曽根原ラボ

「玉ボケ欠け」はなぜ発生する? メカニズムをわかりやすく解説

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知っているとタメになるカメラ関連情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第15回で取り上げるのは、「玉ボケ欠け」と呼ばれる現象についてです。

「玉ボケ欠け」は、大口径レンズや望遠レンズで写真を撮った際に、背景ボケのなかにできた玉ボケが欠けたように写ることを言います。電子先幕シャッターを搭載したミラーレスカメラ特有の現象ですが、どうして発生するのか? どんな条件で発生するのか? を知らないとせっかくの写真が台なしになってしまうこともあります。

電子先幕シャッターを使った場合に発生する「玉ボケ欠け」。今回はそのメカニズムを紹介します

電子先幕シャッターを使った場合に発生する「玉ボケ欠け」。今回はそのメカニズムを紹介します

「玉ボケ欠け」ができる3つの条件

まず知っておいてもらいたいのは、「玉ボケ欠け」が以下の条件で発生するということです。

1.電子先幕シャッター搭載のミラーレスで電子先幕シャッターを使用した場合
2.背景が大きくボケて玉ボケができるレンズ。具体的には、大口径レンズ・望遠レンズ・マクロレンズなどを使用した場合
3.高速シャッタースピードで撮った場合

「1」の電子先幕シャッターとは、撮影時に後幕だけがメカシャッターで動作し、先幕は電気的な処理による電子シャッターを併用するシャッター方式のことを言います。最近はほぼすべてのメーカーがミラーレスにこの方式を取り入れていて、なかには、メカシャッターとして電子先幕シャッターしか使えない機種(先幕のメカシャッターを省略した機種)もあります。

「玉ボケ欠け」が発生する要因の第一は、ミラーレスで電子先幕シャッターを使用した場合です

「玉ボケ欠け」が発生する要因の第一は、ミラーレスで電子先幕シャッターを使用した場合です

「2」の「背景が大きくボケて玉ボケができるレンズ」ですが、点光源が大きくボケてできるのが玉ボケですので、背景ボケが大きくなるレンズでないと、そもそも「玉ボケ欠け」が発生しないのはわかるかと思います。大口径レンズ、望遠レンズ、マクロレンズなどが、それに該当しますが、最近は標準ズームでも近接撮影性能にすぐれたものが出ていますので、「玉ボケ欠け」に遭遇する機会も増えていると言えるでしょう。

今回の検証は、電子先幕シャッター搭載のミラーレスと大口径レンズの組み合わせとして、富士フイルムの「X-T5」と「XF33mmF1.4 R LM WR」を使用しました

今回の検証は、電子先幕シャッター搭載のミラーレスと大口径レンズの組み合わせとして、富士フイルムの「X-T5」と「XF33mmF1.4 R LM WR」を使用しました

「3」の「高速シャッタースピードで撮った場合」というのは「玉ボケ欠け」の発生要因として重要なことですので、次項で詳しくお話しさせてもらいたいと思います。

「玉ボケ欠け」は高速シャッタースピードで発生します。実はここに電子先幕シャッターとの密接な関係があります

「玉ボケ欠け」は高速シャッタースピードで発生します。実はここに電子先幕シャッターとの密接な関係があります

電子先幕シャッターで発生する「シャッター幕のギャップ」

「3」の「高速シャッタースピードで撮った場合」を理解するうえで知っておきたいのが、シャッター幕の動作。以下で、「シャッターを切る」というのが、どういった動き方なのかを解説します。

露光時(シャッターを切ったとき)は、まず先幕(メカ)が開いて撮像素子が全開となった後、シャッタースピードに応じた時間になると、後幕(メカ)が閉じることで指定した(された)露光時間が完了するようになっています。しかし、これは撮像素子を全開露光できるストロボ同調速度までのことで(今回使った富士フイルム「X-T5」の場合は1/250秒まで)、それ以上の高速シャッタースピードになると全開露光は物理的にできなくなってしまいます。

これは仕組みこそ少し違いますが、メカシャッターだけでなく、電子シャッターでも、グローバルシャッターを搭載したソニー「α9 III」のような例外を除けば、基本的な考え方は同じです。

全開露光ができないならどうするかというと、開こうとする先幕(メカ)を追いかけるように後幕(メカ)が追従することで、一定の幅を持ったスリットを作ります。このスリットが撮像素子の前を走行することで、トータルとして設定した高速シャッタースピードと同等の露光量が得られるわけです。

先幕(メカ)の後を追いかけるように後幕(メカ)がスリットを作り、そのスリットが走行することで高速シャッタースピードでの露光量を確保しています

先幕(メカ)の後を追いかけるように後幕(メカ)がスリットを作り、そのスリットが走行することで高速シャッタースピードでの露光量を確保しています

もちろん、電子先幕シャッターであっても高速シャッタースピード時のシャッター幕の挙動は同じです。ただし、撮像素子からシャッター幕までの距離が、先幕(電子)と後幕(メカ)で異なるところが、「玉ボケ欠け」が発生の要因になります。電子的なシャッター幕であるだけに撮像面との距離がゼロとなる先幕(電子)に対して、物理的な装置である後幕(メカ)は撮像面とは距離があるため、ここに生まれるギャップが問題を引き起こすのです。

電子先幕シャッターでは、先幕(電子)と後幕(メカ)との間に距離的なギャップが生まれ、これが「玉ボケ欠け」が発生の要因に

電子先幕シャッターでは、先幕(電子)と後幕(メカ)との間に距離的なギャップが生まれ、これが「玉ボケ欠け」が発生の要因に

シャッター幕の動作については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

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2018/08/13 15:02

後幕(メカ)がつくる影が「玉ボケ欠け」の原因

続いて、先幕(電子)と後幕(メカ)にギャップがあると、なぜ「玉ボケ欠け」が起こるのかについてお話します。

下の図は、先幕(電子)と後幕(メカ)がつくったスリットが玉ボケの写る位置に差し掛かった状態を表しています。この図だと、先幕(電子)が通過した後を追う後幕(メカ)が、まるで庇(ひさし)のように斜め上からきた入射光を遮っているのがわかると思います。先幕(電子)が開いて玉ボケの露光が始まっても、すぐに後幕(メカ)が影を作ってしまうため、玉ボケ上部は露光不足になってしまう、これが「玉ボケ欠け」ができる理由です。

後幕(メカ)が庇(ひさし)となって斜め上からの入射光を遮ってしまうために「玉ボケ欠け」が発生します

後幕(メカ)が庇(ひさし)となって斜め上からの入射光を遮ってしまうために「玉ボケ欠け」が発生します

しかし、玉ボケの上部をスリットが通過してしまえば、入射光はまっすぐか斜め下から入るようになるため、後幕(メカ)の影によって露光が遮られることはありません。下の図は、玉ボケの写る位置の下部をスリットが通過している状態ですが、玉ボケの中間から下部では正常に露光できていることがわかると思います。

 玉ボケの中間から下部では、後幕(メカ)の影が露光をじゃますることがありません

玉ボケの中間から下部では、後幕(メカ)の影が露光をじゃますることがありません

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.6、1/4000秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.6、1/4000秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

上に掲載した2つの図は、「玉ボケ欠け」ができる理由を示すために動作をわかりやすく表現してします。実際は撮像素子に投影される像は上下左右が反転していますし、今回使用した富士フイルム「X-T5」の場合、シャッターの開閉(スリットの走る方向)は下から上になります。

また、「玉ボケ欠け」を起こす電子先幕シャッター搭載のミラーレスには、玉ボケの上部が欠けるタイプと下部が欠けるタイプが存在します。これはシャッターの開閉(スリットの走る方向)が上から下に向かうのか、下から上に向かうのかの違いによるものです。この違いを知っておけば、今回の解説をより深く理解できると思います。

どの程度の高速シャッターで「玉ボケ欠け」が発生するのか?

では、実際にどのくらいのシャッタースピードになると「玉ボケ欠け」が発生するのでしょうか? 気になったので試してみました。

まずは、個人的に高速シャッタースピードの入り口と考えている1/1000秒で撮影した写真をご覧ください。この程度のシャッタースピードでしたら、後幕(メカ)の庇がつくる影の影響はほとんどないようで、玉ボケが欠けることなく正常に撮れています。

シャッタースピード1/1000秒で撮影

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.4、1/1000秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.4、1/1000秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

それならばと、シャッタースピードを倍の1/2000秒にして撮影したのが以下の画像です。わずかながらも「玉ボケ欠け」が発生していることが見てとれます。どうやら「X-T5」と「XF33mmF1.4 R LM WR」の組み合わせの場合、1/1000秒から1/2000秒の間で「玉ボケ欠け」が始まるようです。

シャッタースピード1/2000秒で撮影

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.6、1/2000秒、ISO3200、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.6、1/2000秒、ISO3200、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

シャッター速度を、さらに倍となる1/4000秒にして撮影したのが以下の写真。ここまでくると、画面内にあるほとんどすべての玉ボケが欠けてしまうようになります。後幕(メカ)の庇がつくる影の影響が、画面の全域に及んだということでしょう。

シャッタースピード1/4000秒で撮影

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.6、1/4000秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.6、1/4000秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

最後に、シャッタースピードを1/8000秒にまで上げて撮影してみました。画面中のすべての玉ボケの上半分が明確に欠けてしまいました。後幕(メカ)の庇がつくる影の影響がすさまじく、まっすぐか斜め下からの入射光以外は、すべてを闇のなかに覆っているかのようです。

シャッタースピード1/8000秒で撮影

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.4、1/8000秒、ISO12800、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

X-T5、XF33mmF1.4 R LM WR、33mm(35mm判換算50mm相当)、F1.4、1/8000秒、ISO12800、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

「X-T5」と「XF33mmF1.4 R LM WR」の組み合わせの場合、1/1000〜1/2000秒の間の高速シャッタースピードで「玉ボケ欠け」が始まり、1/8000秒ともなると玉ボケの上半分が欠けてしまうことがわかりました。カメラとレンズの組み合わせで結果は変わると予想されますが、シャッタースピードが1/1000秒よりも高速だと、常に「玉ボケ欠け」に注意したほうがよいと思います。

まとめ 発生理由を理解すれば「玉ボケ欠け」は回避できる

電子先幕シャッターで「玉ボケ欠け」が発生するメカニズムがおわかりいただけたでしょうか。まるで月の満ち欠けのように、美しい玉ボケをむしばんでしまうのですから、知らないと本当にあわててしまいますね。

「玉ボケ欠け」を回避する方法は以下の2つです。少々厄介な「玉ボケ欠け」ではありますが、発生の理由をよく理解して臨めば、十分に回避できます。

1.露出を調整してシャッタースピードを遅くする
2.電子先幕シャッター以外のシャッター方式に変える(先幕/後幕ともメカシャッターか電子シャッターを選ぶ)

注意したいのは2で、先幕のメカシャッターを省略した「電子先幕シャッターのみの機種」を使う場合です。フルサイズ機ではソニー「α7Cシリーズ」やキヤノン「EOS R8」などがこれに該当しますが、これらの電子先幕機を使う場合、シャッター方式の変更で「玉ボケ欠け」を回避するには、電子シャッターを選択する必要があります。電子シャッターは、ローリングシャッターによる被写体歪みや、フリッカー光源下での明るさムラが発生することがあるので、これらにも気を配るようにしましょう。

曽根原 昇
Writer
曽根原 昇
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。
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真柄利行(編集部)
Editor
真柄利行(編集部)
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣とこだわりを持っています。フォトグラファーとしても活動中。パソコンに関する経験も豊富で、パソコン本体だけでなく、Wi-Fiルーターやマウス、キーボードなど周辺機器の記事も手掛けています。
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