キヤノンは2025年2月20日、充実した動画撮影機能を搭載するコンパクトデジタルカメラ「PowerShot Vシリーズ」の第2弾モデル「PowerShot V1」を発表した。縦型デザインの第1弾モデル「PowerShot V10」とは異なり、カメラらしいスタイルのボディに1.4型の大型センサーを搭載した意欲作だ。その特徴を紹介しよう。
「PowerShot Vシリーズ」のフラッグシップモデルとして登場した「PowerShot V1」(付属のウィンドスクリーンを装着したイメージ)
「PowerShot V1」は、望遠鏡型カメラ「PowerShot ZOOM」、Vlogカメラ「PowerShot V10」などの新機軸の製品を除くと、キヤノンのコンパクトデジタルカメラとしては、2019年7月発売の「PowerShot G7 X Mark III」以来となる約6年ぶりの新製品だ。
約6年ぶりということで基幹部分は大きく進化している。まず押さえておきたいのが撮像素子。デジタルカメラとしては珍しいサイズの1.4型CMOSセンサー(アスペクト比3:2)を搭載しているのだ。1.4型は、「PowerShot G7 X Mark III」など「PowerShot Gシリーズ」が採用する1.0型と比べて面積は約2倍。フォーサーズ(4/3型、アスペクト比4:3)とほぼ同じ大きさだ(厳密には1.4型のほうがわずかに大きい)。映像エンジンには「DIGIC X」を採用する。
自分撮りがやりやすいように、左手でカメラを持ったときにしっかりホールドできるグリップ形状を採用
「PowerShot V1」は、1.4型センサーと「DIGIC X」の組み合わせによって、「PowerShot G7 X Mark III」を超える高画質を実現している。有効画素数は最大約2230万画素(静止画撮影時)で、常用最高感度は「PowerShot G7 X Mark III」のISO12800よりも2段高いISO32000だ。
レンズには、Vlogなどの動画撮影を重視して、35mm判換算で焦点距離約16〜50mm相当(静止画撮影時)の画角に対応する超広角ズーム(レンズ焦点距離は8.2〜25.6mm)を採用。開放絞り値は広角端F2.8/望遠端F4.5で、最短撮影距離は広角端5cm/望遠端15cm(レンズ先端から)。中央5.0段の補正効果を持つレンズ光学式手ブレ補正も備わっている。
機能面では、1.0型センサーと同等の領域になる「1.4倍クロップ」を搭載するのが便利。このクロップ機能を使えば、35mm判換算で焦点距離約23〜71mm相当の標準ズームとして利用できる。
35mm判換算で焦点距離約16〜50mm相当(静止画撮影時)の超広角ズームレンズを搭載(この画像は望遠端時の様子)
デュアルピクセル情報が付加される「DPRAW」に対応。RAW現像時に人物撮影時の光量不足を補ったり、背景の明瞭度を調整したりできる
右手親指で操作できる静止画撮影/動画撮影の切り替えスイッチを採用
シャッターボタンと同軸にズームレバーを配置。動画ボタンはシャッターボタン近くに用意されている。タリーランプは上面からも見やすいようにL字形状になっている
「PowerShot V1」の性能面ではAFの進化にも注目だ。ひとつの画素が位相差AFと撮像の機能を持つ独自のAFシステム「デュアルピクセルCMOS AF II for PowerShot」を採用することで、高速・高精度なAFを実現している。測距可能エリアは約90%(横)×約90%(縦)と少し狭く、被写体検出機能もオート、人物、動物(犬/猫)に限られるものの、コントラストAFの「PowerShot G7 X Mark III」と比べると大幅に使いやすくなっている。
3.0型(約104万ドット)のバリアングル液晶モニターを採用
ミラーレスカメラ「EOS Rシリーズ」の最新モデルと同様、マルチアクセサリーシューを搭載
「PowerShot V1」の動画撮影機能は、キヤノンのコンパクトデジタルカメラとして初めて4K/60p記録(クロップあり)に対応。4:2:2 10bitのLog記録(Canon Log 3)も可能で、本格的な4K動画の撮影にも対応できる。さらに、エアフローに配慮し、本体左肩部に冷却ファンを搭載するのも特徴。撮像素子などから生じた熱を効率的に放出できるため、30度の環境下でも4K動画を最大2時間以上連続で撮影できる。
クロップでの4K/60p記録が可能
編集時に自由度の高い補正が可能な「Canon Log 3」に対応
本体左肩部に冷却ファンを搭載し、長時間連続撮影を実現
さらに、動画撮影関連の機能も充実しており、画面の切り出しを活用することで、特定の被写体を任意の位置で追尾した映像として記録する「被写体追尾IS」を、キヤノンのデジタルカメラとして初めて搭載。動画撮影用の「スペシャルシーン(SCN)」では、肌を滑らかに補正する「美肌動画」、商品撮影で便利な「レビュー用動画」、レンズ光学式手ブレ補正に電子手ブレ補正を組み合わせて強力に手ブレを補正する「手ブレ補正動画」という3つのモードを選択できる。「レビュー用動画」は「PowerShot」として初めての搭載だ。「PowerShot V10」と同様、14種類のカラーフィルターも用意されている。
「PowerShot」のモデルとして初めて「レビュー用動画」機能を搭載
「PowerShot V1」の静止画撮影機能では、電子シャッターでの最高約30コマ/秒の超高速連写が可能なのが大きなトピック。シャッタースピードは、メカシャッター時で最高1/2000秒、電子シャッター時で最高1/16000秒に対応している。
最高約30コマ/秒の電子シャッター連写に対応
このほか、「ラフモノクロ」「トイカメラ風」「魚眼風」など個性的な撮影効果を楽しめる「クリエイティブフィルター」と、「自分撮り」「パノラマショット」「料理」などのモードを選択できる静止画撮影用の「スペシャルシーン(SCN)」も搭載している。
底面
対応バッテリーは「EOS R8」や「EOS R10」などと同じ「LP-E17」
USB Type-C(USB 2.0)やHDMI 端子(タイプD)などを搭載。USBケーブルでパソコンと接続することでWebカメラとして利用できる
NDフィルター機能も備わっている
「PowerShot V1」のサイズは約118.3(幅)×68.0(高さ)×52.5(奥行)mmで、重量は約426g(バッテリーおよびメモリーカードを含む)。「PowerShot G7 X Mark III」と比べるとひとまわり大きくて重いボディだが、1.4型センサーや、35mm判換算で焦点距離約16mmスタートの超広角ズームレンズ、冷却ファンを搭載していることを考慮するとコンパクトに収まっている。
キヤノンは、高性能なコンパクトデジタルカメラとして大型センサー搭載の「PowerShot Gシリーズ」を展開しているが、このシリーズは2019年7月発売の「PowerShot G7 X Mark III」から新モデルがリリースされていない。2025年2月20日時点でのラインアップは「PowerShot G7 X Mark III」のみで納期未定の状況だ。こうした状況から「キヤノンはスタンダードなタイプの高性能コンデジをラインアップから外すのでは?」と思っていた人も少ないことだろう。
そんななか登場したのが「PowerShot V1」だ。冒頭でも触れたように、キヤノンのスタンダードなコンデジとしては、「PowerShot G7 X Mark III」以来、実に6年ぶりの新製品だ。全体的に性能を底上げする形での登場で、「PowerShot Gシリーズ」のユーザーにとって待望の新モデルといえるだろう。動画撮影機能が充実しているため動画向けのモデルという印象を持つかもしれないが、1.4型センサーを搭載するうえ最高約30コマ/秒の連写も可能と、静止画撮影もハイレベル。35mm判換算で焦点距離約16mm相当の広い画角から撮れるのもうれしい。
発売は2025年4月下旬で、市場想定価格は148,500円(税込)。1.4型センサーや超広角ズームレンズなどのスペックを考慮すると、なかなか魅力的なプライスではないだろうか。