シグマから開放F2.8通しの標準ズームレンズ「28-105mm F2.8 DG DN | Art」が登場した。注目ポイントは、ズーム全域で開放F2.8の大口径ながら望遠端105mmまでをカバーするという驚異的なスペックだ。今回はポートレート撮影を通じて、本レンズの潜在能力を探ってみたいと思う。
今回カメラボディはソニー「α7R V」を使用した。「28-105mm F2.8 DG DN」にはソニーEマウントとLマウントの2タイプがラインアップされている
掲載する写真作例について
歪曲収差補正:オフ、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オートの設定で撮影しています。
開放F2.8通しの標準ズームレンズといえば広角端24mmから望遠端70mmまでの焦点距離をカバーするのが一般的だ。しかし、70mmでは短いと感じる場面は決して少なくない。特にポートレートではどうしても中望遠域にもう少し幅を持たせたいと思うものだ。「28-105mm F2.8 DG DN」はそんなジレンマを払拭する高いスペックを備えたズームレンズである。
重量990g、全長159.9mm(ソニーEマウント用)で、お世辞にも携行性にすぐれたフォルムとは言いがたい。しかし、レンズを複数持ち歩く手間が省けるため、むしろ軽快に撮影に臨めるメリットを感じる
本レンズはすぐれた操作性も魅力。さまざまな機能を割り当てられるAFLボタンは2か所に配置されている
シグマの高機能レンズではおなじみの絞りリング。なお、本レンズには絞りリングのクリックを無効にする「絞りリングクリックスイッチ」や、絞りリングの誤操作を防ぐ「絞りリングロックスイッチ」なども搭載されている
ロックスイッチ付きの花型レンズフードが同梱されている
ここからはポートレートの作例を見ながら「28-105mm F2.8 DG DN」の特徴を解説していこう。
先述のとおり、本レンズ最大の特徴は、焦点距離70〜105mmの中望遠域を開放F2.8通しで利用できること。そこで、まずは中望遠域(70mm、85mm、105mm)の絞り開放で同じ被写体を撮り比べた作例をご覧いただきたい。それぞれで被写体サイズを揃えたうえで、背景の入り方やボケ具合を比較してみた。
上記の作例はいずれも開放F2.8で撮影している。70mmでも背景ボケは十分に美しいが、85mmや105mmではより大きなボケと圧縮効果でダイナミックな描写が得られている。この選択肢の広がりが、このレンズの表現力の豊かさに直結している。
100mm前後の焦点距離は、ぼかした背景をほどよく取り込みながらちょうどいい塩梅でポートレートを撮影できるのが魅力だ。背景の要素を大胆に圧縮しながらドラマチックに描写できる。
105mmで撮影。奥行きのある緑道で全身を切り取った。このボケ味はまさしく105mmならでは。絞り開放でもピントの合った人物の表情はシャープで立体感がしっかり出ている
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、105mm、絞り優先オート、F2.8、1/160秒、ISO400、+0.3EV、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6336×9504、15.2MB)
105mmで撮影。圧縮効果を利用し、背景を引きつけた。こうしたドラマチックな描写も望遠側が有効だ
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、105mm、絞り優先オート、F2.8、1/160秒、ISO400、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6336×9504、13.1MB)
105mmで撮影。半逆光を利用し、植物で前後ボケをつくった。105mmの焦点距離になると、こうした浅い被写界深度を利用した描写も気軽に適用できる
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、105mm、絞り優先オート、F2.8、1/400秒、ISO100、+0.3EV、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(9504×6336、11.2MB)
「28-105mm F2.8 DG DN」はズーム全域で40cmという最短撮影距離を実現している。105mmでは最大撮影倍率1:3.1のクローズアップ撮影ができる。正直、広角側がもう少し寄れるとうれしいところだが、ポートレートを主軸に考えると、望遠側でしっかり寄れるのは、バリエーションを増やす意味でも大きな役割を担いそうだ。
105mmの最短撮影距離付近で接写した。実際撮影してみるとかなり寄れる印象だ。中望遠マクロレンズを使っているような感覚で撮影に臨める。ボケもきれいで美しい
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN | Art、105mm、絞り優先オート、F3.2、1/160秒、ISO800、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6336×9504、11.6MB)
105mmで寄りながら表情をとらえた。クローズアップに強く、ピントの可動域が広いので、ストレスなく自分好みの構図、寄り引きを追求できる。中望遠だと顔のフォルムも自然で見たままに写せる
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、105mm、絞り優先オート、F2.8、1/125秒、ISO100、+0.3EV、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6336×9504、10.4MB)
ここまで望遠端に注目して見てきたが、当然ながら「28-105mm F2.8 DG DN」の最も大きな強みは広角から中望遠までを1本でまかなえることだ。レンズ交換の必要がなく、ワンシーンの中でも直観的に判断しながらさまざまな画作りに挑める。
木漏れ日を背景にローアングルから85mmで撮影。本レンズは13群18枚のレンズ構成で、絞り羽根12枚の円形絞りを採用。木漏れ日による玉ボケも美しく表現されている
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、85mm、絞り優先オート、F2.8、1/400秒、ISO800、+0.3EV、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6336×9504、12.9MB)
広角端28mmで撮影。腕を伸ばしたポージングに対し、ぐっと近づき遠近感を意識しながら切り取った。望遠域による描写だけでなく、こうした広角表現も楽しめる。前後ボケも滑らかで印象的だ
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、28mm、絞り優先オート、F2.8、1/320秒、ISO100、+0.7EV、WB:AWB、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(9504×6336、12.8MB)
広角34mmで撮影。35mm前後の焦点距離は周囲の情景をバランスよく入れ込んで撮りたい場面で重宝する。開放F2.8によるボケも効果的で立体感を演出している
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN、34mm、絞り優先オート、F2.8、1/250秒、ISO100、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6336×9504、14.0MB)
標準50mmで撮影。見たままを素直な視点で切り取りたいときは50mm前後がちょうどいい
α7R V、28-105mm F2.8 DG DN | Art、50mm、絞り優先オート、F2.8、1/500秒、ISO100、WB:太陽光、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(9504×6336、18.0MB)
ポートレートを題材に「28-105mm F2.8 DG DN」の能力を探ってきたがいかがだっただろうか。本レンズは、シグマの最高峰「Artライン」のひとつだけあり、撮影していても非常に高い描写力を確認できた。今回そのほとんどを開放F2.8で撮影しているが、目立った解像感の低下はなかった。ピントを合わせた部分は非常にシャープでキレがよく、その周辺はゆるやかにボケてとろけるように滲んでいる。F2.8というスペック自体はそう珍しいものではないが、その数値以上のボケの美しさを感じた。逆光に対する耐性もすぐれていたし、全体として非常に信頼できる仕上がりのレンズだった。今回はポートレートで実践したが、スナップや自然風景などでも存在感を発揮するだろう。
AFの動作も安定感があった。望遠側を使ってもAFのスムーズな動作は損なわれることがない。「α7R V」との相性も抜群だったと言える。瞳へしっかりピントを合わせ続けることができた。
サイズ感もちょうどいいと思う。お世辞でなく、そんなに重さは感じない。レンズ1本ですべて撮れてしまうからかもしれない。使用できる焦点距離が長い分、意識的に広角から中望遠までを幅広く使ってみたい気がする。撮影スタイルを大きく変えていくような、新たな可能性を実感できるインパクトのある標準ズームレンズだった。
モデル:migiwa