焦点距離100mmの中望遠マクロレンズは、描写力が高い分、どうしても大きく重くなりがち。「写りはいいけど標準ズームや望遠ズームなどと一緒だと気軽に持ち出しにくい・・・・・・」と感じている人もいるのではないだろうか。
今回紹介する「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO S-E100」は、パナソニックが2024年2月15日に発売した、フルサイズ対応の小型・軽量な中望遠マクロレンズ(ライカLマウント用)。本レンズの100mmマクロとしての実力と、スナップ撮影での使いやすさをレビューしよう。
「LUMIX S5IIX」と組み合わせて「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」をレビュー。今回は、この組み合わせで千葉県館山市にてロケを行った
「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」の最大の特徴は、何といってもそのコンパクトなサイズ感だ。
本体サイズは73.6(最大径)×約82.0(全長)mmで、重量は約298g(レンズフード、レンズキャップ、レンズリアキャップを含まず)。焦点距離100mm前後の中望遠マクロレンズといえば重量が600g台〜700g台のものが多いなか、本レンズは、そこから約半分の軽量化を実現しているのだ。製品発表時点では、焦点距離90mm以上の等倍マクロレンズ(AF対応のフルサイズミラーレス用)として世界最小・最軽量をうたっている。
中望遠マクロとは思えないほどの小型・軽量化を実現。全長は約82mm、重量は約298gで100mmマクロとしては圧倒的にコンパクトだ
73.6(最大径)×約82.0(全長)mmという本体サイズが、「LUMIX S」ブランドの「F1.8単焦点レンズ」シリーズとまったく同じなのも見逃せないポイントだ。具体的には、「LUMIX S 18mm F1.8」「LUMIX S 24mm F1.8」「LUMIX S 35mm F1.8」「LUMIX S 50mm F1.8」「LUMIX S 85mm F1.8」とサイズが共通。フィルター径も67mmで同じだ。
「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」のサイズは「F1.8単焦点レンズ」シリーズの5本とまったく同じ(「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」はいちばん右)。これらの6本のレンズは重量も300g前後〜350g程度で揃えられている。動画撮影でジンバルを使用する際に、レンズを交換しても重心バランスが崩れにくいのがうれしい
フォーカスリミットスイッチを搭載。「0.204〜0.5m」「0.5m〜∞」「FULL」の3段階で切り替えることで、ピント合わせをスムーズに行える
本レンズがここまでの小型・軽量化を実現できたのにはいくつかの技術的な要因がある。なかでも注目なのが、新開発の「デュアルフェイズリニアモータ」。リニアモーターの性能はそのままに、同体積比で約3倍の推力を実現するという新型のアクチュエータだ。これを搭載することで、レンズの小型・軽量化とAFの高速化を両立している。
専用のレンズフードが付属する
本レンズは新開発の「デュアルフェイズリニアモータ」を搭載しており、近接(左)から遠景(右)に大きくピント位置を変えるような場合でもスムーズにピント合わせが行える。フォーカス駆動音も抑えられているので動画撮影にも適している
「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」は非常に小型・軽量なため、使用する前は画質にはあまり期待していなかった。しかし、実際に撮影してみるといい意味で期待を裏切ってくれた。ピント面の切れ味が鋭いというだけでなく、ボケの質が非常によく、立体感のある写真を撮ることができるのだ。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F3.2、1/320秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.3MB)
この写真では、花の中央の細かな部分までしっかりと解像しており、肉眼で見る以上にディテールの美しさを引き出してくれている。それでいて、アウトフォーカス部分の花びらのグラデーションがきれいで、徐々に大きなボケへと変わっていく感じがいい。立体感のある1枚に仕上げることができた。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/100秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.2MB)
本レンズの最短撮影距離は0.204m。この作例は、最短撮影距離付近で撮影したマクロ写真だ。鮮やかなピンクのグラデーションを美しく表現できている。レンズの描写力とあわせて、「LUMIX」の絵作りのよさもうかがえる1枚だ。
マクロレンズを使用するときは、被写体全体にピントが合うように絞って撮影することも多い。そのため、絞り込んだときのボケの質もチェックしておこう。以下の作例は、同じ被写体をF2.8とF6.3の絞り値で撮影して、背景のボケ具合を比較したものだ。
左:LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/320秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(4000×6000、8.2MB)
右:LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F6.3、1/60秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(4000×6000、8.5MB)
F2.8では、100mmマクロレンズでの絞り開放らしく、背景が大きくボケている。いっぽう、F6.3では、ボケの量は変わるものの、硬くなることなく、とろけるようにボケているのがわかる。本レンズは、絞り込んでも背景がざわつくことなく良質なボケが得られる。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/80秒、ISO800、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、11.9MB)
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/100秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.1MB)
料理写真を撮るときにマクロレンズが1本あると、いつもとは違った表現を楽しめる。料理が美味しそうに見えるポイントにピントを合わせて構図を決めることで、よりシズル感のある写真を撮影できる。
「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」は、小型・軽量なのでスナップ撮影にも活用できるレンズだ。焦点距離100mmの圧縮効果や引き寄せ効果を利用することで、さまざまな表現を楽しめる。
ここからはその実践例として、海沿いをスナップ撮影した写真をご覧いただきたい。雰囲気を出すために、仕上がり設定の「フォトスタイル」は、重厚感のあるモノクロを撮影できる「L.モノクロームD」に設定した。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/2500秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.モノクロームD
撮影写真(4000×6000、6.5MB)
海辺で釣りをしている2人を焦点距離100mmの引き寄せ効果を利用して撮影。遠くにいる2人のドラマを目立たせながら撮ることができた。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/2000秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.モノクロームD
撮影写真(6000×4000、6.5MB)
上記の写真と同じ被写体(釣り人)を撮影。前ボケに夫(上田晃司)を入れてフレーミングしている。圧縮効果によって、カメラを構えたシルエットと奥の2人の両方を際立たせることができた。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/2500秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.モノクロームD
撮影写真(4000×6000、7.8MB)
海辺にあったイスを立体的に撮りたいと思い、絞り開放のF2.8に設定して、背景を大きくぼかした。この写真はぜひ等倍で見てもらいたい。絞り開放でもイスのディテールを細かく描写しているのがわかる。小型・軽量なレンズだが、ピント面はきわめてシャープで被写体のディテールを緻密に表現してくれる。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/5000秒、ISO100、-0.7EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.モノクロームD
撮影写真(4000×6000、6.0MB)
何気ない被写体だが、「L.モノクロームD」と組み合わせることで味わい深い写真に仕上がった。ピント面の描写力と大きなボケによって立体感が得られているのもポイントだ。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/1600秒、ISO100、-0.7EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.モノクロームD
撮影写真(6000×4000、6.6MB)
船に縛り付けてあった縄を撮影。経年劣化した質感をしっかりと表現できている。
続いて、カラーネガ風のノスタルジックな雰囲気が得られる「L.クラシックネオ」に「フォトスタイル」を変更して撮った4枚の組写真をご覧いただきたい。粒状効果を加えて撮影している。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/6400秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.クラシックネオ
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/6400秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.クラシックネオ
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/6400秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.クラシックネオ
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/1000秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.クラシックネオ
この4枚の写真は、海辺の風景をフィルムライクな写真に仕上げることをイメージして撮影したもの。海辺の青をさわやかに表現しながら、100mmマクロらしいマクロ写真を交えることで、被写体のディテールの面白さを引き出すことができた。
最後に、「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」を持ち歩いているといろんな発見があるという例をお見せしたい。以下の写真は、船に取り付けられた竹の先端に引っ掛かっていた「裂けたビニールひも」にピントを合わせて撮った1枚。光が透過した状態にしたいと思い、逆光でカメラを構えている。
LUMIX S5IIX、LUMIX S 100mm F2.8 MACRO、F2.8、1/1600秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、フォトスタイル:L.クラシックネオ
普段だったら通りすぎてしまうような被写体だが、100mmという画角と、「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」のボケのよさからシャッターを切った写真だ。100mmマクロとは思えない小型・軽量なので持ち運びやすく、いつもと違った視点で被写体と向き合いやすいのもこのレンズの面白さと言えるだろう。
「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」を使用してみて、このレンズは「何でも高画質に撮れる100mmマクロ」だと感じた。
100mmマクロといえば、これまでは大きく重いものが多かったため、「今日はマクロ撮影をするぞ!」と思わないと持ち出さないレンズだった。しかし、「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」は小型・軽量なため、カメラバッグに入れっぱなしで持ち歩いても大きさや重さが気にならない。
マクロレンズを持ち出す機会が増えると、撮影する視点の広がりが生まれる。小さな被写体と向き合っていると、時を忘れてしまうくらい撮影に没頭し、いつもと違った表現を発見することができる。
「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」は、そうしたマクロレンズの面白さを体験するのにピッタリ。ぜひ本レンズとともに、日常の撮影を楽しんでいただきたい。