知っているとタメになるカメラ関連情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第13回で取り上げるのは、ミラーレスカメラの「高感度画質」についてです。
小型・軽量で高性能なミラーレスは、AFや連写などの進化によって“できること”の幅が大きく広がっています。画質も向上していて、カメラによる高感度画質の差も小さくなっているように感じます。
とはいえ、高感度画質は撮像素子によって違いが出るのも事実(と言われてきました)。そこで今回は、キヤノンのミラーレスを使って、撮像素子のサイズと種類で高感度画質にどういう違いが出るのかを比較検証してみたいと思います。
夜景などを被写体に、撮像素子の種類・サイズによる高感度画質の違いをチェックしました
デジタルカメラは、感度(ISO感度)が高くなればなるほどノイズが増えるうえ、ダイナミックレンジが狭くなって色の再現性も落ちていきます。たとえば、夜景など暗い被写体を手持ちで撮影すると、手ブレを防ぐためにシャッタースピードを速めざるをえず、感度が上がり、結果ノイズの多い画質になってしまいます。
高感度の定義は明確にはありませんが、最新のミラーレスでは、大体ISO1600以上のことをさすと思います。使い方によって異なりますが、ISO6400くらいが実用できる上限の感度ではないでしょうか。
キヤノン「EOS R3」の撮像素子。裏面照射積層センサーによって処理速度と高感度性能を両立しています
今から10年くらい前、デジタル一眼レフが一眼カメラの主流だったころは、カメラの性能を語るうえで高感度画質は大きなトピックでした。しかし、最近は技術革新によってモデルごとの差が少なくなっていて、「高感度画質はよくて当たり前」といった感もあるように思います。高感度画質が一定レベルに達したのは、画素ごとの集光率を高めたり、画像処理技術を進化させたりといった、カメラメーカーの努力のおかげといってよいでしょう。
しかし、それでも、高感度画質には“超えられない壁”とも言える、2つの大きな違いがあります。それは、撮像素子の「サイズの違い」と「種類の違い」です。
撮像素子には、マイクロフォーサーズ(17.4×13.0mm)、APS-Cサイズ(キヤノンの場合22.3×14.9mm程度)、フルサイズ(36.0×24.0mm程度)といったいくつかの種類がありますが、同じ画素数であればサイズが大きいほうが高感度画質にすぐれます。これは、サイズが大きいと画素ピッチ(画素と画素の間の距離)が広くなり、その分集光率も高くなるため。最近は技術革新でだいぶ差が縮まっていますが、それでも絶対的な性能は撮像素子のサイズに左右されます。
撮像素子の種類については、この5年くらいで、ミラーレスの中上級機では「裏面照射型センサー」が一般化してきました。裏面照射型センサーは、撮像素子の回路を前面でなく背面(裏面)に配置することで集光率を高めたのが特徴。普通の構造の撮像素子よりも高感度でノイズの少ない画質が得られます。
では、次項目以降で、撮像素子のサイズと種類の違いで、高感度画質がどのように変わるのかを検証していきます。明確な差が出るはずですが、はたして結果はどうなるでしょうか?
撮像素子のサイズによる高感度画質の検証は、APS-Cサイズとフルサイズで比較していきます。以下の2台のミラーレスを使用しました。
検証に使用したカメラ
APS-Cサイズ機
キヤノン「EOS R10」
有効約2420万画素、2022年7月発売
フルサイズ機
キヤノン「EOS R8」
有効約2420万画素、2023年4月発売
APS-Cサイズはキヤノン「EOS R10」、フルサイズはキヤノン「EOS R8」を使用。いずれも有効画素数は約2420万画素です
「EOS R10」と「EOS R8」の有効画素数はどちらも同じ約2420万画素ですが、画素ピッチはフルサイズのほうが広いため、高感度画質は当然フルサイズのほうがすぐれる結果になるはずです。
まずは、高感度の検証でよく用いられるISO6400の画質を比較していきましょう。APS-Cサイズの「EOS R10」とフルサイズの「EOS R8」で、できる限り撮影の条件を揃えて撮影しました。
EOS R10、RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM、22mm(35mm判換算35mm相当)、F11、1/800秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.8MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、35mm、F11、1/800秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.4MB)
左がAPS-Cセンサーの「EOS R10」、右がフルサイズセンサーの「EOS R8」で撮影したISO6400作例の切り出し画像です
ISO6400の比較では、薄暗い状況下で、シャドーからハイライトまで情報量が多い被写体を撮影してみました。写真を拡大して見ると、APS-Cサイズのほうがノイズが多いことがわかります。しかし、それはあくまで拡大して見た場合の話。フルサイズと見比べて違いを確認できたものの、実用上それほど問題となることはないと思います。
最新のミラーレスにおいてISO6400は常用感度内に設定されることがほとんどですので、APS-Cサイズでも実用上問題のない画質レベルであることは想定内でした。そこで、さらに感度を高くしてISO25600での画質の違いを確認してみましょう。
EOS R10、RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM、22mm(35mm判換算35mm相当)、F11、1/3200秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.4MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、35mm、F11、1/3200秒、ISO25600、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、11.0MB)
左がAPS-Cセンサーの「EOS R10」、右がフルサイズセンサーの「EOS R8」で撮影したISO25600作例の切り出し画像です
ISO25600の比較作例もISO6400と同じ被写体を撮影してみました。ISO25600ともなると、APS-Cサイズとフルサイズの差はいよいよ明確になります。拡大しなくても、APS-Cサイズの「EOS R10」で撮った写真はディテールが損なわれているのに対して、フルサイズの「EOS R8」で撮った写真は十分なディテールが残っていることがわかります。
同じ画素数でも、APS-Cサイズとフルサイズの間には“超えられない壁”があることがよく伝わる結果だと思います。これは単純に、画素ごとの集光率の違い、画素ピッチの広さの違いによるものです。
ちなみに、常用最高感度は「EOS R10」がISO32000、「EOS R8」がISO102400で2段近い差があります。単純にこのスペックを見るだけでも、APS-Cサイズとフルサイズで高感度性能に差があることがわかるというものです。と同時に、APS-Cサイズであっても、ISO25600程度の超高感度域で十分な画質が得られることも知っておいてほしいです。厳密に見ればフルサイズのほうがクオリティーは高いですが、APS-Cサイズでも、実用上、問題なく高感度を使うことができます。
フルサイズの「EOS R8」の常用感度域はISO100〜102400。ISO100〜32000の「EOS R10」とは設定できる常用最高感度に2段近い差があります
続いて、撮像素子の種類の検証に移ります。普通の撮像センサーと裏面照射型センサーによる高感度画質の違いをチェックしていきましょう。検証には、以下の2台のフルサイズミラーレスを使用しました。
検証に使用したカメラ
普通の撮像センサー機
キヤノン「EOS R8」
有効約2420万画素、2023年4月発売
裏面照射積層センサー機
キヤノン「EOS R3」
有効約2410万画素、2021年11月発売
「EOS R3」は、裏面照射積層センサー(いわゆる積層型センサー)を搭載したスピードモデルのミラーレスです。積層型センサーとは、簡単に言えば、裏面照射型センサーの発展系。裏面照射構造をベースに、画素と信号処理回路を積層構造にすることで処理速度を高めたのが特徴です。高感度性能的には裏面照射型センサーとほぼ同じ特性が得られると思ってもらって問題ありません。
「普通の撮像センサー」のカメラには、先の項目で登場した「EOS R8」を引き続き使用しました。有効画素数は「EOS R8」が有効約2420万画素、「EOS R3」が約2410万画素とほぼ同じですので、画質の違いがわかりやすいと思います。
裏面照射積層センサーを採用する「EOS R3」。有効画素数は約2410万画素です
「APS-Cサイズとフルサイズの違い」のときと同じように、まずはISO6400での画質の違いを確認してみます。
EOS R8、RF24-70mm F2.8 L IS USM、70mm、F8、1/5秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、6.9MB)
EOS R3、RF24-70mm F2.8 L IS USM、70mm、F8、1/5秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、6.7MB)
左が普通の撮像センサーの「EOS R8」、右が裏面照射積層センサーの「EOS R3」で撮影したISO6400作例の切り出し画像です
「EOS R8」と「EOS R3」のどちらの写真も、ISO6400程度ならノイズがよく抑えられており、きれいな仕上がりです。ほんの少しだけ、普通の撮像センサーの「EOS R8」のほうが、輝度ノイズが多くザラついているように感じますが、個人的には許容範囲に収まっていて、ほとんど気になりません。
予想はつきましたが、ISO6400では普通のセンサーと裏面照射型センサーとの間に大きな違いは出なかったので、「EOS R8」と「EOS R3」の共通の常用最高感度ISO102400で比較してみます。
EOS R8、RF24-70mm F2.8 L IS USM、70mm、F8、1/80秒、ISO102400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.5MB)
EOS R3、RF24-70mm F2.8 L IS USM、70mm、F8、1/80秒、ISO102400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、11.5MB)
左が普通の撮像センサーの「EOS R8」、右が裏面照射積層センサーの「EOS R3」で撮影したISO102400作例の切り出し画像です
ISO102400では、裏面照射積層センサーの「EOS R3」のほうが高画質が得られると予想していたのですが、結果はISO6400の場合と同じく、輝度ノイズによるザラつきにごくわずかな違いがある程度で、ISO102400でも画質にハッキリとした差は見られませんでした。
なぜ!? と考え込んだのですが、「EOS R8」は2023年4月の発売で、「EOS R3」は2021年11月の発売と、発売時期に1年半ほどの差があることに要因なのかもしれません。撮像センサーの違いはあっても、画像処理技術の進化によって、その性能差を埋めた可能性があります。また、「EOS R3」は高速連写を得意とするスピードタイプのモデルであるため、撮像素子の処理速度を重視した設計ということもあるのかもしれません。
今回の検証結果から高感度画質について言えることは、おおむね以下のようになると思います。
・APS-Cサイズとフルサイズならフルサイズが有利
・APS-Cでも常用感度内であれば十分に実用的
・現行機種では、普通のセンサーと裏面照射型センサーでそれほどの差はない
APS-Cサイズとフルサイズの高感度における性能差は確かに大きいのですが、実用的であるかどうかという視点で見れば、APS-Cサイズでも十分な高画質を実現していると思います。筆者はAPS-Cサイズ/フルサイズのミラーレスを両方所有していますが、コンパクトで携帯性にすぐれるAPS-Cサイズのミラーレスは持ち出す率が高いです。
普通のセンサーと裏面照射型センサーの違いについて、今回は今ひとつわかりにくい結果ではありましたが、少なくともキヤノンのミラーレスであれば、普通のセンサーでも実用的な高感度画質を獲得しているのですからユーザーにとってはよいことだと考えます。しかし、裏面照射型センサーの普及によって、APS-Cサイズでも4000万画素、フルサイズであれば6000万画素といった高画素化が実現されていることも事実と言えるでしょう。
もちろん、どのレベルの高感度までなら許容できるかは、撮影者それぞれの判断によります。それにしても、常用感度内であれば思ったよりも高感度画質が高いという事実を見ると、カメラ側が自動的に感度を設定する「オート感度」をもっと活用したほうがよいのではないか? と考えさせられます。