと、とても私的な感情のままにシャッターを押したものでした。
ですが、私が初めて自分のために残した記憶の断片であり、自分自身の記録だったのだと思います。それが、私が私の新しい日常を撮り始める最初の一歩になり、今も続く新しいライフワークになりました。
さて、この連載では毎回違ったカメラを相棒に日常を撮影しています。デジタルカメラになっても使う機能はフィルムカメラと大差ない私にとって、普段自分が使っているカメラと違ってもそれほどとまどうことはありません。
もちろん、ちょっとした操作性の違いを感じることは多少ありますし、何よりまさに「日常使い」しているカメラへの安心感はほかと比べものになりません。それでも、あまり新しいものへ自分から挑戦しない私にとって、いろいろなカメラやレンズで普段の日々を撮ることはとても新鮮で、月に一度の楽しみになっています。
とはいえ、やはり最初はお互い初対面ということもあり、(一方的に)どこか構えてしまうところも……。そこで非日常の存在である相棒カメラを、私の日常に引き込むために使っているアイテムがあります。それは「ストラップ」です。私の歴代のコンパクトなミラーレスに付けてきたこちらのレザーストラップは、これまでの連載で、リコーイメージングのデジタル一眼レフ「PENTAX K-3 Mark III」以外のカメラで活躍してきました。はじめましてのカメラだからこそ、なじみのストラップを付けることで親近感が湧きやすいように思っています。今回も「Z f」のレトロな外観にちょっとくたびれたこのストラップがいい味を出してくれました。
コンパクトなミラーレス用に使っている愛用のレザーストラップ
日常スナップを撮っているという話をすると、「どんなレンズを使っているの?」と聞かれることがたまにあります。私はあまりレンズにもこだわりがあるほうではないのですが、普段は撮りやすさとレンズ交換の手間を省くために開放F値が明るい標準ズームレンズを使っています。大体自分で寄ったり引いたりして構図を決めるのでズームを多用するというよりは、広角と中望遠の2本のレンズを1本でまかなっているという感じでしょうか。広角にしろ望遠にしろ、自分がそのとき「よいな」と感じた雰囲気を残せるように撮るのが好きです。
今年はベランダのオリーブが大豊作!
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/320秒、ISO100、+1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、7.2MB)
さらに、自分が目の前の風景の何に心ひかれたかがより伝わりやすいため、浅い絞りで撮るのも好きです。今回は「NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)」と「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」という開放F値が明るいレンズを使いました。F2の明るさはやはり別格でしたが、同じF2.8でも単焦点レンズのボケはよりやわらかくて、ちょっとだけ明るい単焦点レンズがほしい欲が頭をもたげました(笑)。
レンズ交換の手間を省くために普段はズームレンズを使っているというお話しをしましたが、これは撮り方の選択肢をなるべく多く持ちつつ、レンズ交換によって撮りたい瞬間を逃さない意味が大きいです。いろんな種類の焦点距離のレンズを持っていれば、その場に最も合ったレンズで写真を撮りたくなりますよね。
それは自然なことですが、レンズの選択肢があることで、「その一瞬」を撮る前にレンズ選びで迷って本当に撮りたい瞬間を逃してしまっては本末転倒だと思います。だから私はたとえ描写は単焦点レンズに及ばなくても、自分が撮りたい選択肢を瞬時に選べるズームレンズで撮ることを大切にしています。
今回は2本のレンズをお借りしましたが、上記のような私の石頭思考のため連れ出すのはどちらか1本、というスタイルで撮影しました。
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/125秒、ISO100、+1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、15.5MB)
10月も半ばを過ぎたというのに夏のような日差しが眩しいある日、友人と世田谷線沿線散歩に出かけました。このあたりはよく来る場所ですが、彼女がオススメだと連れて行ってくれたのは神社。初めて訪れる場所で、隣接する幼稚園から子どもたちの楽しそうな声が聞こえる中、お参りを済ませてしばし境内を散策しました。
樹木の名前が彫られたお手製看板がなんともかわいらしい。裏に書かれた説明文もほっこりする内容でした
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/80秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、9.1MB)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/200秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、12.9MB)
令和に犬走りが現役とは
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/40秒、ISO100、+1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、9.7MB)
おとなりの幼稚園の駐輪場の表記がかわいいね、なんて話していたら斜め上に「犬走り」の文字が。小学生のころ、よく聞いたよねと言ったら、一緒に行った友人はまさかの初耳。確かに私のほうが少し年上ですが、昭和世代同士でもジェネレーションギャップがあることにちょっとシュンとなった出来事でした。
彼女のオススメの場所を教えてもらったあとは、私のオススメのカフェに。季節のフルーツを使ったタルトやパフェが美味しいこちらは今の季節はやはり栗! ということで迷わず栗のタルトをチョイスしました。
栗、大好きです
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/50秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、8.2MB)
突然ですが、私は写真を撮られるのが苦手です。自分が撮られたくないから撮るほうに行ったんだなと勝手に納得していますが、とにかく写真写りが悪くて、カメラを向けられると自分でもわかるくらい顔が引きつってしまい……。そんなんだから友達との記念写真なども数えるほどしか撮ったことがありません。
「撮る」という行為で記念写真に参加している!とこれまた勝手な理屈で押し通していますが、一緒にいる空間を撮るのは好きです。顔が写っていなくても自分の気配が写真に写り込んでいるとやっぱりうれしくなります。
スイーツの写真を撮るのも大好きです
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/40秒、ISO250、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、7.8MB)
我が家の次男猫は私の足元で寝るのが日課で、明日はそれを撮ってやろうと寝る前に枕元にカメラをスタンバイ。前日まで「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」を付けて撮っていましたが、これは広角だなと思い「NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)」に付け替え、少しでも明るさが取れるように遮光カーテンを開けてから就寝しました。
明け方近くに目が覚めるといつもより大胆な位置でゆうゆうと眠る次男の姿が。起こさないように枕元のカメラにそっと手を伸ばして1枚。予想より近くにいてちょっとビックリしましたが、これまでも数え切れないほど似たような場面を撮ってきた経験から準備をしたおかげで、我が家らしい記念写真がまた1枚増えました。
猫にあるまじき寝方
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)、F2.8、1/400秒、ISO1000、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、8.8MB)
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)、F2.8、1/2000秒、SO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、7.5MB)
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)、F0.9、1/4000秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、9.8MB)
「こういう瞬間を撮りたいんです」というお声をいただくことがあります。どうしたら撮れますか、という問いに対する私の答えは「どんなときもカメラを持っていること」です。
さきほど「前日にある程度準備をしたから撮れた写真」の話をしましたが、ほとんどの日常スナップは狙って撮る、というよりは撮りたい瞬間が突然やってくるものだと思います。そんなとき、撮りたい瞬間を逃さないためにはそのシャッターチャンスをモノにするための判断力や瞬発力以上に「そのときカメラを持っている」ことが何より大事だと思っています。
どんなに熟練の技術やよいスペックのカメラを持っていても、「そのとき」カメラがなければ写真は撮れません。私の大学の恩師はお子さんが産まれたとき、自宅のすべての部屋にカメラを1台ずつ置いていたそうです。
財力的にそれは難しいですが、私も自宅では常にすぐ手に取れる場所にカメラを置いていますし、出かけるときも可能な限りカメラを持っていくようにしています。撮り方以前に撮りたいときにカメラを持っていること、この積み重ねが撮りたい瞬間を残すいちばんの近道だと思います。
空はあっという間に表情を変えてしまいます
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/4000秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、9.1MB)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/250秒、ISO100、+2.0EVホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、7.6MB)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/160秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、15.1MB)
「Z f」と「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」
私の実家には庭があり、かつてはこの庭にたくさんの猫が集まっていたころがあって、私の母は、いついた子の世話をするような生活を送っていました。我が家の長男猫も庭にやってきた中の1匹で、右手を失うほどの大怪我を負ったのを保護したのが縁で私たち夫婦の初めての家族になりました。
近年は庭に猫がやって来なくなったそうですが、母が世話したことで家の子になった、おそらく我が家の長男の、歳の離れたお兄ちゃんにあたる猫が実家で暮らしています。その子もすっかり歳を取って、糖尿病をわずらっていることもあり、1日2回の投薬とインスリン注射が欠かせません。両親が旅行に行くときなどは私が実家猫シッターとして通うのが恒例となっています。
子どものころ、よく入って遊んだ近所の川
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/320秒、ISO100、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、14.5MB)
知らぬ間に庭に生えていたザクロ
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2.8、1/80秒、ISO100、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、15.2MB)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2.8、1/640秒、ISO100、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、11.0MB)
実家猫はとてもこわがりで、大体初日はまず姿を見せてくれません。家具の下や隙間に潜り込んでいるのを見つけ出して出てくるように説得したり、ブラシをチラつかせて機嫌を取ってみたり。うちの子は私にべったりだったので、兄弟(推定)でもやっぱり性格はそれぞれなんだなと来るたびに思います。
我が家の長男猫の面影濃いお兄ちゃん(推定)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2.8、1/30秒、ISO1400、+1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、8.7MB)
どうにかこうにか薬を飲ませて注射をしてご飯とトイレ掃除と、ひと通りのお世話が終わり、帰りの道すがら自分へのご褒美にちょっと特別な場所へ。
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2.8、1/50秒、ISO140、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、10.0MB)
子どものころから特別なときに買いに行っていたケーキ屋さん。お店に併設された喫茶室に行ったのは大人になってからですが、ここのショートケーキは今も当時と変わらないおいしさで、平日のなんでもない日にひとりで優雅にお茶をする日が来るなんて、あのころの私に教えてあげたくなるくらい贅沢な時間でした。
いつもの団地もバラが見ごろ
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/6400秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、7.9MB)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/50秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、13.9MB)
庭からもぎってきたザクロを記念にパチリ
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/800秒、ISO100、+1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、6.0MB)
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)、F2、1/160秒、ISO100、+2.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6048×4032、9.7MB)
日常とは、そのときは当たり前すぎてその大切さに気づかずすごしてしまう時間かもしれません。時が経ち、振り返ったときに初めて、あぁ、こんな日々をすごしていたんだなと思いをはせる、そんな存在のように思います。
以前、「写真は記憶を呼び起こしてくれる栞(しおり)」だとお伝えしたことがあります。劇的な出来事でなくても、シャッターを切ったその瞬間、確かに自分の心が動いた証としての写真が残っているという揺るぎない事実。こんなにしあわせなことはないと思います。そしてたあいもない日々の中で出会う何気ない瞬間を大切に思えるようになれたことが写真と出会って私の人生が豊かになったと思えるいちばんの喜びです。これからもそんな日々の欠片を集めていきたいと思います。
さて、次の相棒と今度はどこへ行こう。
今回の相棒カメラは、フルサイズミラーレス「Z f」と「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」&「NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)」の単焦点レンズ2本。「Z f」は、ニコンのフィルムカメラ時代を代表する一眼レフ「FM2」にインスピレーションを得てデザインされたモデル。クラシカルな外観と最新の映像技術が融合した、手に取るだけで撮ることへの期待感を高めてくれるカメラです
金森玲奈 公式Webページ/SNSアカウント
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