今回は、ユニークな撮り方ができるレンズとして、銘匠光学のフルサイズ対応ティルトレンズ「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」を紹介します。被写界深度とは違う形でピントが合う範囲をコントロールできる個性的なMFレンズです。
TTArtisan初のティルトレンズ「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」
価格.comマガジンでTTArtisanの製品を紹介するのは初めてということなので、はじめにTTArtisanについて少し説明したいと思います。
TTArtisanは、中国・深センに本社を構える、2019年設立の光学メーカー・銘匠光学のレンズブランド。ライカMマウント用を中心に、高品位でユニークなレンズをいくつも手掛けています。
今回取り上げる「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」は、鏡筒を傾けて光軸を意図的にずらし、ピント面を変化させられる、いわゆるティルトレンズと呼ばれるレンズです。左右の傾き具体を調整できるティルト機構と、リボルビング(回転)機構によって、より柔軟なコントロールが可能です。
具体的には、筐筒を左右それぞれに最大8度まで傾けられると同時に、光軸に対してくるっと360度回転することもできます。
鏡筒にティルト用とリボルビング(回転)用の2つのネジを搭載しています
筐体を左右に最大8度まで傾けられます
サイズは68〜69(最大径)×68〜72(全長)mmで、重量は450〜470g(※マウントによってサイズ・重量が異なっています)。絞り開放F1.4の大口径レンズである点と金属製ボディである点を考えると、かなりの小型・軽量化を実現していると思います。
レンズ構成は6群7枚(高屈折レンズ2枚)で、フィルター径は62mm。最短撮影距離は0.5m。電子接点が非搭載のため絞り値はExifに反映されません(※本記事では撮影時に記録した値を記載しています)。
本レンズは、キヤノンRFマウント用、ソニーEマウント用、ニコンZマウント用、ライカLマウント用(ライカ/パナソニック/シグマ)、富士フイルムXマウント用、マイクロフォーサーズ用が用意されています。今回はキヤノンRFマウント用を使用しました
先に少し説明しましたが、ティルトレンズは、鏡筒を傾けて光軸を意図的にずらし、ピント面を変化させられる特殊なレンズです。
通常、ピントはカメラのセンサー面に対して平行に移動しますが、ティルトレンズは鏡筒の傾きによってピントの合う面を斜め方向に変えられます。これによって、ピントの合う範囲を極端に狭めたり、反対に全面に合わせたりすることができるわけです。リボルビング機構と組み合わせることで、ティルトで縦方向に合う状態になったピントの角度を自由に変更できるのがポイントです。
以下に、「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」を使って、「ティルト・回転なし」「右に8度ティルト」「右に8度ティルト+90度回転」の3パターンで撮影した作例を掲載します。
ティルト機構・リボルビング機構を使わずに撮影。通常の標準レンズで撮影したのと同じような描写ですね。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.8MB)
レンズを右に8度ティルトさせて撮影。ピント面が縦一線となり、時計のみにピントが合い、それ以外は対象物との距離に関係なく大きくボケています。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/80秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.0MB)
レンズを右に8度ティルト、かつ90回転させて撮影。ピント範囲の浅さは変わらず、ピントの合う面が縦から横一線に変化しています。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.4MB)
上の3枚の作例は手持ちで撮っているため構図に若干バラつきはありますが、すべて同じ絞り値(F2.8)に設定しました。撮影条件が同じで、これだけ違った描写を得られるのはティルトレンズならではと言えるでしょう。
ピント面の変化をよりお伝えしやすくするため、縦一線(ティルトのみ)、横一線(ティルト+リボルビング)で撮り分けましたが、角度を調整することで斜めにピントの合う範囲を持ってくることも可能です。ティルトとリボルビングの組み合わせによって、より撮影者の意図に沿った描写が得られることでしょう。
ティルト機構を使わずに絞り値F2.8で撮影。右奥のマトリョーシカにピントを合わせたので、ほかの3つはボケています。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/80秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.2MB)
ティルト後に回転させて、斜め一線にピントが合うように角度を調整して撮影しました。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/80秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.8MB)
なお、ティルト機構は絞りによる被写界深度とは異なる形でピントの合う範囲を極端に狭めることができますが、絞りの変化による影響がなくなるわけではありません。絞りを絞りすぎるとティルトによるボケ感も半減してしまいます。それを踏まえて自分の求めるイメージに合わせて絞り値を調整してみるといいでしょう。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F1.4、1/60秒、ISO2000、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/60秒、ISO4000、+1.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」は、ティルト機構とリボルビング機構を組み合わせることで、現実世界をミニチュアの風景のように撮ることができます。ポイントは、なるべく高い位置から撮影することと、露出を明るめに補正すること。こうすることで現実感が薄れ、ポップなミニチュア感を高められます。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/60秒、ISO800、+2.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F1.4、1/400秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/320秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/80秒、ISO100、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」はフルサイズ対応の標準レンズですので、APS-Cカメラに装着すると中望遠レンズに変わります。キヤノンのAPS-C機の場合は、35mm判換算で焦点距離80mm相当の画角のレンズとして撮影できます。
以下に、APS-Cミラーレス「EOS R10」と組み合わせて撮影した作例をいくつか掲載します。
EOS R10、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/100秒、ISO1250、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
EOS R10、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/100秒、ISO6400、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
ここまでは「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」のいちばんの特徴であるティルトレンズとしての楽しみ方を紹介してきましたが、シンプルに焦点距離50mm/開放F1.4の大口径・標準レンズとしての描写にも触れたいと思います。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F1.4、1/250秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.6MB)
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F1.4、1/3200秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.3MB)
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F1.4、1/250秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.6MB)
開放 F1.4では全体的にソフトな印象を受けましたが、絞っていくことで徐々に解像していくレンズだと感じました。絞り開放時や逆光時は周辺光量落ちがより強く出ますが、F2.8以上に絞ることでほぼ解消されます。
好みは分かれるかもしれませんが、個人的にはにじむようなやわらかなボケがソフトな描写とうまくマッチしていて、本レンズならではの独特な世界観を作り上げているように思いました。
「TTArtisan Tilt 50mm f/1.4」は、手軽にティルト撮影ができるティルトレンズとして、また焦点距離50mm/開放F1.4の大口径・標準レンズとして、1本で2通りの楽しみ方ができるレンズです。
特に現実をミニチュアのように変える撮り方ができるのは、新鮮な驚きと感動を与えてくれるでしょう。価格.com最安価格(2023年12月27時点)は3万円台なかば。ティルト機構を搭載したレンズとしてはかなりリーズナブルですね。
新しい世界への扉を開いてくれるこのレンズをぜひ楽しんでみてください。
EOS R6 Mark II、TTArtisan Tilt 50mm f/1.4、F2.8、1/3200秒、補正、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
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